九十二ノ舞「大切な仲間(後編)」
-----シャルロット視点
さて、うまく挑発したのは良いとして。
勝てるかどうか分からない相手に勝負を挑むのは最近では慣れてるとはいえ、今回はアタシ1人の問題じゃないのよね。
ただでさえ分身したアリスで手一杯のイオのところに、ナナシー先輩を向かわせてしまうことになる。
アタシの敗北は、アビスリンドの敗北も意味するのだ。
絶対に負けられないわね。
とはいえ相手はユウですら苦戦するほどの強敵。
一瞬たりとも気を抜けない。
「おいで、タマ。」
アタシが止まって振り向いた瞬間、ナナシー先輩が手を空にかざして召喚魔法を展開した。
何度見ても、召喚魔法ではかなわないな。
少しだけだけど召喚魔法をかじったから分かるのだが、こんな簡単そうに呼び出してるけど実際には相当な魔力制御、そして心の繋がりがないといけない。
それを涼しい顔で、しかも片手で呼び出すなんて芸当はアタシには無理だ。
チョロいとはいえ、やはりこの人も天才に部類される人間なのだろう。
さて、青い猫に加えて白い猫まで出てきたけど、どうしたものかしらね。
前にクノッサスでジーニーの拳を受けたことがある。
威力はアタシが全力で抑えてようやく止まる程度。
あの白いのも同じ威力で殴ってくるとしたら、かなりやばい。
それに加えてナナシー先輩が黙って見てるだけなわけもない。
ユウはこんなの相手にどうやって勝ったのよ。
相変わらずユウは想像の上に居るわね。
っと、いけない。集中力が乱れてるわね。
睡眠時間は3時間未満しかとれなかったけど、おかげでだいぶ集中して闘うことに慣れることはできた。
常にその気持ちを忘れずにしないとね。
「ふぅ・・・」
目を瞑り、息を落ち着かせる。
アタシの今の相手は『神速の剣姫』と同等だと思おう。
そんな強敵に隙なんて見せたら、アタシはその瞬間脱落だ。
つまりアビスリンドの敗北に直結する。
たとえ相打ちだとしても、絶対にイオのところには行かせないわ。
目を開けると、目の前に拳を振りかぶったジーニーが居た。
「遅い。『戦乙女』」
直接盾で受け止めると、非力なアタシはどうしても力で勝てない。
ならば盾で軌道をずらして受け流す。
この動きは夏休みに徹底的に身体に染み込むまで訓練した。
その甲斐もあって、重たそうな拳を身体の右側にずらすことができた。
だが相手も昨年個人戦準決勝選手だ。
間髪入れずにもう1体の攻撃が、既に飛んできている。
それでも今のアタシには、その動きはコマ送りに見えているけどね。
「大海」
右手で赤い盾、左手で青い盾を操り、2体の攻撃を受け流した。
しかし非力ゆえに身体全体を使わざるを得ない。
どうしても一瞬、空中に浮いてしまうのだ。
両手を受け流しに使わされ、空中で身動きが取れないその一瞬を狙われた。
「『風の刃』」
「ぐっ・・・うああ!」
2体の隙間に位置するアタシに、真正面からの風の刃が襲う。
胴を斬られ、後方に大きく吹き飛ばされた。
致命傷には至っていないものの、瞬く間に制服が真っ赤に染まっていった。
「口ほどにもないね。タマまで召喚したのは無駄だったかな。」
「召喚獣の影に隠れてちまちま魔法を打ってるだけの人に言われたくないわね。」
「最初の攻防で傷を追ってる奴が吠えるなよ。弱く見えるぞ。」
「そっくりそのまま言葉を返してあげるわ。『冷却』」
辺りの温度が徐々にあがり始めた。
この臭いからして、大森林が燃えているのだろう。
そしてこれだけ木に囲まれているのだから、突風なんて吹くはずもない。
つまるところ、陽炎日和だ。
「消えた・・・だと?」
完全にアタシを見失ったのか、あらぬ方向をキョロキョロと見渡すナナシー先輩。
その背後に回り込み、思いっきり剣を振り被った。
「なーんてな。臭いでバレバレなんだよ!!」
急にこちらに振り返り、予備動作もなしにジャンプするナナシー先輩。
釣られたと思った瞬間には、思い切りお腹に飛び蹴りをくらっていた。
「~~~!!!」
魔法で斬られた傷に蹴りが直撃し、思い切り悶絶してしまった。
先ほどまでの強気なアタシはどこへいったのか。
何をしても通用しないのではないかという想いが頭をよぎる。
そんな弱気を振り払うように頭を振りながら立ち上がる。
まだだ。
まだ集中力が足りてない。
「今ので折れてくれると思ったんだけどな。
仕方ない。2度と逆らえないように、完全に心を折りに行くね。」
言うなり両手を高く掲げるナナシー先輩。
まさか・・・!
