プレゼント?
それに引き替え、松平くんは、「策士策におぼれる」というやつね。
ここぞとばかり、あたしは彼に言ってやる。
「あんたの他に、あんたのお母さんも今朝、脅迫状を見たのだってウソをついて、あたしらをダマそうとしたこと、裏目に出ちゃったね。松平くん、そう思っているのでしょ?」
「そうだな。でも、それはそれで俺の計算だったんだ。お前らに、少しヒントを与えてやったんだ。手紙は昨日俺が見つけたことにしても、よかったんだからな」
そっか、事件解決の糸口をわざと残すだなんて、松平くん、やるじゃない。
ここに明智くんが割って入る。
「羽柴くんに松平くん、こんなイタズラはもう二度としてはいけないよ。ジョークのつもりだとしても、こういうことがエスカレートして、いつかは本当の事件になるのだからね」
「そうだぞ! その点だけは、俺様も光男に同意してやろう」
「あれれ、織田くん珍しいわねえ?」
「当ったりめえだ! この俺様が真っ先に犯人扱いされたんだぞ! つーか浅井、お前が悪い!」
「やだあんた、そんな昔のこと、まだ根に持ってんの?」
「昔じゃねえだろがっ! まだ三時間も経ってねえぞ!」
ああ、また織田くんを怒らせちゃった。
ここはできる女の鉄則、笑顔で受け止めなきゃね。
「そうでした。うふふ」
「笑ってごまかすな! つーか気色悪い笑い方やめろ!」
「オチャコ変顔だよ~ん。きゃきゃきゃ!」
「あははは!」
兎に角、最後は皆で笑って、というか笑われて捜査終了。
「ああ腹へった~。おい共康、十吉、とっとと帰るぞ」
「そうだな」
「おっしゃあ!」
三人が出ていったので教室は静かになった。
あたしもトシヨンと一緒に帰ろうとしたら、明智くんがカバンからきれいな紙袋を出してあたしに手渡してくれた。中にはペーパーバックの本が入っていた。
A Study in Scarlet
「あ、シャーロック・ホームズのシリーズ、『緋色の研究』だ!」
「もしかして、もう読んだ?」
「英語のはまだよ。貸してくれるの?」
「よかったらあげるよ」
「ええっ!?」
なんだかラッキー!
でもでも、新品の本の匂いがするよ。
「これ、買ったばかりじゃない?」
「そうだけれど、浅井さんが読んでくれるのなら、貰ってよ」
「うん、ありがと明智くん、大好き」
「え?」
あ、あたし、なんだか口走っちゃってるしぃ!
「ええっと、そのあの、今のは、なんというのか、そうそう勢いで。だからその、あたしってば、ほら友だちとして。うんうん、だからあの――」
「少し落ち着いてよ、浅井さん」
「あっ、うんそうだね、落ち着こう!」
やだやだ、あたしってば、キョドリまくり全開モードだよ!
「浅井さん、僕はまだキミに告白なんてしないよ。好きという言葉は大切にしたいからね。でもその時がきたら、そうハッキリ伝えるよ」
あれれ? いつも冷静な明智くんのほっぺが少し赤くなっている。
でも、なんだか逆にあたしの方が恥ずかしい。