六十五ノ舞「本当に負けず嫌い」
「さて、いよいよ大会も終盤戦の個人戦準々決勝!
ベスト8に残った選手たちによる4試合が行われようとしております!!
実況はクノッサス大神殿守護騎士団1番隊副隊長、ロドリゲス・ヘッジホッグ。
解説はクノッサス王国騎士団2番隊隊長、ルーナ・フォルス・アイギスさんでお送りします。
審判はクノッサス大神殿守護騎士団総隊長、ジークロード・グラッセさんです!
ルーナ隊長はこれまでの闘い、どう見ていますか?」
「前評判通りには進んでいませんね。何より1年生の活躍が素晴らしいです。
中でも名門マジックギルド学院、新人戦優勝のアビスリンド学園。
この2校の選手が3名ずつベスト8に名を連ねるのは、さすがの私も予想できませんでした。」
「確かに今年の1年生は強いですね!
それでは本日の組み合わせをおさらいしておきましょう!
まずは第一試合のAブロック。
マジックギルド学院1年、トニー・フレデリック選手。
対するはアビスリンド学園1年、イオン・フォン・アビステイン選手。
ルーナ隊長が挙げた2校の1年生同士の対決です!」
「ここまで圧倒的な魔法で勝ち上がってきているイオン選手に対し、圧倒的なパワーで勝ち上がってきたトニー選手。
第一試合から見ものですね。」
「そうですね!
続く第2試合はBブロック。
こちらもマジックギルド学院1年、アリス・ポーラン選手。
対するはノースリンドブルム学園2年、ヘノッヘ・ノーモ・ヘッジ選手です。」
「ヘノッヘ選手の強力なユニークスキルに対し、3回戦で伝説級魔法を使用したアリス選手がどこまで魔法を使用させてもらえるかがカギですね。」
「そして何と言っても注目の第3試合、Cブロック!
前回優勝のウエストテイン学園3年、リー・セイ選手。
対するはアビスリンド学園1年、ユウリ・アマハラ選手です!
なんでもこのユウリ選手と、Bブロックのアリス選手はお付き合いされているとの噂です!
真相は未だに明らかになっていませんが、それが事実であればビッグカップルですね。
こちらは個人的にもとても楽しみな試合ですが、ルーナ隊長はどう見ていますでしょうか?」
「お付き合いどうこうは個人の自由でしょう。
外野が色々言うのは失礼だし、2人に迷惑がかかるのでやめてあげなさいよ。
試合に関しては個人的な意見ですまないが・・・ぶっ潰せ。」
「なんとも過激な返答ありがとうございます。
良いことを言ってくださっていたのに、最後の最後でぶち壊しでしたね。
そして本日最終戦は、Dブロック。
マジックギルド学院2年、リシリア・フェイド選手。
対するはアビスリンド学園1年、アカネ・オオヒラ選手です!
こちらの組み合わせはいかがでしょうか。」
「アカネちゃん、うちの隊に入ってくれる気になったかしら。
あの子を鍛えられるのが今から楽しみだわ。」
「とんでもなく私情が入り込んだ解説でもなんでもないお言葉、ありがとうございます。
実況席からはひとまず以上、まもなく第1試合試合開始です!!」
ルーナ隊長、荒れてるなあ。
言われなくてもそのつもりだ。
アカネのことも言われていたようだが、アカネは嬉しい時右耳の前の髪の毛をくるくるいじる癖がある。
それが出ているということは、まんざらでもなさそうだ。
今回は組み合わせの番号が小さい選手と大きい選手で部屋が分かれている。
部屋というよりは、大闘技場の壁に作られた鍵括弧のような囲いの中だが。
対戦する組みあわせで一緒の部屋にならないようにという配慮だろう。
リーと同じ部屋のアリスが心配になるが、トニーもリシリア先輩も居るし大丈夫だろう。
かくいう俺たちはアビスリンド学園3人と、ノースリンドブルム1人という部屋だ。
こちらも変な気を起こさないか心配だが、そもそも面識がないのでおそらく大丈夫だろう。
そもそも観客から丸見えだしな。
トニーとの試合に備え、イオが立ち上がった。
アカネと俺も立ち上がり、ハイタッチで見送った。
「それでは、行ってきます!」
