六十四ノ舞「待ってるから」
翌朝、簡単な検査を受けて退院。
昼前ではあるが、昨日の約束通りアリスを誘ってクノッサスの街を歩くとしよう。
今日は闘技場での闘いはないのでマジックギルドの宿に居るだろうということで、ゆっくりと散策しながら向かっている。
試合スケジュールに乗っ取って生活をしていたので、今日が何曜日だか全く分からない。
まあ人が多いのを見ると週末なのだろう。
昼前ということもあってどこの店も多くの人で賑わっており、店内での飲食をするには時間がかかってしまいそうだ。
どうしたものかと歩いているうちに、目的の宿の前まで来てしまった。
まだ考えがまとまっていないのだが鼻が利く相手はごまかせなかったようで、窓から飛び出してくる大きな影と小さな影。
なんというか・・・俺は動物に好かれる体質なのだろうか。
「よぉ、ユウリ!」
「敵情視察とはいい度胸だね!」
嬉しそうに腕を組んでくるトニーと、小さい身体をめいいっぱいふんぞり返しながら腕を組む、ナナシー・ヘンドリクスこと褐色ロリ。
「お久しぶりです、褐色ロリ先輩。」
「君は本当に失礼な奴だね!?何なら今ここで再戦してもいいんだよ!!」
敵情視察のつもりなど全くない。
というかアリスと街にでかけると聞いていないのだろうか。
ナナシー先輩をスルーしつつ、ふと顔をあげると窓からちょうど顔を出したアリスと目が合った。
思わず手を振ると、溜息をつきながら窓から顔をひっこめてしまった。
すぐに宿から出てきてトニーには蹴りを、ナナシーには杖をつきつけた。
いつもの光景ながら、いつもより殺気が凄いぞアリス。
「わたし、勝手に先に出るなと言っておいたはずですよね・・・?」
「ち、違うにゃアリスちゃん!これは、その・・・トニーが勝手に!!そう、先輩としてトニーを止めようとしてだね!」
「ナナシー先輩が先に飛び出したべ。」
「どっちでもいいから、早く部屋に戻りなさい!」
「「はい・・・」」
肩を落とし、しゅんとしながら部屋へ戻っていく犬と猫2人。
アリスは怒らせてはいけないというのがよくわかった。
その光景に頭を抱えながらため息をつくアリス。
「大変だな。」
「本当に大変なのよね。ごめんなさい、こんな見苦しいところを。」
「大丈夫だよ。帽子、似合ってるぞ。」
「ふふ、ありがとう。」
大きな麦わら帽子に薄い水色のワンピース、手にはお弁当でも入っていそうなピクニックバック。
もう6月も終わりが近づいているだけあり、だいぶ暑くなってきた。
とても涼しげな恰好のアリスに癒されるのは、俺だけではなさそうだ。
普段から視線を浴びることの多いアリスだが、今日は宿を出てすぐに視線を集めていた。
「あの2人って『全能』と『雷光』・・・?」
「あら、知らなかったの?この前もデートしてたわよ、あの2人。」
アリスだけじゃなかった。
個人戦で勝ち進むというのは、決闘都市であるクノッサスでは有名になるということか。
そうこうしている間に、かなりの人だかりができてきた気がする。
ベスト8のうち3人も勝ち残っているマジックギルドだ。
有名な選手を一目見ようと人が集まるわけか。
なるほど、それでさっきアリスは2人を急いで部屋に戻したわけだ。
かくいう俺も飛んで火にいる夏の虫みたいなものだろう。
ここで囲まれては、せっかくのアリスとのおでかけができなくなってしまう。
楽しみにしてくれているだけに、それは嫌だな。
「アリス、ちょっとごめんな。」
「えっ、きゃっ!?」
咄嗟にアリスを抱え、速度強化を発動。
そのまま一気にクノッサスの外へと走り去った。
この行動が、後で大騒ぎになるとはこの時は思っていなかった。
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「ここまで来ればひとまず安心かな。」
初戦の前にアリス達と特訓をした丘まで一気に駆け抜けた。
街を歩く予定だったのに、クノッサスの外まで来てしまった。
まあ街の中に居るといつ囲まれてもおかしくはなかったから、こちらの方が安心ではある。
「わたしは嬉しいのだけど・・・その、重くないかしら・・・?」
咄嗟に抱えて公衆の面前でお姫様だっこ。
そのまま逃げだしてここまで来て。
重いかどうかと聞かれて下ろしたら重いと言っているようなものなので下ろすわけにもいかない。今ここ。
