六十ノ舞「信じろ」
-----シャルロット視点
サクラ先輩とアリスの試合直後。
情報を共有するため、ユウ達と合流した。
医務室に向かいながら説明すると、ユウも珍しく驚いた表情を見せた。
死んだはずの人間が生きていて、自身と対戦したことのある人間が実は幻術で姿を変えていたのだ。
驚くのも無理はない。
しかし切り替えの早さには逆にアタシが驚かされた。
歩きながらも即座に作戦を考え始め、「サクが必要だな」と呟いていた。
ユウは学力テストの下から2番目という結果ではあるが、実際はアタシよりも頭がいいと思う。
勉強には熱がないと言ってしまえばそれまでなのだけど。
間違いなく地頭は良いのだ。
「ルーナ隊長がここに残ってくれるなら、トニーはここでアリスの警護を頼む。
擬獣化で敵からの攻撃の臭いを感知したら、すぐにルーナ隊長に知らせてくれ。
アカネは外の守備を頼む。
直接乗り込んで来るようならアカネとトニー2人で応戦してくれ。」
ユウが即座に考えた作戦を皆に説明している。
こういう時の真面目なユウの目は、カッコよくて大好きだ。
普段の眠そうな目も大好きだけど。
「もし遠距離から攻撃してくるような相手だったらわたしじゃ対応できないよ?」
アカネが言葉を返すけど、その言い方だと乗り込まれても対応出来ると聞こえる。
実際そうなのだろうけど、ホント自分の実力に自信があって羨ましいわ。
「その時は攻撃の方角を見てくれ。
その延長線上に絶対に敵は居る。
この中で一番信頼出来る目はアカネだからな。
それを叩くのはシャルル、任せていいか?」
いきなり声をかけられて驚いた。
狙撃手相手なら、長距離を移動しなければならないわね。
「移動手段はどうするの?」
「俺の分身を置いておく。
速度強化で背負って走るくらいしか今は浮かばねぇな。
その場合アカネはそれを追って、到着次第シャルルの補佐にまわってくれ。」
なるほど、それなら時間をかけずに距離を詰めれる。
分身とはいえユウにおぶられるのか。
嬉しいような恥ずかしいような。
「イオは俺と一緒にリーの試合を見てほしい。
魔法を使った痕跡があるかどうかを確認したい。」
イオが頷き、「分かりました」と短く返事を返す。
観戦デートいいなあ。
この前は酷い服装だったから、今度まともな服でリベンジといきたいところだ。
「俺が木刀で何かしら合図をするから、その時にサクと入れ替わってほしい。
サクにはイオに化けてもらって、闘技場からここに向かってもらうつもりだ。
敵が釣れた場合、イオに万が一があっては困るからな。
躱すことに長けているサクに任せたい。
サクの正体がバレたら、姉さんは仕掛けてくれ。」
師匠が「後手で良いのか」と問うと、ユウは頷く。
「仮にも個人戦出場者だからな。
先手で殲滅したら、理由はどうあれ今後の大会を見る目に影響が出かねない。
相手から攻めてきた後なら正当防衛で押し通せる。
それに、相手の正体をこちらが確実に見たという事実を奴らに植え付けたいからな。」
なるほど。
相手の逃げ道を無くすわけだ。
仮にその後幻術などで逃げられたとしても、正体がバレていると認識した以上は派手な行動はできないだろう。
そんなことをしようものなら、クノッサス守護部隊全員を敵に回すことになる。
諦めて投降するだろう。
簡単に言うと相手の勝利条件から、「気取られずに逃げおおす」というのをなくしてやろう。
「事が大きくなる前に、ルーナ隊長と神速の剣姫を含む全員の撃破」
それだけにしてしまおう、ということね。
まあ正当防衛にするとルーナ隊長の前で宣言しているのはどうかと思うけど、話している感じでは見て見ぬふりをしてくれそうだ。
しかし大闘技場からここまでの道のりで、この作戦を思いつくとは。
やっぱりユウは頭がキレる。
勉強が出来るよりも、よっぽどこちらの方が凄いと思う。
それにしてもアリス1人を護るのに王国最強の盾のルーナ隊長、嗅覚に絶対の信頼のあるトニー、剣の守備力は鉄壁を誇るアカネという、とんでもない布陣ね。
状況が状況だけに仕方ない事とはいえ、ちょっと嫉妬しちゃう自分が嫌だわ。
-----通常視点
翌日の昼過ぎ。
神速の剣姫は幻術使いを前に、自らの剣を抜き放ち必殺の付与術を発動していた。
学生時代に最強と謳われたその剣は、現学生が決して届くことの無い高みに君臨している。
しかし当の本人には油断、驕り等は微塵もない。
どれだけ相手が矮小な存在であろうとも、一切手を抜かずに全力で叩く。
それがミドリ・アマハラという人物。
その戦闘スタイルの結果として、学生時代3年間の出場した試合でただの一度の敗北もない。