強敵との対戦を前に、気合い充分といった表情のイオ。
シャルロットとサクも近くの応援席に居るだけあり、大歓声の中でもハッキリと応援の声が聞こえていた。
「それでは第1試合。
トニー・フレデリック対イオン・フォン・アビステイン。
試合開始!!」
「大地の盾」
「疑獣化─白虎!」
互いに得意魔法での幕開け。
2人は以前、アビスリンド学園の修練場で手合わせをしていたことがある。
俺とアリスが闘った直後だ。
あの時はイオの火力が足りず、トニーの防御力を突破することができなかった。
対してトニーも、あの時よりも冷静で本気のイオとの対決は初めてだろう。
どちらもあの闘い以降に身に着けた一撃必殺の必殺技があるだけに、どうやってそこに持ち込めるかが勝敗を分けそうだ。
そのほかにも、イオには3回自動で攻撃を受けてくれるスーパーアーマーがある。
それを突破しない限り、どれほどの攻撃力を有していても意味がない。
逆に突破さえしてしまえばトニーの攻撃力であれば、イオは軽々と吹き飛ばされてしまうだろう。
2人の駆け引きにも注目したいところだ。
トニーが突撃するために少し屈む構えを見せた瞬間、イオが『電撃』で応戦。
トニーは咄嗟に左に飛んで躱す。
着地体勢から再び飛び込もうとした瞬間、『電撃』では捉えられないと判断したイオが『大寒波』を発動し、トニーを捉えた。
凍り付いたトニーが『パワーチャージ』と唱えた瞬間、徐々に氷が解けていった。
拳を引き、殴る前に力を溜めるような動作。
溜めるための圧倒的な熱量に、氷が溶かされてしまった。
「天界に昇りし、神聖なる光の加護よ!
その力は闇を照らし、魔を祓い、恵みを齎す!
我が祈り届くことが叶うのならば、その神聖なる輝きを賜らむことを願おう!
光よ!輝きよ!この地全ての闇を祓いたまえ!!」
トニーが足を止めた瞬間、ここぞとばかりに詠唱を開始するイオ。
トニーはその詠唱を止めようと、拳を振りぬいた。
『巨猿の拳!』
2回戦で見せた、飛ぶ拳。
イオに直撃したかに見えたが『大地の盾』が1つ、身代わりとなって砕け散った。
そしてイオはその大振りの隙を見逃さず、詠唱を続けた。
「天空を支配する神々の王、唯一神よ!
我が双蛇双翼の杖にて甦らん!
世界を破壊する力、矮小な寄り手に見せつけたまえ!
雷霆の輝きを以て、全知全能の威を見せよ!!」
トニーも長い詠唱を待つことをせず、イオへと突っ込み拳を振りぬく。
イオの詠唱が終わる前に、トニーの拳が『大地の盾』の全てを砕く。
そのまま殴りかかるのかと思いきやピタリと止まり、バックステップで下がった。
少し距離を取ったところで、『パワーチャージ!』と拳に力を込めた。
イオの詠唱が終わるのと同時に、トニーのパワーチャージも完了した。
後はイオが杖を振り下ろせば神話級魔法が。
トニーが拳を振りぬけば『巨猿の拳』が、それぞれ飛んで行く。
しかし2人はそのにらみ合いから全く動かなかった。
「誘われた匂いがしたでよ。あそこで殴ってたらオラは負けてたべ?」
「やっぱり、ばれてましたか。」
イオが後ろに隠していた左手を纏っていた大きな雷。
普段の『電撃』とはくらべものにならないほどの大きさだ。
おそらく雷属性最上級魔法の、『雷撃』だ。
近寄ってきた瞬間、雷撃がトニーを襲っただろう。
俺の速度最大強化の比ではない量の雷を纏っていたのだ。
イオの頭上に出現していた光の球を、槍に変えてしまう程の高エネルギー。
それに触れれば、痺れる程度では済まない。
改めてイオが両手で杖を掲げると、左手に纏っていた雷が光の槍へと吸収された。
相変わらず何度見ても、魔力の放出と吸収の使い方が上手い。
本来であれば光の槍のために放出されていた『雷撃』を、自身の左手に少しだけ吸収していたのだ。
それにより長い詠唱の間に攻撃をされるリスクを軽減させた。
直接攻撃であれば間違いなく、相手を戦闘不能にさせることができただろう。
対してトニーはその危険を感知し、距離を取った。
