九十三ノ舞「絶対助けるから」
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「準々決勝第2試合、決着ー!!
アビスリンド学園がマジックギルドを下し、準決勝へと駒を進めました!
準決勝ではノースリンドブルムとの対戦が決まりましたね。
新人戦メンバーがほとんどで構成されているチーム同士の対決!
ノースリンドブルムとしては新人戦での雪辱を晴らしたいところ!
今から楽しみで仕方ありません。」
重力に引き寄せられる感覚の後、大歓声の大闘技場へと戻ってきた。
イオと両手でハイタッチを交わした瞬間、シャルロットの大きな声が響いた。
「ちょっと、アカネ!?・・・アカネ!!」
声に振り向くとアカネが血を吐きながら倒れているのが見えた。
やっぱり『緋走緋々葬』を使ったのか。
全力のトニー相手だからある程度は仕方ないとはいえ、家族としてはあまり使ってほしい技ではないな。
そんなことを考えていると、イオが何やらぶつぶつとつぶやいていた。
「体調不良があったとはいえ、前に見た時よりも数段ひどい後遺症なような・・・。
後遺症・・・?
いや、この症状、昔本で読んだような・・・?」
あれでもない、これでもない、と唸るイオ。
見かねたアリスが近づき、分身を展開した。
『完全回復』で治してくれるみたいだ。
敗れた直後だってのに申し訳ないな。
「思い・・・出した!
アリス、魔法はダメです、兄さん!!!」
イオの大声に驚きながらも意図を察し、アリスの『完全回復』を霧散させるショウヤ。
双子の阿吽の呼吸ってやつだな。
「なんで止めたのよ、イオ。魔力だってタダじゃないのよ。」
「そんなことは分かってます!良いから全員感染したくなかったらアカネさんから離れてください。」
感染という言葉にざわめく場内。
どうやらこの状況を正しく理解できているのはイオだけなようだ。
「トニーさん、アカネさんは剣を使うたびに苦しそうにしてませんでしたか?」
「確かに、してたでよ。体調が悪いものだと思ってたべ。」
「それは悪いでしょうね。魔法が通る度に体内のウィルスが全身の魔力回路を蝕むのですから。」
「えっ、イオ。それってもしかして・・・!」
アリスの驚く声に頷くイオ。
その口から出てきた言葉は、場内を凍り付かせた。
「約30年前に流行り多くの死者を出した疫病、通称『吸魔病』。
自分の魔力はもちろん、他者からの魔力でも反応するのがこのウィルスの厄介なところです。
そして恐るべきはその感染力。
接触はもちろん、空気感染も有り得ます。」
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クノッサスで一番大きな病院の集中治療室。
アカネは一時的にそこに隔離されることになった。
当然明後日の準決勝は欠場だが、今はそれよりも命の方が大事だ。
空気感染も有り得るとのことで、アビスリンド全員と対戦したマジックギルドの5名。
そして宿の利用者も含めた全員が検査するほどの緊急事態だったが、幸い全員が感染していなかった。
「あのウィルスは熱にとても弱いんです。
もしかしたら近くにシャルロットさんが居たのが幸いしたのかもしれませんね。」
手で祈りながら、真剣な顔でそんなことを言うイオ。
シャルロットは「どういうこと?」みたいな顔をしているが。
空気中のウィルスを燃やしてくれていたんじゃないかってことだろう。
「流行った疫病なら特効薬みたいなものもあるんじゃないのかい?」
「いえ、蔓延した時からすでに30年経過しています。
どこの病院も記録はあっても用意はないと思いますよ、兄さん。」
薬もなければ魔力による回復は望めない。
魔力を使わずにウィルスが収まるのを待つか、薬を作るか見つけるかして投与するか、だな。
そう思い声をかけようとした瞬間、10人に分身するサク。
こちらもこちらで阿吽の呼吸で、思わずニヤリとしてしまった。
「大会中に苦労かけて申し訳ないけど、よろしく頼むな。」
「仲間の危機に立っているだけなんて、シノビ失格ですよー。お任せあれ!」
「サクラ、俺も行こう。」
「分かりました、クノッサスの東側は任せます!」
アスカ先輩が名乗りをあげ、共に走って出て行った。