絶対強者である神速の剣姫を目の前にしている相手は、例に漏れず萎縮していた。
普段はルクス・アーク・フェギナに名と姿を変えていたが、現在は違う姿になっている。
というよりは元の姿、チャンドラ・シルバー・サージの姿だ。
驚きと恐怖で目を見開き、冷や汗を流しながら身体を震わせている。
しかし如何にミドリが最強と言えど、幻術が効かないわけではない。
ミドリが距離を詰める前からチャンドラは幻術を発動していた。
ユウリに対して使用した幻術は、「有り得る未来の中の1つから1秒で6時間程度の未来視を見せる」といったものだった。
今回は「その人物が最も敵にしたくないと思っている相手に襲われ、受けた傷は現在の自分も受ける」という具合だ。
1秒間に3時間程度と体感時間は短くなるものの効果は絶大で、これまでにこの幻術に耐えたものは誰一人として居ない。
あのアリス・ポーランでさえ1秒経たずに血塗れで倒れたのだ。
如何に神速の剣姫と言えど、それに耐えられるか。
チャンドラにとっても賭けではあったが、これが通用しないのであればこの先どのような幻術もこの相手には通用しないと確信していた。
それでも1秒経つか経たないか。
瞬きをする間もなくチャンドラの胴は大きく斬られ、地面に沈んでいた。
左手で剣を持ちながら、その姿を見下ろす神速の剣姫。
脳の負担に頭痛を覚え汗を大量に流し、疲労で肩で息をしながらも、その口端は大きくつり上がっていた。
「礼を言う。
近い将来で、最も見てみたい景色だったぞ。」
-----ミドリ視点
アカネほどでは無いにしても頭の出来が良くないアタシだが、シャルロットとユウは違う。
あの2人の頭の中では、アタシの想像もつかない思考が巡っているのだろう。
そんなアイツらが言うのだから、素直に信じておくとしよう。
教える立場でありながら、生徒にこんなにも教えられることがあるのだ。
これほど面白い職業があるとは思っていなかった。
教育者はこの先も辞められねぇだろうな。
ルクスとしての姿であれば魔力の上限が引き下げられるが、元の姿であればその枷はなくなる。
つまりアタシを倒そうと、全力の幻術を打てるということだ。
それもユウが言うには、どのタイミングで幻術にかけられたかが分からなかったらしい。
今のこの睨み合っているだけの状況ですら、奴の幻術の中かもしれないということだ。
そんな相手とは闘ったことねぇな。
ふとそんなことを思ったが、使用者が世界に1人だけのユニークスキルなのだからそりゃそうかと目を瞑り自嘲気味に笑いながら、すぐに自身でツッコミを入れた。
その瞬間、左右両方からの殺気のこもった斬撃に襲われた。
目を開けるよりも先に神速の剣を振るい、その二振りを薙ぎ払う。
気付けば普段のニヤリとした笑いではなく、本当に心から楽しいと思っているかのような笑顔をしてしまっていた。
目を開けなくても分かる。
最愛の2人の気配を、アタシが分からない訳がない。
最も敵にしたくない2人。
けれども同時に、最も闘いたい2人だ。
「ごめんユウ!一瞬遅れた!」
「大丈夫だ。次行くぞ、シャルル!」
視界に居たはずのチャンドラが居ない事など、今はどうでもいい。
最愛の弟と、最愛の弟子の2人を見据える。
今よりも数年後の姿だろうか。
少しだけ背の伸びたユウ。
身体そして剣の腕も間違いなく成長しているシャルロット。
幻術なんてものの相手は、どんなことが起きるか分からなかった。
だから正直に言うと、少しだけビビっていた。
それでも今は。
2人の攻撃を捌きながら、思わず叫んでいた。
「ハッ!!最高かよ!!」
2人の息はピッタリ合っていて、アタシの速度をもってしても危ないと思わされる場面ばかりだった。
シャルロットが『飛翔竜剣』を放ち、ワンテンポ遅れて『壱式』をユウが放ってくる。
『飛翔竜剣』に対応するとユウから重い一撃をもらい、ユウを意識していると炎竜が飛び込んでくる。
その強烈なコンビネーションに対し、『疾風一閃』で炎竜をかき消しつつ、その振った剣でユウの剣を受け止める。
そんなギリギリの攻防が続いていた。
ギリギリと言う割には楽しんでしまっている自分が居るが。
幻術とは分かっていても、この時間がいつまでも続けばいいと思ってしまう程に。
「シャルル、まだ行けるよな?」
「誰に言ってんのよ?とーぜんでしょ!」
ユウと比べると体力の劣るにも関わらず、大技を連発しているシャルロットに先に疲労感が見えてきた。
それでも最近では徐々にではあるが体力がついてきたと思う。
そして今対峙している2人は、数年後の姿。
