七十二ノ舞「追いかけてる」
-----アカネ視点
わたしはおじいちゃん子だった。
おじいちゃんもまた、初孫のわたしをとてもかわいがってくれていた。
危ないからと近づくことは許されなかったけど、陰から見ていた刀を打っている姿が大好きだった。
3歳のわたしの誕生日。
何が欲しいかを聞かれて、迷わず刀と答えた。
おじいちゃんが一生懸命打った刀を使いたかったから。
3歳児でも使えるくらいの重さで作ってくれた、初めての刀。
今思えば、刃もまともについていなかったおもちゃみたいなものだったけど。
当時のわたしはそれでも本当に喜んでいた。
それを渡された時に言われた言葉。
「儂が作った刀を使いたいなら、ナギのところで鍛えてもらいなさい。
5年もすれば、アカネなら使えるようになっているよ。」
その言葉を信じて、今の師匠であるサムライに弟子入りした。
しかしこの2年後おじいちゃんは病気で刀を打てる身体ではなくなり、その翌年に死んでしまった。
最後にわたしに向けた言葉と、お父さんとのやりとりは今でもはっきりと覚えている。
「アカネ、すまぬ。お前の剣を作ってあげれなんだ。」
「心配するな親父。その役目は俺が引き受ける。だから安心してくれ。」
「そうか・・・頼んだぞ。」
それがサムライの愛刀をうった、わたしの自慢のおじいちゃんの最後の言葉。
あの時の安心したような顔は今でも鮮明に覚えてるよ。
当時6歳だったわたしにとってこの件は、大きなショックを受けるには充分だった。
師匠に弟子入りしてユウくんと出会っていなければ、ふさぎ込んでいたかもしれない。
ユウくんは覚えていないかもしれないけど。
あの時、ずっと近くで声をかけ続けてくれたんだよ。
それでわたしがどれだけ救われたか。
ミドリさんと初めて会ったのも、わたしを元気づけようと頼んでくれたからだったよね。
そのミドリさんの第一声は、「お前に剣は向いてない」だったけど。
それを聞いたユウくんが凄い怒ってくれて嬉しかったんだ。
こんな元気もないわたしのために、ここまで本気で怒ってくれる人がいるなんてありがたいことだなって。
ユウくんが言ってくれたおかげで、ミドリさんが付与術を教えてくれたんだよね。
たぶん、その時からだよ。
ユウくんのことをこんなにも好きになったの。
その時からずっと姿を追いかけてる。
背中を追いかけてる。
2人で師匠の道場に入れてから始めた立ち合い。
通算0勝280敗。
ここまで勝てないと、昔ミドリさんに言われた言葉が頭をよぎる。
それでも、個人戦の準決勝という大舞台まで来れた。
才能がなくても、できるまでやればできるんだ。
つまり、勝てるまでやればいつかは勝てる。
それくらいの気でいればいいんだ。
個人戦の勝ち負けよりも、本気の立ち合いが楽しみで楽しみで仕方ない。
こんなに大勢に見られながらの本気の闘いなんて初めてだけど。
緊張なんてしてる場合じゃない。
ずっと追いかけていた背中、今日こそは追い越すからね。
-----通常視点
「速度強化!」
「全身付与─速度上昇。
全身付与─防御力上昇。
強化付与─筋力上昇。
装備付与─世界随一の銘刀。」
立ち合いで『世界随一の銘刀』を使われるのは、これで2回目だな。
それだけアカネも本気ということだろう。
初めての立ち合いの時、不完全だったそれを使用されたことがある。
あの時のアカネは付与術を使用すると、そっちに集中してしまっていたからな。
しかし今回はその時のようにはいかないだろう。
その証拠にアカネは剣を大上段に構えた。
いつの間にか、完全に付与術を使いこなせるようになっちまって。
こっちは追いつかれないように必死だっつーの。
大上段ってことは、飛ぶ袈裟斬りだろ。
「『陸式 雷光─千鳥』!!」
「我はなんんんん!!??」
ガキンッ─
「詠唱始める前に突っ込んでくるなんてひどくないかな!?」
「俺は別にヒーローじゃねぇ。敵の変身いちいち待ってられるか!
