七十四ノ舞「待ってなさいよ天才たち」
-----シャルロット視点
個人戦も終わりアビスリンドへ帰還したアタシたちは、6月最後の日曜日も終わって今日から登校。
その日の早朝から、師匠に久しぶりに稽古をつけてもらっている。
徐々に『神速の剣姫』のスピードにも目が慣れてきた気がする。
そろそろまともにガードができるかもしれないと思ったアタシは、覚えたての魔法を試してみることに。
師匠の上段からの振り下ろしを剣で受ける。
その直後には空いた脇に剣が飛んできているのだから、やはり並みの人間のスピードではない。
けど、このコンビネーションは嫌というほどくらっているのだ。
いい加減読めるようになってきた。
「戦乙女!」
左手の平を師匠の剣の軌道に合わせて開く。
真っ白で縦長の盾が展開し、大きな金属音と共に師匠の動きが止まった。
「おまっ・・・これアイギスの技じゃねぇか!」
「個人戦の準決勝の夜、ルーナ隊長がアカネの様子を見に来てくれた時に教わりました。
師匠が居るのに、他の人に教えを受けるのはどうかと思ったんですけど・・・」
罪悪感に恐る恐る師匠の顔を覗く。
アタシだったら良い気はしない。
怒られるのも覚悟の上だ。
しかしそこにあったのは、いつも見慣れた嬉しそうなニヤリとした笑みだった。
「ちょうど指導方法に悩んでいたところだからな。
お前の力の無さではこれ以上の攻撃力の上昇はあまり望めない。
伸ばすなら防御力か、とちょうど最近気付いたんだよ。」
自分でも思ってはいたけど、やっぱりそうなのね。
剣を鞘に納めながら師匠は続けた。
「こと防御力に関してはアイギスの右に出る奴はそう居ない。
夏休み、アイツのところで鍛えてもらいな。」
「はいっ!ありがとうございます!」
深々と頭を下げると、くしゃっと頭を撫でられた。
弟子を取られたとか気にするのかと思ってたけど。
どうやら取り越し苦労だったみたい。
「アタシの剣を受けているお前が盾魔法を完璧に身に着けたら、いよいよ手がつけられなくなるな。」
嬉しそうな声に思わず顔を上げる。
そこには本当に嬉しそうな顔をした師匠が居た。
身体は小さくても、心はこんなにも大きく、そして温かい。
アタシも将来、師匠みたいにカッコよくて優しい素敵な人になれるかな。
なりたいな。
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一度シャワーを浴びに部屋に戻ると、アカネがちょうど起きたところだった。
「ふあ~・・・シャルル、おはよー・・・」
いや、そんな大きな口を開けてあくびしながら言われても。
この子には恥じらいとかないのかしら。心配になるわ。
「後で全校朝礼があるらしいわよ。さっさと準備済ませなさいね。」
どうせ個人戦のことだろうから、アタシはあんまり関係ないのよね。
それでも準優勝という素晴らしい成績を残したアカネは、おそらく壇上で晒し者・・・じゃなかった。
表彰されるでしょうから。
身なりくらいは気を付けてほしいのよ。
シャワーからあがりアカネを確認すると、準備万端といった表情で巨大なおにぎりを食べていた。
アホ毛はデフォルトなの?とか、朝からよくそんなに食べれるわねとか、色々言いたいことはあるけど。
アカネだから仕方ないか。
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登校してすぐに全校朝礼。
相変わらずというか、こういう堅苦しい行事は苦手。
師匠じゃないけど、剣を振っている方が気が楽だ。
案の定個人戦の成績発表が行われ、代表の4人が壇上にあがっていた。
アカネはお腹いっぱいなのか、また大きなあくびをしている。
その隣のユウも眠そうな顔。
それを見て苦笑いするサク先輩。
唯一真面目に聞いているのはイオくらいね。
「さて、個人戦の結果はこの辺にしておこう。
放課後、各選抜メンバーは学院長室へ来るように。以上だ。」
あら、ということはアタシもだ。
この時期に呼び出しなんて何かしら。
放課後学院長室に入ると、既に2年生選抜メンバーが揃っていた。
こういうのって先輩より先に居ないと失礼にあたったりしないかしら。
ユウとアカネがまだ居ないのだけど、大丈夫かな。
まあもしだいじょばなくても師匠が色々言ってくれるだろうから良いか。
しばらくして全員が集まり、最後に師匠が部屋へと入ってきた。
「集まってるな。
次の団体戦は各学園2チーム出れることになってるからな。
この中からベストな組み合わせを見つけたいと思う。」
なるほど、早いうちからメンバーを固定しておくのね。
連携を取りやすくなる利点はある。
それでも続く師匠の言葉は、まったく想像していなかった。
「メンバーは保留したうえで、お前らにはこの夏休みは学園交流か、他国に行ってもらう。
コンビネーションだとか、そんなもんは後でいい。
とにかく個人のスキルアップを課題にしろ。
それが望める場所にそれぞれが向かい、経験を積んで帰ってこい。」
簡単に言っているけど、あれはたぶん本気でそう思ってる顔だ。
今朝言われたことと、今の言い方からしてアタシはクノッサスに行ってこいってことよね。
他の皆はどこに行くんだろう。
「ユウはマジックギルドだろ?」
「・・・いや、希望できるならウエストブルムがいい。」
