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恋や事件やオチャコの騒がしい物語  作者: 水色十色
二学期初日の事件
21/72

神のご加護?

 二年梅組の教室で、新学期恒例の席替えが始まった。足利先生が握っている紙のクジを順番に引く。

 一番手は明智くんで、次があたし。一学期は出席番号順に席が決まっていた。

 外面では冷静を装ってはいるものの、あたしはまだハートどきどき全開モード。

 それにしても、男の子から告白されるのは凄いことだわ。こんなに威力があるとは。嬉しくて恥ずかしい気持ちなのは分かる。それに加えて、空腹感に似ているけど、それもまた違う、そんな変な感覚を伴っているの。

 そのせいで、この席替えの時間に推理を進めるという予定が狂っちゃう。

 ほとんどまともに考えられなくて。ほっぺも頭もお祭り状態だから。


 少し時間が経って、あたしの胸を打ち鳴らしていた太鼓も静まった。

 さっきあたしが引いたクジは「3‐6」だったわ。中央列の一番後ろの席。

 そこは教室全体を見渡せるポジションだから、クラスの皆を観察するのに絶好のポイントになるのよ。いひひ。


《それは兎も角として、大福くんにどう返事しようか?》


 いや違う違う! これは悩むまでもないことよ。

 トシヨンの恋が優先! それに事件だって、早期に解決しなきゃだ!

 大福くんにはスパリと断るわ。そして脅迫状の犯人を見つける。


《そうねえ、やっぱり怪しいのは十吉だわ》


 男子であたしのことをオチャコと呼ぶのは十吉だけだし。でも、それを知っている別の誰かが、あいつが疑われることを狙ったのかもしれない。


《とすると、松平くん?》


 あの人は心の内になにがあるのか、分からないところが多いからね。

 ムダに計算高い男なのよ。でも犯人とみなすには、まだ決定的な根拠が見つからない。

 こんなことを考えていて、もうすぐ席替えも終わる。

 最後まで残った席はあたしの左隣り。そのまた左、窓側列の一番後ろには大福くんが座っている。

 これがラストだからクジを引くまでもなく、そこは細川さんの席に決まった。なんという強運! というか、これこそ神通力かしら?


「大福様、やはり神のご加護です」

「細川、あのなあ……」

「あなた、浅井さんでしたね」


 おおっと、細川さんがあたしに手を差し延べてきた。これはつまり「握手をしましょう」という意味だよね?

 少しおそれながら右手を出して、彼女の手を握る。


《なにこの子の手、すんごく温かいしぃ!》

「うふふ」


 細川さんは微笑んでいる。

 ここは、こちらからなにか話さないとね。


「あの、あたしは浅井茶子よ。仲のいい友だちからは、《オチャコ》って呼ばれているの」

「そうですか。ではお茶子さん(・・・・・)、今後ともよろしく。うふふ」


 やだ、「おオチャコさん」だって。なんだかくすぐったい気持ち。


「……うん、こちらこそ、よろしくね、細川さん」

「玉紗でも、構いませんよ」

「分かったわ、玉紗さん」


 そして、先生が明日以降の予定などを話して、ホームルームがなんとか終わってくれた。ああ、もう帰ってすぐ寝たいくらいに疲れたわ。

 ふと左隣りを見ると、玉紗さんがさっそく大福くんを誘っている。


「よろしければこの後、わたくしの新居でランチはいかがです? 一流の料理人が準備しておりますから」

「オレはこれから購買でパン買って、それ食ったら部活だ。だからお前はさっさと帰れよ。オッサンきてるぞ」


 あ、気づかなかった。いつの間にか黒板側の出入り口に、あの黒服の運転手、剣道三段・柔道五段の松永さんが立っている。

 というか時間ピッタリ。さすがはプロの執事だわ!


「残念です。でも近いうちに、是非いらして下さい」

「そんな暇ができたらな」

「うふふ。ではお先に失礼します。お茶子さんも、さようなら」

「えっ、うん。サヨナラ!」


 玉紗さんはアッサリ行ってしまう。

 その背中からは、どういう訳か、底知れない余裕を感じるわ。

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