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剣の舞~サムライと呼ばれた祖父に鍛えられ、いざ騎士育成学校に入学したら剣術一位だったのでこのまま世界最強剣士を目指すけど、ラスボスはたぶん実の姉~  作者: あっきー
第7章 個人戦後編

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六十七ノ舞「この暗闇の中で」


闘技場の逆側から壇上へとあがってくるリー・セイ。

その顔は落ち込んでいるような表情だった。

しかし目だけはとても冷たく、こちらを睨んできている。


殺意のこもった目というのは、こういうものを言うのかもしれない。

向けられたことは今までないから分からないが、そう感じるには充分な冷たさだった。


「顔や首を狙った攻撃、急所をもろに狙う攻撃は禁止。

見受けられた場合即座に試合を止める。

せっかくの準々決勝だ、正々堂々といこう。」


審判から普段よりも厳しい注意があった。

それほどに今のリーの目は、何かをしでかしそうな感じが見てとれる。

互いに頷いたのを確認し、審判が開始の合図を発した。


「それでは準々決勝第3試合。

リー・セイ対ユウリ・アマハラ、試合開始!」


速度強化(ヘイスト)!」

影の軍勢(シャドー・アーミー)


日の角度で闘技場の壇上は半分ほどが影がかかっている。

その影の中からぞろぞろと、剣と盾を持っているような形をした影の戦士が現れた。



-----


朝方、闘技場に向かう前のこと。

朝食を食べているとイオが話しかけてきた。


「ユウリさん。この前リーを追った際に気になったのですけど。

ユウリさんの分身が背後を取った瞬間、地面に入っていくように消えてしまったんです。」


分身が見聞きした情報は本来オリジナルに入ってくるらしい。

しかし俺の魔法の才能がないせいかは分からないが、俺の分身はその情報が入ってこないのだ。

分かるのは分身が消えた時だけだ。

さすがのサクも不思議がるほどである。


「それで昨晩、昔読んだ魔導書を思い出したんです。

古くから闇属性の派生で影を操る魔法が存在する、というものなんですけど。

最近ではその使い勝手の悪さから使用者はほとんどいないのですが・・・

今思えば、リーが地面に消えたのは影魔法だったのではないか、と。

もしそうなら究めれば究めるだけ強力な魔法なだけに、心配です。」



-----


そんなことを話していたのを思い出す。

今目の前でリーが使用している魔法は、まさしく影魔法だ。

現代では失われたと言っても過言ではない闇属性の派生。


数というのは、どんな時でも有利になる。

おおよそ20体の影の戦士がこちらに向かっているのだ。

さすがに1人でこれを相手にするのは骨が折れる。


「分身の術!」


ボンと音を立てて4人の分身を作成。

その全てが『速度強化』状態だ。

そのまま5対20の乱戦が始まった。


いくら20体とはいえ、所詮は魔法で作り出しただけの人形。

それを言ってしまえば分身もそうではあるのだが、中身は俺だ。

ただの人形に後れをとるほど弱いつもりもない。

みるみるうちに影の戦士を打ち破り、分身の1人がリーの目前へと到達した。


影の刃(シャドー・ナイフ)

「壱式 居合─柳閃(りゅうせん)


居合斬りが、リーの本体を捉える寸前。

壇上の影の中から文字通り影の刃が分身を貫いた。


ボンと音を立てて消滅する分身。

壱式の発動よりも前に術を発動したとはいえ、着弾までがさすがに速すぎる。

0.1秒といったところか。

そしてその威力は分身とはいえ、人を軽々と貫いた。

反応はできても、叩き落せるかは正直怪しいな。


顔に出さないようにしながら最後の影の戦士を切り捨て、リーへと4人で向かう。

リーは軽快にステップをして躱しつつ、壇上の影になっている箇所へと移動して行った。


分身2体が追いすがり、影に足を踏み入れた瞬間。


影の棘(シャドー・ソーン)

