八十七ノ舞「考えて考えて考え抜いて」
-----シャルロット視点
大闘技場の壇上で大の字になりながら空を見ている。
油断していたつもりは一切ない。
驕っていたなんてこともない。
それでも最後の攻防。
相手の槍を封じ、こちらの攻撃が完全に入る瞬間。
アタシは間違いなく、勝ったと思っていた。
その結果、相打ち。
相手はユウと同等の相手だというのに。
4対2という不利な状況だったとはいえ、アビスリンド唯一の戦死。
盾魔法をものにして強くなったつもりでいたアタシの心を砕くには充分だ。
アタシは何もできていない。
あーもう!
ネガティブになっても何も始まらないのは分かってるのに。
とりあえず、切り替えよう。
両手で頬を思いっきり叩くと同時に、皆が戻ってきた。
「シャルル本当にありがとうね、ってその顔どうしたの?」
「ちょっと気合い入れただけよ。」
アカネが戻るなりお礼を言ってきた。
アタシの真っ赤になった頬を見て、心配そうな顔をする皆。
いや、ホントそんなんじゃないのよ。
ただネガティブな気持ちを吹き飛ばしただけだから!
「シャルル凄かったんだよ!
わたしに指示を出して、1人を瞬殺しながらクリスタルと自分を同時に守って!」
皆に嬉しそうに説明するアカネ。
戦死した事実は変わらないけどね。
それでも、前向きに考えよう。
ユウと同等の相手と相打ちだったんだ。
今までのアタシじゃ、考えられないほどの戦果だ。
そう考えると少しだけ気が楽になった気がする。
チームが勝ったのだから、それで良いわよね。
「第一試合は3人の活躍でアビスリンドの勝利!
まさかルーナ隊長と同じ盾魔法を使える学生が居るとは思いもしませんでした。
アカネ・オオヒラ選手との連携も見事。
攻撃のイメージが強かったアビスリンド学園ですが、守備力もトップクラスの実力を見せつけ、2回戦進出です!!」
それでも、今夜はルーナ師匠のところに行こう。
こんな状態じゃ、ナナシー先輩にボコボコのボコにされるだけだから。
-----通常視点
午後の試合まで時間があるので、みんなでお昼を食べることに。
以前に追い出され気味になってしまったハンバーグ屋さんに、謝罪がてらやってきた。
「アリスたちの対戦相手どこだっけ?」
「ウエストテインですね。」
「え、アカネ。なにその肉のかたまり。」
「ハンバーグだよ?」
それぞれの会話で盛り上がる中、ハンバーグが到着。
アカネのは前回と同じくラージの3倍はある大きさ。
やっぱりこの大きさは肉のかたまりって表現するよな?
ハンバーグが元々そうだというツッコミは前回やったので省略。
それを見てどん引いているシャルロットを見つつ、こちらはアビステイン兄妹と静かに食べている。
「マジックギルドはそれに勝つとシードのセントラルポートとだね。
どちらも攻撃型のチームなだけに、防御が手薄じゃ敗けかねない相手だ。」
と言っても今の学生でリシリア先輩の鉄を斬れるのはアカネか俺くらいじゃないか?
あ、セントラルポートにはサンドラさんが居るか。
あの人の『振動する剣』なら斬れそうだ。
しかし厄介なリシリア先輩に加え、感知や補助が得意なケイオスもいる。
そのおかげで攻撃に特化された3人が生き生きしながら攻めてくるというわけだ。
神話級魔法使いのアリスは言わずもがな。
単体でのパワーは他の追随を許さないトニー。
そのトニーに匹敵するバワーを持つ召喚獣を2体呼び出し、自身も無詠唱魔法使いの褐色ロリ先輩。
まじで相手したくねえな。
ひとまず今日の試合で、どんな闘いをするのか見せてもらうとしよう。
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「聞こえていますでしょうか、この大歓声!!
団体戦1回戦最終戦、マジックギルドAチーム対ウエストテインAチーム!
その試合を前に、会場のボルテージは上がりに上がっております!
優勝候補大本命と言われているマジックギルドに対し、超攻撃型メンバーを集めた古豪ウエストテインが、どのような闘いを見せてくれるのでしょうか!
