七十九ノ舞「他の誰に教えろと言うの?」
-----シャルロット視点
クノッサスに到着したアタシは、すぐに騎士団の駐屯所へ向かっていた。
ルーナ隊長と具体的な場所を決めていなかったからだ。
こういう時、個人に直接連絡のできる端末があれば便利だと思う。
手紙じゃ限界があるわ。
ブライデン王国あたりで作ってくれないかしら。
話が脱線した。
クノッサスの玄関口である東側の商店街を抜け、中央広場を北へ。
真っすぐな坂道を登っていくと街の中だというのに検問があり、銀色の閉ざされた大きな門の両脇に2人の門番が居る。
青い立派な鎧に身を包んだ彼らは、立ち姿からでも相当なやり手というのが分かる。
ルーナ隊長からの手紙と共に同封されていた紋章が描かれたペンダントを見せると、途端に慌ただしく門を開け始めた。
ついでに駐屯所の場所を聞くと、丁寧に教えてくれた。
礼儀作法や口調など、客人にも失礼のないようにと叩き込まれているのだろう。
とても聞きやすく、分かりやすかった。
それにしても王国騎士団2番隊隊長ともなると、紋章だけでパスできるのね。
こんなところに入るなんて思っていなかったけど。
クノッサスの居住区へ初めて足を踏み入れた。
他の地区と違い、静かな雰囲気に包まれた街並み。
商店などはなく、名の通り立派な家がずらりと並んでいる。
1つ1つの家がアタシの実家くらいの大きさはあるわね。
ここに住んでいるのは貴族や、王国関係の名家ばかりなのだろう。
堅苦しいのは嫌いなので足早に駐屯所へと向かうとしよう。
目当ての駐屯所は、王宮の目と鼻の先にあった。
中で鍛錬でもしていそうな声が外まで響いてきている。
大きさからして300人は収容できるかしらね。
実際にはその半分程しか居ないらしいけど。
門を叩く前に外から中の様子を伺ってみよう。
どんな鍛錬をしているのか気になるし、変なタイミングで入りたくないし。
そう思い、窓から中を覗こうとした瞬間。
「シャルロット・マリア・ヴァルローレンか。
こんなところでどうした。」
「ひょあああ!?」
急に後ろから声をかけられて、心臓が跳ねた。
アタシをフルネームで覚えてくれてるのは光栄だけど、気配もなく近づいてこられると心臓に悪い。
忘れもしない渋い声。
そしてそこに居ると認識して初めて分かる、全身の毛が逆立つようなプレッシャー。
全身を国宝級の装備で固めてられている歴戦の戦士。
王国騎士団総隊長、アーデルハイド・ジーン・ブリッツさんがそこに居た。
アーデルハイドさんはアタシの首から下げられているペンダントをじっと見て、何かに気付いたような顔をした。
「あのバカ、有休消化はこのためか。」
「バカは酷いですね、総隊長。」
頭を抱えながらため息をつくアーデルハイドさんの後ろから、ルーナ隊長が私服で現れた。
普段の騎士の恰好からでも分かってはいたけど、師匠とはまた違ったカッコよさがあるのよね。
脚が長くてスタイルも良くて、銀色の長い髪は結んであってもサラサラで。
なにもかも勝てないわ。
「シャルロットちゃん、盾魔法を習いたいと言うからお誘いしたんですよ。
総隊長にはあげませんからね?」
そう言いながらアタシを後ろから抱きしめるルーナ隊長。
アタシを挟んで凄い人たちが会話してる。
なにこの状況。
「2番隊にはオオヒラ・アカネが入るのだろう。
新人戦以降目を付けている人物だからな。
結果さえ残せば、俺が直々に1番隊に勧誘するところだ。」
それはめちゃくちゃ嬉しいかも。
隊は違っても、アカネと同期ってことよね。
それに末席だとしても、所属しているというだけで人生勝ち組なんて言われている1番隊だ。
歴戦の戦士が直接指導してくれる。
それだけで胸が高鳴った。
「シャルロットちゃん。
こんな堅苦しいオジサマより、アカネちゃんと一緒に2番隊に来なさい。
まあでも確かに、総隊長が人の名前を覚えるのは珍しいですね。
この前もマジックギルドの獣みたいな男子、とか言ってましたし。」
ごめんねトニー。
ちょっと勝ち誇らせてもらうわ。
じゃなくて!
