七ノ舞「日々の積み重ね」
新人戦まで残り10日を切り、選抜メンバーは自然と集まるようになった。
まだあまり元気はないが、ショーヤも顔を出している。
それぞれの戦闘を最低1回以上は見たが、残り10日で伸びしろがあるのは型が骨格に合っていないシャルロットと、手数は多いが決め手に欠けるショーヤくらいだ。
俺はアマハラ流ではあるが基本剣の舞ありきなので、しっかりとジジイの教えを守っているアカネにシャルロットの指南役を頼み、俺はショーヤとイオの稽古を見学させてもらっていた。
「ハァッ!」
ショーヤが幻影剣を自由自在に操り多い手数でイオに仕掛ける。
それをイオは華麗なステップで躱したり、杖で止めたりとこちらも防御手段は豊富だ。
最初にそれを見た時に杖が壊れたりしないのか、と聞いてみると、アビステイン家に伝わる伝説の武具の1つで剣とも打ち合える素材を使用しているらしい。
ショーヤ曰く
「5歳になる頃、先代の王に溺愛されていたイオが輝いた目で見ていたら、その年の誕生日プレゼントとして戴いたんだ。」
だそうで。ちなみにショーヤの双剣もその時に戴いたらしい。
闘神と言われていた先代も、孫の前ではデレデレのおじいちゃんだったってことかね。
クソガキ呼ばわりしてきていたウチのジジイにも、心から見習わせたい。
ところどころでショーヤに隙ができ、魔法を打ち込めるのではないかといった場面もあったが、イオはそうしなかった。
おそらくショーヤに『魔法干渉』をさせないようにするためのイオなりの配慮だろうが、それではショーヤのためにならない。
魔法を使われて、その後の対処を考えることも今のショーヤに必要なことだ。
初日の終わりに部屋に戻ったあとイオにそう伝えると、次の日からは地属性の下級魔法で反撃をしかけた。
ショーヤも『魔力干渉』は使わず、最初はまともに被弾していたものの、3日目には徐々に回避したり双剣で弾いたりといった防御手段を身に着けていった。
2人の成長速度は目を見張るものがある。
今までこういった誰かに教わるというのはあまりなかったようで、あってもごく稀に王国騎士団長がアドバイスをくれるだけだったそうだ。
ユウリの教えをしっかりと聞き、自分たちで考えそれを実行する。
頭のいい2人には、このやり方はとてもあっていた。
あとはショーヤに決め手となる技を身に付けさせるくらいだ。
一方その頃アカネたち。
「その構えだとちょっと窮屈じゃないかな?」
アカネは師匠の構えよりも半歩分足を開き、刀の位置を下げている。
その方が構えに余裕ができ、咄嗟の動きに対応できるからだ。
しかしシャルロットはその構えで10年独学でやってきたため、矯正するのはなかなかに苦労した。
最初はシャルロットも文句を言っていたものの、アカネの献身的な性格と言っていることの的確さに折れたようで、今では自分からアドバイスを求めるようになっていた。
「シャルル、この後はまたアレやるよ。」
「そろそろ形が出来てきたのよね。今日こそは!」
それぞれに分かれて5日目の特訓が終了した。
明日は新人戦の組み合わせが発表される日なので、身体を休める日に設定した。
力をつけるために色々やることも大事だが、身体を休めることもまた大事なのだ。
部屋に戻ろうとしていたところ、ショーヤに呼び止められた。
「ユーリ、これから時間をもらえないだろうか。」
断る理由もないので、イオに一言声をかけてその場に残った。
「もしユーリが双剣使いなら、どんな技を作るだろうか。」
技を作る、か。確かに剣の舞は俺が自分で考え、長い年月と数々のアカネとの鍛錬を経て作り出したものだ。
だがアマハラは一刀流なため双剣を使ったことはなく、身体強化や剣の強化に魔法を使用できないとなるとなかなかに難しい。
試しにショーヤに双剣を借り、いろいろやってみることにした。
まず剣の持ち方。
普通に持ったり逆さまに持ったり、身体のどの位置に構えておくのがやりやすいかを探る。
個人的には刀とは逆の重心、左脚が前の方がやりやすかった。
そこから考えうる剣捌きを色々と試してみる。
ところどころでショーヤが「なるほど」と呟いていた。
『神威』と合わせて剣道の抜き胴のような戦闘スタイルをとるのが自分には合っていそうだが、今回はショーヤの技を考えなくてはならない。
なので『神威』ありきの考えをまず捨てよう。
幻影剣の真似をしようとして2回に1回は剣を落としてしまった。
動きながら持ち替えるのはなかなかに難しい。
それこそ本当に何度も繰り返し練習したのだろう。ショーヤの努力がうかがえる。
剣の舞はできるだろうか。
試しに速度強化なしで壱式から順番にやってみよう。
まず壱式。
刀の居合斬りなので構えが合わない。
いつものように右足で踏み込み、右手で振りぬく。
ダメだ、左手が鞘の部分で置き去りになる。
ショーヤを見ると、熱心にメモをとっている。
ここで1つ気づいた。
普段から刀を両手で振っているショーヤを思い出す。
その両腕は左右上下、同じ動きを滅多にしない。
イオの試合の時も思ったのだが、片手で振るよりも両手で振る方が強いのだ。
ならば両手で同じ動きをしてみるのはどうだろうか。
イオの試合の牛若丸を思い出す。
着地時点で片足を軸にして野球のスイングのごとく両手を振りぬいた。
双剣でやるとなると・・・
剣を自分の身体の左斜め後ろまで体を捻って持っていき、右足の踏み込みと同時に2本の剣を地面と水平に二の字を描くように振りぬくッ!