というかなんだかんだ言いながらきっちり止めてんじゃねぇか!」
一応剣の舞の中でもトップクラスに速い突きなんだけどな。
前回優勝のリーと、準優勝の褐色ロリ先輩から共にダウンを奪った技なはずだが。
開発から関わっているだけでなく、守備力と言えばアカネより上は俺の知る限りではジジイと姉さん、ルーナ隊長しか居ないほど、アカネの守備力には俺も一目置いている。
やっぱり壱式以外は通用しねぇか。
距離を取るように少し離れると、闘技場は笑いと拍手に包まれていた。
そういえばアカネの試合は毎回こんな感じだったな。
笑いものになるつもりはなかったのだが。
というかいきなり『高天原』は切れてやがる。
良くも悪くも、どうにもアカネとだと試合という感覚には程遠いな。
ちなみにこれが昨日姉さんと特訓した、アカネの『世界随一の銘刀』封じ。
技を繰り出す前の型からどの技が来るかを判断し、先に有効な技で攻める。
少しでも遅れた場合は昨日の二の舞。
『神速の剣姫』にボコボコにされたからな。
あれと比較してはいけないだろうが、速度はともかく攻撃力で言えば同じかそれ以上だろう。
つまり、敗北も大いに有り得るということだ。
しかし速度には絶対の自信がある。
アカネがどれだけ身体強化で速度をあげようと、それは譲れない。
問題があるとするなら、未だに見たことのない技が出てくる時。
そして昨日の『緋走緋々葬』。
あれは構えを見たと同時に行かないと、おそらく壇上に沈むのは俺だろう。
つまりそれは、カウンターが豊富なアマハラ流と同じ構えのアカネに突っ込むということだ。
我ながら大博打もいいところだ。
だけどまあ考えても始まらない。
行き当たりばったりなんてのはもう慣れっこだ。
あとはとことん楽しむだけだよな、アカネ。
思わずニヤリと笑った。
それを見たアカネも、楽しそうな笑顔で。
今までの試合。
初戦から前回準優勝者と闘って、そこからはアリス事件があったり、リーと闘ったり。
緊張感の大きい試合ばかりだった。
心から楽しいと思える試合なんてなかった。
それでもこの準決勝のアカネとの試合。
いつまでも続いてほしいと思えるくらいには、楽しんでる自分が居た。
-----シャルロット視点
「速い速い速いー!!!
なんだこの壮絶な打ち合いはー!?
互いの連撃を寸分の狂いなくガードし、受け流したと思えば攻守が切り替わる!
そんな攻防が少なくとも10分は続いています!!」
昨日、アタシだけでもアカネを応援しようと決めた。
それでもなんというか。
2人とも心から楽しんでいるような顔で、こんな凄まじい攻防を見せられている。
どっちにも嫉妬しちゃうなあ。
アカネを楽しませているユウにも。
ユウと互角に闘えているアカネにも。
アタシ相手じゃ、あそこまで楽しそうな顔をしてくれないだろうな。
ユウと試合で闘ったことはないけれど、アカネは悲しませちゃったし。
2人との差はまだまだ大きいのだ。
学生のうちに近づくには、もっともっと努力しないと。
「やあ、試合はどうかな。」
突然隣から声をかけられて驚いてしまった。
目の下にクマができ、明らかに疲弊しているルーナ隊長がいつの間にか居た。
「見ての通り互角です。
それより、取り調べは終わったんですか?」
「うん、ついさっきね。
こんな大がかりなことをした理由も話してくれたし、ようやくひと段落ってところかな。」
そう言いながら身体を伸ばすルーナ隊長。
この人のことは師匠から聞いている。
『神速の剣姫』というライバルが身近に居て、結果を残し続けた人だ。
盾魔法による圧倒的な防御力を備えているだけというわけではないだろう。
防御力が高いからこそ、攻撃力が低くても負けることはないということかな。
そう思い、無意識でルーナ隊長の盾に触ろうと手を伸ばしていた。
たぶん自分に無いものを欲していたのかもしれない。
「おっと、触るのはやめておいたほうがいい。
魔法抵抗が低いと服がはじけ飛ぶよ。」
それを聞いて反射的に手をひっこめた。
そんな盾聞いたことがない、という顔をしていたのだろうか。
ルーナ隊長が続けてくれた。
「おお、良い反射神経だ。
学生時代にミドリのバカが盾に風魔法の細工をしてな。
私は盾魔法以外は一切できないから解除することもままならず、以降ずっとそのままなんだ。」
