七十六ノ舞「やるしかあるまい」
-----ショウヤ視点
アビスリンドから週に1本出ている船の定期便。
ノースポート行きのその船に揺られること3日。
そこからさらに馬車で北上して2日。
計5日かけて到着するのは、大陸最北端のノースリンドブルム。
アビスリンドと比べて気温が極端に低く、7月だというのに長袖でも暑いと感じないほどだ。
ノースリンドブルムは国が独自の軍隊を所持しており、軍事力で言えばこの大陸で右に出る国はない。
学園でも授業に軍事訓練や、戦闘指揮などいった独自のカリキュラムも存在する。
また、ユニークスキル持ちを毎年特待生として入学させることでも知られ、毎年のように各大会で優勝争いを繰り広げ、国としても実力を維持し続けている。
ただ今年は新人戦は初戦敗退、個人戦はベスト8が1人と成績は芳しくない。
そんな学園内の空気はとても重い。
次の団体戦こそ落とすわけにはいかないというプレッシャーを外からでも感じることができた。
他の国は夏休みだというのに通常通り授業が行われているのも、空気を重くしている要因の1つかもしれない。
「はあ・・・はあ・・・はあ・・・」
名門ノースリンドブルムの扉をたたいて1週間。
僕は息も絶え絶えに膝に手をついていた。
連日の軍事訓練に身体が悲鳴をあげ始め、ついていくのがやっとな状態だ。
ノースリンドブルムの生徒たちも疲れは見せているものの、比較的涼しげな顔をしている。
というよりは、誰にも負けないというプライドの塊だ。
ついていくのがやっとな僕を、道端の石ころでも見るような目で見る彼ら。
悔しさはもちろんあれど、レベルが足りていないのは僕の方だ。
何も言い返すことはできない。
そんな中でも声をかけてくれる人もいる。
新人戦代表のアンジェリーナさんだ。
シャルロットに敗れはしたもののその後仲良くなったようで、最近はどうしているのか気になっているようだ。
1週間経った今でも、最初から態度を変えずに接してくれている唯一の生徒だ。
氷の女王の異名を取る彼女だが、実はとても温厚な方だった。
生活するのに必要なことも教えてくれたり、学園でも手助けをしてくれたりと、頭があがらない。
授業で分からないことを質問すると笑顔で教えてくれたりと、同じ代表メンバーとして学ぶところが多い。
アビスリンドの代表メンバーでそれができるのはイオくらいだろう。
その日の放課後、アンジェリーナさんに声をかけられた。
慣れない環境に1人で来た僕を気遣ってくれているのが本当にありがたい。
「今日の授業は大丈夫だったかしら。」
「身体は悲鳴を上げているけど、座学は勉強になることばかりだよ。自分を鍛えるのにはもってこいの環境だ。」
「少し肩の力は抜いた方がいいと思うわよ。あなた、ここに来てからずっと怖い顔してるもの。」
そんな顔に見えていたのか。
あまり意識しないようにしていたものの、仲間に置いて行かれているという気持ちが大きい。
それが無意識に出てしまっていたのかもしれない。
アンジェリーナさんの言う通り、肩に力が入っていると思うように身体が動かない。
その状態で普段よりもきついカリキュラムをこなしていれば悲鳴もあげるか。
ここを希望した理由。
どう足掻いても、僕は剣の実力では他のメンバーに追いつくことが出来ないと悟ってしまったこと。
それなら伸ばせるとするならば知略、と考えたからだ。
もちろんそれだけでなく、身体を1から鍛え直せる環境。
そして『二つで一つの銘刀』を扱えるだけの体力の向上。
これを全て満たせそうなのが、ノースリンドブルムだった。
しかしそればかりを考え、周りが見えなくなっていたもの事実。
新人戦決勝で身体を痛めて敗北を喫してから、身体のケアは人一倍しているつもりだったのだが。
ふと自虐気味にフッと笑ってしまった。
「ご忠告痛み入るよ。よければ今度お礼をさせてくれないか。」
「あら、そんなつもりでお節介をやいていたつもりではないのだけど・・・そうね、無碍にするのも申し訳ないしお言葉に甘えようかな。明日にでもどうかしら。」
こんなやりとりをしていると、ザッケンロー・フィンクスが話しかけてきた。
正確にはアンジェリーナさんに、だが。
「おいおい、そんなお坊ちゃまの相手してたら腕が鈍るぞイザベラ。」
その言葉を聞いた周りの生徒がゲラゲラと笑いだす。
分かっていたことではあるが、まったく歓迎されていないな。
こういったことには立場上耐性があるので、なんとも思いはしないが。
しかしアンジェリーナさんはそれをクールに切り返した。
「あなたこそそんな無駄口を叩いている暇があるなら鍛錬の1つでもしたらどう?
