九十一ノ舞「大切な仲間(前編)」
-----シャルロット視点
「それでは、試合開始!!」
「『変化の術─建御雷』。
『速度強化─雷神モード』。
『剣の舞 拾式 勝利への先掛』!」
開始早々ユウが雷神になって突撃していった。
その後をショウヤが追って行くのを見送る。
フィールドは大森林ってところかしら。
一直線に伸びる街道があり、その左右を10メートルはあろう高さの木々が覆っている。
こんなところで雷が駆け抜けたら一発で場所がバレるわよね。
そうでなくても相手の攻撃メンバーは鼻が利く。
いつ奇襲されてもおかしくないわけだ。
・・・あれ、こんなことを考えているのは良いのだけど、なんか違和感。
2回戦ではユウが突撃していった直後には決着がついていたはずだ。
それなのに今回は決着がつくどころか、撃破報告すらあがっていない。
まさか、ユウが捕らえられたとか?
いやそれなら撃破してしまった方が良いわよね。
でも双方の撃破報告が入っていないってことは、どういうこと・・・?
イオもそのことに気づいたようで心配そうな表情をした瞬間、アナウンスが響いた。
-----アリス視点
ユウリくんは試合開始直後に、間違いなくクリスタルに突撃してくる。
わたしとリシリア先輩で、全力をかけて初手でユウリくんを封じることができなければ苦戦か敗北だ。
もちろんトニーたちが離れるのは安全が確保されてからと決まってはいるのだけど。
2人が攻撃に行っている間は3人で守らなければならない。
だから頼りっきりにするわけにもいかないの。
意地でも撃破、もしくは封じないと。
試合開始のアナウンスが流れた瞬間、わたしとリシリア先輩は同時に詠唱をしていた。
「『分身の術』!!」
「『包み込む銀鉄』!!」
クリスタル全体を銀で覆いつくし、かつ全員に少量ずつではあるが防御用の銀まで装備する。
流石は『銀鉄の錬金術師』、お見事ね。
同時に案の定、離れた場所から雷が立ち上る。
あそこがアビスリンドのクリスタルの位置ということだ。
でも今はそんなこと考えてる場合じゃない。
もう魔法を打たないと間に合わないのだ。
「猛き水の流れよ!『ウォーターフォール』!!」
街道に向けて全力で魔法を放つ。
名の通り滝の如く激しい水の流れが街道を進んでゆく。
これで直進するには足場の悪い場所を通らなくてはならない。
つまり左右どちらかに迂回してここに来る確率があがる。
そう、大森林の中を。
「「猛き炎よ!『炎の槍』!!」」
分身6人が、わたしの滝とほぼ同時に左右の大森林に向けて炎の槍を飛ばす。
魔法で作られたフィールドじゃなければ大罪だけど。
燃えるフィールドに雷が走ったらどうなるか、ユウリくんなら分かるわよね。
つまりこれであの新しい速度強化は封じられる。
普通の速度強化のみなら、いくらユウリくんでも5対1じゃ勝ち目はないでしょうから。
「アリス!!」
「えっ?」
ケイオスの大きな声と同時に、ガギィンと大きな金属音を立てて銀が木刀を止める。
それと同時に木刀に巻き付いて固まった。
思わず尻もちをついてしまったが、何が起きたのか理解するまでに時間がかかった。
心臓の音が凄い大きく聞こえる。
わたしの身体の10センチほど前での出来事だった。
一瞬でもリシリア先輩の銀が遅れていたら、わたしは開始早々に撃破されていた。
重くなった木刀から手を放し、手ぶらで距離を取るユウリくん。
まさかわたしをいの一番に狙ってくるなんてね。
「俺を止めるなら、水じゃなくて泥沼にすべきだったな。」