間もなく試合開始です!」
実況の通りの大歓声に包まれた大闘技場。
早く戻っただけありそこそこの席を取ることができたのだが、座った直後から周りの観客に「次も頑張れよ」など沢山声をかけられ、応対しているうちに試合開始直前となってしまった。
一番通路側に座っていたアカネは握手を求められたり、もみくしゃにされたりで散々だったな。
真ん中に座っておいて良かった。
周りの観客も試合開始直前になると試合の方が気になるようで、こちらに声をかけてくることもなくなった。
10人それぞれが自陣クリスタル前に到着し、試合開始の合図と共に突っ込む野生児2人。
と言ってもナナシー先輩はジーニーに乗っかって移動してるけど。
アリスは今回守備なのか。
まあトニーとナナシー先輩だけでも攻撃力は他の学園の4人には匹敵するだろう。
相手も超攻撃型って言ってたしな。
フィールドは居住区。
どちらも家の中にクリスタルがあっただけに、発見するのは容易ではないだろう。
・・・普通の人間なら。
あの野生児たちは鼻が良すぎるんだよ。
まっすぐ敵の本陣に向かって走ってるし。
相手なんか色んな方向に走って探してるってのに。
この嗅覚の良い2人とケイオスは先に倒しておきたいが、そう簡単に勝てる相手でもないのが厄介だ。
となると優先すべきは守備の要であるリシリア先輩だな。
こちらも簡単とは言い難い相手だが、アニマルズよりはいくらかマシだろう。
メンバー的にリシリア先輩が居なくなればアリスを守備に回さざるを得ないだろうからな。
敵陣近くまで一気に駆け抜けてきたトニーが、ピタリと止まった。
ナナシー先輩はそのまま突っ込む。
「先輩に手柄を譲るとは、良い心がけだね!」
「『ストロング・チャージ』!!」
「お前ぇ!!さては譲る気さらさらないね!?」
右手の拳を引き、殴る直前と言った体勢で力を溜めるトニー。
以前の『パワー・チャージ』と違うのは、纏ったオーラの色。
今回のチャージは、まるで右腕が燃えているかのように見える程に赤い。
「『爆炎の右ストレート』ォォォォ!!!」
「ちょっ、待っ!!先輩が軌道上に居るんだけどぉぉぉ!?」
トニーが拳を振り抜いた瞬間、ドカァンと爆音を発し真っ赤な拳が飛んでゆく。
当然ナナシー先輩を巻き込み「ナナシー・ヘンドリクス戦闘不能!」真っすぐに敵のクリスタルへと着弾。
当然のように爆発を起こし、守っていた2人もろともクリスタルを爆破した。
「クリスタル破壊により、勝者マジックギルドAチーム!!」
「トニーが炎属性魔法だと・・・」
「ふふーん、ずっと特訓に付き合っていた甲斐がありました!」
イオがふんす、と得意げに小さな胸をはる。
可愛いよ、うん、可愛いんだけどさ。
「もしかしてイオが魔法を教えたり?」
「あら、バレちゃいましたか。」
言いながらペロッと舌を出す犯人。
本来なら頭を抱えるところだが、可愛いから無罪。
大正義だからね、仕方ない。
成長しているのは俺たちだけじゃない、か。
トニー1人で勝ってしまうとは思っていなかったが、気を引き締め直すにはちょうどいい。
隣でシャルロットが「『青銅櫓』で守れるかな?」と小さくつぶやいた。
戻ってきたトニーにはナナシー先輩がキレ散らかしていたけどな。
-----シャルロット視点
「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・くそっ・・・」
「頑張るのは良いが集中力が落ちてる。今のシャルロットじゃ、何回やっても呼べないよ。」
ルーナ師匠の家の修練場。
その中で『天神の換装』を呼び出そうと特訓しているのだけど、何度やっても失敗している。
魔力を使いすぎて息も絶え絶えになったアタシは大の字に倒れ、高い天井を眺めていた。
そういえば、昼間も空を見てたっけ。
今もあの時も集中している自信はあるんだけどな。
「とはいえ、この短期間であともう少しのところまで来ているのは凄いな。」
