八ノ舞「当たり前だろ」
翌日、授業を終えて放課後。
手合わせのために修練場に集まった。
それぞれが準備運動をしている中、サクと共に汗を流す。
速度強化さえ使わなければ、反射速度の差はあれど俺とサクのスピードは大差なく、アカネ以外では一番いい練習相手になる。
ここ数日で5回手合わせをしているが、2度俺が負ける程度にはサクは強い。
ちなみにアカネとの手合わせではすべての試合で速度強化を使用しているため、単純にアカネよりもサクの方が強いとは言えない。
互いに本気で手合わせをすると、8対2~6対4の間でアカネが勝つだろう。
しかしアマハラ流をほぼ極めているアカネから10戦2~4勝取れそうだという時点で、サクの実力もまた高いのは事実。
俺もいつまでも今のままではいけないな。
とりあえず今回はカウンターで天翔〇閃の真似事が決まり、勝利した。
少しタイミングがずれて、左脚の制服をかすめてしまった。
これなかなかに難しいんだな。
準備運動を終えていたシャルロットが目を輝かせて今の技はどうやるのか、と聞いてきた。
説明すると、アンタ何言ってんの意味分かんない、みたいな顔をされた。
お前が聞いてきたから答えたのに何て奴だ。
しばらくして、ショーヤとシャルロットの手合わせが始まった。
開始早々シャルロットが火属性魔法剣を発動しようとするも、ショーヤの『魔力干渉』で不発に終わった。
見ただけで相手の魔法を打ち消せるのはやはり強い。
魔法を使うのを諦めたシャルロットは、アマハラ流の構えに切り替えた。
以前に見た時はジジイの構えそのものだったが、それよりも構えに余裕がある。
どちらかというと今はアカネの構えに近い。
どんな状況からの攻撃でも捌くために腕の位置を低くしているアカネに対し、どこからでも攻めれる高めの位置に構えているあたり、シャルロットの攻撃的な性格がうかがえた。
対するショーヤはいつものキレがない。
攻撃も守備も1つ1つの動きを確かめるように、試すように。
シャルロットも魔法を封じられ、いつもの動きを出来ていない。
なかなかに泥試合になってきたと思ったその時、幻影剣による最初の一撃が入った。
シャルロットが距離を取ろうとバックステップをするも、ショーヤが勢いよく追撃。
手数の多さとスピードではやはり双剣が勝る。
幻影剣を皮切りにショーヤ優勢になり始めた。
シャルロットもいたる角度から放たれる斬撃に苦戦しているものの、よく捌いている。
ところどころで幻影剣から傷を受けるも、どれも致命打には至っていない。
そんな状況から焦りを感じたのかショーヤの右腕が少しだけ、ほんの少しだけいつもより大振りになった。
それを見逃さなかったシャルロットがショーヤの腰より低く前かがみになった。
ショーヤの右腕はシャルロットの頭上を通り空を切る。
おいアカネ、なんて技教えてやがる。
あれは紛れもなくアマハラ流奥義の1つ。
身体をかがめた状態で敵の懐に潜り込み、強く地面を蹴り上げることで鋭く斬りあげる。
水上に獲物を見つけた鮫の如くの速さで敵に襲い掛かることから、こう呼ばれる。
「喰鮫」
間違いなく完璧のタイミング。
大振りになったショーヤに襲い掛かるカウンターだ。
本来であればこれで決まっていただろう。
しかし鮫の牙は獲物を捕らえることはなかった。
ショーヤは大振りのカウンターを、わざと誘ったのだ。
シャルロットの剣は後ろに重心を預け、身体を左に捻るショーヤのギリギリ前を通過した。
「なっ?!」
シャルロットが驚きの声をあげる。
だが時すでに遅し。
カウンターへのカウンターが、強く地面を蹴り上げ空中で両腕をあげた姿勢のシャルロットに襲い掛かった。
「舞駒」
捻った身体をバネとし、大きく右に連続回転。
回避はおろか防御すらままならない体勢のシャルロットは、その双剣での連続攻撃を全て被弾し、きりもみしながら場外へと吹き飛んだ。
「勝者、ショーヤ殿!」
サクが勝利者宣言をし、闘いに幕を下ろした。
最後のショーヤの技。
身体の捻りはアスカ先輩の『四肢封印』から
連続回転斬りは俺の『肆式─聖十字』からヒントを得たな。
「うあー!!負けたー!!!」
イオに回復魔法を施してもらい、すっかり傷が癒えた(制服はボロボロで目のやり場に困るが)シャルロットが大の字に寝そべりながら吠えた。
負けはしたが、まさか『喰鮫』をつかえるようになっているとは思いもしなかった。
本来であれば『神威』で懐に入り込む分、速度不足だったのかもしれないがタイミングは完璧だった。
まさかショーヤがカウンターを誘い、そこにさらにカウンターを入れてくるとは俺も驚いた。
自分自身で、どうすれば防御されずに大技を入れることができるかを考えたのだろう。
やはりアビステイン兄妹は頭がいい。
シャルロットもいっその事、他のアマハラ流奥義を覚えてもいいかもしれない。
火属性魔法剣と合わせれば、間違いなく強力な技になる。
アカネが奥義を教えたのは、同じ師に憧れた家族と思ったからだろう。
「まさかシャルルが師匠の技を使うなんて思ってもなかったよ。」
・・・ん?ジャストアモーメント、アカネ。今なんつった。
お前が教えたんじゃないのか?
