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恋や事件やオチャコの騒がしい物語  作者: 水色十色
二学期初日の事件
22/72

二つの事件の結末

 丁度よいタイミングが訪れたので、あたしは、さっき大福くんから受けた告白の返事をすることにした。

 こんなことは、少しでも早い方がいいだろうし。


「大福くんごめん、あんたとはつき合えない。あ、でも細川さんは関係ないよ。もしあたしがホントに大福くんとつき合いたいって思うなら、そう言うよ。いくらあの玉紗さんがお金持ちのお嬢様でも、運転手が柔道五段でも、あたしは遠慮なんてしないで、絶対にそう言う」

「分かったよ。それでこそ浅井だな。オレ少し迷ってたんだ。このままプロのサッカー選手を目指す毎日でいいのだろうかってことをな。だが取りあえずスッキリできたよ。これでまたサッカーに打ち込めるってもんだぜ。ハハハ……」


 この北琵琶学園の中等部では、三年生を含めても、サッカーは大福くんが一番うまい。皆がそう言っている。そんな彼でも迷うことがあるのね。プロ入りが保証されている訳ではないのだから、それも無理はないことかな。

 そんな大福くんはカバンを肩に担いで、教室から出ていく。

 トシヨンが、あたしのすぐ近くまで歩いてくる。


「オチャコ、どうして断ったの?」


 今の話、あんたにもバッチリ聞こえていたのね。

 あたしはね、玉紗さんに対抗できても、トシヨンには負けちゃうから。


「これでいいの。あたしと大福くんじゃ似合わないから。トシヨンみたいに優しい女の子が、あの男にはふさわしいのよ。ね?」

「えっ、わたし!? そ、そんなの、わたしだと、もっと似合わないよ。わたしのことなんて、気にしなくてもよかったのに」


 ああ、なんていい子なのだろうか、このトシヨンは!


「ねえトシヨン、あたしはずっと、ずっとずっとあんたの親友だよっ!」

「うん、わたしもそうだよ、オチャコ!」


 手と手を取り合うあたしとトシヨン。なんだか涙も出てきちゃった。


「おいコラッ浅井! 友情ドラマは後でやれ。俺様が待ってんだ!」

「ん? なに??」

「捜査だろがっ!! このボケナスのヘボ探偵」

「くぅ……」


 そうだった。脅迫状事件を早期解決しなきゃ!

 教室には捜査チームの四人の他に、松平くんと十吉もいる。


「あんたたちも参加するの?」

「僕が呼び止めたんだ」

「へ? どうして?」

「松平くんが虚偽の証言をしたからだよ」

「さすがは明智、よく分かったな?」


 あれれ、松平くんアッサリ認めちゃってるしぃ!

 明智くんが、自信に満ちた顔で話す。


「親にメッセージを送っておいたんだよ。桔梗紋のついた水色の封筒が今朝ポストに入っていたかどうか、松平くんのお母さんに確認して欲しい、とね。そしてその返信がさっきあった。そんな封筒は見ていないそうだよ」

「じゃあ犯人は松平くんってこと? あんたもあたしのことが好きなのね!」

「違う。断じて違う」


 またまた違ってるしぃ!

 これはもう確実に自意識過剰、セルフコンシャス体質だよ、あたし!


「おいコラッ浅井、真田にコクられたからっていい気になってんなよ。あいつは頭がどうかしてるに決まってんだ」

「ちょっとあんた、今の発言は大福くんにもあたしにも失礼よ! 刑法に書いてあるかは知らないけど、罪になるんだから」

「刑法第二百三十条、名誉毀損めいよきそん。公然と事実を――」

「ポンカン、いちいち解説挟むな!」

《明智くんって、刑法全部覚えているのかしら?》


 彼は教室でいつも、『ポケット版六法』だとかいう本を開いている。

 だから、今覚えている最中なのだろうね。

 ここで明智くんが、いつもよりさらに真剣な声で言う。


「それで犯人のことだけれど、まだ松平くんだと決まった訳ではない」


 明智くんは、そう言ってから今度は十吉の顔を見る。


「羽柴くん、そうだよね?」


 すると十吉が素直に自白を始めることになる。


「ごめんよオチャコ、おれっちが考えたジョークだったんだぴょん」

「やっぱりあんたかっ!」

「オチャコに推理を楽しんで欲しかったんだおー。それで共康ぴょんに協力して貰って、犯行に及んだんだよ~ん」

「俺もちょっと明智の実力を試してみたかったんだ」

「あんたたちグルだったか! あ松平くん、でもどうして虚偽の証言を?」

「いつも寝坊の俺が朝刊取りに行く訳ないだろ。つまり第一発見者が他に必要ってこと。なのに俺以外に誰も読んでないって言えば怪しまれる。しかし明智もやるなあ、親の情報網を使って確かめるとは」

「証言の裏を取るのは捜査の鉄則だよ」


 明智くん言えてる! さすがは、このあたしが認めた男よ。

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