全員が「えっ?」みたいな顔でユウを見ていた。
もちろん、アタシも含めて。
「いやいや、まともに魔法が使えない俺がマジックギルドに行っても授業でれねえじゃん。」
アリスやトニーと仲がいいから、てっきりマジックギルドに行くものだと思っていた。
ユウはユウなりに思うところがあるみたい。
「では、マジックギルドに行かせてください。」
イオがスッと手をあげた。
意外と自己主張をはっきりとする子なだけあり、こういう時はしっかりと自分の意見を言えるのだ。
羨ましいわね。
「サクラは・・・聞くまでもないか。」
「はいー、主の行くところがわたしの行き先ですよー。」
その後は先輩メンバーが次々と決定していく中で、沈黙しているのが2人。
アカネとショーヤだ。
アカネは「え、なんでみんなそんな簡単に決められるの?」みたいな顔でおろおろしてる。
こういうアカネ、結構可愛いのよね。
普段はクールぶってるくせに、意外と小動物みたいなのよ。
・・・普段から甘えん坊ではあるか。
「アカネはウエストテインかマジックギルドに行け。
どっちも学べるものは大きいと思うぞ。」
そんなアカネを見かねた師匠がアドバイスをしていた。
将来のためにアタシと一緒にクノッサスに、という選択肢もあると思うけど。
たぶん、アタシと一緒にならないようにするための師匠なりの配慮だろうな。
2人とも互いに甘えてしまうかもしれないから。
普段はそれで良くても、今回はスキルアップのために行くのだ。
甘えてなんかいられない。
「アタシはクノッサスに行くわ。」
それを聞いたショーヤが「ふむ」と小さくこぼした。
そして意を決したように手を挙げて息を吸った。
「ノースリンドブルムを希望します。」
全員の驚いた視線が一瞬にしてショーヤに集まった。
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「ユウ、なんでウエストブルムなの?」
解散となり皆で寮へと戻りがてら、気になることを聞いてみた。
全員が希望通りに行き先が決定されたものの、どうにもすっきりしない。
このもやもやはユウとショーヤのせいだ。
原因となった人に直接聞いちゃうのが一番手っ取り早い。
「理由はいくつかあるな。
さっき言った通りマジックギルドだと魔法が使えないとまともに授業を受けれないのが1つ。
それともう1つは、今の学生で俺とまともに打ち合えるのはアカネとシャルルを除けば、たぶん1人だけだと思ったからかな。」
アタシの名前が出てきたことに驚いてしまった。
顔には出していないけれど。
それよりもあんまりこういった自信ありげなことを言わないのに、珍しい。
それだけその人を認めているってことなんだろうけど。
「ああ!槍の人!」
アカネは、もうちょっと頭の良い返しはできないのかしら。
まあこれでこそアカネなんだけど。
新人戦決勝で闘った、ウッディさんか。
確かにあの人、ユウの連撃を初見で全部捌いてたっけ。
しかも扱いづらい槍で。
師匠と居るわけにもいかないなら、同じ速度を持っているウッディの居るウエストブルムってことか。
とりあえず納得。
「それじゃあ、ショーヤは?」
「絶対聞かれると思ってたよ。
団体戦は毎回地形が変化して、そこで5人対5人で闘うからね。
戦略面を強化したいと思ったんだ。」
なるほど。
団体戦は10年くらい連続でノースリンドブルムが優勝しているだけあって、そういった面は他の国よりも優れているのだろう。
なにせ自前の軍隊を持っているくらいなのだから。
頭脳も立派な兵法、か。
それは良いのだけど。
説明する時の、少し寂しそうな顔が目に焼き付いて離れなかった。
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ルーナ隊長に「盾魔法を教わりに行く」と手紙を出したところ、有休を全て消化してでも付き合ってくれると返事が届いた。
何もそこまでしなくてもと思いはしたものの、感謝で頭が上がらない。
師匠にそのことを話したのだけど。
「アイツも今まで弟子とか取ったことねえはずだから、単純に嬉しいんじゃねえか?」
とのこと。
そうか、やっぱり弟子になるのよね。
学校は違えど、9年前の新人戦優勝メンバー。
互いに切磋琢磨して、毎年のように闘ったライバルでもある。
そんな2人から教えてもらえるなんて、恵まれている。
正直、盾魔法を教わるのが楽しみで仕方ない。
こんな大きなチャンス、絶対にふいにしたりはしないわ。
必ず追いつくから待ってなさいよ、天才たち。
待ち遠しさに押しつぶされそうな期間が終わり、遂に夏休みへと突入。
アカネの3回もの追試に付き合っていたから、意外とあっという間だった気もするけど。
それぞれが強くなって、またここで。
誰に言うでもなく、心の中で独り言をつぶやきながら馬車へと乗り込んだ。
めちゃくちゃ酔ったのに回復薬が居ないから、クノッサスにたどり着くのに1日かかったことはご愛敬ということにしておいてね。
拙い作品ですが、最後までお付き合い頂けたら嬉しいです。
今後ともよろしくお願いいたします!
星1つだけど、久しぶりの評価を頂けて感謝感激です!
どんな評価でも、少しでも読んでいただけたんだなってとっても嬉しい気持ちになります。
これからも楽しく書き続けていきます。
今年中に3万PV目標だー




