七十七ノ舞「僕は僕なりのやり方で」
-----アカネ視点
アビステインから馬車で2日かけて西へ。
到着するのはウエストブルム公国領の小さな町。
町の大きさに似合わない大きめの宿が1つと、生活品や食品を買うための商店がいくつかあるだけで、どこにでもある田舎町に見える。
しかしその実はブライデン王国、ウエストブルム公国、ウエストテイン王国。
この3か国を結ぶ交易路だ。
町の四方を山が囲み、山の合間を縫うようにして東西南北に道が分岐している。
その町をさらに西方に進むとウエストブルム公国の中央都市。
南方に進むとマジックギルドのあるブライデン王国。
ユウくん、サクラ先輩、イオちゃんとは、ここまで一緒だった。
わたし、そしてアスカ先輩はこの街から北へ。
ウエストテイン王国の首都に入り、ウエストテイン学園へと到着した。
「この度は学園交流を快諾いただき、ありがとうございます。」
「とんでもない。2学年主席と個人戦準優勝選手のお2人だなんて、断る理由がありませんよ。」
到着するなりアスカ先輩と偉そうな人がペコペコしている。
あんまり個人戦のことは言わないでほしいのだけど。
それよりもさっきから何も食べてないからお腹が鳴り続けてる。
それに気付いたのか、偉そうな人がにっこりと笑いながら案内してくれた。
「長旅でお疲れでしょう。食事の席をご用意しておりますので、是非。」
なんて良い人なんだろう、この人は。
何も言わずに笑顔でお辞儀をして、後に続く。
本当なら嬉しさにお礼を言いたいところなのだけど、ミドリさんにきつく言われているのだ。
「お前は到着してから3日はアスカ以外と喋るな。バカがばれる。
アスカ、こいつがもし破ったら報告しろ。
選抜メンバーから外して団体戦の期間中、永遠と補習させる。」
シャルルの居ない補習なんて、ご飯を食べるなと言われているようなものだもんね。
そんなの耐えられない。
それに、皆と一緒に闘えないのはもっと辛い。
わたしが皆を守るんだから。
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ウエストテイン学園に到着してから1週間が経った日の学園内。
中庭で女子生徒に囲まれている。
「アカネちゃん、ドーナツ食べる?」
「ビスケットもあるよ!」
「チョコレート、どうぞ。」
「わー、みんなありがとう!!」
初日の会食のあと、ご飯を買い食いしているのを女子生徒に見つかったのがきっかけだった。
緊張して食べ損ねたと勘違いされ、良かったら食べてと蒸しパンをもらう。
喋るのを禁止されていたとはいえ、とても嬉しかったから満面の笑みでそれを食べた。
その顔があまりにも幸せそうだったようで、一部の女子生徒に可愛いと評判になってしまったのだ。
なんもしてないのに色々くれるから申し訳ないとは思うけど、美味しいものに罪はない。
ありがたくいただきます。
といった具合で、次の日から毎日のように色々なお菓子をもらっているのだ。
「アカネくん。幸せそうなのは良いが、食べてばっかりで鍛錬できているのか?」
アスカ先輩の一言で、電流が走った。
この1週間、わたし食べてるだけだ・・・
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ウエストテイン学園を選んだ理由。
ミドリさんに言われたからというのもあるけど、実はもう1つある。
ここは攻撃型の剣士が多いのだ。
付与術で攻めるのがわたしのスタイルだけど、それではアリスの白夜結界のような殻を破れない。
色々な型に触れることで、戦闘の幅を広げようと思ったからだ。
今のままでは『緋走緋々葬』に頼らないとユウくんに勝てなかった。
ただの一刀に自身の全てを乗せなければならない技。
そんな技を頻繁に使っていたら、そのうち剣を握れなくなってしまう。
剣を握れない辛さは、嫌というほど分かっている。
目の前で、一番近くで見てきた。
あの時は自分が変わってあげられたらと思っていたけど。
たぶんそうなったら今度はユウくんに、あの時のわたしと同じ気持ちを味わわせてしまうから。