地面から鋭利な形をした無数の棘が、分身をあらゆる方向から貫いた。

またしても攻撃が届くことなく、消えていく分身。


影が壇上にある以上、攻撃が一切届くことはないのではないかと錯覚してしまうほどの速度。

そして威力。

いずれの攻撃も、人の身体を軽々と貫きやがって。

本体が貫かれたわけではないが、本体だったらと思うとぞっとする。


そして時間が経つに連れて日は傾き、壇上の影はどんどん増えていく。

それはリーの攻撃、防御どちらにおいても有利に働くのは間違いないだろう。

残された時間は、あまり多くはない。

しかし突破口も一切見つからない。


自分の手で幕をおろすつもりではいるが、簡単ではなさそうだ。


どんな理由であれ。

アリスに手を出したのは許せるはずもない。


過去に犯した罪も含めて、きっちりと償ってもらう。



速度最大強化(ヘイスト・マキシマム)

アリスのおかげで使用できるマキシマムだ。

剣を上段に寝かせて構え、リーを見据える。


「どれだけ速かろうが、人間は影から逃れることはできないんだよ。」

「逃げる?どこの言葉だ?」


言いながら予備動作なしに加速(ブースト)

瞬きする間もなく、リーを自身の間合いに捉えていた。


「後ろから追いかけてくるだけの影にビビって、前に進めるかよ!!

『剣の舞 陸式 雷光─千鳥』!!」


鳩尾を完璧に捉えて前方へと吹き飛ばしたと思った瞬間、地面から殺気を感じて即座に影から飛び出した。

影から数歩距離をとったところで止まると、先ほどまで居た場所に無数の棘が出現していた。

間一髪だが、避けられないほどではないな。


闘技場の壁まで吹き飛ばされたリーは、何事もなかったかのように壇上の影から姿を現した。

しかし制服の鳩尾の部分に傷があり、間違いなく被弾はしていた。


「今年の1年生は本当にどうなっているんだー!!

前回優勝のリー・セイ選手に対して、先にダウンを奪ったのはユウリ・アマハラ選手!!

準優勝のナナシー選手に続き、またしても大物食いを果たすのかー!?」


「リー・セイ、1ダウン!試合再開!」



-----シャルロット視点


「去年、ボクが手も足も出なかった相手なのに。

ユウリ君、まともに闘って優勢じゃないか。」


褐色ロリ先輩がいつの間にか隣に来ていた。

試合に集中しすぎて、全然気づかなかった。

相手も強いけど、やっぱりユウはその上を行っている気がする。


「だけどまだリーの()()が出てない。

ボクが一切反応できなかった技。

それを突破できない限りユウリ君に勝ちはないよ。」


不安になることを言いながらも、祈るように手を組んでいるナナシー先輩。

会ったのは2回目だけど、この人が他人を名前で呼んだところを聞いたのは初めてだ。

昨日マジックギルドの宿に行った時に、うまくやったのかな。


ちょっと複雑な気持ちだ。

アタシも死を覚悟した時、ユウに自分の気持ちを伝えておけばよかったと後悔した。

もっと、素直にならないと・・・よね。



-----通常視点


「お前らは、どこまで俺たちの邪魔をするんだ!!」

試合が再開するなり、怒気を含んだ声でリーが叫んだ。

それはこっちのセリフだ。


「出場者の研鑽をあざ笑うような真似をした挙句、俺の()()()()を傷つけておいて何言ってやがる・・・!」


「ああ、そういえばそうだったな。

あの女のやられ方は傑作だったぜ?

