六十九ノ舞「それぞれの前前夜」
-----シャルロット視点
準々決勝が終わった日の夜。
アカネが運び込まれた病室に腰かけている。
目を覚ますまで、ずっとそばにいるつもりだ。
目の前であのアカネの姿を見せられたユウは、どんな気持ちだったのだろう。
2人は本当の家族のように仲が良いから、やっぱり心配だったのかな。
もしくは共に競い合う兄妹弟子として、燃えてるのかもしれない。
どっちにしても、アカネが羨ましいな。
次の準決勝。
1試合目はイオを応援するとして、2試合目はどっちを応援したらいいんだろう。
大好きなユウか、親友のアカネか。
どっちかに勝ってほしいと言うよりは、どっちにも負けてほしくないな。
決勝進出をかけた試合で、アタシの大好きな2人が闘うことになるなんてね。
入学前のアタシだったら、こんなこと思わなかったんだろうなあ。
2人と出会って、自信満々だったアタシのプライドはバッキバキに砕かれた。
みんなの実力が分かって、新人戦で一緒に闘って。
あのメンバーで闘えたから、今のアタシがあることは間違いない。
分不相応な最優秀選手の称号だとは、今でも思っている。
今、みんなと同じ闘いの舞台にあがれていないのだから。
でもそれが、この上なく悔しいんだ。
「泣いてるの?シャルル。」
「泣いてないわよ!これは目から鼻水が・・・ってアカネ!?」
「目から鼻水って出るの・・・?」
「いや、それはどうでもいいのよ!目が覚めたのね。」
ぐうううううう。
え、何の音これ、凄いいびき?
「シャルル・・・今何時・・・?」
「22時だけど。」
「3食も食べ損なってるー!!」
あれ、試合終了は15時くらいだった気がするんだけど。
まあ確かに8時間のうちに食べて胃腸を16時間休ませるダイエットもあったはず。
アカネの食べる量からして、そうしないと絶対にこのスタイルは維持できないわよね。
「今日はまだ4食しか食べてないということに・・・」
「え、ちょっとマジで何言ってるか分からないわ。」
1日7食も食べてるの、この子。
食べ過ぎた日は剣の素振り回数を増やしたりしてるアタシがバカみたいじゃない。
なに、アカネは敵なの?
涙でてくるわ。
「シャルルってホント泣き虫さんだよね。そういうとこも可愛いんだけど。」
「誰のせいだと思ってんのよー!!」
これだけ元気なら入院なんて必要ないということで、即退院手続きを済ませて外に出た。
泣きながら「一緒にご飯食べよう」と縋りついてくるアカネを引きずりながら、部屋に戻っているところだ。
こんな時間に食べたら太るでしょうが。
ただでさえクノッサスに来てから稽古の時間が激減してるんだから。
とはいえこのままだと部屋までついてきそうなので、パン屋でカレーパンを購入してアカネに渡すと、それはもう幸せそうな表情で食べ始めた。
我ながらなんだかんだでアカネには甘いわね・・・。
足りないというアカネにジャンピングチョップのおかわりを食らわせながら。
「アリスにお礼言っておきなさいよ。」
「あー、やっぱり回復してくれたんだ。
『緋走緋々葬』を使ったのに元気だから、そうかなって思ってたよ。」
そんな会話をしながら帰路につく。
アカネからも話題にあがらないし、準決勝についての話をアタシから振るのは良くないわよね。
こんな明るい性格してるのに緊張しいだし。
結局その話題にならないまま、アタシの泊っている宿に着いてしまった。
「ずっとそばにいてくれてありがとうね!」
「し、親友なんだから当然でしょ。」
「あはは、シャルル赤くなってるー。」
「う、うるさい!!」
そんないつものやりとり。
でも、気づいてしまった。
アカネの両手が、肩が、震えていることに。
まったくもう。
今から緊張してるのね。
無理もないか。
今までユウとの対戦成績は0勝280敗なのだから。
「・・・明日1日、調整に付き合うために空けといてあげるわ。」
そのアタシの言葉に、一瞬驚いた表情をしたアカネ。
直後にとっても嬉しそうな笑顔で。
「ありがとう、シャルル!!」
思いっきり抱き着かれた。
震えるアカネの身体をそっと抱き返すと、「えへへー」とこれまた嬉しそうに笑うアカネだった。
そんなアカネを見送った。
我ながら、本当に甘いなあとつくづく思う。
でも、1つ決めたことがある。
イオやサク先輩、そしてアリスもトニーも。
どっちの応援はしてもきっと、どちらかといえばユウの応援をするのだろう。
だからアタシだけでも。
唯一の親友の応援をしよう。
-----アリス視点
アビスリンドの人たちは、なんでああも闘い方が荒いのかしら。
サクラさんは決死の覚悟で飛び込んできた。
アカネちゃんは自身の命を削るような大技を。
ユウリくんに至ってはこの大会だけで何リットルの血を流せば気が済むのか。
それくらいの覚悟で、というのは聞こえはいいのだけど。
そんな技を開発できてしまう時点で、普通ではないのよね。
そしてわたしの次の相手。
リベンジしたい人ランキング、堂々のナンバーワンのイオ。
新人戦での完全敗北は、忘れもしない。
しかもその時はまだ神話級魔法は使っていなかった。
今回は、それがある。
かくいうわたしも神話級に匹敵する魔法を作ることができた。
サクラさんのおかげだけど。