いやむしろ軽いのだけど、このままでは精神的にもたない。
そう伝えて下ろすことにした。
「あれだけ囲まれちゃ仕方ないけど、せっかくならゆっくり歩いて来たかったわね。」
「そうだな。帰りはゆっくり歩いて帰ろう。」
木陰に腰を下ろしつつ、2人で色々な話で盛り上がった。
中でも、マジックギルドとアビスリンドの授業の違いに驚いた。
全ての授業に魔法を使用するらしい。
基礎の魔法ができていないと参加できない授業もあるらしく、やはり魔法という点ではマジックギルドの上をいく学園はなさそうだ。
あとは仲間のことや個人戦のこと。
そして家族のこと。
プラグニス達は昨日、俺が目を覚ます前にブライデンに戻っていったそうだ。
「将来僕の息子になるつもりなら、個人戦で優勝くらいはしてもらわないと困る。」
と言われ、危うく病院内で親子喧嘩しそうになったと苦笑いで言われた。
目が覚めた時に病院が原型をとどめていて本当に良かった。
途中で開けてくれたお弁当には、綺麗な形のおにぎり、唐揚げと玉子焼きが入っていた。
以前ゆっくり食べられなかったことを悔やんでいたのを見て、今回も作ってくれたらしい。
どれも本当に美味しく、1つ1つ具材の違うおにぎりには驚かされた。
どれだけ手間をかけてくれたのやら。
アリスは良い奥さんになるだろうな。
現状、あんまり他人事ではないのだけど。
お弁当を作るのに寝る時間を削ったであろうことは想像できたが、食べ終えてしばらくするとアリスが俺の肩に頭を乗せて眠ってしまった。
木陰なので少々涼しく、お弁当を食べて腹が満たされたことによって眠気が襲ってきたのだろう。
昨日も思ったがこんなにも平和で、幸せな時間が戻ってきてくれて本当に良かった。
しばらくして俺も眠気に襲われ、2人並んでぐっすりと眠ってしまった。
目を覚ますと夕方になっていた。
アリスの頭に頭を乗せて寝てしまったみたいだ。
慌てて頭を移動すると、「あら、起きちゃったのね」と残念そうな声で呟かれた。
起きていたなら起こしてくれればよかったのに。
立ち上がり首を回して伸びをするとずいぶん楽になった。
「そろそろ帰りましょうか。」
「そうだな。寝てばっかりで何もできていなくてごめんな。」
「わたしも寝ちゃってたし、良いわよ。安心しきった寝顔も見れて嬉しかったわ。」
いつの間に見たというのだ。
アリスの首は俺の頭と肩に挟まれていたというのに。
「ふふ、分身を使えるのは旦那様だけじゃないのよ。」
魔法に対する(無駄に)天才的なアプローチ!
いや喜んでいるのなら無駄じゃないのか?
もはや何が正解か分からん。
ともあれ、帰りはゆっくりと歩いて帰ろう。
アリスが嬉しそうに手をつないできた。
まあ、この笑顔が見れただけでも今日は来た甲斐があったか。
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クノッサスに戻ると、朝以上に視線を感じる。
囲まれないように避けながら、なんとかアリスを宿まで送り届けた。
こちらも裏道を通りながら、無事に宿に到着。
部屋に戻るなり、シャルロットとアカネが詰め寄ってきた。
「ユウ、街はアンタとアリスの話題で盛り上がってるわよ。」
「ビッグニュースだって号外とかも出てたもんね。」
まじか。
そんな大騒ぎされても、良い思いはしないってのにな。
アリスは大丈夫かな。
繊細なところもあるから、これによって出歩くのが辛く感じたりしないだろうか。
思考を巡らせていると、シャルロットに身体を押された。
「迷うくらいなら行ってあげなさいよ、バカ。」
押されるがままに部屋を追い出され、仕方ないのでそのまま再びアリスの居る宿へ。
注目を浴びないように速度強化で走り抜け、宿の近くまできた。
入口には人が何人も集まっており、普通に入るのは難しそうだ。
しかしさっきも思ったが、窓を閉めてても動物の鼻って利くんだな。
再びトニーが窓を上に開けたのが見えたので、そのスピードのまま宿の壁を蹴りあがった。
思い切り右腕を伸ばすも、あと数センチ届かず。
身体が自由落下を始めた瞬間、トニーに腕を掴まれた。
「サーンキュ、トニー。」
「前から思ってたけど、ユウリも結構頭悪いべ。」
失礼な。
少なくとも今この状況で一番厄介ごとがなく入れるベストな方法なはずだ。