今の2人を相手にするよりも数段強くなっている。
今ですら当然、この程度で根をあげるような鍛え方はしていない。
つまりシャルロット本人の言うように、まだ全然余力はあるのだろう。
何よりユウの『剣の舞』が、まだ全然出てきていない。
変わらず9つなわけがないだろう。
それらが出始めてこのコンビネーションを続けられたら、本格的にやべぇな。
負けてやるつもりは毛頭ねぇけど。
どれほど時間が経過しただろうか。
コンビネーションの中で放たれるユウの『剣の舞』を拾漆まで全て防いだところで、ようやくシャルロットが疲労と魔力切れが近いのか膝を着いた。
かくいうアタシとユウも肩で息をしている。
体感で2時間以上、全力で打ち合えばそうなるか。
足を震わせながら立ち上がろうとするシャルロットに対し、「次で決めよう」とユウが手を伸ばす。
その手を取り、支えにしながら立ち上がるシャルロット。
「行くぞ、姉さん。
俺たちの最強の技で、勝ってやる。
速度最大強化!」
ユウがここに来て、アタシの知る限りの最速に至る。
そして助走から一気に加速してこちらに距離を詰めてきた。
「炎舞─黄竜の煌めき!!」
その後ろからシャルロットが上段からの振り下ろし。
金色に輝く剣戟が、ユウに向かって一直線に飛ぶ。
「「結束!」」
輝く剣戟がユウを捉えた瞬間。
ユウが纏っていた身体を覆うほどの雷が、シャルロットの放った光の形を変えた。
まるで竜の頭へと姿を変えた光を纏うユウが、速度を上げて飛ぶようにこちらに向かう。
剣を大上段から振り下ろすと同時に振り上げた。
「「結束神話級 舞納─神竜の顎!!」」
アレにそのまま触れれば、間違いなく跡形もなく吹き飛ばされる。
そんな直感からか片手で剣を振るう普段とは違い、両手で振るった。
アマハラ流最終奥義を10歳という若さで習得したミドリは、その技を一度も最終奥義と名乗ったことはない。
名乗ってしまえば、自分の剣がそこで完結してしまうと思ったからだ。
祖父であるサムライが到達した剣技の終着の、さらに先。
そこを追求し続け学園入学までの5年間、そしてルーナというライバルとの研鑽を続けた3年間。
8年かけて、その境地へと至った。
研鑽をし続けてくれた友との出会い、縁の結びに感謝を込めて。
遠い東の地、天地開闢の際の最高神の名をお借りし、その名を技名とさせてもらった。
それでもまだ最終奥義とつけないのは、剣士としてのプライドゆえ。
24歳という若さで、自身の剣を完結させるつもりは毛頭ないからだ。
『天地初発乃時─アメノミナカヌシ』
ユウリがイオとの闘いで使用した最終奥義よりも速く人間が目視、認識することは不可能な速さの剣。
それを両手で、野球のフルスイングのように振るった。
ズバンッ─
実際にはそんな程度の音では済まなかっただろう。
ユウの剣を斬り、竜を真っ二つに斬り裂いた。
当然ユウも無傷では済まず、胴から大量の血を流し大の字で倒れた。
シャルロットは魔力切れで前のめりで突っ伏しながらも、信じられないといった表情でこちらを見ている。
バキッ─ガシャァン─
右腕の義手がその威力に耐えれずに肘から折れて、地に落ちた。
左手親指も折れている。
義手の付け根である二の腕に激痛が走り、その2つの痛みで幻術の意識が徐々に薄れてきた。
意識が完全に戻る前に、幻術とは分かっていてもこれだけは言っておきたい。
「アタシからの最後の教えだ。
お前らの敗因は、今の技を完成と思ってその名をつけたことだな。
もっと自分自身の努力を信じろ。相方を信じろ。
実力を認めあっているのなら、互いにこの程度で終わるわけがないと信じろ。
決して立ち止まらず前を向き歩み続けろ。
アタシはその先に居るぞ。
・・・『神竜の顎』、良い技だった。」
ユウは右腕で目を隠して悔しさに震え、シャルロットもまた顔を地につけ剣を握った右手を震わせていた。
「「ありがどうございばした!!!」」
涙に震えながらも大きく叫ぶ、最愛の2人。
悔しさに本気で泣けるコイツらだからこそ、越えられる。
目の前に立ち塞がる壁も、アタシをも。
アタシはそう信じている。
薄れゆく幻術に名残惜しさを感じながらも。
これからの2人の成長を後押ししてやろう。
改めて、そう心に決めたよ。
チャンドラを倒したところで、トニーが様子を見に来た。
その姿に安心して気が抜けてしまったのか、先程よりも頭痛を酷く感じる。
トニーにサクラ共々担がれながら、疲労感に目を瞑った。
拙い作品ですが、最後まで読んでいただけたら嬉しいです!
今後ともよろしくお願い致します!