「いい加減、喋ってもいいでしょうか・・・」
2人とも我に返ったかのように静かになってくれた。
アーデルハイドさんはルーナ隊長の代わりに稽古番をしなくてはならないらしい。
ということで、ひとまずルーナ隊長の家に向かうことになった。
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駐屯所から徒歩2分。
王宮の脇に建てられた一際大きな真っ白な建物。
門の近くにあった立派な家の5倍はあろう大きさだ。
特に高さが凄い。何メートルあるのかしら。
ルーナ隊長はその建物へと向けて入っていく。
隊長格みんなで暮らしてると言われても、なんら不思議に思わないくらいだけど。
「1人だと広すぎて寂しかったんだ。さあ、遠慮せずに入った入った!」
やっぱりルーナ隊長の家よね。
王国騎士団ってそんなに良い暮らしができるのかしら。
というか寂しい想いするくらいなら、こんな大きな家に住まなければいいのに。
絶対そんなこと言えないけど。
ルーナ隊長に招かれるがままに家の中に入ると、もう玄関からしてでかい。
大量の女性用の靴が並べられており、中には1度も履いたことがないのではないかと思うほど綺麗なものもあった。
「散らかっててすまないな。靴を集めるのが趣味みたいなものなんだ。
買ったは良いが忙しくて履く機会がなくてね。
今日履いているのも、初めて身に着けているくらいだ。
気に入ったのがあれば持って行ってもいいぞ。」
なんと太っ腹なのだろう。
いやでもサイズが合うか分からないから、ひとまずは遠慮しておこう。
広い玄関の右がリビング、左が修練場、2階が寝床らしい。
外から見た高さでは5階建てくらいに見えたけど、実際は2階建てらしい。
そのからくりは修練場を見た瞬間に解けた。
50メートル四方はありそうなとんでもない大きさ。
そして天井は建物5階相当の1室。
おそらく、この建物の8割はこの部屋の大きさのせいだ。
空いた口が塞がらないって、こういうことを言うのね。
文字通り口を開けて驚いていると、ルーナ隊長が恥ずかしそうに説明してくれた。
「私の盾魔法の中にはでかいものもあるからな。
これくらいの大きさがないと、壁や天井をぶち抜いてしまうんだよ。
外でやれと思うかもしれないが、努力しているところを見られるのって・・・ほら。
恥ずかしいだろ。」
そう言って苦笑いをしながら頬をかくルーナ隊長。
いつもクールなイメージだからか、失礼ながら意外と可愛いところもあるんだと思ってしまった。
確かにクノッサスの医務室で砲弾を防いだ『青銅櫓』。
あれを使用するにはこれくらいの大きさがないと無理だろう。
誰にも見えないところで努力を続けた結果、師匠と互角に闘い、今では王国騎士団の隊長。
分かってはいたものの、やっぱりとんでもなく凄い人だ。
生き方を見習うのなら師匠よりも、ルーナ隊長の方がアタシに合っているかもしれない。
まあ、これからルーナ隊長も師匠なのだけど。
「さて、時間も限られていることだし早速始めようか!
今日から毎日12時間はやるから、覚悟しておいてね。」
「はい!よろしくお願いします!!」
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初日の修行を終えて、ルーナ隊長と一緒にお風呂に入っている。
師匠と違って1つ1つ丁寧に教えてくれるやり方で、凄く分かりやすい。
それでも一切の手抜きはなく、厳しさも持ち合わせている。
師匠の剣を止めた『戦乙女』を強化し終えることなく12時間が経ってしまった。
もう深夜3時だ。
そんなに同じことをやっているのに、言われたことができない自分が嫌になるわ。
「シャルロットちゃん、私より盾魔法のセンスあるかもよ。
一番使いやすいヒルダでさえ、私は習得するのに2年かかったもの。」
「アカネに魔術操作を教えてもらったんですよ。
そのおかげで『大輪の狐百合』っていう盾を使えるようになったので、なんとなくですけどコツは分かるんです。
まあそれもイオの神話級魔法と相殺されちゃうくらいまだまだですけどね。」
その言葉にルーナ隊長は目を見開いた。
神話級魔法と相殺できる盾魔法など存在しないと思っていたらしい。
あの『青銅櫓』でさえ、受けたことはないがそこまでの強度はないかもしれないとのこと。
ミサイルは通さないんだがな、と付け加えるルーナ隊長。
いや、それもそれでどうかと思いますけど。
「対物理で言えば誰にも負けないと思っている。
それでも対魔法は、シャルロットちゃんの方がすでに上かもね。」
確かにイオの神話級を止めたことで、少なからず自信にはなっている。