そして直接触れない飛ぶ拳を攻撃手段とするために力を溜めたのだ。
イオが詠唱した短い時間で、これだけハイレベルな攻防がされていた。
本当に俺はこの2人に勝ったのかと思ってしまう程だ。
その驚きは、この大闘技場の大歓声を聞けばどれほどの攻防だったかが分かり得るだろう。
真後ろが観客席なだけに、先ほどから耳が痛い。
しかし歓声を上げるに相応しい攻防を見せてくれている。
そして2人の必殺技の準備が整っている。
互いに今持ちうる最高攻撃力同士のぶつかり合い。
これを制した方が、おそらくこの試合の勝者だ。
「そろそろ行くべ。『巨猿の拳』!!」
「負けません!『雷霆纏いし光の槍』!!」
トニーが拳を振りぬき巨大な腕が出現すると同時に、イオが杖を振り下ろした。
巨大な腕に光の槍が着弾し、ギリギリと大きな音を立てながら火花を散らした。
「うおおおおおおおお!!」
トニーが振り切った拳にさらに力を込め、徐々にその腕の大きさをあげていった。
どうやらシャルロットの『大輪の狐百合』のように、あとから魔力を追加することで威力を増すタイプの攻撃のようだ。
俺に斬られ、シャルロットにも傷をつけることの出来なかったイオの神話級魔法。
それが徐々に押され始め、ミシリと音を立てた。
しかし、うちの王女様はその程度でめげるような、やわな子ではない。
杖を飛ばした槍に向けて伸ばし、腕を右回りに回しながら唱えた。
『雷撃』!!
螺旋状に飛ぶ『雷撃』は光の槍に触れるや否や、それを高速に回転させ始めた。
雷のエネルギーを利用し、先に飛ばした魔法に追加の効果を付与する。
今イオがやったのはこういうことだ。
そして、回転というのは一点突破能力が非常に高まる。
釘を打つのもトンカチで叩くよりも、電動ドライバーを使った方が速く、深くまで刺さる。
それと同じ効果が付与された光の槍は、瞬く間に『巨猿の拳』を貫いた。
トニーの右肩すれすれを通過しズドンと大きな音を立てて、大闘技場の壁に半分以上埋まったところで霧散した。
「ふぅ・・・あれを貫かれたら、オラの負けだべ。」
両手を上に挙げて降参のポーズをとるトニー。
杖をまっすぐにトニーに向けて、肩で息をするイオ。
残った魔力で言えばイオの方が少ないだろう。
しかし最大攻撃力を有する技が真っ向から破られては、試合に勝っても気持ち的には負けだろう。
そして何より、攻撃を貫いたあとイオはわざと光の槍の軌道をずらした。
トニーに大けがをさせないための配慮だ。
真っ向勝負をしてくれた上にそんな配慮をしてくれたイオを称えるための、潔く気持ちのいい降参だった。
「トニー・フレデリック降参により、勝者イオン・フォン・アビステイン!!」
「やっぱアビスリンドのメンバーはつえぇなあ。またやるべ!」
笑顔でそう言い、腕を組もうと右腕を出すトニー。
「ありがとうございます。また機会があれば是非!」
と、トニーの意図を察して腕を組もうとしてフリーズするイオ。
高さがまったく合わず、腕を組もうと右腕を高く挙げてぴょんぴょん飛び始めた。
なにあれめっちゃ可愛い。
「おっと、すまんでよ。」
そう言いトニーが膝立ちになりようやく高さが合い、ガッシリと両者の右腕が組まれた。
腕の太さが大根とアスパラくらいの差があるんだが、まあそれは置いておこう。
なんにしてもイオの可愛いところが見れ・・・じゃなくて。
アビスリンド学園からベスト4入りが出たのだ。
仲間として、これを喜ばずにいられない。
思わずアカネとハイタッチを交わした。
笑顔で戻ってきたイオとも両手でハイタッチを交わし、喜びを分かち合った。
以前まで神話級魔法1発で魔力切れを起こしていたのに、今は肩で息をしているだけだ。
また隠れて1人で特訓していたのだろう。
うちの王女様は本当に負けず嫌いだな。
そして続く第2試合。
ライバルが勝利したことで目に見えて燃えている、アリスの応援と行こうか。
拙い作品ですが、最後までお付き合い頂けたら嬉しいです。
今後ともよろしくお願いいたします!




