七十ノ舞「ここで向かってこない奴に」
-----アリス視点
準決勝前日。
お昼前、トニーと共に街の外に出ていつもの丘にやってきた。
いつもは誰もいないのに、今日に限っては先客が居るみたい。
息を切らせて仰向けに倒れて、右手には木刀を持って。
まるでユウリくんね。
まさか試合の前日にここまで疲弊するようなことはしないだろう。
と思うのが普通よね。
でもどこからどう見てもユウリくんなのよね。
見えないところで、本当にいつも無茶ばっかりして。
「おはよう、アリス。
昨日はアカネと俺の回復ありがとうな。」
倒れたまま左腕で目を隠しているのに、よく分かるわね。
トニーの犬耳がぴょんぴょんしているあたり、今のユウリくんはかなりの集中状態に居るのだろう。
わたしには、そういうのはよくわからないけれど。
「よお、お前らも前日に無茶するタイプか。」
不意に声をかけられて驚いてしまった。
会釈するつもりでそちらを振り向いた瞬間、わたしにも分かるほどのオーラに身体が強張った。
これほど近くに居るのに、今まで気づかなかったなんて。
冷や汗を拭いながら挨拶を返す。
『神速の剣姫』。
ユウリくんのお姉さんの必殺技にして、技名がそのまま二つ名となった最強の付与術。
初めて目にしたけど、わたしたちの今までの努力はなんだったのだろうという絶望感に似た感覚。
なるほど、ユウリくんはこれに立ち向かっていってボロボロになってるのね。
こんな規格外なレベルと毎日手合わせできているのだとしたら、ユウリくんが強いのもうなずける。
「ユウがこの有様で暇だから、何か試すつもりなら見てやろうか。」
かかってくる勇気があればだけどな、と言葉を足す『神速の剣姫』。
確かにそんなチャンスは滅多にないでしょうね。
でも今日は大事な準決勝の前日。
絶対に負けたくないライバルとの再戦が待っているのだ。
だからそんな無茶はいくらわたしでも「『パワーチャージ!!』」
「ちょっとトニー!?」
「そうこなくちゃ弟のライバルは名乗れねぇよな、フレデリック!」
あ、この人もトニーと同じ戦闘狂だ。
そう肌で感じ取った瞬間放たれる『巨猿の拳』。
その大技を放たれた『神速の剣姫』の動きが止まった。
剣を鞘にしまい、居合斬りの体勢から動かない。
あと数十センチで拳が届く─
「『疾風一閃』」
名の通りの一閃。
トニーの放った『巨猿の拳』は一瞬の間に霧散していた。
凄い、という感想しか出て来ない。
「ハハ、まいったでよ。上には上がいるべ。」
「なかなか良い闘気だったぞ、フレデリック。
ユウがこの有様のままなら、来年には立場逆転してるかもな。」
聞き捨てならねぇ、と言いながら起き上がるユウリくん。
この人は相手の性格をよく理解し、気持ちに火をつけるのがうまいのね。
トニーも俄然やる気が出たみたいだし。
2人が切磋琢磨して、さらに遠くへ行っちゃいそう。
少しだけ寂しいかも。
「それでお前はどうするんだ、ポーラン。」
挑発的なニヤリとした口元をしながら声をかけられた。
わたしは剣士ではないし、2人とは土俵が違うのよね。
明日はイオとの対戦を控えてるし、やっぱり無理はしたくない。
断ろうとして目を見た瞬間、悟ってしまった。
まるで、全て知ってるぞと言わんばかりの鋭い目。
さっきのトニーに向けてのライバルは務まらないって言葉は、本当にトニーに向けての言葉だったのか。
いや、あの言葉の真意はたぶん。
ここで向かってこないような奴に、弟は任せられない。
本当に人の気持ちに火をつけるのがうまいわね、この人。
目を向けられて初めて気づいたのは遅すぎたかもしれないけど。
そんなことを言われてしまっては、燃えざるを得ないじゃない。
「『分身の術』!」
-----シャルロット視点
アカネと一緒に街の外に出て調整場所を求めてランニングをしていると、大きな爆発音が聞こえたのでそちらに向かった。