「昔見たサムライ・ナギの技の見様見真似をしてみたんだけど、どうだったかしら?」
不安げに聞いてくるシャルロット。
見ただけであそこまで完璧に模倣したってのか、こいつ。
さすがにちょっと何言ってるか分からないです。
奥義ってそう簡単にできないから奥義って言うんだぞ。
「・・・待て。『喰鮫』はまあ完璧だったが・・・まさか他の奥義もできたりするのか?」
こちらこそ不安になって聞いてしまった。
するとシャルロットは顔を赤くして答えた。
「今はあと2つだけね。他はまだ練習中よ!」
練習中と申したか。
サムライが何年もかけて編み出した技を見て、自分一人でそれを練習しただけでできるってのか。
こいつはもしかすると天才なんじゃなかろうか。
アカネですらまだ未完成の技があるってのに・・・。
「これはどっちが勝ったのか、分からないね。」
ショーヤが苦笑いをしながら頬をかくのだった。
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続いてアカネ対イオの手合わせだ。
正直前の2人には悪いが、こっちの方が楽しみだったりする。
普通に闘えば100対0でアカネだ。
ただ、牛若丸が出てきたらたぶんイオの勝ちだ。
アカネはめちゃくちゃ強いが、牛若丸はたぶんハチャメチャ強い。
自分でも何言ってるか分からないくらいの語彙力だが、めちゃくちゃ<ハチャメチャだと思ってもらえれば。
さて、どうなることやら。
「それでは、試合開始!」
サクの合図で試合が始まった。
開始早々バックステップで距離をとるイオ。
それを見たアカネは無理に距離を詰めようとはせず、魔法を詠唱した。
「我が求めるは偉大なる氷の加護。
その必中の矢で敵を討て。
氷魔法 氷の矢」
アカネの両手から氷の矢が出現し、まっすぐにイオに向けて飛ばされた。
対するイオは杖を構え、魔法名だけ唱えた。
「大地の盾」
土でできた盾が3枚、イオの周りをぐるぐると飛び回り、1枚は氷の矢にぶつかり消滅した。
「ぶぅー、無詠唱とかずるーい!!」
頬を膨らませてお怒りのポーズ。
アカネは魔法の操作は得意中の得意なのだが、大きな魔法を使えるわけではない。
きっちりと詠唱してきっちりと成功させ、使える魔法は絶対に失敗をしない。
これがアカネに対し、イオはと言うと
「大寒波」
無詠唱で最上級魔法。
本来であれば200文字くらいの詠唱を行わなくてはならないはずだ。
もちろんあれは持っている杖のおかげもあるのだろうが・・・魔術試験2位、おそるべし。
というか大寒波という割にはそんなに寒くないような・・・
と思ったら後ろでシャルロットが自分を燃やしていた。
魔術試験では結果ももちろん見るが、経過も特に見ている。
教科書通りに詠唱をし、教科書通りの結果を生み出したアカネの方が点数が高かった。
イオは無詠唱でゴーレム生成をしたらしい。
結果は素晴らしいが、無詠唱という点で減点があったため2位になってしまったのだ。
余談だが魔法の序列は初級<中級<上級<最上級<神話級の5段階である。
後になって知るのだが、イオは水氷属性・聖属性が最上級、土属性が上級らしい。
両親が冒険者なので多少は詳しいのだが、上級の冒険者でさえ上級魔法を2属性も使えれば、どこのパーティでも引っ張りだこになるだろう。
そんな世界で最上級を2属性使用できるのだ。
どうあがいても魔法で彼女に勝つのは学生では無理な話だ。
等と言っている間にアカネが氷漬けにされていた。
5秒待っても動かず。
「しょ、勝者、イオ殿!」
サクの勝利者宣言と共にイオが氷を解除した。
審判でかなり寒そうにしていたサクに上着をかけてあげると顔を赤くし、もの凄い嬉しそうな笑顔をした。
うちのシノビはとっても可愛い子みたいです。
「し、死ぬかと思った・・・」
歯をカチカチ震わせながら半泣きのアカネ。
シャルロットがアカネの近くで炎属性魔法を使い、暖をとらせていた。
イオには前言撤回しなくてはならないな。
近距離戦士タイプが苦手と言ったが、そのアカネに剣を一振りもさせずに圧倒したのだ。
今の試合、アカネが魔法戦に挑まずに接近戦に持ち込んでいたら結果は違ったかもしれないが、牛若丸の存在もある。
実はこの5人の中で一番強いのはイオなのではないだろうか。
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「すっげーなイオ!ハチャメチャ強いじゃん!」
部屋に戻りイオに声をかけると、驚いた顔で振り返った。
「凄い・・・ですか?怖く、ないのでしょうか・・・?」
「何も怖くないし、凄いことを凄いと素直に言っただけだぞ?
