二つの事件の結末
丁度よいタイミングが訪れたので、あたしは、さっき大福くんから受けた告白の返事をすることにした。
こんなことは、少しでも早い方がいいだろうし。
「大福くんごめん、あんたとはつき合えない。あ、でも細川さんは関係ないよ。もしあたしがホントに大福くんとつき合いたいって思うなら、そう言うよ。いくらあの玉紗さんがお金持ちのお嬢様でも、運転手が柔道五段でも、あたしは遠慮なんてしないで、絶対にそう言う」
「分かったよ。それでこそ浅井だな。オレ少し迷ってたんだ。このままプロのサッカー選手を目指す毎日でいいのだろうかってことをな。だが取りあえずスッキリできたよ。これでまたサッカーに打ち込めるってもんだぜ。ハハハ……」
この北琵琶学園の中等部では、三年生を含めても、サッカーは大福くんが一番うまい。皆がそう言っている。そんな彼でも迷うことがあるのね。プロ入りが保証されている訳ではないのだから、それも無理はないことかな。
そんな大福くんはカバンを肩に担いで、教室から出ていく。
トシヨンが、あたしのすぐ近くまで歩いてくる。
「オチャコ、どうして断ったの?」
今の話、あんたにもバッチリ聞こえていたのね。
あたしはね、玉紗さんに対抗できても、トシヨンには負けちゃうから。
「これでいいの。あたしと大福くんじゃ似合わないから。トシヨンみたいに優しい女の子が、あの男にはふさわしいのよ。ね?」
「えっ、わたし!? そ、そんなの、わたしだと、もっと似合わないよ。わたしのことなんて、気にしなくてもよかったのに」
ああ、なんていい子なのだろうか、このトシヨンは!
「ねえトシヨン、あたしはずっと、ずっとずっとあんたの親友だよっ!」
「うん、わたしもそうだよ、オチャコ!」
手と手を取り合うあたしとトシヨン。なんだか涙も出てきちゃった。
「おいコラッ浅井! 友情ドラマは後でやれ。俺様が待ってんだ!」
「ん? なに??」
「捜査だろがっ!! このボケナスのヘボ探偵」
「くぅ……」
そうだった。脅迫状事件を早期解決しなきゃ!
教室には捜査チームの四人の他に、松平くんと十吉もいる。
「あんたたちも参加するの?」
「僕が呼び止めたんだ」
「へ? どうして?」
「松平くんが虚偽の証言をしたからだよ」
「さすがは明智、よく分かったな?」
あれれ、松平くんアッサリ認めちゃってるしぃ!
明智くんが、自信に満ちた顔で話す。
「親にメッセージを送っておいたんだよ。桔梗紋のついた水色の封筒が今朝ポストに入っていたかどうか、松平くんのお母さんに確認して欲しい、とね。そしてその返信がさっきあった。そんな封筒は見ていないそうだよ」
「じゃあ犯人は松平くんってこと? あんたもあたしのことが好きなのね!」
「違う。断じて違う」
またまた違ってるしぃ!
これはもう確実に自意識過剰、セルフコンシャス体質だよ、あたし!
「おいコラッ浅井、真田に告られたからっていい気になってんなよ。あいつは頭がどうかしてるに決まってんだ」
「ちょっとあんた、今の発言は大福くんにもあたしにも失礼よ! 刑法に書いてあるかは知らないけど、罪になるんだから」
「刑法第二百三十条、名誉毀損。公然と事実を――」
「ポンカン、いちいち解説挟むな!」
《明智くんって、刑法全部覚えているのかしら?》
彼は教室でいつも、『ポケット版六法』だとかいう本を開いている。
だから、今覚えている最中なのだろうね。
ここで明智くんが、いつもよりさらに真剣な声で言う。
「それで犯人のことだけれど、まだ松平くんだと決まった訳ではない」
明智くんは、そう言ってから今度は十吉の顔を見る。
「羽柴くん、そうだよね?」
すると十吉が素直に自白を始めることになる。
「ごめんよオチャコ、おれっちが考えたジョークだったんだぴょん」
「やっぱりあんたかっ!」
「オチャコに推理を楽しんで欲しかったんだおー。それで共康ぴょんに協力して貰って、犯行に及んだんだよ~ん」
「俺もちょっと明智の実力を試してみたかったんだ」
「あんたたちグルだったか! あ松平くん、でもどうして虚偽の証言を?」
「いつも寝坊の俺が朝刊取りに行く訳ないだろ。つまり第一発見者が他に必要ってこと。なのに俺以外に誰も読んでないって言えば怪しまれる。しかし明智もやるなあ、親の情報網を使って確かめるとは」
「証言の裏を取るのは捜査の鉄則だよ」
明智くん言えてる! さすがは、このあたしが認めた男よ。