ずぶ濡れになり、身体の周りに雷を纏わせながら言うユウリくん。
まったくもってその通りだわ。
ただ、足を止めれるレベルの泥沼を作るには時間がかかる。
それが間に合わないから地面を緩めたというのに、この速度での到達。
個人戦優勝はわたしじゃなくて、やっぱりこの人が相応しいわ。
「単独で突っ込んでくるとは、いい度胸だね!」
「さすがのユウリでも、この人数は相手できねえべ!」
ユウリ君の背後、左右から殴りかかるトニーとナナシー先輩。
しかしその攻撃はユウリくんに当たることなく、空振りに終わった。
「さすがにそろそろ雷神モードもタイムリミットだな。
まあでも、これはアリスから教わったんだけどよ。
雷より速く動ける人間なんて居ないんだぜ?」
2人の攻撃を避けたと思った次の瞬間には、リシリア先輩が吹き飛ばされていた。
それと同時にユウリくんの姿も燃え盛る大森林の奥へと消えていった。
「リシリア・フェイド、戦闘不能!」
-----ユウリ視点
大森林へと逃げ込んだ瞬間に、雷神モードのタイムリミットがきた。
もの凄いエネルギーを使用できる代わりに、1日に使用できる時間は約10秒と短い。
普段の速度強化でさえ、あれほどの後遺症があるんだ。
それを超えて使用した場合はどうなるかなんて、考えるまでもない。
しかしその10秒間であれば文字通りに雷に成れる。
どれだけ遠い距離でも移動できるのはメリットだろう。
大森林を燃やしてくれたのは好都合だな。
鼻が利く奴らをまくのに、この焦げた臭いを利用できそうだ。
まあ、酸素が薄いのが難点だが。
下手に煙を吸い込んだりしないように注意しないと。
しばらく隠れていると、街道をトニーとナナシー先輩が進んでいくのが見えた。
ナナシー先輩はジーニーに乗り、トニーはアリス4人を背負って。
しまった。
分身を攻守両面で使う可能性をまったく考えていなかった。
あれほどサクで見ていたのに、なんで俺たちはそこまで考え付かなかったんだ。
一旦戻るか?
いや、この燃えている大森林の中を走って、街道を走り続ける2人を追い越せるとは思えない。
もう皆を信じるしかねえか。
-----イオ視点
思っていたよりは時間がかかったとはいえ、ユウリさんが手筈通りにリシリアさんを撃破した。
大森林から煙があがっているのが気になりますけど。
アカネさんの目がトニーさんたちを捉えてから少し。
私の目にもアリスをいっぱい背負ったトニーさん、巨大な青い熊にふんぞり返りながら乗っかっているナナシーさんを見て取れました。
この後はおそらく、シャルロットさんがナナシーさんを。
トニーさんをアカネさんが、それぞれ対処するのだろう。
となれば私の相手は必然的にアリスだ。
個人戦のリベンジに燃えているところだから、ちょうどいい機会ですね。
「アリスは私が引き受けます。2人は手筈通りに進めてください。」
「シャルル、大丈夫?けほっ」
「アンタこそ体調大丈夫なの?トニーなんかに負けるんじゃないわよ。」
そんな強気な言葉のシャルロットさんも声が震えている。
あのユウリさんでさえ苦戦した強敵を、1人で相手するのだ。
緊張するのも無理はないか。
「出迎えご苦労!」
青い熊から飛び降り、堂々と仁王立ちをしながら言うナナシーさん。
トニーさんもアリスたちを下ろし、戦闘態勢に入った。
「アンタと決着をつけるためにわざわざ出迎えたのよ。感謝しなさい。」
「本当にアビスリンドの面々はどいつもこいつもなめてるね!!
