七十八の舞「雷になる」
-----通常視点
時は遡ること約3週間。
アカネたちと国境の町で別れ、サクと共にウエストブルム騎士育成校の門を叩いた。
2人とも個人戦代表選手というだけあり、終始歓迎ムードで迎えられた。
ただ1人を除いて。
「己の未熟さ故、神聖なる試合に泥を塗ってしまいすまなかった。
この期間中、どんな仕打ちも受ける覚悟だ。」
言いながら深々と頭を下げるプレオ・ジノマ。
俺の『加速』にピタリと着いてこれる速度の『音速歩調』の使い手。
個人戦2回戦で対戦したものの対戦中にチャンドラの幻術を受け、危険攻撃による決着だった相手だ。
確かに顔を斬られたりはあったが悪いのはチャンドラたちであり、プレオさんではない。
事件も解決したし、こちらは全く気にしていない。
しかしながら、プレオさんは折れることはなかった。
「いや、騎士を目指しているというのに何もなしというのは自分が許せないんだ。けじめとしてな。」
騎士ってのはそんなに詳しいわけではないのだが、堅苦しい生き物だな。
だがまあ強敵であることは間違いない。
相手も良いと言っているのだから、ちょうどいい機会だ。
「それでは、街を案内してください。それと新技の開発の相手をお願いします。」
そんなことでいいのかと言いたそうな顔をしたプレオさんだったが、何もしないよりはいいと判断したのか、首を縦に振ってくれた。
サクも居るので慣れない地でも生活できる自信はあるが、この国のことを知っておいて損はない。
学校への挨拶が終了したのち、首都を案内してくれることとなった。
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「生活必需品に関しては以上だな。何か質問はあるか?」
顔見せが終了しプレオさん、サクと共に首都を歩きながらある程度の説明を受けた。
大きな首都でかなりの距離を歩いたからか、すでに日は落ち始めている。
最後に良い宿を教えてもらい、送ってもらった。
「学校内は許可のない私闘は禁止されているから気を付けるようにな。
普段の稽古以外で立ち合いをする場合は皆、首都の外に出ていることが多いぞ。」
宿の前で説明を受け、プレオさんと別れた。
新技の開発も私闘に含まれるのだろうか。含まれるだろうな。
となると毎日首都から出なければならないのは意外と面倒だ。
かといってアビスリンド代表で来ているから、ルールを破るわけにもいかない。
郷にいては郷に従え、というやつだな。
2人用の部屋を2週間分取り部屋に入ると、サクがようやく口を開いた。
「それでは第1回、拾式イメージ大会といきましょうー!」
両手を上に挙げて楽しそうだ。
今は自分しか居ないからと、普段のアカネを代わりとして頑張ろうとしているのかもしれない。
そんなサクの気遣いがありがたいね。
俺がベッドに腰かけるのを待ち、サクも座る。
イメージ、ねえ。
腕に負担が大きい技が多いから、腕に負担がかかりにくいようなのが良いんだが。
如何せん使える魔法が『速度強化』とオートで発動される『武器強化』のみ。
それを踏まえた上で、弐式・陸式にも改良を加えたい。
そしてサク自身も新技を開発したいらしく、こちらも色々考えてみることにした。
なかなかに大変な話し合いになりそうだ。
案の定、サクが寝落ちするまでひたすら討論は続いた。
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2週間が経過し、サクの新技がようやく形になってきた頃、1通の手紙が届いた。
差出人はアリスだ。
例の如く愛を綴った文章を流し見て、最後の1枚でようやく本題。
3日後に珍しく家族全員が揃うとのことで、一緒にご飯でもどうかとのお誘いだった。
断る理由もなし、行くとしよう。
サクも誘ったのだが、新技の完成を優先させたいとのことで断られてしまった。
こういうときは毎日感覚を残すために、1日でも休まない方がいいだろう。
仕方ないので1人で行くか。
といってもブライデン王国には今はイオもいるはずだ。
アリスやトニーがいい刺激になっているだろうし、もっともっと強くなっていることだろう。
俺も負けていられねえ。
3日後、サクに見送られてブライデン王国へと出発。
馬車は使わずに鍛錬がてら走っていく。
もちろん『速度強化』を発動して全力で。
目標は30分てとこだな。
山を突っ切っていけば早そうだが、変にモンスターに出くわしても面倒だ。
ということで公道を突っ走っている。
流れてゆく景色は山の奥へと続く森ばかり。
いくつか馬車とすれ違いながら走り続けること30分。
無事にブライデン王国へと到着した。
そのままのスピードで王宮まで行きたかったところだが、検問は避けて通れない。
長い行列の最後尾に並びながら息を整えつつ汗をぬぐう。
夏服とはいえ、真夏に30分全力で走り続けた代償は大きいな。
せっかくサクが選んでくれた服が汗まみれになってしまった。
後先考えればよかった。
そんなことを考えながら検問を終え、ブライデン王国へと足を踏み入れた。
ここは本当に同じ大陸なのかと思うような光景が広がっていた。
人が箒にまたがり空を飛んでいる。
