八十二ノ舞「思う存分ぶつけてこい」
-----通常視点
いよいよ夏休み最終日。
以前目標にしていた、団体戦までに拾式の完成はクリアできた。
そして何より『速度強化』をさらにパワーアップできたのは大きい。
だが替えがある制服はともかく、使うたびに服がダメになる欠点がある。
それをなんとかしようと、再びブライデン王宮を訪れていた。
「何をしたらこの量の服をここまでダメにできるのかしら。」
この2週間でボロボロになってしまった服の山を見て、アリスが驚いている。
サクを先にアビスリンドに帰し別行動で馬車で来たのだが、その量の服を入れた大きなカバンが場所を取りすぎて狭かった。
おかげで体中が痛い。
服に関してはメイドさんが魔法で直してくれるとのこと。
さすがに時間がかかるとのことで、アリスと共に街に出ることにした。
アリスに魔法が付与されている服を売ってる店を紹介してくれないか、と相談したところデートのお誘いだと嬉しそうにクネクネしていた。
宮廷魔術師御用達のお店を紹介してくれるそうだ。
見るからにお高そうな服ばかりだこと。
店の外観からしてそうだったが、間違いなく学生が居るには不相応だ。
店員さんもアリスが居たから入れてくれただけだろう。
間違いなく俺1人だったら門前払いだと思う。
店員さんに声をかけ、雷魔法耐性のある服がないかと相談したところ、あまり数はないが用意はあるとのこと。
値段は金貨5枚以上しますけど、と嫌味っぽく言われたので討伐依頼の報酬で受け取った金貨7枚を払うと、一瞬で態度が一変した。
どうやら客と認めてもらえたらしい。
世の中、結局金がものをいう。
この歳にして嫌な現実を叩きつけられた。
雷も通さないローブなどもあったが、結局服の下に着るトレーニングウェアのセットを購入。
身に着けているだけで、服に雷の影響がなくなるらしい。
これなら金貨4枚でいいとのこと。
その代わりまた必要な時には是非うちの店を、と満面の笑みで言われた。
態度に思うところはあったが、商品の質はどれも一級品だ。
今後もこういった服はここで買うとしよう。
アビスリンドから遠いのが難点だが。
カフェに入りコーヒーを注文する際、アリスが魔法で動く機械で注文していた。
こと魔法に関してはブライデン王国は30年進んでいると言われているが、ここまで別世界だと30年で足りるかどうか。
それよりもアリスも最近コーヒーを飲み始めたらしく、少し嬉しくなった。
曰く、旦那様が好きな物は一緒に好きになりたい、とのこと。
全てにおいて努力家なんだな。
前回訪れた後のことを話しているのだが、イオの新たな神話級魔法が完成したらしい。
なんでもこの真夏のブライデンで、王宮が凍り付いたとか。
アリスとトニーと魔法を遮断する結界の中で闘っていたのにも関わらず、結界を破壊したうえで王宮ごとだそうだ。
もちろん間近で受けたアリスたちも完璧に凍らされ、個人戦で勝ったのが嘘のようだと苦笑いしていた。
しかし、今度は氷属性の神話級か。
あの王女様はどこまで魔法、そして努力の才能があるんだろうか。
アリスとのデートも終えて、ブライデン王宮に戻ると全ての服が元通りになっていた。
毎度のことだが、魔法って凄い。
ここからは走って帰るつもりなので、魔法急便に預けて届けてもらうことにした。
帰るまでにボロボロになっていたら申し訳ないしな。
ブライデンの冒険者ギルドで手続きを済ませると夕方になっていた。
そろそろ出ておかないと夜ごはんに間に合わないな。
まるでアカネみたいなことを考えてしまった。
アイツもかなりのパワーアップをしているに違いない。
また闘うのが楽しみだ。
アリスに門まで送ってもらった。
今日は案内してもらいっぱなしだったな。
「今日はありがとうな。それじゃあ、次はクノッサスで。」
「ええ、楽しみにしているわね。」
繋がれた手を寂しそうな顔で放すアリス。
クールなようで、結構顔に出る子だなあ。
頭を軽く撫でると、思い切り抱き着かれて頬に口づけをされた。
驚いてそこに手をあてると、顔を真っ赤にしたアリスは箒にまたがり飛んで行ってしまった。
いやどこから箒出したの今。
そして俺の『速度最大強化』よりは速いのではなかろうか。
つっこみどころ満載だ。
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新たな『速度強化』で公道を駆け抜け、アビスリンドに到着した。
久しぶりに戻ってきたな。
今まで緑に囲まれていたから、潮風がべたついて感じる。
まあこれもアビスリンドの良さの1つだが。
息を切らせて汗だくで寮の前に到着して初めて気づいたのだが、服がまったくダメージを受けていない。
これはいい買い物をした。
そんな感想を抱きつつ部屋へと戻るも、イオはまだ帰ってきていないようだ。
何か作って待ってようと買い物に出ようとした時、イオが箒を片手に勢いよくドアを開けた。
最近の魔法使いの間で箒ブームなのだろうか。
おかえりと言おうと口を開いた瞬間、イオが大声でまくしたてた。
「さっき馬車に乗っていたらいきなり雷が横切ったのですけど、アレはユウリさんですか?
