夫婦ゲンカも発生!
突如、お父さんが駆けて、ダイニングルームに入ってきた。
「どうしたあ!?」
「お父さーん、ごめんなさぁーい!!」
「おいおいオチャコ、指から血が出てるじゃないか!」
「この子、またバカやって、怪我しちゃったのよ。笑ってやってよ」
「バカはお前の方だ! 早く手当てしてやらないか!!」
「分かったわよ。そんな怒鳴らなくたって。さあオチャコ、こっちいらっしゃい」
あたしはキッチンの中まで、トボトボと歩いていった。
お母さんが救急箱から絆創膏を出して、あたしの指先に巻いてくれた。
さっきまで振動していたスマホは、もう静かになっている。
応急処置をして貰ったあたしは、すぐにまたグラス破損事件現場へと戻る。
お父さんが、新聞紙を広げ、割れてしまった破片を集めてくれている。
「ごめん、お父さん、ごめんなさい! それって、お父さんがとても大切にしてたグラスなのでしょ? それなのにバカバカ、あたしってば……」
「なにを言っているんだ。オチャコよりも大切なのが、この世にあるものか。それより指の方はどうだい、大丈夫か? 可哀想に、やっぱりまだ痛いのだろう。ああでも、大怪我にならなくてよかった。なあオチャコ」
「お父さん!」
「オチャコ!」
お父さんが、あたしをギュッと抱き締めてくれたの。
久しぶりにお父さんの、いわゆる「オジさん臭」を、胸の奥へと吸い込むことになる、あたしだった。ちょっと咽そうになったけどね。
それから家族三人で、夕食の「ちらし寿司」で食べた。
松茸のお吸い物は、即席のものだったけれど、それはそれでおいしいと思う。
「あなたはオチャコに甘過ぎます」
「お前は厳し過ぎるんだ」
「私は、オチャコの将来を考えて、そうしてるのよ」
「子供は一つ一つ失敗を重ねて、成長するものだ。それをいちいちガミガミと怒鳴っていたら、とても臆病な子に育つぞ!」
「でも最低限、叱る時はちゃんと叱らなきゃ!」
あたしのことで、お母さんとお父さんが、また口争いをしている。
「お母さん、お父さん」
「なによ?」
「なんだい?」
「あたし、これからはもっと気をつける。なにごともね。だから仲直りしてよ」
「いやあ、お父さんたち別になあ」
「ええそうよ、ケンカをしている訳ではないのよ」
「そうかあ、よかった。あたし、お母さんとお父さんが仲よくしてくれてるのが、一番好きなんだよ」
世間一般では、「夫婦ゲンカは犬も食わない」とか言うらしい。
だけれど、そもそもの原因があたしにあったのだから、こういう風にして、このあたし自らが、バッチリ仲裁役を務めなきゃね。えへへ。
食後、あたしが自発的に、お皿洗いをすることにした。
お父さんは「オチャコは怪我をしているのだから、そんなことはお母さんに任せておけばいいよ」と言ってくれたけど、「あたしなら平気よ。ビニール手袋をして洗うのだもの。お母さんも、ゆっくりしててね」と言い返して、お皿洗いをやり遂げるのだった。