五十九ノ舞「お前を弟子にして良かったよ」
アリス対サクの試合が終わり、Bブロックのもう1試合が行われてようとしていた。
そんなものを観戦するはずもなく、皆と合流して医務室へと向かう。
アリスに事件のことを聞くためだ。
しかし魔力切れの場合、数時間は眠らないと回復しない。
もし話せる元気があれば、くらいの気持ちだ。
その道中でシャルロットから調査の報告を聞き、今までの情報と合わせる。
今までになかった情報もあり、これが事実ならとんでもないな。
今までの俺たちは、完全にないものを追わされていたことになるぞ。
医務室へと到着すると、先客が居た。
姉さん、ルーナ隊長、マリーナ、トニーだ。
シャルロット、イオ、アカネと共に部屋に入ろうとすると、ルーナ隊長が口元に人差し指を当てて静かにと合図を送ってきた。
どうやら2人とも寝てしまっているらしい。
それならわざわざ全員でここに居る意味は無い。
ルーナ隊長に外に居ますと合図を送り、踵を返した。
そのすぐ後に、全員が部屋から出てきた。
情報を得られなかったのであれば、こちらで作戦を練ろうということだろう。
「ここの警護は私にやらせてくれないか。
犯人について一番情報を持っているのはアリスくんだからね。
魔力切れを起こしている今、狙われる可能性は極めて高い。」
ルーナ隊長がそんな申し出をしてきた。
王国最強の盾が警護するとは。
そんなところに仕掛けてくる奴は居るのだろうか。
「お前、存外暇だよな。」
ゴツッ─
姉さんの頭に王国最強の盾が振り下ろされ、姉さんの金髪が赤く染まった。
軽くホラーな状態なのだが、医務室に1人患者が増えないか心配だ。
「この際に溜まりに溜まっている有給を消化しようと思ってな。
理由を話したら、大会の最中にとボヤかれたが快諾してくれたよ。
普段の功績を考えると断れる理由がないってな。
お前とは違うんだよ。」
「失礼だな、お前!
アタシも学園長として真っ当に働いてるっての。
それにお前の有給は、使う相手が居なくて溜まっただけだろうが!」
ギャーギャーと騒がしいやり取りに全員が驚いていた。
しかし相手が居ないのは自分もなのでは。
罵声が「守るしか脳のない盾女」とか「ちっちゃいまな板」とか、小学生みたいになってきた。
いいぞ、もっとやれ。
しかし姉さんがこれだけ気軽に言い合える人というのは初めて見た。
学生時代から2人はこんな感じだったのだろう。
ちょっと見てみたかったな。
しかし姉さん、顔が真っ赤に染まったままだけどそんなに叫んで大丈夫なのだろうか。
・・・血の気多そうだし、もう少しくらい出しておいた方が良いか。
「とりあえず、サクとシャルルが集めた情報を元に気付いたこと。
そしてその裏付けが取れた時の作戦なんだけど。」
俺の言葉に、一瞬で真面目モードに切り替えて作戦の話を聞くルーナ隊長。
2人とも真面目な時はカッコイイんだけど、中身が子どものままなんだな。
そして何よりサクに感謝だ。
アリスとの試合中も、分身を街中走らせて有力な情報を入手してくれた。
試合が無さそうと判断したからというのもある。
しかしその状態で、アリスとほぼ互角に闘っていたのだ。
うちのシノビ凄いだろ。
思わず鼻が高くなるが、ひとまず情報の共有からだ。
-----
結局夜の襲撃はなく、翌日。
このまま何も起きないならそれでいいのだが、おそらくそんなことはないだろうな。
「本日はCブロック3回戦をお送り致します。
第1試合は前年度優勝の、リー・セイ選手。
対するはセントラル・ポート学園3年首席、アジャク・トップラー選手。
未だ試合開始前ですが大闘技場は超満員の盛り上がり!
今日はどんな試合を見せてくれるのでしょうか!」
さて、そろそろ化けの皮を剥がさないとだな。
隣でイオが目を凝らして待機、準備万端だ。
審判含め3人が壇上へ上がり、試合開始がコールされた。
「それでは、試合開始!」
キンッ─
2回戦と同じく、リーが剣を鞘に収めた。
その2秒後。
こちらも2回戦と同じく、対戦相手がリングへ沈んだ。
「アジャク・トップラー試合続行不可能!