何してるのよ師匠・・・。
というより、この人はどうやって魔法抵抗を身に着けたのだろうか。
魔法抵抗があれば魔法師に、盾魔法があれば剣士にそれぞれ優位に立てそう。
何より、アタシの力のなさでは攻撃力の増加は見込めない。
より伸ばせるのは防御力かもしれない。
さっきまでの2人に嫉妬していた気持ちなんて、すでに忘れている。
意識して言った言葉ではなかった。
より高みを目指したいという気持ちだけが、アタシの口を動かしていた。
「アタシに、盾魔法を教えてください。」
この選択がアタシの人生を変えてしまうなんて、この時は思いもしなかった。
-----アリス視点
「我は汝。
救の秘剣―六道修羅・十一面観音!!」
キキキキンッ─
アカネちゃんの凄まじい速度の連撃を全て捌き、後ろに飛び一気に距離を取るユウリくん。
ふう、と一息ついて汗をぬぐった。
あんなのよく止めれるわね。
試合が始まってかれこれ30分が経過しても、互いに一歩も譲らず一進一退の攻防が続いている。
この試合、いつになったら決着が着くのかしらね。
アカネちゃんも全詠唱をせずとも技を打ててるし、この短い期間でまた成長してる。
それを普通の『速度強化』だけで全て捌ききるユウリくんも大概だけど。
この試合の勝者と闘うことになるのだけど、試合になるのかしら。
そんな感想を抱くほどにはすさまじい試合だ。
決勝で無様な姿を晒さないようにしておかなくちゃ。
それはそうと、この個人戦でずっと怖い顔をしながら闘っていたユウリくんだけど、この試合はとっても楽しそう。
わたしの大好きな真剣な目だけど、心から楽しんでいるのは見ていて分かる。
そんな姿を見て嬉しくなってしまうあたり、わたしは本当にユウリくんが大好きなんだなあ。
叶うことなら、決勝でも同じように楽しそうな顔で闘いたい。
だから、頑張れ。
-----通常視点
さすがに一筋縄ではいかない相手だ。
分かってはいたし、今までの相手が楽だったかと言われるとそうでもないのだが。
それでも『救の秘剣』を1つ破ることができたのは大きい。
これで見れたのが修羅、餓鬼、天の3つか。
残りは地獄、畜生、人間だな。
修羅が神速11連撃、餓鬼が付与術による千手観音、天が寿命を縮めうる必殺の緋走緋々葬。
残り3つはぶっつけ本番しかねぇか。
「初見で完璧に捌かれると、さすがにへこむね。」
汗を拭いながら苦笑いをするアカネ。
俺の新技を作る時、だいたい初見で全て捌くのはどこのどいつだ。
準々決勝で見せた千手観音。
あれは体力消費があまりにも激しそうだった。
玖式を使えばおそらくそれで対応してきそうなものだが、こちらも分身を出している余裕もないのが事実。
常に『速度強化』をし続け、その上でアカネの剣に集中していなければならないのだ。
この後おそらく『速度最大強化』も必要だろうし、自ら魔力が減る分身を使うわけにもいかない。
結局はお互いに使える技が絞られてるな。
最近分身に頼りすぎていた感もあるし、次の技は頼らない技にするとしよう。
そんなことを考えていると、アカネは俺の一番得意とする構えをとった。
右肩の前に剣を寝かせて地面と水平に。
これで剣の舞とか使って来たら、さすがの俺もいい加減怒るぞ。
「行くよ、ユウくん!
我は汝。
『救の秘剣―六道畜生・馬頭 憤怒明王』!!」
その場で思い切り剣をこちらに突き出したかと思えば、剣の先から白く光り輝く馬が飛び出した。
エクスペクト・パトなんちゃらかよ!
というかこれは馬なのか?
馬の頭をした大男が怒った顔で走ってくるという、なんとも気持ち悪い絵なんだが。
「こういうでけぇのはトニーやジーニーで間に合ってんだよ!!
『壱式 居合─柳閃』!!」
剣の舞最速の居合斬りでキャラ被りを一刀両断した瞬間。
アカネが目の前に飛び込んできていた。
「我は汝。
『救の秘剣―六道地獄・聖 救世夢違』!!」
左肩口からのアカネの斬撃に、ギリギリのタイミングで剣を合わせた。
確かに囮に上手く隠れて速い斬撃だが、この程度なら『神速の剣姫』の方が速い。
ズバンッ─
「な、んだとっ・・・!?」
アカネの剣の軌道とは全く逆。
腰の右側からの斬り上げがクリーンヒットし、場外まで吹き飛ばされていた。
「決まったー!!