だから『緋走緋々葬』を使う時は、自分の剣士としての道を貫き通す時だけにしよう。
そう決めたんだ。
だからこそ、剣術の幅を広げないといけない。
1週間も無駄にしてしまったけど、これ以上は1秒たりとも無駄にしない。
アスカ先輩には感謝しなくちゃ。
そこからは毎日数試合の手合わせをひたすら繰り返した。
到着から3週間が経過し、8月も中盤に差し掛かろうとしている頃。
片っ端から勝負を受けているうちに、連勝記録は50を超えている。
個人戦準決勝という肩書きは嫌いだったけど、是非手合わせをという生徒が本当に多かった。
大会前だから選抜メンバーとの対戦は適わなかったけど。
それでも流石は名門校。
選抜メンバーではないにしても、中には『救の秘剣』を捌く人もいた。
わたしも、もっともっと強くならなきゃ。
-----アスカ視点
父様の名に恥じない成績を。
いつからそんな風に思うようになっていたのだろう。
昔は剣が大好きで、笑いながら教わり、剣を振っていたように思う。
しかし歳を重ねるごとに、偉大な父様という重圧を感じるようになってしまった。
あんなにも楽しかった剣が、今では使命のように感じる。
僕の顔から笑顔が消えた。
それはおそらく、そのあたりの気持ちが関係しているのだろう。
周りの期待が大きいことも理解している。
学園の皆とは立場が違うことも承知の上だ。
それでも今は、目の前で楽しそうに闘うアカネくん。
そしてその仲間たちが、羨ましくて仕方がない。
僕も彼らみたいに。
仲間たちと共に楽しく学園生活を送りたい。
と思っていたのだが。
「えっ、アスカ先輩はとっくに仲間だと思ってました。」
そう思ってるのわたしだけだったのかな、と落ち込むアカネくん。
事の始まりは宿に戻ってきたときのこと。
汗だくになりながらも満面の笑みで帰ってきたアカネくんに、楽しそうに闘う君が羨ましいと声をかけた。
楽しくないのかと問われ、思わず悩みを打ち明けてしまったのだ。
「君たちと違って僕は1人だから、君たちが羨ましい。」
ふと出てしまった一言。
それに対するアカネくんの返事だ。
こんな悩み、今まで誰にも話したことなかった。
意外とすっきりするものだな。
アカネくんはなんというか、天真爛漫と言うのが良いだろうか。
とにかく話しやすい。
なので相談してみたのだが。
「わたしはバカだからアスカ先輩の気持ちは分かってあげられないけど、サクラ先輩と闘ってる時のアスカ先輩は充分楽しそうでしたよ。
互いに実力を認めてるライバルー!って感じでしたし、わたしも闘ってみたいですもん。」
サクラにも、シャルロットくんにも勝てなかった僕が、個人戦準優勝をしたアカネくんに手も足も出るわけがない。
頭ではそう思いつつも、そんなことを面と向かって言われたのは久しぶりでどこか嬉しかった。
洞察力が高いが故に、2度と闘いたくないと言われることの方がめっぽう多い。
それを知ってか知らぬかは分からないが。
目の前の少女は、えへへーと緩い笑みをしながら闘いたいと言う。
本当に不思議な子だな。
思わず、フッと笑ってしまった。
「わ、先輩が笑ったところ初めて見たかも!」
「良いから早く汗を流して来い。夕飯に間に合わなくなるぞ。」
「うわー!!いってきます!!」
言うなり全力で走っていってしまった。
闘っている時より速くなかったか、今の。
速きこと風の如くだな。
「ふむ。」
僕に足りてないのはああいった純粋さかもしれないな。
明日からは僕も新技の開発に時間をかけるとしよう。
決められたレールではなく、僕自身の足で前へ進もう。
剣を初めて振ったときの楽しさを思い出すんだ。
おそらくそれが、今の僕に足りていないもの。
そして、これからの僕を作るものだ。
ただの脇役で終わるつもりなんて毛頭ない。
僕は僕なりのやり方で、父様を超えてみせる。
新年最初の投稿です。
本年もよろしくお願いいたします。
拙い作品ですが、最後までお付き合い頂けたら嬉しいです。
今後ともよろしくお願いいたします!




