転入生のオーラ!
トシヨンと織田くんによる聞き込みは、どの人も爛丸のことを誰にも話していないという結果に終わった。
でもトシヨンの弟、十吉の弟から話が広まっていることもあり得るので、トシヨンと十吉には家で確認を取って、明日報告して貰うことにする。
それから捜査の方針について話を続けていた。
少ししてチャイムが鳴り、時間切れになった。
教室には、大福くんも戻っていて、あたしの右隣りに座っている。
額から汗を流しちゃって顔が輝いている。すんごく爽やか!
汗は汗でも、十吉のようなスメル、つまり臭みをまったく感じさせない。
脅迫状のことは大福くんには話さない。
彼は、なかなかに正義感のある人だから、知ればすぐにも立ち上がって、「誰がやったんだ! オレと浅井は別になんでもないんだからな!」なんて叫びかねないもの。
そんなことを色々と考えていたら、担任の足利先生が入ってきた。辛うじてイケメンと言っていいレベルの二十六歳。
し・か・も、見慣れない女子を連れている。きっと転入生だ!
「ええっ!?」
その姿を見て、思わず声が出ちゃった。すんごいオーラを放っているのよ!
ほぼ左右対称の整った顔だわ。
少しカールしている睫毛、切れ長の目、小高くて形のいい鼻先。さらには、くすみやニキビ跡の一切ない肌。純白の真珠で覆われているような、透き通った白さよ。
そんでもって、唇のすぐ左下にチャーミングなホクロが一つある。これが唯一の非対称パーツで、まさに愛嬌ボクロだね。
肩下二十センチくらいで切り揃えた黒髪は、ここの校則に従い、黒のゴムで一つにまとめられている。素朴なヘア・スタイルだけど、清楚な顔立ちとのコンビネーションが絶妙なのよ。黒を引き立たせているのよ!
そして制服の着こなし。半袖の白いブラウスに紺の紐タイ、グレーのジムスリップという、いわゆる「ジャンパースカート」、これらの組み合わせは、あたしたちが着ているのと同じ、ここの女子の夏服。なのに、なにかが違っているわ。
うーん……あ、そうか、分かった! そうよ、この先の成長をまったく考えていないのよ。つまり今の体にピッタリなサイズってこと。正確な寸法であつらえたんだ。
今日初めて着たような浮いた感じがしないの。デフォルトでここまで着こなすとは、なかなかにできる女だわ!
「皆様こんにちは。東京の聖アガサ女学院より、本日この北琵琶学園に転入して参りました、細川玉紗です。どうぞよろしく」
声まで透き通っているしぃ! あんたカナリアか?
でもちょっと待ってよ。少し離れて黒服の紳士が立っている。もしかしてお父さんかしら?
「この者は、わたくしの運転手を務めております、執事の松永秀広です。松永は剣道三段・柔道五段の腕前を持ち、わたくしのボディ・ガードとしても日々役立ってくれています。これまでにも、例えば繁華街の散策を楽しんでいましたわたくしに、失礼な振る舞いを働こうとした、不埒な輩どもを幾人も病院送りに――」
運転手の紹介まで始めちゃってるしぃ!
「あのう、話の途中に悪いのだが細川」
「なにか?」
「えっと、そちらの方には、これでお引き取りを願いたいのだが……」
「あら、松永を教室にいさせては、いけませんか?」
「うんまあ、授業参観の日ではないので……」
いつもはちょっと厳しい足利先生が今は弱気になっている。
相手が転入生で美人だからだ。意外に頼りないところがあったね。
「では仕方ありません。松永、お下がりなさい」
「承知しました。それではお嬢様、後ほどお迎えに上がります」
「ええ、よろしく」
見事なお嬢様ぶりだわ。こんな人を身近で観察できるなんてラッキー!
人間観察は、推理を磨くのに持ってこいだもの。えへへ。