容疑者浮上!
口の軽い十吉が混ざったのは想定外だけど、このまま続行しよう。
「見ての通り、これはあたしに対する脅迫よ。爛丸というのは、トシヨンが一週間くらい前に飼い始めたペットなの。あ、でもトシヨン、安心していいよ。爛丸は誘拐させないんだから!」
「うん……」
トシヨンは不安そうにソワソワした様子を見せている。
心配なのは無理もないことね。爛丸はトシヨンが名づけたのよ。ロシアンブルーの仔猫ちゃんで、爛々と緑色に輝く瞳が真ん丸。すんごくキュート!
「それと、このことは誰にも話しちゃダメ。十吉、特にあんたよ。皆が知って騒ぎが大きくなったら、それこそ犯人の思うツボ。だって、松平くんを使って教室まで持ってこさせたのは、クラス中の大騒動にする狙いがあるはずだもの」
このようにあたしが十吉に釘を刺し、それから松平くんに尋ねる。
「ねえ、これ読んだ人、松平くん以外にもいるの?」
「母さんだよ。それで朝っぱらから、《あなたの友だちのイタズラでしょ、あまり変な子とつき合ってはダメよ》なんて怒られた」
突如、明智くんが割り込んでくる。
「松平くんも災難だったね?」
「そうだとも。まったくいい迷惑だったぜ」
「うん。そしてこれは犯罪だ。刑法第二百二十二条、脅迫。すぐ警察に届け出るべきだと――」
「ポンカンは黙っていやがれ!」
ナイス・フォロー、織田くん、たまには役に立つんだね。
「ええっと明智くん、この事件はあたしの推理で解決してみせるよ。だから三日だけ猶予期間をちょうだい。それでいいでしょ?」
「しかし実害が出てからでは――」
「ポンカン、黙れと言っただろ!」
「分かったよ。でも、この事件の捜査には僕も参加させて貰おう。なぜなら、桔梗は明智家の紋所だからね。それを使ったこんな悪質な犯行を、僕は断じて見逃す訳にはいかない!」
明智くんのメガネが、丁度キラリと光ったように見えた。
なかなかに格好よかったかも、今のセリフ。
「いいよ明智くん、協力よろしくね。他に参加したい人は?」
「ちょっと怖いけど、爛丸のこともあるし、わたしもいい?」
「オーライ!」
トシヨンなら大歓迎よ。
「俺はパスだぜ」
「おれっちもパスだよ~ん」
松平くんはこれ以上関わり合いたくないみたい。お祭り好きの十吉は参加するかと思ったけど、意外に冷めてるね。あんたにクールは似合わないわよ。
「分かったわ。松平くん、これ届けてくれてありがと」
「別に。おい羽柴、ゲームの話でもしようぜ?」
「おっしゃあ!」
ここで松平くんと十吉が離脱して残りは一人。
「織田くんはどうするの?」
「俺様は推理も猫も興味ねえけど、乗り掛かった船だ、協力してやる」
ん? あたしは聞き逃さなかったわよ。さっそく容疑者浮上!
「あんた怪しいわよ」
「なんだと?」
「ねえトシヨン、織田くんに爛丸のこと話した?」
「ううん、まだ」
「そうよね。あたしさっき、爛丸はトシヨンのペットだって言ったけど、猫だとは言わなかったのよ。なのに、なんでそのことをあんたが知ってんの?」
「そ、それは……」
どうよ? 情報を漏らさないように気をつけたのはこういうこと。
あたしの推理、ますます好調だわ。ふふふふ。