「おいで、ポチ!!」
ボンッと白い煙をあげて、黄色い猫が現れた。
召喚獣を同時に3体召喚して操ることが出来る人が、この世界にあと何人居るのかしらね。
そんな感想を抱いてしまうほどには、異次元の光景だった。
普通の召喚魔法はほとんどの場合、手から放出された魔力をつなげて召喚する。
つまり腕の本数と同じ2つまでしか召喚できないのだ。
だが目の前の天才は、それを超えてきた。
まるで指1本で召喚獣を操っているかのように。
「これでいい加減諦めろ!!」
3体の召喚獣が同時にアタシに向かって襲い掛かってきた。
動きは遅くとも、その拳は一撃必殺。
どれをくらってもアタシは間違いなく戦闘不能に追い込まれるだろう。
「『青銅櫓』!!」
ガゴォォォンと大きな音を立てて3つの拳を止める巨大な盾。
ミサイルをも通さない程の最も強度の高い盾魔法。
その強度をもってしても、大きく歪んでしまうほどの威力の攻撃だった。
それでもその程度ではアタシは怯まない。
どのみちあの重さの攻撃であれば、一撃くらったら敗北なのだ。
どれだけ盾が壊されようとも、アタシに当たらなければそれでいい。
3体の召喚獣の脇をすり抜け、ナナシー先輩本体に突進する。
防御が手薄な今しか、攻撃を通せる気はしない。
カウンターをくらっても構わない。
その代わり、最悪でも必ず相打ちに持っていく!
「アタシが諦めることを、諦めろ!!
『炎舞─焔虎の牙』!!」
「ああそうだ、言い忘れてた。
淡い期待させちゃってごめんな。
ポチはスピード特化の召喚獣だぞ。」
空中で剣を振り下ろす寸前のアタシの視界に、急に現れる黄色い影。
その拳が、身動きが取れない体勢のアタシを横殴りに吹き飛ばした。
「がはっ・・・!」
殴られた瞬間、肋骨がミシリと嫌な音を立てた。
もしかしたら数本折れているかもしれない。
それでも、立たないと。
ナナシー先輩をここから離れさせるわけにはいかない。
だけど、身体が言うことを聞かない。
このままアタシは脱落なの・・・?
「はっ、いい気味だね!!
まさかポチまで呼び出すことになるとは思ってなかったけど。
これで後はあのチビメガネをペシャンコにすればウチの勝ちだね。」
クリスタルに向かおうとポチに乗り、踵を返した瞬間。
自身の目の前に毒が付与された盾が突き刺さった。
気配を感じ取って反射的に避けていなければ、間違いなく頭に直撃していた。
ポチは地面に崩れ落ち、徐々に姿を消していった。
危うく自分がその運命だったという事実に、青筋を浮かべるナナシー。
「我が・・・身は・・・大楯、・・・心・・・は、鎧。」
「こんの死にぞこないがっ!!」
先ほどまで全く感じなかった、風の音が大きく聞こえる。
傷の痛みがどんどん大きくなり、おそらく出血もひどいのだろう。
それでもまだかろうじて意識があった。
もしかしたら、その傷の大きさのおかげで意識が保たれているのかもしれない。
「守護り・・・身として・・・命、を賭して・・・仲間を護る・・・覚悟、あらんや。」
「さっきから何をぶつぶつと!!さっさとくたばれぇ!!」
ジーニーとタマがこちらに向かってくる気配を感じる。
顔を動かせないから、あくまで気配だけど。
そしてさっきの盾の攻撃。
イオのことを悪く言われて、思わず飛ばしていた。
アタシの大切な仲間をバカにされたことが、何よりも我慢できなかった。
「ある・・・!有る・・・!!生れっ・・・!!!」
「ぐっ、なんだこの突風は・・・!?」
どんどん強くなる風の音。
ナナシー先輩、ごめんなさい。
悪い意味じゃなくて、本当に聞こえなくて、ちょっと何言ってるか分からない。
「我が力・・・を依り、代に・・・此処に、在れえええええええええ!
