朝一番に
ここは私立北琵琶学園、中等部、二年梅組の教室。
今日から二学期。あたしの使命は、トシヨンの恋を実らせてあげること。
だ・か・ら、張り切って教室に一番乗りしちゃったよ!
あたしって友だち思いで早起きもして感心だな。えへへ。
し・か・も、制服がよく似合っていてキュート!
「――というか、この学園の校則って結構厳しいし、デフォルトでどう着こなすかが重要。あんたもそこんとこ、よ~く考えて勝負しないとねっ!」
「ちょっとオチャコ、誰と話してるの?」
「おおっと、びっくり! なんだぁ、あんたきてたのか~」
二番手で教室に入ってきたのはトシヨンだった。
「そうよ。そしたら他には誰もいないのに、オチャコが窓に向かってしゃべってるから」
「ああ今のはねえ、まあなんというのか、今日からのあんたに向けての声援、つまり恋愛成就エールってとこかな」
「はあ?」
「だ・か・ら、これからはトシヨンも、ちゃ~んとオシャレとかしないとね。オール・ライト、オーライ! そんでもってOK、このあたしが、しっかりサポートしてあげる」
「……意味、分かんないし」
今日もこの子は、おかっぱ頭でやっぱり可愛い。
石鹸の香りをさせているところなんかは、清潔感が満ち溢れている。
「――それで、ここだけの話だけど、トシヨンは大福くんのことが好きなの。たぶん、いやきっとそう。あたしの推理バッチリなんだから!」
「ちょ、ちょっとオチャコ!」
「ん? なに??」
「そんなのじゃないの! わ、わたし、別に真田くんのこと好きだとか、そこまで特別には思ってないんだからぁ!!」
「でもトシヨンの顔、すんごく赤くなってるけど?」
まるで熟した南天の実ね、トシヨンの真ん丸ほっぺ。
「けっ、こ、こっこ、これは……」
「にわとりのモノマネ?」
「ちち、違うってば! こ、これは今朝起きたら、わたしちょっと熱があるみたいで、だからそれで、顔がこんなに火照って……」
「あーそっかぁ、大福くんの夢とか、あんた見たんでしょ?」
「えっえええーっ! ななな、なんで分かっちゃうのぉ!?」
ふふふ、やっぱり図星だったか。
「トシヨンってば、すぐ顔に出てきますからねえ」
「えっ、ウソぉ!? わたしって、そんなに分かりやすい顔してるの?」
「うんうん。人の表情や振る舞いをよく観察して、その人の心の内を見極めることが大切。そうしてそこから事件の真相へと辿り着くの。これって推理の鉄則よ。というか、あんたの場合は、推理しなくても分かるよ」
「うぐぐぅ~」
「ねえトシヨン、それよりどんな夢を見たの? あんたまさか、大福くんと、手と手を握りあったとか?」
「ちちちち、違うってば!! ちょちょ、ちょっとだけ真田くんの手に、わたしの指がぁ、ホントに少し触れただけなのよぉ!」
ううっわぁー、なにそれ、それなに、なんなのよっ!?
初等部の二年生じゃないんだよ、あたしたちって。
もうとっくに中等部! そんでもって、もうすぐ立派な大人なのだから!
「あ、そうだ。トシヨンも、大福くんって呼べばいいのに?」
「えっ、だ、だいふ……やぁーん、わたし恥ずかしいよぉ~」
「あんた、そこまで全力で照れなくても……」
トシヨンは今年になってやっと大福くんと同じクラスになれた。
でも、まだ一緒に楽しく話したりは、一切できていない。