事件発生!
そうこうしているうちに、教室には他の生徒たちも集まりつつある。
離れた場所から、あたしたち四人の様子を心配そうに見ていたりする子も何人かいる。
そのうちの一人が近づいてきた。
「やあ諸君、朝一番、なにをそんなに騒いでいるんだ?」
「おっ共康じゃねえか。珍しいなあ、いつも遅刻のお前が」
そうそう、この男子は遅刻常習犯の松平くん。
し・か・も、遅刻だけにとどまらず、宿題忘れ常習犯でもあるのよねえ~。
あ、でもでも、そんな松平くんが遅刻しなかった時に限って、奇妙な事件が起きたりするの。きっと今日もなにかあると思うよ、あたしの推理では。
「実は、今朝の新聞と一緒にこんなものがポストに入っていたんだ」
松平くんがズボンのポケットから取り出したのは、鮮やかな水色の封筒。
その中央に白い桔梗の絵があるだけで、住所も名前も書いていない。
うん、事件の匂いがするわ。
「なにそれ?」
「中身は脅迫状だぜ」
ほうら、やっぱり事件発生!
あたしの推理力がリヴァイヴァル、復活したよ!!
松平くんが持ってきた封筒には、紙切れが一枚入っていた。
印刷した文字で短く三行。ホントに脅迫状だね、これは。
オチャコに伝えろ。
これからは真田としゃべるなって。
さもないとランマルを誘拐する。
この「ランマル」というのは、トシヨンが飼っている仔猫ちゃん、爛丸くんのことよ。
それであたしは人差し指を唇にあてながらトシヨンの方に顔を向けた。これはもちろん「黙っていてね」という合図なの。
「捜査はもう始まってるのよ。どこに犯人が潜んでるか分からないし、情報を漏らさないようにしなきゃね。だから小声で話すよ。皆もう少し近づいて」
すると、背後に人の気配がして、耳の後ろがゾワリとなった。
ふり返るまでもなく空気で分かる、八年連続クラスメイトの羽柴十吉。こいつはイクストリームリィ、つまり極端なまでに「口軽」だから、事件のことは知られたくない。
「オチャコ、ラブレター貰ったのか?」
「いきなり耳元で話さないでよ!」
「いいなあラブレター、おれっちも、欲しいおー」
「ちょっとあんた、顔が近いからっ!」
「でもオチャコが近づけって言ったじゃん? おれっち、オチャコのあしがるだから、命令に従っただけだよ~ん」
あんたに近づけとは言ってない! しかも汗臭いしぃ!
あたしはこいつを「足軽」にした覚えはないけど、従うのなら命令してやろう。
「それじゃ、今すぐ消えてよ?」
「えええーっ、そんな殺生な! おれっちは、おれっち自身を消すことなんて、できっこないおー。おれっちに不可能な命令は、勘弁してくれろ~」
「だ・か・ら、あっちに行けって言ってるの!」
究極のバカ、アルティメト・フール!
というか、あたしのことをオチャコと呼ぶ男子はこいつだけだし。それも今すぐやめて欲しい。
「おい浅井、小声で話すんじゃねえのか? 情報が漏れてるぞ」
しまった! 織田くんの言う通りだ。教室のあちこちからの視線があたしたちに集中している。
このままではクラス中に広まってしまうわ。なんとかしなきゃ!
「十吉にもできる命令よ。なんでもないってことを、皆に伝えて」
「おっしゃあ! おっお~い、二年梅組の皆々様、聞いてくれろ~、おれっちたち、なんでもないよ~ん、なんでもないったら、なんでもな~い。へっへっへ~のゴリラ、ラクダ、ダーウィン! あー、ンって言っちゃった。おれっちの負けぇ~~」
十吉、グッジョブ!
これでクラスの皆は、いつものように十吉がバカ騒ぎしているだけだと思ってくれたはず。