まあ今回は挑発には乗らないけどね!」
「へえ、逃げるんだ?」
「・・・あ?誰が逃げるって・・・?」
「アンタよアンタ。マジックギルドの学生議会長は意外と度胸ないのね。」
「よおし、ぶっ飛ばす!!」
シャルロットさんがクリスタルから離れ、大森林へと入っていった。
その後を血相を変えて追いかけるナナシーさん。
聞いていた通りに単純な人ですね。
「トニーはわたしが相手するよ!」
「オラはその手には乗らんでよ。」
アカネさんを無視してクリスタル前に居る私に向かって駆けだすトニーさん。
しかしそこにアカネさんが割って入る。
「救の秘剣―六道人間・准胝観音!!」
目にも止まらぬ連撃。
トニーさんも咄嗟にガードするも徐々に崩されていき、最後の一撃がクリーンヒットして派手に吹き飛ばされた。
すぐに立ち上がるトニーさんの顔は、先ほどとは明らかに違っている。
あの顔は相手を強者と認め、本気で闘いたいと思っている顔だ。
挑発には乗らないと思っていても、戦闘本能には抗えないといったところでしょうか。
こちらもアカネさんがシャルロットさんの入っていった方向とは逆の大森林へと入り、トニーさんが後を追う。
残されたのはクリスタルを守る私と、4人のアリス。
「それじゃあ、わたしたちもやりましょうか。」
アリスの言葉に、首を振る。
戦闘の意思がないわけではない。
それでも本気で闘う気はない。
私の態度に疑問をもつような表情をするアリス。
その顔に向けて杖を掲げた。
「私は怒っていますよ、アリス。
この闘いをどれだけ待ち望んだかは、個人戦を経験している貴女なら分かるはずです。
それなのに分身だけを送りつけるとは、なめられたものですね。
さっさとオリジナルのところに戻り、この怒りを感じなさい。」
-----アカネ視点
ちゃんと付いてきてくれて助かるよ。
これで作戦通りに戦力を分散できたね。
でもさっきの攻撃で魔力を使った時、今までの体調の悪さから間違いなく悪化した。
これ以上魔力を使ったら危ないかもしれない。
「はあ・・・はあ・・・」
「苦しそうだべ。そんなんで大丈夫か?」
たぶん大丈夫じゃないと思う。
先輩たちの2回戦を観戦をした日から、急に体調が悪く感じた。
今まで風邪なんて1回も引いたことないのに。
あれだけの人数と接触したからかな。
原因はまったく分からないけど。
大して暑さを感じていないにも関わらず、大粒の汗が額から流れ落ちた。
「どれだけ苦しそうでも、手加減できねえ性格だべな。覚悟しろよ。
『ストロング・チャージ』!!」
トニーの右腕が真っ赤に燃える。
これは初戦で見せた爆発する技だ。
まともにくらったら戦闘不能は間違いないよね。
ふと、ユウくんの言葉を思い出す。
「でもある程度のリスクは侵さないとだと思うぞ。無傷で勝てる相手でもないしな。」
そうだよね。
最初から相手が強いことも、自分の体調が悪いことも分かってたことだ。
そのうえで闘いに挑んでる。
もちろん後悔なんてあるはずがない。
だって、皆と闘えない方がもっと辛いから。
「アマハラの剣は・・・大切な人を護る剣。」
目を瞑り、覚悟を決めよう。
どれだけわたしの体調が悪くなろうとも。
「大切な仲間のところには、死んでも行かせない!!!」
「良い闘志だ、行くべ!!
『爆炎の右ストレート』ォォォォ!!!」
「救の秘剣―六道餓鬼・千手観音!!」
トニーが右腕を振り抜き、真っ赤に燃える拳がこちらに飛んでくる。
それを後ろに飛びながらエンチャントの具現化による複数の手で受け止めた。
「ぐう・・・うううううううああああああああああ!!!!!」
全力でエンチャントを放出しつづけ大きな爆発が起きるも、なんとか相殺させることに成功。
でも、やっぱり体調はますます悪くなった。
「ごほっごほっ・・・はあ・・・はあ・・・ごほっ・・・」
「立ってるのもやっとだべな。残念だべ。
オラの拳は1日3発撃てるでよ。」
言いながらもう1度拳を引き、力を溜めるトニー。
もう『千手観音』を出す体力なんて残っていない。
そしてトニーの言葉の通り、もう立っているのがやっとだ。
剣で支えていないと倒れてしまいそうなほどに。
それでも、死んでもイオちゃんのところには行かせないと決めたんだ。
大切な人を護る。
すなわち、自分の信じた剣の道を・・・貫き通す時。
「『爆炎の右ストレート』ォォォォ!!!」
トニーの放った拳が、目の前に迫る。
それでもわたしの周りだけ、時が止まったような感覚。
何故なら、この一閃に。
わたしの覚悟も。
信じてきた剣も。
仲間への想いも。
そして、命も。
全て乗っているから。
「救の秘剣―六道天・如意輪 緋走緋々葬!!」
拙い作品ですが、最後までお付き合い頂けたら嬉しいです。
今後ともよろしくお願いいたします!