最上級魔法を無詠唱で使うなんて見たことも聞いたこともないからな。
無詠唱に関してはその杖のおかげもあるかもしれないけど、最上級魔法を使えるのは間違いなくイオの努力の賜物だろ。
それはもう凄いとしか言いようのない努力をしてきたってことだろ。だからすげーの。」
言い終えると同時にイオが抱き着いてきた。
え、なにこれ。
理性を保つのに必死だったが、続くイオの震えた声に邪な考えは全て消え去った。
「なんで・・・ですか?」
「なんでってどういうことだ?」
「今まで私の魔法を見た人たちは例外なく、まるで化け物を見るような目を向けてきたんですよ?!
小さい頃から魔法のせいで友人もできないし、王宮の大人たちですら私から距離を取ろうとしてきた!
降霊術もそう!
急に使えるようになってしまってから今まで、兄さんと戦士長のリチャード様しか私に話しかけてこなかった!
こんな化け物を拒絶どころか、まるで褒めるかのように・・・なんで笑顔で隣に居れるんですか!!」
一気にまくし立てたイオは、涙を流しながらこちらをまっすぐに見ていた。
イオが言う小さい頃というのは何歳の頃かは分からないが、子どもながらにして最上級魔法を扱えたのだろうか。
確かにそうであれば周りが驚くのは無理もない。
あくまで想像だが、最初は『天才』という枠に勝手に当てはめ、もてはやしたのかもしれない。
しかし時間が経つにつれてその大きすぎる力は、その枠を外れ恐怖の対象として認識されるようになってしまったのだろう。
それが幼いイオにとって辛くないわけがない。
こんなに顔を歪ませ涙をこぼしているのだから。
俺とイオの境遇は似ている。
拒絶云々は身近に姉さんが居たから、そんな発想すらなかった。
凄いと思ったら称える。それの何が悪いのか。
サクの忍術も、イオの魔法も、賞賛をされるべき力だ。
なんで笑顔で隣に居られるか・・・そんなの決まってるじゃないか。
少し迷ったが、俺はその小さい身体を抱き寄せ、頭を撫でながら答えた。
「仲間と一緒に居たいと思うのは当たり前だろ。」
それを聞いたイオは、大きな声をあげながら涙を流した。
新人戦本戦開始まで、あと3日。
----- イオ視点
気づけばベッドで寝ていました。
お恥ずかしながら、泣き疲れて寝てしまったみたいです。
目の周りがヒリヒリします・・・明日跡になってなければいいけど。
ふと横を見ると私に仲間だ、一緒に居たいと言ってくれた少年が私のベッドに突っ伏して寝ています。
私をここまで運び、ずっと手を握っていてくれたようです。
この少年は不思議だ。
私に牛若丸が憑いていることを見抜いても驚きもせず、この歳で最上級魔法を2属性使えることを知っても、凄い、努力の賜物、などと言って褒めてくれます。
語彙力は少々難がありますが、言葉はどれも本心から言ってくれてるのだろうとこちらに思わせてくれる、そんな不思議な少年です。
今までその力のせいで周りの人たち、家族でさえも距離をおかれていて、存在を肯定されていなかった私にとっては逆に驚く反応です。
もちろん存在を肯定してくれて、仲間と言ってくれることはとても嬉しいし、今までの辛さが薄れていくのですが。
こんな私を仲間と言ってくれた人は初めてです。
あの言葉を思い出すだけでドキドキして、思わずニヤニヤしてしまいます。
私にもこんなに素敵な仲間が、いつの間にか出来ていたんですね。
それに応えるためにも、明日の朝は精いっぱい腕をふるったご飯を作ってあげよう。
身体が資本ですからね。
イオは握ってくれている手を両手で包み、笑顔で目をつむった。
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拙い作品ですが、よろしければ最後まで見てやってください。
よろしくお願い致します!