真田大福くん
真田大福くんという男子は、とても沢山の女子たちから人気があって、一学期だけでも、少なくとも六回は告白されたらしいのよ。
そして大福くんは、そのすべてを断ったの。あまりにも硬派過ぎるわ!
あたしが思うには、積極的にアタックしてくる女子よりも、静かでおっとりとしている子の方が、むしろ大福くんの好みなのよ。
そういう点で理想的なのが、このトシヨン!
でも、あまり大人し過ぎるのも、存在感がなくて目を向けて貰えない。
だから、あたしはあんたの背中を押してあげて、あんたのよさを大福くんに知らせたいの。
「ねえトシヨン、あんたは今のままが一番だとは思うよ。可愛いし優しいし、奥ゆかしくて女の子らしいわ。だけどねえ、男子に接する態度については、あたしどうかと思うの。このままじゃ、いつまで経っても、大福くんと親しくなれないよ?」
「うぐぐぅ~」
「あんたも思い切って、《大福くん》って呼んじゃえば?」
「でも、わたし……」
「トシヨン、ファイト!」
「う……うん。じゃあ今日からは、そうしてみるよ。わたしも」
その意気よトシヨン、少しくらい積極的にならないとね。
そう思っていると、やっぱりお約束、ウワサの彼氏よ。こちらに向かって走ってくるわ。
「よう浅井、前田、早いなぁ」
「大福くん、おっはよ~。ほうらトシヨンも」
「うん! だ、だ、だだだ……」
「機関銃のモノマネ?」
「ち、違うの。あ、あのう……」
「だからなんだよ?」
頑張れトシヨン、あと一歩!
「だだ、大福くぅ~ん、おはよーっ! て、きゃあ~、わたし真田くんの名前、ちゃんと呼べたよぉ~、初めてだよ~」
「なんだよ前田、朝からやけにテンション高いぞ」
うんうん、ハジケまくり全開モードだよ、トシヨン。
いつもの奥ゆかしさはどこへやら。というか、この子って過剰反応体質? ここまでになるともう、慢性大福アレルギーって感じだね。
「真田、先に行ってるぞ!」
今度は別のクラスの男子がきて、出入り口のところから叫んでいる。
「おう武田、オレもすぐ行く!」
大福くんはあたしの隣りの席にカバンを置いて教室から出ていった。グラウンドで武田くんとサッカーの自主トレをやるのだと思うよ、あたしの推理では。