お、これ結構いいんじゃないか?
次は弐式。
両手で左肩の前から振り下ろし、Ⅴの字を描くように切り上げ。
これを両手で同じ動きを・・・いや待て。
何も全て自分と同じに動くことはない。
弐式に関しては両手で同じ動きをするも、角度を変えた方がやりやすいんじゃないか?
試しに両腕でⅤの字を描くように下から上に振り上げる。
悪くないが隙が大きいな。
じゃあ今度は上から下に向けてⅤの字を描く。
敵の防御を下に落とすにはいいが、これも隙があるな。
弐式はこんなもんだろう。
参式はダメだ。
これは俺のスピードをもってしないとできない技で、何より疲れて倒れる。論外だ。
そんなものはシカトして肆式。
壱式に繋がる技を、ということで編み出した技だ。
先ほどの壱式と同じ要領で二の字を描くように横薙ぎ、その回転を利用して跳躍、今度は縦に二の字を描くように振り下ろす。
跳躍中に隙はできるが、着地後もこちらの攻撃につなげられる。
これも壱式と同じくらいには良いかもしれない。
そして伍式。
敵の刀を地に落とさせるための強力な振り下ろしだが・・・双剣だとどうするか。
そもそも双剣は手数が多く、ガードを崩す手段はいくらでもありそうだ。
ノの字を2つように振り下ろしてみるが、これではさっきの肆式の方が威力は高そうだ。
イメージしながら動かしてみよう。
敵の剣を地に落とすように両手で相手の剣を叩き、そこから右手だけ敵に打ち込む。
軌道で言えばルの字か。
だが俺の反射速度でならできるが、ショーヤにできるかどうか。
これは一旦保留だな。
続いて陸式に入ろうとしたところでショーヤが声をあげた。
「やっぱりユーリは凄いな。僕には考え付かない動きばかりだ。」
「自分の技をアレンジしただけだから、そんなに凄い事はしてないよ。」
「だとしても、自分と違う角度から考えてくれるのは勉強になるんだ。本当にありがとう。」
そう言って頭を下げるショーヤ。前にも言ったが、王族が簡単に頭を下げるもんじゃない。
「そういう時は腕をまっすぐ向けてグータッチすりゃいいんだよ。全世界共通だからな。」
笑顔で腕を出す俺に、ショーヤはフッと笑うと再びお礼を言い、拳をぶつけるのであった。
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翌日、選抜メンバーは学園長室に集合していた。
新人戦の組み合わせが発表されたのである。
学園長である姉さんが最初に確認して、舌打ちをした。
どうやらあまりよろしくない組み合わせらしい。
「お前らの初戦の相手だが・・・」
アカネが緊張のあまりゴクリと言わんばかりに飲み込んだ。
「前回優勝の名門、ノースリンドブルムだ。」
ショーヤとイオが驚いた顔をした。
ノースリンドブルム。
アビステイン王国のはるか北に位置するノースブルム帝国にある学園で、設立200年以上を誇る伝統校だ。
圧倒的な軍事力を誇り、他国との戦争になればほぼ間違いなくノースブルムが勝者となるだろう。
しかしその圧倒的な力があることが分かっているからこそ、周りの国も戦争を起こそうとはしない。
この大陸が戦争がなく平和なのは、ノースブルムが睨みを利かせているからでもあるのだ。
毎年どこから見つけてくるのか、2人以上は必ず『ユニークスキル』持ちを推薦で入学させるらしい。
ノースリンドブルムの毎年の成績は、彼らのおかげでもあるのだ。
そんな伝統校と、いきなり初戦で相対することになってしまった。
「どこが相手でもいずれ倒すだけなのだから、順番はさして気にしていないわ。」
こういう時のシャルロットとはよく意見が合う。
言う通り、どうせ超える壁だ。早いか遅いかの差でしかない。
「お前らの威勢は買うが、仮にリンドブルムに勝ったとしよう。」