神話級召喚術─天神の換装・・・!!」
途切れ途切れの口上。
しかしその想いは途切れず。
今まで決して届くことのなかった神話級。
大切な仲間を護りたいという一心。
その心が、今までつながらなかった道を繋いだ。
白い大きな光がアタシを包み、身体を浮かせた。
今まで受けた傷の痛みが、嘘のようにまったくない。
いつの間にか白く美しい鎧に包まれ、手には大きな白い槍。
どちらの装備もそれぞれが光を放ち、輝いていた。
「なんだそれ・・・お前・・・!」
驚くナナシー先輩をよそに、接近してきていた召喚獣2体。
槍を構えて踏み込む。
「『天神の祝福』!!」
その一撃は、一閃という言葉以外に言いようがなかった。
2体の召喚獣を一撃で消滅させ、その勢いのままナナシーに槍を突き刺した。
苦しそうな声をあげたナナシーはものすごい勢いで吹き飛び、何本もの木を貫通してぐったりと倒れる。
「ナナシー・ヘンドリクス、トニー・フレデリック、戦闘不能!」
そのアナウンスが聞こえた瞬間、『天神の換装』はパァンと音を立てて消滅した。
「アカネ・オオヒラ、戦闘不能!」
アカネはトニーと相打ちなのね。
それなら、アタシだけでも戻らないと。
そう思い1歩目を踏み出そうとした瞬間。
アタシは前のめりに倒れた。
-----ユウリ視点
「シャルロット・マリア・ヴァルローレン、戦闘不能!」
ショウヤと合流し、これから攻めようとしていた時。
3回ものアナウンスが流れた。
「2人とも相打ちか・・・。」
「相打ちだったら同時にアナウンスが流れる。
2人とも間違いなく、勝ったんだよ。」
ショウヤの言葉に思わず強い口調で返してしまった。
少々驚いた表情をしたものの、「ああ、そうだな」と頷くショウヤ。
次は、俺たちが頑張る番だよな。
-----
「決着をつけに来たぜ、アリス。」
「待ってたわよ。刀もなしに、どこまで闘えるかしらね。」
「アリスこそ、魔法なしでどこまで闘えるかな?」
言いながら通常の『速度強化』で突っ込む。
アリスが杖を構えるも、ショウヤが魔力を霧散させた。
あと数歩で届くというところで、目の前の地面が急にせりあがった。
「ふはははは!我も居るぞ!」
相変わらずサポートに関しては一流だな、コイツ。
ならば狙うはケイオスからだ。
ショウヤはアリスの魔法を止め続けてほしいと頼んであるからな。
俺とケイオスの1対1なら、剣がなくても負ける理由がねえ。
一気に距離を詰め、殴りかかろうとした瞬間。
またも目の前の地面がせりあがった。
直後周囲の地面が3か所、柱のように持ちあがる。
その柱の上からの高笑いがうっとおしいのなんの。
さすがサポーター、回避能力が高くなければ務まらねえか。
4か所目の柱が発生した瞬間、急に柱の生成が止まった。
ショウヤがケイオスの魔力を霧散させたのだ。
そこに飛び乗ろうとしたケイオスは驚いた表情のまま地面に落ちてきた。
「アリスから目を離すな、ショウヤ!!」
「遅い。
神話級雷属性魔法 雷神の裁き!!」
やはり、既に雷雲は生成されていたのか。
一瞬の隙をつき、雷がショウヤを貫いた。
落ちてきたケイオスはショウヤが最後まで魔力を霧散させてくれていた。
そのおかげでサクの『急速落下』と同じ要領でかかと落としをくらわせ、地面にたたきつけることができた。
「ケイオス・グラッドニール、ショウヤ・フォン・アビステイン、戦闘不能!」
とはいえ、魔法を自由に使えるアリスが残り。