むしろ歩いているのは外から入ってきた人だけなのではないだろうか。
目に入るもの全てに魔法が関わっており、おとぎ話の中に居るみたいだ。
とりあえず入ってすぐに分かるほどに大きい王宮を目指して走るとしよう。
飛びたいとは思わないが、ここではアナログな移動方法だ。
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あっという間に王宮の目の前に来たのはいいが、既に15分は待たされている。
走ってきた時の汗でぬれた服は乾いたが、この暑さでじっと待っているだけというのも汗が出る。
これも修行の一環と前向きに考えていなければ無理やりにでも中に入ってしまいそうだ。
この後のことを予想してウエストブルム公国を出てから常時身体を雷がまとっているのだが、それすらもうっとおしくなってきた。
仕方ないので解除しようとした瞬間、真正面からの大きな猛獣の突進。
10秒遅かったら解除してたぞ、この野郎。
「剣の舞 陸式改」
つぶやきながら木刀を握る。
走りながら『パワーチャージ』を終えたトニーが、5メートルほど前で両腕を前に突き出した。
「『巨猿の双拳』!!」
「閃光─雷鷹!」
トニーの新技を躱し、顔の目の前に木刀を突きつけた。
以前の陸式よりも速度に比重を置くことにより重さが上がり、以前と同じ程度のダメージを与えられる技になっている。
ウッディですら反応できない速度というのは実証済みだ。
トニーが反応できるわけもない。
「はっや・・・!」
後ろから着いてきていたアリスが思わず声をもらした。
イオもアリスの横で目を見開いている。
木刀をしまうと、トニーが腕をガシッと組んできた。
「相変わらずどんどん進化するで。ようこそブライデン王宮だべ!」
「別にトニーの家ではないけどね、歓迎するわユウリくん。」
「ユウリさんも、お元気そうで何よりです。」
3人とあいさつを交わしたものの、汗だくなのは俺だけじゃないことに気付く。
トニーはともかく、アリスもジャージ姿のイオも汗だくだ。
3人でトレーニングでもしていたのだろう。
もう少しゆっくりくればよかったかな。
「とりあえず家に案内するわ。
全員こんなに汗だくじゃ、お父様に驚かれるでしょうから。」
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ポーラン家へと到着し、その大きさに驚愕した。
自分の家も大概だと思っていたのだが、学園の校庭くらいはあるのではないだろうか。
もはや城だろ、これ。
アリスを先頭にトニーもイオも普通に入っていくので後に続くものの、案内がないと迷う自信がある。
それほどに部屋数も多く、そして広い。
魔法が発達しているブライデン王国の宮廷魔術師が、どれほど重宝されているものなのかがうかがえた。
ひとまず先に汗を流そうということで、それぞれが風呂に入ることに。
男女別で大浴場が完備されており、それもまたとんでもなく広くて驚いた。
うちの寮なんて部屋に1つだぞ。
イオがお風呂に入るときは入口を凍らせてくれるので分かりやすいとはいえ、他の男女だったらラッキーなハプニングが何回起きてても不思議じゃないくらいだ。
俺の部屋の場合は、氷を突破した後が怖いからそんなことは起こさないが。
「こんなところに住んだら落ち着かねえわ。すげえなトニー。」
湯船に浸かりながら、タオルを頭に乗せているトニーに話しかけた。
髪ペタンとしてた方が格好いいのにな。
「もう慣れたべ。それより女子風呂はその壁の向こうだで。」
「神話級使い2人相手とかさすがに死ぬわ。」
そんな話をしていると、壁越しにアリスたちの声が聞こえた。
「あら、私は構わないわよ?」
「良くないですよ!?ユウリさん、絶対ダメですからね!」
覗かないっての。
そりゃあ年頃の男の子ですからね、興味がないと言えば嘘になるけどな。
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全員が風呂に入っている間、メイドさんが魔法で服を洗って乾かしてくれたらしい。
この短時間でこんなに綺麗にだ。
魔法って凄い。・・・語彙力の無さよ。
メイドさんに連れられるがまま、これまた大きな部屋へと通された。
漫画で見たことのある、貴族の家にあるような長いテーブル。
そして真っ赤な絨毯。
どちらも初めて実物を見た。
なんというかトニーよりも田舎者丸出しな感じで、とても窮屈な感じだ。
アリスがクスクスと笑うものだから、余計に恥ずかしい。
長テーブルに用意された席に座ると、斜め向かいにマリーナさんが既に座っていた。
久しぶりとあいさつをすると、「その説は本当にありがとうございました」とお辞儀をされた。
身に覚えはないけど、たぶんアリス事件の時のことだろう。
手で大丈夫と合図すると、優しく微笑みを返してくれた。
やっぱり髪の色が違うだけで、アリスそっくりだなあ。
双子だから当たり前だけど。
ほどなくしてミクスさん、その後しばらくしてプラグニスさんが席へと着いた。
一家だんらんの席にイオと俺が居ていいのだろうか、と心配していたのだが。
「ようこそユウリくん!
