空と湖、青い秋
あたしは明智くんに、「うんうん、オーライ! あ、本もありがとね!」とだけ早口で答えた。それから、貰ったその本を素早くカバンに仕舞い、すぐにトシヨンと二人、まるで逃げ出すようにして教室から立ち去った。
今はバス停までの道を並んで歩いている。あたしたちの住む街には、大きな湖があるの。もう少ししたら見えてくるんだよ。
それにしても、まだまだ残暑の続く秋の初め。
でも、あたしたちは暑さになんて負けていられない! なにしろ若いからね。
「ねえオチャコ、明日はもう予定ある?」
「ないよ」
明日は土曜だから、学校もお休みだわ。
「それじゃあ、わたしの家にこない? あのねえ、わたしオチャコに、ケーキ作ってあげるの。ほら明日は?」
「九月二日、あたしの誕生日だ!」
そうかあ、十四歳オチャコの心が、明日生まれることになるのね。
まだ彼氏と呼べる人はいないけど、でもその候補はバッチリできている。こんなあたしも、明智くんと同じように、「好き」の心を大切にしたいな。
あと英語も推理も、もっと磨かなきゃね。明智くんに負けないように!
それと、もちろんトシヨンの恋、それを応援するサポートの方も、しっかり頑張らなきゃだし。だから、あたしの秋は忙しくなりそうよ。
「ねえトシヨン、見て見て! 空と湖。なんだか、いつもより青いよ!」
「わあ、本当だぁ~。どうしてなのかなあ?」
それはねえトシヨン、あたしたちの心の内が、空気と水の青を引き立たせてくれているからだと思う。あたしの推理ではね。