夏休みの1か月を共に過ごしただけあり、アスカ先輩なりにアカネに対して思うところがあるのだろう。
「この広いクノッサスで聞き込みするには11人は少ないわね。」
アリスも分身を展開し、トニーも屈伸をして準備し始め、シャルロットも立ち上がる。
どいつもこいつも疲れとかないのかね。
かくいう俺も行く気しかないのだが。
「なんで、とか聞かないでよ?友達のために立ち上がるのは当然よ。」
「元気になってもらわねえと、リベンジできねえべ。」
「待っててね、アカネ。絶対助けるから。」
三者三様だが、頼もしい限りだ。
良かったなアカネ。
お前のために立ち上がってくれる人が、こんなにもできたぞ。
「それじゃあ、アリスは分身を駆使して広範囲を担当しているサクのフォローを頼む。
俺たちは東側を一気に終わらせよう。」
言葉に頷く3人。
イオとショウヤも立ち上がるが、2人の体力では無理はさせられないのでアカネを見守ってもらうことにした。
「それじゃあ、行くぞ!」
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クノッサスの東側の大きな商店街。
聞き込みをしていたアスカ先輩を発見し、事情を説明。
多くの店舗を俺が分身+速度強化で一気に対応。
通行人に対して3人で聞き込みといった具合で進めている。
いくつもの空振りがあり、有力情報は得られていない。
得られるのは確かにクノッサスでも流行り、大変なことになったという情報ばかりだ。
中には家族を失った人も居て、聞いてはいけないことを聞いてしまった気持ちになった。
しかしアカネのために落ち込んでもいられない。
申し訳なさは感じつつも。
立ち止まらずに、恐れずに進むしかないんだ。
日中で宿屋や商店などは一通り周り終えた。
情報を交換するも、やはり有力情報はなかったが。
小休憩をはさみ完全に日が落ち、仕事を終えた冒険者が帰ってきた頃を見計らって聞き込み再開。
ベテラン冒険者なら多くの情報を知っている可能性がある、というシャルロットの意見を参考にしてのことだ。
夏休みに他の国の情報を冒険者から多くもらえたらしい。
そんなにコミュ力高かったっけ。
知らない間に成長しているのは、実力だけじゃないみたいだ。
結局俺は大通りの酒屋全てを回るも、有力な情報は得られなかった。
-----シャルロット視点
ユウが大通りを担当して、アタシたちは脇道担当だ。
脇道といっても元がかなり大きいクノッサスだ。
道1本で数件の酒屋は並んでいる。
そこを片っ端から聞き込んでいるのだから、どうしても時間はかかるわね。
早く見つけてあげたいのにもどかしい。
そんな気持ちとは裏腹に既に6件目の酒屋。
そこでようやく、それっぱい話を聞くことができた。
「30年前の『吸魔病』なんて懐かしいな。
あの時は駆け出し冒険者だったが、周りの冒険者が結構な数引退に追い込まれていたぞ。」
「それの特効薬を探してるんです。大切な仲間がそれにかかってしまったみたいで・・・。」
「今さらそんなのにかかるなんて、ついてねえな。
当時は冒険者全員が所持するほどの必須アイテムだったが、今更誰も持ってねえと思うぞ。
あー・・・ただクノッサス商会が冒険者に売りさばく用に大量に買い込んでいたから、捨ててなけりゃまだ持ってるかもな。」
「ホント!?ありがとうございます!!
お礼にここのお代はアタシが払うわね。」
銀貨5枚を机に置き、走って外に出る。
ちょっと店がざわついてたけどまあいいわ。
急いでこの情報をユウに届けないと。
「嬢ちゃん、こんなにあったら今居る客の半分以上タダ飯だぞ・・・。」
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シャルロットから情報を受け取った俺たちはクノッサス商会に行くことに。
しかし既に時間は0時になろうとしている。
こんな時間に訪れては失礼極まりないだろう。
明日に出直しだな。
辛いと思うけど我慢してくれよ、アカネ。
焦る気持ちをよそに、疲労感には抗えず眠りに落ちた。
拙い作品ですが、最後までお付き合い頂けたら嬉しいです。
今後ともよろしくお願いいたします!




