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六ノ舞「仲間になれた気がする」


 会食を終え、寮の自分の部屋に戻ってきた。

「兄さん、大丈夫でしょうか。」

イオが心配そうな声をあげた。


自分は魔法を使えないと思ってたら、実は他の人よりも危険度マックスな魔法を自分だけが使えました。だもんな。

恐怖で青ざめてたし、俺も心配してるくらいなのだから妹のイオはそれの非ではないだろう。


「心配だけど、こればっかりはショーヤが自分で乗り越えるしかないと思うよ。」

過去の自分がそうだったように。

あの時はアカネに随分と助けられたな・・・たまには稽古の相手でもしてやるか。


「そうですね・・・。兄さんなら、きっと乗り越えてくれると信じています。」

「本当にいい兄妹だな。」

「ふぇっ!?や、やめてくださいよもう!」

顔を真っ赤にしてぷいっと顔をそらすイオ。


お、この気配はアカネだ。

時間もあるし、妹弟子と汗でも流すか。


立ち上がり、木刀を腰に据え外に出る準備を整えると、ピンポーンとチャイムが鳴った。

「大丈夫だ、ショーヤは強いよ。絶対乗り越えてくれるさ。」

そう言い、イオの頭を軽く撫で玄関に向かった。

残されたイオは驚いた顔で、撫でられた頭を両手でおさえ微笑むのだった。


「わりぃアカネ、待たせた。」

ドアを開けつつ謝罪をすると、アカネとサクがそこに居た。

「さすがシノビ。気配に気づけなかった。」

「お褒めの言葉、光栄ですー」

「今日こそユウくんから一本取るからね!」

人差し指を高く掲げ、やる気満々なアカネ。


「今何戦何敗だっけ?」

「276戦276敗!」

よく覚えてんな。俺10以降数えてないぞ。

「稽古に行くのでしたら、お供します!」

こちらもやる気満々なサク。

まあ断る理由もないし、一緒に行こうか。


「今日は汗かきたい気分だから、剣の舞(ブレイドダンス)なしでやってやるよ。」

「ぶぅー、手加減やだ!」

「1秒で終わったら稽古にならないだろ。」

「それもそっか。ダンスがなければわたしと実力差あんまりないし、勝機はあるかも!」

「言ってろ。サク、審判頼めるか。」

「承知しました!それでは、試合開始!」


そこから1時間の打ち合いの後、アカネに277敗目が刻まれた。

今日はゆっくり眠れそうだ。


しかしアカネのやつ、どんどん腕をあげてるな。

こりゃ捌式(はちしき)以降も完成させないと、いつか追いつかれるな。



-----



 今日から選抜メンバーも、通常の授業に参加する。

昨日稽古の後にサクから聞いたのだが、選抜メンバーは一部の授業は免除になるらしい。

その代わりに新人戦の参加や、生徒議会の手伝い等をしなくてはならないが、授業なんて出ても寝てしまうだけなのでこちらの方がいい。


いい匂いで目が覚めたと思えば、イオが朝食を作ってくれていたという幸福感を朝から得られ、気分がいい。

イオはショーヤと一緒に行くとのことなので、アカネを誘うことにした。

仕方なく、同室のツンデレ赤ポニーも誘ってやるか。


部屋の前で待っていると、2人が談笑しながら出てきた。

「げっ」

朝から人の顔を見るなり、その反応はないんじゃないかなシャルロットさん。

俺は君のこと認めてるんだけどな。


アカネは気配で気づいていたようで、お待たせと言いながら鍵を閉めた。

「昨日の稽古の話聞いたわ。」

まあ同室だしそういう話もあるか。

「気になったのだけど、アンタの剣の舞はいくつまであるの?」

「今は漆式(ななしき)だな。」


「そんなにあるのね。壱と参しか見たことないから、今度他のも見せてよ。」

「今日の放課後サクと稽古をするから、一緒に来るか?」

「良いわね!是非ご一緒させてもらうわ。

でも、アカネみたいに3日はまともに稽古できなくなるまでやるのはナシよ。」


シャルロットは基本的に上からものを言う性格なので勘違いされがちなのだが、昨日のサクへの心配といい、基本は良い奴なのだ。


「身体中筋肉痛だよぉ・・・」

アカネ、涙目で訴えかけられても困る。俺なんか筋肉痛のきの字すらないぞ。

「ぶぅー、ダンス使わないユウくんになら勝てると思ったんだけどなぁ。」

まだまだアカネにゃ負けねーよ。


「アンタたち本当に仲いいわよね。」

そんなあきれ顔をするなよ。俺はシャルロットとも仲良くなりたいんだぞ。



 学園の教室に入るなり、教室がざわついた。

にやにやしながらこっちを見ている生徒もいる。

なんでもいいさ。今日はイオの手作り朝ごはんのおかげで気分がいい。

大概のことは水に流してやろう。


自分の席を見つけ向かっていると、脚をひっかけられそうになった。

まあ『神威』でシカトしたんだけども。

これアレですか、登校初日からイジメってやつですか。かっこ悪い。


しかし俺が避けたせいで後ろを歩いていたアカネが思いっきりその脚に引っ掛かり転んでしまった。

「にゃあっ!?」

猫かよ。全身筋肉痛なのにビターンって転んだけど大丈夫か?