試合開始から38分、ようやく最初の一撃!
アカネ選手、この試合初のダウンを奪いましたー!!」
「や、やった・・・やったああああ!!」
傷の痛みに耐えながら身体を起こすと、アカネが周りの目も気にせず両手を上げて飛び跳ねていた。
アカネにとっては、この試合初のダウンというだけではない。
今まで一度もダウンを奪ったことのない相手から奪った、初めてのダウンなのだ。
完全にしてやられた。
まさか剣の軌道とは真逆の軌道で斬られるとは思ってもいなかった。
とんでもない隠し玉残してやがったなアカネめ。
目で追うと反射的に剣の軌道で守ってしまうだけに、厄介な技だ。
「ユウリ・アマハラ1ダウン。
試合再開!」
「『速度最大強化』」
でもそんな緩んだ顔で、あまり調子に乗ってるなよ。
これは普段の立ち合いではなく、3ダウン制の試合なのだから。
「『漆式 紫電─星界の魔槌』」
明らかに気が緩んでいたアカネを一撃で壇上に沈めた。
10カウントが始まるも、身体を痺れさせながらなんとか立ち上がるアカネ。
「よお、目が覚めたかよ。」
「いてて・・・少しは喜んだっていいじゃん!
負けず嫌いすぎるよユウくん。」
ちなみにチャンドラ、ウッディ、ナナシーといった強敵を沈めてきた技ですよ。
本来いてて、で済まされるような攻撃力ではない。
こいつの身体、鋼でできてるんじゃなかろうか。
付与された防御力上昇の効果だろうが、ここまで変わるのな。
しかしダウン差で並ぶことができた。
引き続き『緋走緋々葬』には注意しつつ、1つずつ丁寧に攻めていくしかねぇけど。
そんな俺の気持ちとは裏腹に、アカネがアマハラ流の構えで構えた。
反射的に飛び込むしかなかった。
詠唱が始まった瞬間にあれが飛んできてしまう可能性がある以上、誘いであっても行くしかないのだ。
「『陸式 雷光─千鳥』!!」
「アマハラ流 鹿威し!!」
やっべ・・・釣られた・・・!
アカネの振り上げが俺の剣に触れるか振れないかの瀬戸際。
ただじゃ倒されまいと抵抗。
「『雷光の銃弾』」
『速度最大強化』により纏っていた雷をアカネに向けて打ち出した。
雷はアカネを貫いたものの、アカネも負けじと剣を振りぬいた。
互いの位置の前後が入れ替わるほどのアカネの踏み込み。
俺は再び胴を斬られ、アカネはまともに雷撃を受け。
互いに前のめりに倒れた。
「両者ダウン!!」
俺はこの個人戦でどれだけ傷を追えば気が済むのか。
自分でもあきれるほどに血を流している。
対するアカネも身体を痺れさせながらも立ち上がる。
これで2人とも後がなくなった。
「両者2ダウン!試合再開!」
「人間道は准胝観音だっけか。あとはそれだけだな。」
「あれは今は使わないよ。もう後がないし、頼れるのは1つだけしかないよ。」
アカネのその言葉に、思わず声を荒げていた。
「あれはアカネの寿命を縮めることになる!
そんなこと俺も皆も望んでねぇ!!」
「そんなことは分かってるよ。
それでもわたしは、ユウくんに勝つためにここに来たんだ!!」
言いながらアマハラ流の構えをとるアカネ。
今度は誘いではなく、間違いなく『緋走緋々葬』の構えだ。
あの技と張り合える技は、剣の舞にはない。
不本意ではあるが、仕方ない。
最終奥義に頼らせてもらうとしよう。
「これがわたしの全力だよ!!
我は汝。
救の秘剣―六道天・如意輪 緋走緋々葬!!」
「アマハラ流最終奥義 天地開闢─天地初発之時!!」
キィィン─
またも2人の位置が入れ替わる。
互いに剣を振りぬいた状態で止まっていた。
「ガハッ・・・!」
アカネが口から血を吐き、膝をつく。
同時に、ユウリがドサリと音を立てて倒れた。
アカネは愛刀である『庵』を支えにして、なんとか倒れないようにと耐えていた。
「試合終了!!
ユウリ・アマハラ試合続行不可能により、勝者アカネ・オオヒラ!!」
拙い作品ですが、最後までお付き合い頂けたら嬉しいです。
今後ともよろしくお願いいたします!