自分の愛する男に滅多切りにされてもなお名前を呼び続けてやがったくらいだ。」



「なん・・・だと?」

思わずアリスの方を向いてしまった。

アリスは苦虫をつぶしたような表情で俯いた。


一瞬で血の気が引くのが分かった。

幻術とはいえ、アリスに傷を負わせたのが俺という事実。

そんなこと一言も言っていなかったどころか、そんな素振りすら見せなかったというのに。

その事実も知らずに、俺は・・・。


「ぐあっ・・・!」

後ろから飛んできた影の刃に、左太ももが貫かれた。

その場に倒れ込み、痛みに耐えるも当然のダウン宣告。


貫かれた足からは大量の出血。

完全に力が入らない状態だ。


とはいえ、試合中にそんなことを言ってきたのもそうだが。

アリスに対して幻術で俺と闘わせたなんて、本当にクソ野郎だな。

幻術を仕掛けたのはチャンドラだとしても、だ。


「・・・絶対に許さねぇからな。」

「強がりはよせ。その足じゃ、もうさっきまでのスピードは出せねぇだろ。」


リーの言う通りだ。

正直今の左脚では加速どころか、踏ん張りすらきかない。

自分がこんなにも精神攻撃に弱いとは思ってなかったわ。


木刀を支えにしてなんとか立ち上がるも、立っているのがやっとだ。

「互いに1ダウン!試合再開!」


「そろそろ終わっとけ!!

影の世界(シャドー・ワールド)!!」


その瞬間、目の前が真っ暗になった。

比喩ではなく、実際に真っ暗闇に閉じ込められたように辺り一面真っ黒だ。

今までの大歓声が嘘のように音もなく、視覚と聴覚が奪われた感覚。

あるのはそこに立っているという感触のみ。


どれだけ辺りを見回しても何も聞こえず、何も見えない。

きょろきょろとしていると、至る方向からの殺気を感じて身構える。


しかし見えも聞こえもしないというのは思っている以上に厄介だった。

殺気を感じた方向に反応するも、1テンポ反応が遅れてしまう。

左腕を斬られ、右肩を斬られ、左脚の傷にさらに突き刺された。



「ぐあああああ!!!」

あまりの痛みに大声をあげて倒れ込む。

これで2ダウン目。

仮にこれで立てたとしても、同じような攻撃にやられて敗北するだけだ。


絶対に許さねぇと今でも思っているのに。

左脚は言うことを聞かず、何も聞こえず、仲間も見えないこの状況。

何を信じて立てばいいのか分からない。


見えていない状況ではあるが、倒れながらも目を瞑って考える。

どうすれば勝てる。

どうすればこの状況を突破できる。



ふと気づくと、瞼の裏に焼き付いたさっきのアリスの顔。


なんだ、見えるじゃねぇか。

きっと今も心配そうな顔をしているんだろうな。

簡単に想像できる。

シャルロットも、アカネも、イオも、サクの顔も。


こんなに心配そうな顔ばかり浮かべられるって、普段どれだけ心配かけてるんだ俺。


それでも、()()()


こんな暗闇の中でも、ちゃんと仲間が見えるんだ。

俺は1人じゃない。

ショーヤも、姉さんも、トニーも。


俺の(こころ)には、いつだって皆が居る。

「皆に情けない姿だけは・・・見せられねぇよな。」


木刀を支えにしながら立ち上がる。

目を開けたら皆の顔が見えなくなりそうだ。

この暗闇の中で見えた(ひかり)


これに縋る他、方法が見つからねぇや。



「信じてるぞ、アリス!!