「ユウくん・・・立てない・・・」

涙目でこっちみんな。

腕を引っ張り上げて「痛たたたた!!!」やると、周りの生徒がクスクスと笑い始めた。


こういう輩は無視だ無視。

と思った矢先

「アンタら、だっさいわね。」

あー、突っかかっちゃったよシャルロットさん。


「学園長の身内で選抜メンバーになれるような学力ワーストペアよりはマシだと思うよ。」

教室中で笑いが起きた。


ああ、そういうことか。

それはアカネと俺がどれだけの時間を剣に費やし、研鑽してきたかを知らないだけだろう。

学力ワーストは事実だが、剣術トップ2なことも忘れるなよ。


「しかも魔術もワーストだろ?剣しか振ってこなかった奴より劣っていると思われるのは癪なんだよね。」

「あなたたちがユウくんの何を知ってるのよ・・・」

アカネが小さく震えた声を出したが、周りはヒートアップしているようで、聞こえていなそうだ。

コネだけで選ばれたとか、剣しか振ってない奴とか色々聞こえてくる。

前者は知らんが、後者は耳が痛い。


「黙れぇぇえええええええ!!!!」

シャルロットの絶叫が響いた。


「少なくともここに居る誰よりもアタシはこの2人のことを知ってるけど、アンタたちみたいな」

()()()()!!いいの。」

「アカネ?!でも!!」

「頭が悪いのも、剣しか振ってなかったのも、本当のことだから。」

そう言いながらも声を震わせ目を伏せ、拳を思いっきり握り、悔しさで震わせるアカネ。その頬には涙が流れていた。


いやいや、アカネは魔術1位ですよ?

言われてるの俺なんだから、お前が泣く必要はないんだよ。

それとシャルロット。アカネと仲良くしてくれてるみたいで・・・

サンキューな。


シャルロットと目が合った。

たぶん考えてること同じだな。

俺たち実は結構気が合うんじゃないか?


「選抜メンバーにコネで選ばれて納得がいっていないと思うならそれでもいい。

俺たちはアンタらの挑戦をいつでも受け付ける。」

「アタシたちに勝てたら、そのまま選抜メンバーを交代してあげるわよ。

剣術()()()()に挑む覚悟があるなら、かかってきなさい。」


トップ3・・・か。

なんというか、ようやくシャルロットと仲間になれた気がする。

そんな俺の気持ちを知ってか知らぬか、目が合うとニヒヒと笑うシャルロット。


ゴンッとアカネが背中に頭を乗せてきた。

「ごめんね・・・ありがとう・・・」

泣きながらもお礼を言うアカネに、俺たちは2人で頭を撫でるのであった。



-----



 朝の1件以降、特に何を言われるわけでもなく、そのまま放課後になった。

サクとシャルロットとの稽古のため、寮の庭に来ていた。

何人かは挑戦してくると思ってたんだが・・・まあ平和に終わるに越したことはないか。


「それじゃ、早速アンタの剣の舞を見せてちょうだい!」

気が早いぞシャルロット。少しは準備というものがあるが・・・まあいいか。

「1個ずつやるのは面倒だから、4つ続けていっぺんにやってもいいか?」

「あの速度の技が続くってことですか?!」

うん、続かなかったらダンスなんて言わないし。


「俺の剣の舞(ブレイドダンス)弐式(にしき)を起点として、参式(さんしき)伍式(ごしき)陸式(ろくしき)漆式(ななしき)にそれぞれつなげられるんだ。

壱式が1番目なのは姉さんの『疾風一閃(でんこうせっか)』を小さいころから真似してたから、最初に完成したってだけだ。

今からやろうとしてるのは一番長く、弐式→伍式→壱式→肆式(よんしき)の4つがつながってるやつな。」


「順番めちゃくちゃね。コンボ順に1~4じゃダメなの?」

完成した順番に番号つけてるんだから無茶言うな。


今アカネは・・・よし近くに居ないな。

「それじゃせっかくだし、()()()()()()見せてやるよ。」

「ユウリ様の本気がどれだけ速いか、測ってみます!」


速度最大強化(ヘイスト・マキシマム)!!」

通常の速度強化(ヘイスト)とは比べ物にならない量の電気がユウリの身体を覆った。

あまりの強さに、髪型がボサボサになるのが難点だ。

すぅーと息を吸い、左肩の前に両手を出し左斜め45度の角度で剣をもつ。

「行くぞ。」


剣の舞(ブレイドダンス) 弐式 連舞(れんぶ)─ダンストリガー!!

