事件発生!
二学期に入って、もう二週間以上が過ぎ去った。
あたしは九月二日に、十四歳になったわ。でも、だからといって特別に、なにかが変わった訳ではない。そう思う。
その誕生日には、大親友トシヨンが、あたしのために手作りのバースデイ・ケーキを用意してくれたよ。あの子のお家に招かれて、二人で一緒に食べたの。すんごく嬉しかったし、おいしかった。
それの前日、始業式の日にあったサプライズだけど、明智くんが本をプレゼントしてくれた。この二つサプライズだけが、この二週間で特別なことだったわ。
もう一つ、水色桔梗の脅迫状事件も発生したのだけど、それは、頭脳明晰なメガネ男子がアッサリと解決しちゃったから、それほど特別とは言えないね。
《やっぱ明智くんには敵わない。でもあたし、次は負けないんだから!》
明智くんは自分の家の紋所を使った悪質な犯行だと怒りながらも、それでいて冷静沈着な推理で犯人を暴き出したのよ。
今日は日曜。夕方を迎える今、キッチンに面しているダイニングルームには、お酢のよい香りが漂っている。
キッチンで食事の準備をしているお母さんに、あたしが話し掛ける。
「ねえねえ、お母さぁん」
「なあに、オチャコ」
「我が浅井家には、紋所とかってあるの?」
「そりゃあるわよ」
「え、どんなの?」
「三つ盛り亀甲に花菱といってね、中に花の図柄が描いてある六角形が三つ、正三角形になって並んでいるの」
「見たい見たい!」
「ほら、これよ」
お母さんがグラスを見せてくれた。側面に模様がついている。
見覚えがあるのだけど、今までほとんど気にしてなかった。
「ああ、これがそうだったのか!」
「そうよ。お父さんのお気に入りのグラスだから、絶対に割っちゃダメよ」
「うん分かった。ちゃんと気をつけるから」
あたしは両手で慎重に受け取り、それを傾けてしばらく眺める。
スカートのポケットに入れているスマホが、バイブレーションを始めた。
「わっ!!」
突如、あたしの手からグラスが浮く。
つかみ直そうとしたら指先に当たって、それが宙に向け、すっ跳んでしまう。
「あぁーっ!!」
グラスは床に激突、ガチャンと鳴る。事件発生! 割れたの。
「わぁー、どうしよぉー!」
あたしが叫んで、お母さんも大声で怒鳴る。
「オチャコ!! あなた、なにやってるのよっ!」
「どうしよ、これ!」
「あっ、危ないでしょ!!」
あたしは、割ってしまったグラスに、つい指先を触れてしまった。
「うぅ、痛いっ!」
指を切ってしまったの。これも事件。
それでお母さんがまた怒鳴ってくる。
「本っとぉにもう、あなたって子は、どうしてそんななの!」
「わぁー、ごめんなさぁーい!」
大きな声を出して、ただ心から謝るしかないあたしだった。