・・・『速度超最大強化ヘイスト・オーバーヒート』!!」


直後背後からの気配に剣を払う。

地面からの気配に右足1本で飛んで避ける。

着地と同時に左右からの攻撃。

それを回転斬りで撃ち落とす。


直後、左腕が斬られる感覚。

完璧にとは言えないが、対応はできていると思う。

すでに2ダウンしている以上、倒れるわけにはいかない。

木刀を支えにしながら踏ん張り、続く攻撃を撃ち落す。




どれだけの攻撃を撃ち落しただろうか。

こちらもかなりの数の攻撃を受けているものの、どれも致命傷は避けれている。

毎度なんとか木刀で支えてダウンはしていない。

攻撃が続いている以上、試合が止められていない証拠だ。

しかし『最大強化』ですら限界の1分は、ゆうに超えている。

体中が軋み始めていてもなんとか立っている。

あんまりこういう根性論は好きではないが、間違いなく気力だけで立っている自覚はある。


未だに視覚も聴覚も失われている状態だが、逆に感覚は研ぎ澄まされてきた。

徐々にリーの攻撃が荒くなってきたことに気付ける程度には、集中できていると思う。

そろそろ痺れを切らして攻撃してくるはずだ。


この一撃で狙ってくるのは間違いなく左脚。

次の気配を察した瞬間、その方向に向けて思い切り電撃を飛ばした。

雷光の銃弾ライトニング・バレット!!」


その瞬間、視覚と聴覚が復活した。

あまりのまぶしさに目がくらみそうになりながらも、ゆっくりと目を開ける。

身体を痺れさせ、壇上に倒れるリーの姿が目に入った。

しかしリーの意識はしっかりとあり、ゆっくりとその場に立ち上がった。


「互いに2ダウン!試合再開!!」


「テメェ・・・どんだけ精神力強いんだよ・・・!」

「お互い様だろ。俺は傷だらけで。アンタは痺れて。

互いに立ってるのがやっとだ。」


その後は言葉を交わさなくても、次の攻防で最後だというのが分かった。

左脚の傷から血が大量に吹き出した。

オーバーヒートの後遺症が始まった。

もって5秒。

それ以上はおそらくもたねぇ。


「影の刃」

「剣の舞 参式 雷斬─桜吹雪!!」


一歩も動けないが、この技だけは遠距離でも届く。

そう思い放つも、2回剣を振った瞬間に両腕から血が吹き出した。

右脚だけが今のところ無事だが、時間の問題だ。


2つの剣戟がリーに向かって飛ぶ。

1つは影の刃と相殺。


「あたれぇぇぇぇ!!!」


その声はどこから聞こえただろうか。

アリスの声か、はたまたシャルロットの声か。

きちんと聞こえなかったが、仲間の声だというのだけは分かった。


もう1つの剣戟は、リーを捉えて場外へときりもみをしながら吹き飛ばした。


「リー・セイ、3ダウン!!」

その瞬間右脚からも血が吹き出し、俺はその場に倒れ込んだ。


「勝者、ユウリ・アマハラ!!」

薄れゆく意識の中で、勝利者宣言が聞こえた。

でもこれは・・・準決勝では闘えねぇな・・・




完全回復(リザレクション)!!」

身体が一瞬で温まり、意識が覚醒した。

吹き出していたはずの血は止まったものの、あたり一面血の海だ。


しかしそんなことはお構いなしと言わんばかりにアリスが飛び込んできた。


「またこんなに無茶をして・・・わたしを残して死んだりしないでよ・・・」

俺の上半身を抱えながら大泣きしているアリス。


こんなにも心配してくれる大切な人を置いて先に逝けるか。

アリスの頬に手をあて、親指で涙をぬぐいながら。

「毎度毎度心配かけてごめんな。完全回復してくれるって信じてたぞ。」

「・・・わたしの気持ちも知らないで・・・バカッ・・・!」



まあ、今回ばかりは何を言われても仕方ないか。

大泣きしているアリスをおぶり、向かいの控室まで運びトニーに預ける。


ルーナ隊長が仕切り、リーを捕えているのを傍目に見ながら仲間の元へ戻った。

イオとハイタッチを交わした直後、シャルロットが客席から飛び込んできた。


「どれだげ心配かげるのよ、バカ・・・!」

こちらもアリスに負けず劣らずの泣きっぷりだ。

イオもおおきく頷いていた。


アカネは「信じてた。」と一言言って笑っている。

シャルロットを抱えながら、アカネとグータッチを交わした。


「シャルル、泣いててもいいからちゃんと見ててよね!

絶対に勝ってくるから!!」


言いながらイオとタッチを交わして元気よく出ていった。

相手が可哀想になるくらいやる気満々だこと。



しかし血まみれの壇上を綺麗にしたり、本来入ってはいけない場所に入ったシャルロットを客席に戻したり。

いきなり出鼻をくじかれていた。




ふと視線を感じた方向に目を向けると、義手を直した姉さんが闘技場の大外を覆う壁の上に立っていた。


そんなところからわざわざ見なくても。

そう思いつつも右腕の拳を握りしめ、大きく伸ばした。


いつものニヤリとした笑みではなく、満面の笑みで拳を突き返してくれた。



どんな褒め言葉を言われるよりも。


実力を認めてほしい相手から向けられた、その満面の笑みの方が嬉しかった。



拙い作品ですが、最後までお付き合い頂けたら嬉しいです。

今後ともよろしくお願いいたします!

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