そのままの角度で身体の中央へ斬りつけ、Ⅴの字を描くように自身の右肩の前まで振り上げ


剣の舞 伍式 破剣(はけん)星崩し(ほしくずし)!!

右肩から振り下ろし、自身の左の懐まで振りぬく


剣の舞 壱式 居合─柳閃!!

懐から神速の居合斬りで右まで振りぬき、勢いをそのままに身体を時計回りに回転させ


剣の舞 肆式 旋風─聖十字(ホーリークロス)!!

回転の力を利用しての再びの横薙ぎ、そのままもう1回転しながら跳躍、頭上からの振り下ろし


カチッ

「1.2秒!?」

タイマーを止めたサクがあまりの速さに大声をあげた。

「ちょっと待ちなさい!アンタ今6回斬ったわよね!?」

そうだな、6回だな。


「アンタの強さの秘密が分かったわ。反射速度ね。」

「人間って平均の反射速度は0.25秒で、どれだけ鍛えても最速は0.1秒と言われているのですよね・・・?」

反射速度は人間の脳が考え手を動かすといった、電気信号の伝達速度だ。


ジジイがどれだけ鍛えようとも、その壁は揺るがない。

しかし『神速の剣姫』、そして俺は何故か()()()()()()()()()その壁を破っていたのだ。


『神速の剣姫』こと姉さんの反射速度は、実に0.04秒。

剣の達人が2回行動する間に、姉さんは5回の行動が可能なんだ。

普通の人が相手だと、相手が1回行動する時には姉さんは6回の行動を終えている。


ちなみに俺はというと・・・

「0.07秒ってところですかね。」

サク、正解だ。

「それであの参式が可能になるのね。」

今度はシャルロット正解。参式─桜吹雪の正体はそれだ。

常人が目で視て判断するまでの間に、俺は3度の行動を可能とする。

あたかも同時に3つのかまいたちが飛ぶように見える、というのがカラクリだ。

空気を斬り、飛ばさなくてはならない分、他のダンスよりも体力消費は10倍程度あるのが難点だが。


「でも今の速度、私と闘った時より速かったような・・・?」

反射速度は変わらないが、剣の速度はあげているからな。

「それって手加減してるってことじゃないの?」

シャルロット、ちゃんと聞いてからそういうこと言おうね。無駄に敵を作るよ。


「この速度での剣の舞(ブレイドダンス)は、身体の腱や細胞に負荷がかかりすぎて、3日に1回が限度なんだよ。

これを何度も使うと、剣を振れない身体になっちまうからな。

だから身体強化のレベルを下げて使用しないといけないんだ。」


「まるで過去に1日に何度か使ったような言い方ね。」

鋭いなシャルロット。

過去に1度だけ、1日に3回使ったことがある。

例の姉さんの事件の時だ。

そこから俺はショックと激痛で2年間剣を振れなかった。


アカネの献身的なメンタルケア、リハビリ補助等のおかげで、また剣を取る事ができた。

いくら感謝してもし足りない。

その過去の大変さのせいか、アカネの目の前で最大強化をすると止めに入るのだ。

当然と言えば当然か。


「お2人はずっと仲良しなのですね!羨ましいです。」

「同じ師を持った唯一の同い年だからな。昔から迷惑かけてばっかりだよ。」

「アカネは迷惑とは思ってないみたいだけどね。むしろアンタに追いつくために毎日必死なのよ。」


追いかけられるような大層な背中はしてないけどな。

他人より剣が使えるってだけで驕り、その自分の甘さで姉さんの右腕を失わせ、塞ぎ込んでいるのを助けて貰って、それでいて今も自分のワガママに付き合わせてるんだからな。



「皆さん、お疲れ様です。良ければタオル使ってください。」

イオがわざわざ来てくれた。本当に俺の周りには出来た女性しか居なくて困る。

「それじゃあせっかくだし、サクラ先輩にお手合わせ願おうかしら。」

「いいですとも!あ、でも寮の前だから炎属性魔法剣(サラマンドラ)は禁止で!」

こんなところで炎属性魔法など使われたら大惨事だ。サク、グッジョブ。


その後はイオと談笑しつつ、2人にアドバイスをしながら過ごした。

サクもシャルロットも独学だったので、鍛えがいがあるから今後も楽しみだ。


新人戦本戦開始まで、あと10日。




拙い作品ですが、よろしければ最後まで見てやってください。

よろしくお願い致します。

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