勝者、リー・セイ!」
「3回戦も圧倒的な強さー!!
前回優勝のリー選手、瞬殺でベスト8進出です!!」
イオの方を見ると目を瞑り、ふうと一息ついたところだった。
何か見えただろうか。
「ちゃんと見えましたよ。
何もしていないというのが。」
やっぱりそうか。
イオが魔法の痕跡を見逃すはずがない。
そして前回のシャルロットに加え、俺が2回も剣の軌道を見逃すはずがない。
つまりは、本当に剣を鞘にしまっているだけなのだ。
あの斬撃は間違いなく反則行為。
ひとまずそれが分かったのは収穫だ。
木刀を抜き放ち、壇上に居るリーに剣先を向ける。
必ず俺たちで引きずり下ろしてやるからな。
この後イオはルーナ隊長にその報告に行くことになっている。
俺はこの後試合なので、一緒に行くことはできないから心配だ。
「イオ、移動中は『大地の盾』を切らさないようにな。」
「はい、ご心配ありがとうございます。
では行ってきます!」
『大地の盾』を発動し、大闘技場を後にするイオを見送る。
頼むぞ─姉さん。
-----イオ視点
あまり体力に自信があるわけではないですが、この情報はいち早く届けないと。
その気持ちから、あまり得意ではないダッシュで医務室に向かっている。
この小さい身体、狭い歩幅で走っているのでそんなに速くはない。
追手に追い付かれてしまう程に。
医務室に向かうには大闘技場を裏手から出て、隣の小さめの闘技場の脇を超えていく必要がある。
裏手は大会関係者と出場の学園関係者、クノッサス各部隊の人しか入れないので、人気があまりにも少ない。
そこを狙われたというわけだ。
ザッと音を立てて進行方向を塞ぐ、黒いマントを被った人影。
10メートル程の距離を保ちながら、私も足を止めた。
顔もマントに覆われているから分からないが、体格からして間違いなく男。
何故私の前に現れたかなんて、聞くまでもないか。
先程の試合に、見られてはいけないものがあったのだろう。
つまりそれが、今回の敵の正体を暴く鍵。
マントの男が右腕を振るうと、『大地の盾』が一瞬で全て破壊された。
「投げナイフ・・・それをどこで手に入れたんです?」
驚きつつも思わず聞いてしまった。
本来のイオであれば、すぐに『大地の盾』を再発動しただろう。
その問いに相手は答えるはずもなく、またも右腕を振るう。
正確に投げられたナイフは、イオの胸を完璧に捉えた。
-----ルーナ視点
同時刻、医務室。
敵の襲撃に備え、いつでも盾魔法を展開できるように準備している。
室内には擬獣化したトニーくんにも居てもらい、外にはアカネくんという布陣。
ユウリくんが考えた鉄壁の布陣だ。
そろそろ第1試合が終わり、その経過をイオくんが報告に来る手筈となっている。
しかしトニーくんの鼻は、まだその匂いを捉えていない。
大闘技場からここまで歩いても7分程度。
試合開始時刻から15分を超えても未だ来ないということは、やはり襲撃にあっているのだろう。
ここまではユウリくんの読み通りだ。
ということは、こちらもそろそろ─
「来たべ!左だ!!」
攻撃の臭いを察知した瞬間、窓の外に向かって叫ぶトニーくん。
アカネくんがその声に即座に反応し、攻撃の方向と角度を視た。
「青銅櫓!」
即座に強固な盾を展開。
青く鈍い光を放ちながら、何重にも重なる櫓のような盾。
その強度はミサイルすら通さない。
ドゴォォォン─
盾に着弾し、大きな音を立てて辺りを赤く染める爆発。
多少揺れはしたものの、その程度の攻撃で私の盾は突破できないぞ。
「2キロくらい離れたあそこの崖の上!」
その瞬間、アカネくんの指示で走り出す雷光一閃。
彼が最も信頼していると呼んだ剣士を背負ったその一閃は、すぐに視界から消えて行った。
アリスくん、たった1人を護る部隊にしては大層なメンバーを揃えたものだ。
それだけ彼にとって、アリスくんも大切なのだろう。
ミドリにもそんな時代があったなと思い出し、思わずフッと笑ってしまった。
-----
投げナイフが胸に刺さった瞬間。
ボンッ─
白い煙をあげてイオは消え、代わりに丸太にナイフが刺さっていた。
「なに・・・?!
