アグレスィヴお嬢様
あたしは、細川さんの見目麗しい姿をじいっと見つめていた。つまり、釘づけになっていたということ。
すると彼女は、そんなあたしの熱い視線を感じてしまったのか、こちらを向いてあたしを睨んでくるの。
マジマジと見ていたものだから、怒らせちゃったんだ。
しかも、こちらへ歩いて近づいてくるしぃ!
剣道三段・柔道五段の松永さんがいなくなったのが、せめてもの救い。
兎に角、ここは謝っておこう。
「あの、ごめんなさい。あたし、つい見とれて……」
「大福様、ようやく一緒になれましたね。これも神のご加護です」
あれれ、大福くんに話し掛けているよ!? 知り合いか?
「細川、あのなあ……」
「もう逃がしません。うふふ」
なにこの子、すんごく怖いしぃ!
きっと彼を追ってきたのね。大福くんは初等部の四年生になった時、東京からあたしの家の近くに引っ越してきたのだけど、それまでは細川さんと同じ学校だったと思うよ、あたしの推理では。
というか、またこちらを見て、あたしのこと睨んでるしぃ!
「あなた、そこをどいて下さい」
「へ?」
「わたくしは、ここの席に決めました」
「決めましたって言われても……」
細川さんから視線をそらして、あたしは足利先生の顔をうかがう。
先生も困っているみたいだけど、なんとか言ってよ!
「細川の席は廊下側の一番後ろに用意してある。だからあちらに――」
「いやです」
ええーっ!? 先生に逆らったしぃ!
あんた、どこまで強引な、アグレスィヴお嬢様なのよっ!!
「あー、まあなんだ、今から始業式がある。その後のホームルームで席替えをすることにしているから、キミの席のことはその時にまたな」
「そうですか。分かりました」
えっえーっ!? 先生が、今ある問題を先送りにしちゃうの?
ここでビシッと言っとかなきゃ! たとえ相手が転入生でも美人でも!
「おお、もう時間だ。皆すぐ廊下に出て並べ。体育館に行くぞー」
「大福様、一緒に参りましょう」
細川さんが大福くんに手を差し延べている。これはつまり「手を引いてエスコートしてちょうだい」という意味だわ。もしかして恋人気取り?
というか、トシヨン! ごめん、あんたの存在を忘れていたわ。あんたの強敵が現れたのよ。どうすんの!?
だって、いくら大福くんが積極的過ぎる女子は好みでないとしても、この子の美貌は驚異的だもの。男は美人に弱いという実例もある訳だし、もしかすると大福くんの気持ちだって揺れるかもよ?
そんな不安がよぎり、廊下側二列目の先頭席、そこにまだ座ったままでいるトシヨンを、あたしは見た!
ぽかんと口を開けて、まあなんとも情けない顔をしているの。
トシヨン、そんなのじゃダメだよ! あんた細川さんに勝てないよ!
あ、でもでも、あたしはトシヨンの味方。あんたの恋、絶対に実らせてあげるんだからねっ!!