トニーに身体を引き上げられ、部屋へと到達した。
「えっ、旦那様!?どうしてここに?」
部屋に入るなり、アリスの驚いた声が響いた。
トニーの隣で褐色ロリが色々騒いでいるが、スルーしておこう。
もう1人のマジックギルドの代表には初めて会ったかな。
「突然お邪魔して申し訳ありません。
アビスリンド学園代表の、ユウリ・アマハラです。
大騒ぎになっていたもので、アリスが気にしていないかと心配になり、馳せ参じました。」
「確かにウチらも気になってたけど・・・まあとりあえずゆっくりしていきなよ。
マジックギルド学院2年主席、リシリア・フェイド。
明日そちらのアカネ・オオヒラさんと闘う予定のね。」
確かにABCブロックは全員顔を知っていたな。
2年主席ということは並大抵の相手ではないだろう。
アカネもここに来て正念場だな。
おっと、今はそれは置いておこう。
「アリス、こんなに大騒ぎになって申し訳ない。大丈夫か?」
「ええ、ちょっと外に出づらいくらいで大丈夫よ。」
それは大丈夫ではないのではないだろうか。
過去のことを聞いてしまったために、余計に心配になってしまう。
「2人ってお付き合いしているわけではないのかい?」
リシリア先輩が興味津々といった様子で聞いてきた。
コーヒーを出してくれたので、良い人だ。
俺の持論だが、コーヒー好きに悪い人は居ない。
「今はお付き合いしているわけではないわ。
わたしは将来的に添い遂げたいと思っているけれど。」
「今は、ね。これはハッキリしない君も悪いんじゃないかな。」
褐色ロリ先輩もたまにはまともなことを言うんだな。
・・・いや、ごまかすのはやめよう。
ハッキリと、か。
自分の素直な気持ちで向き合わないと、確かに失礼だよな。
深呼吸する俺に、4人のマジックギルド代表が視線を送る。
いや結構緊張するんですよ、こういうの。
「俺は・・・正直、アリスに惹かれています。
アリスの言うような、将来共に過ごす未来も良いなと思っています。
ただ、アリスの身分。宮廷魔術師の娘ですね。
それに対して僕の身分が釣り合わないのも事実です。
それはおそらく、プラグニスさんが言っていた個人戦で優勝くらいしないと、という言葉からも読み取れます。」
「じゃあ、諦めるのか?」
ナナシー先輩が怒気を含んだ口調で殺気を放つ。
それにひるまずに首を振った。
「今言った言葉は全て俺の本心です。
簡単にはあきらめたくありません。
だから・・・アリス。」
アリスの方へ向き直り、まっすぐに目を見つめた。
顔を赤く染めて恥ずかしそうにしているが、俺の顔もかなり赤くなっていることだろう。
「2年、待ってくれないか。
俺がその2年間、学園在学中に君と釣り合えると思える結果を必ず出す。
もしそれが達成できなかった時は、諦める。
でも達成できたときは・・・結婚しよう。」
アリスは顔を抑えてへたり込み、泣き出してしまった。
言葉選びを間違えたかと思い周りを見渡す。
トニーはやれやれと言った表情。どっちだよ。
リシリア先輩は、まあ!と言った驚いた表情。これもどっちか分からん。
残すはナナシー先輩。
恐る恐る顔を見ると、溜息をつかれた。
やっぱりダメだったか・・・?
「ユウリ君。今の言葉、噓偽りはないね?」
初めて名前を呼ばれて心臓が跳ねた。
しかし今の言葉は紛れもなく俺の本心だ。
力強く頷くとナナシー先輩はフッと笑い、アリスの頭を撫で始めた。
「良かったね、アリスちゃん。素敵な男じゃないか。
外の処理は任せておけ。行くぞトニー。」
そう言ってトニーの腕を引っ張り、窓から飛び降りて行った。
トニーが頭から下に向かっていったけど大丈夫だろうか。
リシリア先輩も部屋から出ていこうとするが、今のアリスと2人きりになるのは恥ずかしすぎるので目を見て思い切り首を振って動きを止めさせた。
「ユウリさん。わたし・・・待ってるから。」
「ああ、約束だ。必ず結果を出してみせる。」
「うん・・・!」
その後はアリスが泣き止むまで傍に居た。
結婚、か。
正直これから先は、どうなるかは分からない。
それでもアリスの悲しむ顔は見たくない。
2年と言わず、今年の新人戦で結果を出すつもりでいかなくては。
決意新たに、いよいよ終盤の準々決勝を迎える。
拙い作品ですが、最後までお付き合い頂けたら嬉しいです。
今後ともよろしくお願いいたします!