「あともう少し、じゃダメなんです。」
アタシの言葉に少し驚いた顔をするルーナ師匠。
その顔を見た瞬間に気付いてしまった。
集中が足りないわけじゃないんだ。
アタシは今、焦っている。
神話級とはいえここまで同じことを続けて習得できず、強大な相手と闘うまでに時間がなくなってきている。
早く習得しないと、という焦りだ。
「その顔は気づいた顔かな?焦って鍛錬しても得られるものはないよ。
今日はこの辺にして、宿に戻りなさいね。」
眠そうに言いながら欠伸をするルーナ師匠。
気付けば深夜2時だ。
確かにルーナ師匠にも迷惑だろうし、そろそろ戻らないとよね。
「分かりました。また近いうちによろしくお願いします!」
「ん、気を付けてね。」
ルーナ師匠に見送られ、帰路につく。
帰りがてら王国騎士団の駐屯所を覗いてみると、多くの団員が鍛錬していた。
深夜だというのに汗だくになりながら努力を続けている。
この人たちの目、そして動きには焦りなんて微塵も見られない。
なんというか自信に満ち溢れているように見える。
「興味があるならお前も混ざっていくか?」
「ひょああああ!??」
深夜に気配もなく近寄ってこないでほしい。
心臓止まるかと思ったわ。
渋い声で後ろからとか恐すぎるわよ、アーデルハイド様。
静まり返った居住区に響いたアタシの声は、鍛錬中の団員の手を止めるには充分だった。
何事かと何人かが外に飛び出してきたくらいだ。
「とりあえず中に入れ。その声量で喋られたら苦情がきかねん。」
「誰のせいだと・・・。」
言いつつ中へと着いていく。
まさかこんな簡単に部外者を中に入れるとは思っていなかったわ。
そんなにアタシのことを評価してくれてるのかしら。
壁際のベンチに腰掛け、隣に座るように促すアーデルハイド様。
こんな大物の横に座るなんて、良いのかしら。
「さて、お前は何に悩んでるんだ?」
「分かるんですか!?」
「何人の団員を相手していると思ってるんだ。顔を見たらそれくらい分かる。」
それもそうか。
内容を全部は言えないので、普段慣れない魔法で壁にぶち当たっていると伝えると「ふはは!」と楽しそうに笑われた。
「真っすぐ進むだけでは乗り越えられない壁もある。
乗り越える方法は、飛ぶのか。回り込むのか。下からくぐるのか。破壊するのか。
1つではないことは確かだ。
ただ単調に進むだけでは高みには登れん。
壁を乗り越える方法を多く見つけることができる奴が、どんどん成長という形で強くなる。
その歳で大きな壁にぶち当たる?良いことじゃないか!!
お前なら、必ず超えられる。
少なくとも、俺とあのバカはそう信じているぞ。」
やばい。
嬉しすぎて鳥肌がたった。
絶対師匠みたいな顔してる。
「お前のその顔を見ると『神速の剣姫』を思い出すな。」
「アタシの剣の師匠です。」
「ふはは、なるほどな!あの悪ガキが弟子をねえ。」
悪ガキって。
まあ否定できる要素はないけど。
「とにかく『神速の剣姫』も、『王国最強の盾』も、壁を超えて今の地位にいる。
お前もどんな形で壁を超えてゆくのか、楽しみにしているぞ。」
「はい!!ありがとうございます!!」
「それじゃあ今日はもう遅いから、そろそろここも閉めるぞ。
もし混ざる気があるのなら明日以降にしろ。」
なんというかアタシは本当に恵まれている気がする。
天才ではないけど、目をかけてくれている人が沢山いるんだ。
その人たちの期待に、応えたい。
まずはこの目の前の大きな壁を、どう超えるかだ。
色んな角度から考えて考えて考え抜いてやるんだから。
深夜の3時。
居住区を走り抜けながら、思いをはせる。
『天神の換装』、対戦までに絶対ものにしてやるんだから。
待ってなさいよ、マジックギルド学院。
アタシが絶対に守り切ってみせる。
拙い作品ですが、最後までお付き合い頂けたら嬉しいです。
今後ともよろしくお願いいたします!