こちらは刀を持っていない俺と、クリスタルを護るイオの2人。
数で有利ではあるが既に雷雲は完成していて、こちらのクリスタル前はアリスのフィールドと化している。
雷には多少の耐性はあるものの、あれの直撃はさすがに避けたいものだ。
ショウヤですらワンパンだったし。
「『速度最大強化』。
『剣の舞 漆式改 紫電─閃光の剣』」
「あら、手に何も持ってなくても剣を作れるのね。」
「個人戦の時に誰かさんが寝込んでる横で散々特訓してたからな。」
ふふ、と笑うアリス。
こんな時まで楽しそうに笑ってくれるのな。
本当に将来的にはいいお嫁さんになるだろうよ。
そんな想いを馳せながら、全力で走り回る。
落雷を当てれるものなら当ててみやがれ、と言わんばかりに。
だが、狙いは別にある。
完全にアリスが俺を見失ったのを確認して、後ろから両脇に腕を滑り込ませて羽交い絞めにした。
「きゃっ!?」
「悪いな、アリス。」
空に向けて、『閃光の弾丸』を飛ばした。
-----イオ視点
あれだけ大きな声で叫ばれたら、こんな静かな大森林では丸聞こえなんですよ。
相手を倒したのに自分も倒れるほどの無茶をして。
2人ともあとでお説教です。
と、言いたいところなんですけど。
私にもこんなにも頼りになる仲間が、友達が、いつの間にかできていたんですね。
王宮で居場所がなかった。
それでも、私はここに居ていいんだ。
心から大切な仲間と言ってくれる、大事な友達が居るんですから。
涙を拭い、顔をあげた時。
「どうしようもなくなった場合、雷を打ち上げる。」
と言っていたユウリさんの合図が上がった。
今度は、私が仲間を助ける番。
助けられてるだけじゃ、仲間とは呼べませんからね。
「天界に昇りし、神聖なる光の加護よ!
その力は闇を照らし、魔を祓い、恵みを齎す!
我が祈り届くことが叶うのならば、その神聖なる輝きを賜らむことを願おう!
光よ!輝きよ!この地全ての闇を祓いたまえ!!
天空を支配する神々の王、唯一神よ!
我が双蛇双翼の杖にて甦らん!
世界を破壊する力、矮小な寄り手に見せつけたまえ!
雷霆の輝きを以て、全知全能の威を見せよ!!」
今までよりもずっと大きく、想いという名の魔力を込めて。
放たせてもらいます。
「『雷霆纏いし光の槍』!!」
-----ユウリ視点
今まで見た中で一番大きなイオの神話級の槍。
ぶっ倒れる寸前まで魔力を詰め込んだのだろう。
ならば俺は、アリスを死んでも放さねえ。
「あれはさすがに・・・どうしようもないわね。」
アリスの両腕を抑えるのは、何もその場で固定するだけが理由ではない。
印を結ばせないようにして『分身の術』を封じるためでもある。
そして密着していることにより、間接的に落雷を封じている。
自分も感電しちまうからな。
『閃光の剣』でそのまま斬らなかったのは、アリスとの距離があると落雷によるダメージを俺だけくらいかねないからだ。
「ま、その・・・なんだ。死ぬときは一緒だぜ?」
「ふふ。それ、プロポーズの時にもう一度言ってくれるかしら。」
「はは、ちげえねえ。」
そんな呑気な会話をして笑いあっている俺たちを、神話級の槍が貫通した。
「ユウリ・アマハラ、アリス・ポーラン、戦闘不能!
5人撃破により、アビスリンドの勝利!!」
第9章 団体戦編 ~完~
拙い作品ですが、最後までお付き合い頂けたら嬉しいです。
今後ともよろしくお願いいたします!