いつから入れ替わっていたというんだ!」
驚く男の前に、先程とは違う2人の姿があった。
1人は昨日限界まで闘っていたシノビ。
そしてもう1人は金髪を半分以上赤く染めている和服の少女。
「ユウリ様が木刀を掲げて壇上に向けた時ですね。
私達への合図と同時に、視線誘導の役割もありました。
それはともかく昨日の今日で変化と分身を使ったので、私は流石に魔力切れです。」
「よくやった、サクラ。あとは任せろ。」
道の端にシノビを寝かせ、抜剣して男に向かう少女。
その目は怒りに染まり、剣を持つ手は怒りに震えていた。
「お前らは、やり過ぎたな。
うちの生徒、そして弟にまで手を出しやがったからには、覚悟はできてんだろうな?
ルクス・アーク・フェギナ・・・いや、本名は違うか。」
そう言いながら自身の剣に『神速の剣姫』を付与するその姿は、相手を必ず仕留めるという殺気、意志を隠そうともしていない。
男は猫に睨まれた鼠の如く、その場に固まっていた。
-----通常視点
自身が放った最高出力の長距離爆撃の手応えの無さに疑問を持ち、次弾を放つ準備をしている男。
男は手に魔力を込めようとした瞬間、背後の殺気を含んだ剣に反応して転がり避けた。
「意外と反応良いじゃない。
一昨日のトニーとの試合は本気じゃなかったってことね。」
シャルロットが不意打ちに放った居合斬りを、見ずに気配だけで避けたのだ。
トニーの速度と同等だったはずなのにだ。
つまりあの試合、シャルロットの言うように本気で闘っていない。
舌打ち混じりで立ち上がる、ルカリ・ネス・チップ。
「何故この場所が分かった?」
「初撃の方角を見たら居たらしいわよ。」
「馬鹿な・・・2キロは離れているのだぞ!」
「そんなことアタシに言われても知らないわよ。
アタシ達がここに居ることが結果で、それ以上でも以下でもないわ。」
それよりも初撃から30秒程度でその2キロを移動してきたことに疑問を持たないのか。
結構苦労したのにスルーされるのは辛いね。
まあ、あとはシャルロットに任せて分身は大人しくしてるとしよう。
「アンタ達、なんでこんなことをするのよ。」
「それをお前に言っても理解するとは思えん。」
そう答えながら手を翳すルカリ。
シャルロットも負けじと強化魔法を発動した。
「燃え盛れ、『咲き誇る狐百合』!」
「連射砲!」
-----サクラ視点
アリスさんとの試合中、分身がとある家族を発見した。
冒険者が集うこの街には似合わない、全身黒い服の3人組。
いわゆる喪服だ。
失礼ながら後をつけさせてもらい墓地へと入り、1つの墓の前で止まる。
その墓に刻まれた文字を見て驚愕した。
そこには今行われている個人戦出場者の名前。
そして自身の主と対戦したことのある人。
ルクス・アーク・フェギナの名前があった。
驚きのあまりに思わず御家族に声をかけてしまった。
「あ、あの!」
悲しそうな顔をあげて、こちらを向く3人の目。
何事かと驚く表情ののち、声の主である私に気付く。
「えっと・・・何か?」
母親と思しき女性が言葉を返してきたものの、何と聞いていいか分からない。
ストレートに聞いていいものか。
「ルクスさんについて、その・・・」
眉間に皺を寄せて顔を見合わせる御家族。
そりゃそうだ。
既に亡くなった家族のことを聞かれては気持ちのいいはずがない。
「ルクスのことについて、何か知っているの?」
「えっ?」
思ってもいなかった言葉に、思わず素っ頓狂な返事をしてしまった。
縋るような目を向けてくる御家族に、私は覚悟を決めて説明を始めた。
「そんな・・・去年のこの時期に突然姿を消して、先輩になるはずだったルカリさんが調べてくれたのよ。
それで、残念ですがって・・・」
全ての説明を終えると、ハンカチで涙を拭いながら経緯を教えてくれた。
ノースリンドブルムまで絡んでいるとなると事は大事だ。
しかし表向きは亡くなったのはノースポート学園、チャンドラ・シルバー・サージさんということになっている。
では現在のルクスは何者なのだ。
これは一刻も早く報告しなくてはいけない。
急ぎ、仲間の下へ向かおう。
-----シャルロット視点
サクラ先輩を見つけ、先程仕入れた情報を話す。
サクラ先輩もどうやら新しい情報を入手したらしい。
調査の結果を合わせると、こうだ。
ノースポート学園、チャンドラ・シルバー・サージ。
ノースリンドブルム、ルカリ・ネス・チップ。
ウエストテイン学園、リー・セイ。
この3人は幼なじみなのだそうだ。
それぞれの学園に進み、色々な大会で闘おうと約束した仲らしい。
その中で昨年、チャンドラが死亡する事件が起きた。
同時期に死亡していた、ルクス・アーク・フェギナ。
だがルクスは今年、ノースリンドブルムの首席として生存している。
この矛盾が意味するものは何か。
情報の整理はこんなものだろう。
その中から、可能性を考えよう。
去年亡くなったのはチャンドラと、ルクスの2人なのか?