新人戦が終わってアビスリンドに行くまで、そしてマジックギルドに戻ってからの日々。
わたしだって、目的もなく過ごしていたわけでもない。
イオ、そしてユウリくん。
この2人にリベンジすることを目標に過ごしてきた。
そして今、ようやくその舞台に立つことができた。
このチャンスは、絶対に逃さない。
「珍しく真剣な表情だべ。」
「珍しくは余計じゃないかしら。」
窓から外を見ていると、風呂上りで髪がペタンとなっているトニーに話しかけられた。
いっつも耳みたいに跳ねてるのは寝相が悪いからなのよね。
「次の試合のこと考えてたべ。」
「なんでわかるのよ。」
「アリス、緊張すると遠くをボーっと眺めて考え込む癖があるでよ。」
伊達に長いこと一緒に居るだけあるわね。
わたし自身も気づいてなかったのに。
「トニーもワクワクすると犬耳ぴょこぴょこするわよ。」
「犬耳じゃないべ?!」
「・・・ところで、イオちゃんの神話級はどうだった?」
「スルーしておいて聞きたいことは聞くとは相変わらずオラの扱いひどいでよ・・・。
見ての通り完全な力負けだったで、あれを貫かれたら勝てないべ。」
やっぱりそうよね。
力自慢のトニー相手に、真っ向からのパワー勝負。
それを制した『雷霆纏いし光の槍』。
咆哮と槍、どちらが強いかしらね。
「どうせ明日、新技の実験するんだべ?」
「さすがトニー、よくわかってるじゃない。」
「もう目を見たら考えてることくらい分かるべ。」
それはユウリくんに言ってほしい言葉なんだけどな。
ふとそう思ってしまい、思わずにやけてしまった。
2年待つとは言ったものの、あの人は今年で決める気満々で居るでしょうから。
でも今年は、わたしはリベンジに燃えているから。
たとえ決勝でユウリくんと当たることになっても、全力で闘わせてもらうわ。
どきどきしながら来てくれるのを待っているのも、結構楽しいんですもの。
そして必ず、2年以内にあなたは来てくれると信じているから。
「本当にユウリ脳だべ。」
「トニーにだけは言われたくないわよ!!」
わたしの個人戦は、ここからが本番だ。
-----通常視点
イオ特性のレバニラ炒めを半ば強制的に食べさせられ、満腹で眠くなってきた。
曰く、「今からでも血を作っておいてください」とのこと。
昼間に大量に吹き出したけど、今からで果たして間に合うのか?
まあ貧血っぽくはあるけど倒れてないからきっと大丈夫だろう。
サクの情報によると、アカネも無事に目を覚ましたらしい。
大通りでシャルロットに縋りついて騒ぐくらいには元気なようだ。
アリスには礼を言っておくとしよう。
明日の予定はどうするか。
おそらく皆、それぞれの調整とその付き合いといったところだろう。
イオはいつも通り1人でやるそうだ。
サクしか頼れそうになかったのだが、明日はルーナ隊長に呼ばれているとのこと。
俺の相手で無理をさせるわけにもいかない。
イオのように、たまには1人で無心でやってみるのも良いかもしれないな。
「よぉ、まだ起きてるか。」
「さすがにびびるから、窓から入ってくるなよ姉さん。
起きてるのを気配で探知してから入ってきたくせに。」
というか酒くせぇ。
教育者のくせに、また飲んでやがったな。
・・・酒飲みに教育者は関係ないか。
「そういうのは気づいても言わない方が可愛げがあるぞ、弟。」
「男に可愛さ求めんな。で、何か用があってきたんだろ?」
「バッカ、今は可愛さも需要高いんだぞ。」
「用がないなら寝る。」
ケラケラ笑いながらそんなことを言う酔っ払いに興味はない。
さっさと寝てしまうとしよう。
「あー、明日お前暇か?というか暇だよな。」
「決めつけられると良い気はしないんだけど?」
「わりーわりー。お詫びと言っちゃなんだが、たまには剣見てやろうか。」
思わず飛び起きてしまった。
そしてたぶん、嬉しさのあまりににやけてしまってる。
「そんなに嬉しそうな顔をするなよ弟。姉さん大好きすぎだろ。」
「やっぱやめとくわ。」
「悪かったって。アカネのあれ、止めてやってくれねーか。」
その言葉に再び寝転がろうとして、動きを止めた。
あれとは間違いなく、最後の技のことだろう。
「あの技は絶対に寿命を縮めるぞ。
ユウも、私も、そんなことは望んではいないだろ。」
当たり前だ。
アカネのことは家族だと思っている。
家族に寿命を縮めてほしいやつなんて居るわけがないだろう。
「ということで、アカネには悪いが止めさせてもらおうってな。
お前はアカネがあの技を使う前に止められるように動け。
そのために明日1日、面倒見てやるよ。」
確かに仮想アカネにしては強すぎるが、対戦相手としては申し分ない。
なんと言っても、姉さんはこの大陸では負けなしの剣士なのだから。
世界でも五指に入るんじゃなかろうか。
それは置いといて、特にやることもなかったのでお願いすることにしよう。
立ち合い稽古なんて、本当にいつぶりだろう。
姉さんが実家に居た頃が最後だったはずだ。
その時は全然本気出してくれなかったっけ。
明日は、その片鱗を見せるくらい闘えるだろうか。
やべぇ、久々に楽しみすぎる。
ワクワクしすぎて夜明けまで寝れなかったけどな。
拙い作品ですが、最後までお付き合い頂けたら嬉しいです。
今後ともよろしくお願いいたします!