アカネ・オオヒラさんに手も足もでなかったらしいじゃない。」
さすがは氷の女王、一瞬で教室の空気が凍り付いた。
個人戦には出ていないようだが、仲間の成績は伝わっているようだ。
たしかにユニークスキルの実力を測るのは難しいが、ザッケンローがユウリやアカネといった実力者には遠く及ばないのは見て分かる。
剣に対してプライドや、絶対の自信が強者にはあるのだ。
ザッケンローにはそれは微塵も感じない。
ユニークスキルに頼って、まともに鍛錬をしていないのだろう。
「彼女もこの夏でまだまだ強くなるだろうね。
仲間の僕らですら、置いて行かれないように必死だよ。」
かくいう僕も、上達するのはこういった皮肉ばかりなのだけどね。
この学園交流で戦闘指揮を身に着けて、皆の役に立つ。
それが将来の自分にも必ず役に立つはずだから。
クスッと笑うアンジェリーナさんと明日の約束を取り付け、宿へと戻ることにした。
ザッケンローの面白くなさそうな顔と、大きな舌打ちが聞こえた。
相変わらずここの生徒は品行方正とは言い難いな。
-----
お目当ての戦闘指揮の授業は週に3回あり、そのどれもが長い時間を使って行われている。
午前中全て使用する日もあれば、午後をまるまる使用する日もあった。
座学がメインではあるが、月に1度実践訓練もあるらしい。
その日が待ち遠しいところだ。
一体どのような訓練をしているのか。
ノースリンドブルムで1番興味がある。
明日は座学ではあるが戦闘指揮の授業がある。
今までは僕が授業に参加させてもらったということもあり、おさらいも兼ねて基本的な部分を復習という形で教えていただいた。
自軍、敵軍の戦力を正確に把握すること。
地形の有利不利、弱点の見つけ方など。
基本的なことではあるが、戦闘を有利に進めるためには大事なことだ。
団体戦選抜メンバーとして、吸収できるものは吸収して帰りたい。
翌日、講師のアレクサンド・ドラコニクス学長が堂々と教室へ入ってきた。
『先手のアレク』自ら戦闘指揮の授業を行っているのだ。
アビスリンドの剣術実技も講師は学長自らだが、他の学院では珍しい光景である。
互いにこれ以上の適任が居ないという意味で似ている部分はあるのかもしれない。
「団体戦においては、戦力が勝っていても敗北を喫することは少なからず有りうる。
我々ノースリンドブルムの選抜が戦力で劣ることなど、そうあることではないがな。
だからこそ各々の1つの判断ミス、油断が勝敗を分けてしまう。
そのこと、努々忘れるな。それでは授業を終了する。」
アレク教授の言葉を最後に、本日の戦闘指揮の授業が終了した。
内容としては戦力で勝っている場合の立ち回り方がメインだった。
新人戦の際の態度にはいささか問題があったが、授業は非常にためになるのだ。
同じシチュエーションで生徒に何パターンものシュミレーションをさせることで、考える力も同時に養うというやり方で、どの意見もとても勉強になる。
こうされたら辛い、だから先にこうしておこう。
だがそうするとこちらから来られた場合対応できなくなる。
といった具合に好きに討論させ、その討論の穴をアレク教授が的確に突くのだ。
生徒自身の考える力を伸ばしたうえで、弱点を指摘することで気づかせる。
言い方は悪いが腐っても元学年主席。
ぐうの音も出ないほど、毎回納得させられてしまう。
それは生徒からの信頼も厚いわけだ。
それでは今日の授業は全て終了したことだし、アンジェリーナさんにお礼をしに行こう。
学園の外で待ち合わせることにし、校舎を後にした。
-----
「私ならここに兵を忍ばせて伏兵として使うわ。」
「それだと防御が手薄にならないかい?」
「それはそうだけど、リスクを負わなければ格上には勝てないわ。」
アンジェリーナさんと食事の席に居るのだが、会話は本日の戦闘指揮の授業の討論だ。
戦力が勝っている側、劣っている側でそれぞれ勝ちの目を拾うには、どうするべきか。
互いに意見を尊重し合い、それぞれが思ったことを言っていく。
色々な考え方や見え方ができ、かなり有意義な時間だ。
「防御に自信のある選手が居るなら、1人補佐を付けて他のメンバーで仕掛けるのはどうかしら。」
「自軍のクリスタルさえ破壊されなければ良いわけだから、戦力に余裕があるのならそれで正解じゃないかな。」
そう、団体戦は自陣の大きなクリスタルの防衛戦だ。
敵陣のクリスタルを破壊する、もしくは敵軍全員の撃破で勝ちとなる。
それぞれ敵の本陣の場所が知らされていない状態でスタートし、探し当てて破壊する。
単純に聞こえるかもしれないが、かなり奥が深い。
去年使用されたステージには、平原、洞窟、浜辺、居住区、街1つ丸々などのフィールドがある。
平原や浜辺であれば見通しは良いものの、居住区でどこかの家の中に敵陣があった場合など、探すのに手間取ることも大いにありうるのだ。
その規模の大きさ故に1日に数試合もこなすことが難しく、どうしても日数をかけての開催となる。
全てのフィールドを魔法で作り出すため、その労力も見越しての判断かもしれないが。
なんにせよ攻撃メンバーと防御メンバーの割り振りは必要だ。
1年選抜メンバーは攻撃力に偏り過ぎている気がしなくもないが。
とにもかくにも、僕自身もスキルアップしなくては。
戦闘指揮はこのまま頭に叩き込むとして、戦闘力の向上も必須。
やることは山積みだが、やるしかあるまい。
仲間の期待を裏切るわけにはいかないからな。
拙い作品ですが、最後までお付き合い頂けたら嬉しいです。
今後ともよろしくお願いいたします!