将来の息子が来てくれると聞いて、大慌てで準備したよ。
口に合うか分からないが、楽しんでいってくれ。」
そう言ってメイドさんに目配せをするプラグニスさん。
それを合図に豪華な料理が次々と運ばれてきた。
長いテーブルにこれでもか、という勢いで並べられる料理に双子が揃って吹き出した。
「ぷっ、あはははは!!お父さん、見栄張りすぎ!!」
「いくらトニーが居ても、こんなに食べきれないわよ。」
ずっと笑いが止まらなかったのよ、と言うアリス。
さっきクスクス笑っていたのは俺の反応を見てではなく、これを知っていたからか。
少し安心した。
とはいえ、アカネが居ても食べきれるか怪しいぞこの量。
「だって未来の息子が初めて来てくれたんだぞ?
イイ恰好見せたくもなるだろう!?」
貴族は堅苦しいイメージがあったがそんなことは一切なく賑やかで、笑いの絶えない食事だった。
どの料理も取り分けられるようになっていて好みの量を食べることができ、どれもとても美味しかった。
残った料理はメイドさんたちで召し上がるらしい。
無駄にならなくて何よりだ。
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さすがに今日は泊まっていくといい、とプラグニスさんに言われてそうすることに。
どうせ来たならトニーやアリスと鍛錬したいし、ありがたく甘えさせてもらった。
イオもまたジャージに着替えてやる気満々だ。
この様子だと毎日実践訓練できていそうで、闘いに慣れたイオは本当に敵に回したくないものだ。
流れで始まった、2対2のバトル。
相変わらずアリスとトニーのコンビネーションは素晴らしい。
男女ペアバトルで間違いなく上位に入る実力だろう。
かくいうこちらも負けていない。
イオが魔法を無詠唱で連発し、トニーを足止めしつつ上空からアリスを狙うなど、間違いなくレベルアップしている。
こういう時は、魔法使いから狙う方が良いだろう。
イオに合図してトニーを足止めしてもらい、陸式改をアリスに叩き込みダウン。
そのままトニーに対してイオが牽制を入れた隙をついて壱式でノックアウト。
アビスリンドの勝利となった。
イオとハイタッチをしていると、プラグニスさんが拍手をしながら声をかけてきた。
「イオくんはこの10日間で凄い成長したね。でも、まだまだ伸びる余地がある。
もっと魔法のイメージを大きくしてあげなさい。
そうすることで君の魔法は、今よりもっと輝くよ。
そしてユウリくん。君の速度強化は素晴らしい。
だが雷を纏うイメージよりも、雷になるというイメージをした方がいいかな。
負担は増える可能性はあるが、その方が今の3倍は速く動けると思うよ。」
「3倍!?」
思わず素っ頓狂な声を出してしまった。
俺が今まで積み上げてきたものを、たった1回の戦闘を見ただけで崩された気分だ。
それでもショックは受けていない。
むしろまだまだ腕を磨けるという喜びの方が大きい。
アリスたちに回復魔法をかけるプラグニスさんを見ながらも、口元は姉さんそっくりの笑顔になっていた。
「本当にここに来て良かった。」
「私もです。そろそろ新しい神話級も完成しますので、楽しみにしててくださいね。」
「え、なにそれこわい。」
その後はペアを入れ替えて何度か闘い、夜が更けてきたところでお開きとなった。
イオだけでなく、アリスとトニーもどんどん強くなっている。
次の団体戦が本当に楽しみで仕方ない。
その前にプラグニスさんに言われた言葉。
雷になる、か。
ウエストブルムに戻ったら試行錯誤してみよう。
翌朝の早朝鍛錬も終了し、昼前からアリスにブライデン王国を引っ張りまわされ。
結局ウエストブルムに戻ったのは夜だった。
サクと合流して、また2週間分の宿を取り部屋に入る。
残りの2週間でどれだけ進化できるか。
可能性を導いてくれたプラグニスさんに感謝だな。
拙い作品ですが最後までお付き合い頂けたら嬉しいです。
今後ともよろしくお願いいたします!