いや、ユウリさんですよね。
一体この2週間でどんなトレーニングをしたらあんな出鱈目な魔法に行きつくんですか!?」
言い終えて肩で息をしながら見つめてくるイオ。
その表情は真剣そのものだ。
とりあえず大正義。
「プラグニスさんに教わったことをサクと一緒に特訓していたらアレになったぞ。
原理は俺もよく分からないけど、結果だけ見ればプラグニスさんに言われた通りになったな。」
イオが馬車で3日かけて到着した距離を、ものの数秒で駆け抜けたのだ。
驚くのも無理はない。
「本当になんというか常識が通じないですよね、ユウリさんって。」
それは褒められてるのだろうか。
常識外と言われて喜ぶ奴は居ないと思う。
かくいう目の前の王女様も2つ目の神話級魔法を完成させてしまったらしい。
充分に常識外なのではないだろうか。
どうせ同じなら仲良くしたいものだ。
そんなこんなでイオと買い物に出ることになった。
寮の階段を降りると、ちょうどアカネが帰ってきたところだった。
「2人とも久しぶり!元気だった?」
アカネも元気そうで何よりだ。
アスカ先輩も居たとはいえ、慣れない地で永遠と剣を振っていたのだろう。
個人戦の時よりも闘気が洗練されている気がする。
そして息を切らせながらもう1人。
「だあー!!やっと着いた・・・。」
大声をあげたと思ったら大の字に倒れるシャルロット。
いくら乗り物が嫌いだからとはいえ、まさかクノッサスから走ってきたのだろうか。
それはいくらなんでも・・・人のこと言えねえや。
シャルロットに肩を貸して起こしていると、今度はショーヤが帰ってきた。
「やあ、皆揃ってどこかに行くのかい。」
さすがはノースリンドブルムと言うべきか、以前より筋肉がついている。
軽かった双剣が、結構な威力になっていそうだな。
そして知略を勉強しに行くと言っていただけあり、ショーヤが手ぶらで帰ってくるはずもない。
確実に全員がレベルアップしている。
可能であればこの5人でまた闘いたいものだ。
姉さんに頼んでみるとするか。
せっかく全員が揃ったので、5人で外食をすることにした。
それぞれの出来事を話したり聞いたりしているうちに、夜は更けていった。
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「チームなんて学年ごとにするに決まってんじゃねえか。
お前がサク以外の先輩と連携取れるわけねえだろ。」
言いながら腹を抱えて笑う姉さん。
弟の頼みを笑いながらバカにする姉とは。
どこも姉弟ってそうなのだろうか。
弟という生き物の不憫さに思うところはあるが、ひとまずチーム分けに関しては学年ごとだそうだ。
つまり、新人戦メンバーでまた闘えるのだ。
この先何度この5人で闘えるか分からないからな。
めいいっぱい楽しむとしよう。
「この夏休み、各々スキルアップしてきたことだろう。
その成果、思う存分ぶつけてこい。
大会までの2週間はコンビネーションや、互いの技の確認とかに充てておけ。
以上、解散!」
姉さんの言葉で解散となり、俺たち5人は修練場で技の確認などを行った。
人のことを言える立場ではないが、全員攻撃寄りなんだよな。
クリスタルを防衛できるか心配になってくる。
まあそこはショーヤが上手く割り振ってくれることだろう。
その後の期間は時間が許す限り5人で集まり連携を中心に行った。
楽しい時間というのは早いもので。
あっという間に2週間が過ぎ、三度クノッサスへと到着した。
第8章 夏休み編 ~完~
拙い作品ですが、最後までお付き合い頂けたら嬉しいです。
今後ともよろしくお願いいたします!