あの槍よりも単体で威力が高い魔法は、今のところアタシは知らない。
アリスの雷は速度が速すぎるから無理かもしれないけど。
それ以外の魔法であれば、たいていは止められるということになる。
つまりルーナ隊長に教わるべきは、対物理の盾魔法だ。
「じゃあ明日からヒルダを含め、対物理の盾魔法をみっちり叩き込むとしよう。」
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クノッサスに来てから1か月が経過した。
先週からルーナ師匠は仕事に戻っており、昼間は1人で修行したり、クノッサスを歩き回ったりしている。
冒険者総本部がある都市なだけあり、歩き回ると色々な冒険者の話が聞こえてくるのだ。
他の都市での出来事を聞くと、たまに仲間の情報も手に入ったりする。
「ブライデン王宮がこの真夏に凍り付いたらしいぞ。」
「ウエストブルムでは最近昼は桜吹雪、夜は落雷が頻繁に起こるらしいから行くなら気を付けな。」
この2つは特に頭を抱えたわね。
絶対イオとユウたちじゃない。
他国に迷惑かかってるわよ・・・。
わざわざ極寒の地に行く冒険者も居ないので、ノースリンドブルムの情報は一切入ってこないのが残念だけど。
1番嬉しいニュースが、昨日届いた。
「ウエストテイン学園の生徒を、無敗で100人斬りした女剣士が居るんだってよ。」
凄いじゃない、アカネ。
前までのアタシなら、置いて行かれてるって思ったかもしれない。
だけどここに来てからのアタシも、ルーナ師匠にしごかれまくったから。
今では教わった全ての盾魔法を扱えるようになっている。
そして今夜、最後の盾魔法を教えてもらう約束をしているのだ。
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「私が教えられる最後の盾魔法、これを扱えるかどうかはシャルロット、君次第だ。
どちらにしても他言無用だぞ。もちろん、ミドリにもな。」
ルーナ師匠の仕事終わりを待っていると、帰って来て早々修練場に顔を出してくれた。
そう言ったルーナ師匠は5メートル程離れたところで止まる。
聞こえた声に顔を上げ、その格好を見て違和感を覚えた。
普段身に着けている鎧や盾が一切なく、Tシャツと伸縮のきく薄手のズボンだけ身にまとっていた。
格好と言葉を疑問に思いながらも立ち上がり、ルーナ師匠に向き直る。
するとルーナ師匠は詠唱を始めた。
「我が身は大楯、心は鎧。
守護り身として、命捧ぐ覚悟あらんや。
ある、有る、生れ。
我が力を依り代に、此処に在れ!
神話級召喚術─天神の換装!!」
詠唱を開始した瞬間からルーナ師匠が徐々に白く光はじめ、最終詠唱では完全に光に包まれていた。
その光が消えてもなお、白く輝き続けるのはその鎧。
そして左手には大きな盾と、右手には巨大な槍。
先ほどの手ぶらで動きやすそうな格好とは真逆の完全装備。
単に白いからまぶしく見えるというわけでなく、本当に装備自体が光っているのだ。
普段から突破できないと思ってはいるものの、今のルーナ師匠に剣を打ち込んだら間違いなく死ぬ。
それほど思ってしまうまでに神々しく、そして恐ろしかった。
「召喚魔法、使えるんですね。」
やっと出てきた言葉がそれだった。
アタシの周りには規格外しか居ないから、神話級を誰が使えようが今となってはそう驚かない。
だが盾魔法しか使えないと言っていたルーナ師匠が、召喚術を使用したのだ。
噓をついたというか、隠したかったのだろう。
先ほどのセリフからして、ミドリ師匠も知らないはず。
ルーナ師匠の、正真正銘の切り札と言ったところだろう。
「これは2番隊員の一部しか知らないからな。外では誰であっても言わないようにしているんだ。」
「それをアタシに見せてよかったんですか?」
「私にとっても一番弟子だもの。私の全てを教えずに、他の誰に教えろと言うの?」
とても優しく綺麗な微笑みで。
輝かしく美しい恰好で言う、新たな師匠。
飛ばされる方の専門だと思っていた神話級。
それをアタシが習えるのか。
思わず開いた左手に右の拳をぶつけていた。
顔もにやけている自覚はある。
夏休みは残り10日。
期間は短いけど、秘密を見せてくれたルーナ師匠の期待を裏切りたくない。
それがどれだけ難しかろうとも。
そしてミドリ師匠にも言ってはいけないとしても。
「やってやろうじゃないの!!」
炎使いだけに、燃えるわ。
なんて1人で考えながら、構えをとった。
拙い作品ですが、最後までお付き合い頂けたら嬉しいです。
今後ともよろしくお願い致します!




