九十四ノ舞「当たり前だ!!」
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翌日。
こんな状況ではあるが、充分な休息をとることができた。
昼前には全員が集合したものの、あまり大人数で押しかけても失礼か。
俺とシャルロット、金持ちの雰囲気に慣れているアリスと護衛にトニーの4人でクノッサス商会へと向かった。
まあサクとアスカ先輩は後ろから着いてきているけどな。
クノッサスの冒険者ギルド総本部から南側へ移動すること数分。
一際大きな白い建物が目に入る。
10階建てくらいはあるのではないだろうか。
ちゃんと数える気にはならないが、それくらいには立派な建物だ。
入り口前の階段も入り口のドアも立派な造りで、いかにも金持ちが好きそうな佇まいだな。
入り口のドアをくぐるとだだっ広いエントランス。
アリスの家で見たような赤い絨毯が敷き詰められており、天井からは金貨数枚はくだらないであろうシャンデリアがいくつもならんでいる。
この俺たちの場違い感といったらないね。
雰囲気に圧倒されていると、秘書らしき女性に声をかけられた。
「本日はどのようなご用件でしょうか?」
「友人が『吸魔病』にかかってしまい、とある筋からこちらに特効薬の在庫があるかもしれないと伺ったので、もしあるのでしたら譲っていただけないかと思いまして。もちろん代金はお支払いします。」
なんというか、アリスが頼もしい。
いや普段から結構お世話になってる身ではあるけど、俺はこういう堅苦しい雰囲気が苦手なんだよ。
明らかに場違いだしな。
それでもアリスは伝えたいことを失礼のないように冷静に伝えた。
これを頼もしいと言わずしてなんと言うべきか。
「確認して参ります。あちらの待合室で少々お待ちください。」
手で示された方を見ると、どこかで見たような長いテーブルと沢山の椅子が置いてある部屋があった。
金持ちになると机は長くないといけないのだろうか。
この世の七不思議だ。
待つことしばらく。
先ほどの秘書さんが待合室に顔を出した。
「失礼致します。確認しましたが、特効薬の在庫はないようです。
お力になれず申し訳ございません。」
「いえ、わざわざありがとうございました。」
これで手がかりはなくなった。
捜査のし直しだな。
残念な気持ちを抱きつつ、俺たちはクノッサス商会を後にした。
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クノッサス商会を後にするユウリ達を見下ろす影。
その姿を見て舌打ちをする、高級スーツと金色のアクセサリーを大量に装飾している小太りの中年。
彼が動くたびにジャラジャラと音を立てて装飾同士がぶつかるほどには多くのものを身に着けている。
その風貌は良く言って成金、悪く言うと金の亡者だ。
そんな彼が面白くなさそうに窓の外を文字通り見下す。
「ちっ、無駄に嗅ぎまわりよって。
お前らのような見世物はワシたちの手のひらでただ踊っておればいいものを。」
「貴方も人が悪い。彼らが欲しているものはコレでしょう?」
小太りの中年の後ろで、青色の液体が入ったビンを指先で持ちあげて振る男。
こちらも年相応に顔にしわがよっているが、姿勢は王国騎士団のそれと大差ない。
身に着けている紫色のスーツ、金色の枠のモノクル、灰色の顎髭が特徴的だ。
「ふん。今年の団体戦はノースリンドブルムが優勝しないとダメなんだ。
優勝がそれぞれの学園にバラければ、自ずと収益はあがる。
バカな観戦客によってな。
そして何より疫病が広まった段階で特効薬を売り出したら莫大な儲けになるんじゃ。
1つの簡単な行動で大きな利益が2つ。
そんなの動くに決まっとろうが。」
小太りの中年が悪い笑みを浮かべる。
その顔を見られているとも知らずに。
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これで振り出しに戻ってしまったわけだが、合流したサクから面白い話を聞けた。
なんでも、商会には特効薬は存在するにも関わらず隠蔽した可能性があるとのこと。
しかし会話までは拾えなかったので確証はなく、証拠もない。
クノッサスで疫病を発生させる理由はなんだ。
多くの人間が30年前に被害にあっているのは知っているはずだ。
もしそれで特効薬を持っているのだとしたら、渡さない理由がない。
いや、広まった時点で特効薬が完成したと言い張って売り出せば大量の儲けを得られるか。
そこまで考えているのだとしたら、広まるまでは特効薬の存在は表に出さないだろう。
そう考えるとその儲けが商会のメリットということになる。
そんな奴らの儲けのために苦しむ仲間をただ見ているだけというのは無理な話だ。
しかしサクの言うように証拠がない。
今突っ込んだとしても、しらばっくれられて逆に捕まりかねない。
なんとかして手に入れないといけないってのに。
歯軋りをする俺に、シャルロットが背中を軽く叩いた。
「焦る気持ちは分かるけど、今はまだ落ち着きなさい。
まずはどうにかして特効薬を手に入れて、いち早くアカネに投与することが最優先なはずよ。」
そうだな。
家族が被害にあって頭に血が上っていたみたいだ。
何もできない自分の無力さが嫌になる。
それでも昔と同じように後先考えずに行動していては、また仲間に迷惑をかけてしまう。
シャルロットの言うように、まずは落ち着こう。
深呼吸をして空を見上げる。
青く澄み切った空を見て、焦っていた気持ちが少しだけ落ち着いた。
上空を走っている少女が何かを探すようにキョロキョロしている。
スカートでそんなところを走るものだから白いものが見え隠れして・・・じゃなくて、どうやって走ってるんだ。
「なあ、シャルロットって空を走れるか?」
「え、ストレスで頭おかしくなっちゃったの?」
「いやほら、あの子・・・あれこっち来た。」
探し物を見つけたと言わんばかりの顔でこちらに走りながら降りてくる少女。
勢いよく降りてくるものだから当然スカートがめくりあがりそうなところで目を隠さないでくださいシャルロットさん。
普段より手の動き早くなかったですか今の。
視界が元に戻ったと思ったら、目の前でパクパクと口を動かす先ほどの少女。
何かを伝えようとしているのだろうが、声がないことには伝わってこない。
俺たちが不思議そうに見ていると、何かに気付いたようなハッとした表情の少女。
その子の右手の人差し指を俺のこめかみに、左手でシャルロットのこめかみに触れると、途端に可愛らしい声が脳内に響き始めた。
(テレパスにて申し訳ありません。
わたくし、生まれつき声を失っておりますの。
皆さまのことは闘技場にて存じ上げておりますわ。)
「えっ、頭に直接声が・・・!」
シャルロットさんや、そんなありきたりな反応するなよ。
それよりもテレパスなんて凄いな。
(『精霊の加護』のおかげですわ。
それよりもわたくしのお父様、ウソをついています。)
なるほどね。
こっちの考えたことも繋がるってところだろう。
「というか、アタシたちは別に普通に喋っても問題ないんじゃないの?