・・・いや、2人とも既にこの世に居ないのであれば今のルクスの存在に説明がつかない。
つまり、どちらかは本当に死亡していて、どちらかは生きている。
ではどちらなのか。
生きているのはルクス?
・・・それならば家族の下に帰らない理由が分からない。
家族や家が本気で嫌なのであれば分からなくもないが、サクラ先輩の話ではそういった感じではなさそうだ。
つまり、去年の被害者はルクスの可能性が高い。
ここで導かれる新たな1つの可能性。
チャンドラが生きている。
では、何処にいるのか。
そして今のルクスは何者なのか。
おそらくそれが最後のピースだ。
偽ルクスの正体は?
これがチャンドラだと言うなら、なぜそんなことをする必要があるのか。
そしてどのようにしてルクスに成り代わっているのか。
ん?・・・どのように?
今のルクスのユニークスキルは・・・!
「そういうことだったのね。」
偽ルクスの正体は幻術。
そんなことをする理由はまだ分からないけれど。
首席のくせに新人戦、個人戦と2回もあっさりやられるから、大したことない奴なのかと思ってた。
それがそもそもの誤算。
自分の実体を誤魔化すために大掛かりな幻術を使っているせいで、加えて相手を倒せるような強い幻術を使用できないということか。
コップ満タンに入った水ならば飲んだり、お湯や氷にしたりと色々なことができるだろう。
しかしその上限が最初から3割であれば、やれることは限られる。
ルクス・・・いや、チャンドラはその状態なのだ。
サクラ先輩と師匠が、次のアタシの言葉を待っていた。
しまった、ずっと頭の中で話を進めてしまった。
「アタシの仮説だけど。
昨年亡くなったのはルクスでほぼ間違いないわ。
今のルクスは、チャンドラの幻術によるもの。
そしてリー・セイの攻撃もまた幻術で、その時たぶんチャンドラは自身の幻術を解いているわ。
ユウの時は対戦相手に幻術を見せたとかかしらね。
たぶんアリスが狙われたのは、その正体を見てしまったから。」
「なるほどな。
それなら全てのことに説明がつく。
理由は本人達から聞き出せばいいだろうよ。
サクラ、シャルロット、よくやった。」
師匠に褒められるのはむず痒い。
嬉しいけど、喜んでいるうちは成長にならないと教わった。
そんなアタシの気持ちを知ってか知らぬか、学園長はアタシの頭をクシャッと撫でた。
「お前を弟子にして良かったよ。ありがとうな。」
「・・・これからもご指導ご鞭撻のほど、よろしくお願い致します!!」
あの唯我独尊とも呼べる師匠にこんなことを言われたら。
流石に、喜んで良いわよね。
嬉しさに震えながらも、まだ事件は解決していないと気持ちを締め直す。
まずはユウに報告ね。
気持ちは締めても口元の緩みは消せていないシャルロットだった。
拙い作品ですが、最後までお付き合い頂けたら嬉しいです。
今後ともよろしくお願い致します!