そう言うと組み合わせ表を自分の後ろの壁に映し出した。
「続く準決勝はほぼ間違いなく、マジックギルド。決勝はウエスト2校の勝者と当たるだろうな。」
マジックギルドも大陸南部に位置する魔法師育成の名門校で、前回準優勝。
こちらも設立100年以上の伝統校だ。
今の上位冒険者の魔法師の8割はここの卒業生と言っても過言ではない。
こと魔法に関しては他の追随を許さない程の実力を誇る。
ウエストというのは、大陸の西側に位置するウエストテイン王国にあるウエストテイン学園と、ウエストブルム公国のウエストブルム騎士育成学校の2つをさす。
どちらも前回ベスト4の実力を誇り、隣り合わせのライバル関係といったところだ。
「つまり名門校3連戦だ。9年前を思い出すな。」
9年前。姉さんが新人戦に出場した年だ。
この年、弱小校であったイーストテイン学園は、初戦でウエストブルム、準決勝でウエストテイン、決勝でノースリンドブルムを破り初優勝の快挙を成し遂げた。
その全試合で大将として出場した『神速の剣姫』は3つの伝統校の大将たちから、ただの一太刀も浴びずに完全優勝している。
2年後には個人戦3年連続の3連覇、バトルロイヤルも初出場初優勝し、新人戦と合わせて3冠を達成。
過去から今に至るまで、3冠以上を達成したのは『神速の剣姫』だけである。
「あの時のイーストテインよりも、今回の方が戦力バランスはいいと思うけどな。」
「そうだな。あの時は絶対に私につなげ!って全試合2勝2敗できっちり回してくれたからな。今回はあの時と違って大将を任せられるメンバーしか居ない。正直大将戦まで決着が縺れるとは思ってない。」
そりゃずいぶんな信頼だこと。
アカネとイオがブンブン首を振ってますけどね。
いや2人とも強いし、イオに関しては牛若丸が憑いてるからな。
是非とも1回手合わせしてみたいものだ。
「とまあそんな感じでまずは初戦な。5試合全部やらなくちゃいけないのが面倒だが、まあお前らならノースリンドブルム相手でも3-2か4-1で勝てるだろうさ。」
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寮に戻る帰り道、ふとシャルロットが口を開いた。
「アタシ、ちゃんと強くなれてるのかな?」
アカネは顎に手を当て少し唸った。確かにたかだか数日の特訓でRPGのようにポンポンレベルがあがるわけではない。
そもそもシャルロットは元々強いのだ。
そこはゲームと同じで、レベルが上がるにつれて次のレベルアップまでは遠くなる。
日々の積み重ねが大事だと、常日頃からジジイによく言われてたのを思い出した。
「僕も試したいことがいくつかあるから、明日実戦形式で闘ってみようか?」
突然ショーヤがそんなことを言い出した。
「ホント?」
シャルロットの嬉しそうな声に頷くショーヤ。
まだ挑むのは早い気がしなくもないが・・・試したいことか。
昨日の居残りの時に見せた技の中に、ピンと来るものがあったのだろうか。
「じゃあわたしはイオちゃんと!」
「私じゃアカネさんの相手なんて務まりませんよ?!」
「だってだって、見てるだけじゃ手持ち・・・ぶたさん?」
手乗りの豚か?新しいな。
まぁ見てるだけじゃ暇と言いたいのだろう。
「互いに遠距離魔法タイプと、近距離剣士タイプで相性悪いし、攻略のイメージをしやすくなるように練習しておくのもいいんじゃないか?」
「なるほど、そういうことでしたら。」
「やったー!」
ということで明日はショーヤ対シャルロット、イオ対アカネの練習試合をすることになった。
新人戦本戦まで、あと4日。
拙い作品ですが、よろしければ最後まで見てやってください。
よろしくお願い致します。