はたから見たら変な絵になってるわよ、これ。」
確かに、先ほどから通行人の視線が痛い。
普通に喋らせてもらうとしよう。
「ウソというのはどういうことだ?というか、君は誰だ?」
(わたくしとしたことが、申し遅れましたわ。
クノッサス商会会長ジャベリック・ペドロ・アルチザーノの三女、クロエ・デリーニ・アルチザーノ。
来年アビスリンド学園を受験しようと思っていますわ。)
ということはウソをついているのはクノッサス商会の会長ということになる。
今このタイミングでのウソというのは、特効薬を所持しているということだろう。
まさか身内から告発されるとは思ってもいないだろうな。
しかし後輩か。
身体の大きさはシャルロットを一回り小さくしたくらいだが、剣の長さが俺の木刀やアカネの剣よりも長い。
それなりに鍛錬を積まなければ、この身体でこの長さの剣を満足に振ることはできないだろう。
声が出せないという点は生まれつきで仕方ないとはいえ、この歳にして相当な努力を重ねてきたということだ。
そう考えると無意識に頭を撫でていた。
イオを少し大きくした程度の身長なので、ちょうど頭を撫でやすいのもあるが。
(えっ、ユウってこういう小さい子が好みなの・・・?)
「シャルロットさん?人をちょっと危ない人扱いするのやめていただけます?」
「なんでアタシが考えたことまで聞こえてんのよ!!」
「俺に怒るな!つかそれなら俺の考えてたことも聞こえてるはずだろ!!」
(痴話喧嘩ですの。)
「「ちがーう!!」」
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ひとまず商店でスケッチブックとペンを購入し、以前に来たサンドウィッチ屋に入ることにした。
通行人の視線の痛さと、ひそひそ話まで加わってしまったのでばつが悪かったのだ。
「それで、やっぱりクノッサス商会には特効薬はあるってことだよな。」
頷いたのち、腰まで下ろした茶髪と左耳の後ろに結んだリボンが揺れるほど必死にペンを走らせるクロエ。
テレパスの方が早さはあるが、変な人扱いされるよりは数倍マシだ。
(お父様含めて商会の一部の人間しか入ることのできない保管庫にありますの。
わたくしでも入れないので、幹部クラス以上の人間に開けさせる他ないですわね。)
ずいぶんと可愛い丸文字だ。
そして紙芝居のようにスケッチブックを立てるのが見ていて微笑ましい。
・・・変な意味じゃないよ?
「殴りこんで制圧して開けさせれば良いってこと?」
「商会の本部がそんな簡単に陥落するわけないだろ。」
「確かに。なんかめっちゃ強そうなサングラスかけたスーツマンとか居そうよね。」
(居ますわ。)
「居るんかい。
しかし昨日の今日でよくここまで進展したな。
都合よすぎないかと思えるくらいに。」
その言葉に少し悲しい顔をするクロエ。
しかし弱弱しくも、ペンを走らせる。
そこに書いてある文字に、俺たちは驚きを隠せずにはいられなかった。
(お父様の命令でアカネ・オオヒラさんにウィルスを投与したのですわ。
自分が儲けることしか頭にない、最低の男ですの。)
「なん・・・だと・・・!」
「貴方には悪いけど、ぶっ潰すわ。」
投与したこともそうだが、ウィルスを持っていたというのが事実であれば、それも大問題だぞ。
当然、ただのサンプルとして持っていたわけでもないだろう。
熱に弱いウィルスが30年も生きたまま自然に存在できるはずがない。
間違いなく何かに使用する目的で、人間が保管し続けたんだ。
クロエが泣きそうな顔になりながらも再びペンを走らせる。
(金儲けに目がくらみ、どんな手段も択ばずになってしまったのですわ。
昔の優しいお父様はどこへ行ってしまったのでしょう・・・。
身勝手な言葉に聞こえるかもしれませんが、悪事を働くお父様を皆さまで止めていただけないでしょうか。)
涙を流しながら、決意の告発。
相当な勇気だっただろう。
今も苦しい想いをしているだろう。
そんなクロエの頭に、俺とシャルロットは同時に手を乗せていた。
「「当たり前だ!!」」
拙い作品ですが、最後までお付き合い頂けたら嬉しいです。
今後ともよろしくお願いいたします!