近づいてみると、膝に手を当てて肩で息をしながら悔しがるイオの姿があった。
声をかけようとするアカネを抑え込みながら様子を見ているんだけど、これって完全に見ちゃいけないやつよね。
「こんなんじゃあの盾は突破できない・・・!」
イオの悔しがる言葉。
それを聞いたアカネが頬っぺたをつついてきた。
思わず声をあげそうになったけど、なんとか堪えた。
「イオちゃんに悔しがらせるなんて、さすがシャルルだね。」
アカネが小さい声で言ってきた。
そこであの盾という意味をようやく理解した。
アタシの『大輪の狐百合』のことを言ってるのね。
たしかに無傷で神話級魔法を止めたとはいえ、崩れたうえに試合はアタシの負けだし、むしろ悔しいのはこちらだ。
という気持ちもあるけれど。
そうと分かれば即行動だ。
「あの盾って、これのことかしら?」
『大輪の狐百合』を発動してイオの前に出ると、思いっきり目を見開かれた。
そんな驚かなくてもいいじゃない。
確かにいつも1人で隠れて特訓してるイオからすれば珍しい出来事かもしれないけどさ。
アタシたちからしたら、皆との研鑽は日常茶飯事よ。
「お2人とも、のぞき見なんて趣味が悪いです。」
「あれだけ大きな爆発音がしたら驚いて見に来るわよ。」
タオルで汗を拭い、息を整えるイオ。
既に1人で何回も神話級魔法を試していたのか、辺りの崖のいたるところに穴があいていた。
「せっかくなのでシャルロットさん、ちょっとお願いしてもいいでしょうか。」
イオからそんな頼み事をされたのは初めてかもしれない。
少し嬉しくなりながらも、完成した『大輪の狐百合』を構える。
アタシもあれから特訓しているとはいえ、回転まで加わった槍を止められるかどうか。
そんな気持ちは、普段と違うイオの詠唱で霧散した。
この努力する天才は、歩みを止めるつもりはないらしい。
顔に出さないように訓練をしているものの、思わずにやりとしてしまった。
上等じゃない。
倒す目標が高くなるなら、それを超えるまで努力するだけよ。
-----通常視点
「いよいよ今年の個人戦も残すところ準決勝と決勝のみ!
本日は準決勝の2試合が行われ、明日の決勝にコマを進めるのはどの選手になるのか。
超満員の大闘技場からお送り致します!
実況は私、クノッサス王国騎士団3番隊副隊長、エレーナ・シルベストル。
解説はクノッサス大神殿守護騎士団2番隊隊長、セレナ・ヘッジホッグさん。
審判はクノッサス大神殿守護騎士団総隊長、ジークロード・グラッセさんです!
今年の個人戦はベスト4全員が1年生という闘いになりましたね、セレナさん!」
「第1試合は魔法使い対決、第2試合は剣士対決とあって、非常に楽しみですわね。」
「さあいよいよ第1試合が始まろうとしております!
Aブロックを勝ち抜いた、イオン・フォン・アビステイン選手!
対するはBブロックを勝ち抜いた、アリス・ポーラン選手!」
「どちらも現学生の中で最高の魔法使いと言っても過言ではないでしょう。
そんな才を持った2人が同学年。
生まれながらにライバルとして宿命づけられているかのようですわね!」
2人が壇上にあがると、大闘技場は大歓声に揺れた。
そんな歓声の中でも表情は真剣そのもののイオ。
そしてこの時を待ち望んでいたかのような表情のアリス。
どちらが勝つにしても、間違いなく激戦必至だろう。
かくいう俺も既にウォーミングアップは済んでいる。
あとは出番を待つだけだ。
おそらく、アカネも。
審判のジークロードがイオとアリスを見据えた。
「それでは、個人戦準決勝第1試合。
イオン・フォン・アビステイン対アリス・ポーラン。
試合開始!!」
拙い作品ですが、最後までお付き合い頂けたら嬉しいです。
今後ともよろしくお願いいたします!




