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剣の舞~サムライと呼ばれた祖父に鍛えられ、いざ騎士育成学校に入学したら剣術一位だったのでこのまま世界最強剣士を目指すけど、ラスボスはたぶん実の姉~  作者: あっきー
第6章 事件編

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五十七ノ舞「けれどもとても大きな背中」


-----イオ視点


試合前に病院に顔を出しています。

今日もユウリさんはアリスに付きっきりです。

Aブロックの試合がある日だというのに。

この調子では楽しみにしていたトニーさんの試合も、私の試合も観に来なそうですね。

Cブロックの試合当日になってもここに居るんじゃないかと心配になります。

ろくに睡眠もとらず、食事もあまりとらず、健康状態は良いとは言えません。

そんな状態でベスト8をかけての闘いに挑むなんて、普通ではありえない。

なんとか明後日までに体調を万全に戻させないと。


頼みのシャルロットさんと学園長は、事件解決に向けて動いていて忙しそうで頼れない。

今のユウリさんを動かせる可能性があるとしたら、その2人とアカネさんくらいなものなのに。

アカネさんは一度も見舞いに来ていないけど。

別にアリスのことがどうでもいいと思っているなんて思っていない。

彼女は彼女なりに考えがあってのことだろうから。


ユウリさんの脇に先ほど作ったお弁当を置いて、会場へと向かう。

仕方ないのでトニーさんの試合も私が観戦しておくことにしましょう。

実際に見るのと、人に聞くのではだいぶ違うでしょうけど。

サクラ先輩は分身を置いておくと言っていたから、合流できたらいいな。



-----


「さていよいよ今年の個人戦も後半戦の9日目!!

本日はAブロック3回戦の模様をお送りいたします!

第1試合は前回大会ベスト4、ノースリンドブルム学園3年、ルカリ・ネス・チップ選手。

対するはマジックギルド学院1年、トニー・フレデリック選手。

この2名が激突します!」


大闘技場は相変わらず凄い熱気ですね。

席を探してキョロキョロしていると、サクラ先輩が私を見つけてくれました。

観戦用に席をとっておいてくれたみたいです。

相変わらず準備がいい。

トニーさんと対戦相手が姿を現したのですが、トニーさんは明らかに疲れた顔だ。

情報収集に走り回っていると聞きましたけど、大丈夫でしょうか。

相手は前年度ベスト4の強敵ですが。


「それでは、試合開始!」

疑獣化(ビーストモード)白狼(ホワイトウルフ)

速装填(クイック・ロード)


「ルカリ選手は何と言ってもこのユニークスキルが強力ですね!

魔力を弾丸のように飛ばせる、砲兵(ガンナー)の使い手!

遠距離(アウトレンジ)が得意な相手に対し、トニー選手がどのように対応するのかがこの試合の勝敗を分けそうです!」


トニーさんは一瞬目を細めたものの、特に気にした様子はなさそう。

前かがみになったと思ったら一瞬で距離をつめ、重たい一撃を見舞った。

ズドンと音を立てて闘技場の壁に打ち付けられるルカリの姿に、観客は驚きと歓声に沸いた。


「試合再開!」

ルカリが壇上に戻ったところで試合が再開された。

すぐさま攻勢に入るルカリに対し、トニーさんは素早い左右の動きで的を絞らせない。

「くっ・・・連射砲(ショットガン)!」

ルカリの手のひらから文字通りの6連射がトニーさんに襲い掛かるも、まるでユウリさんの『加速(ブースト)』と同じような動きで全てを躱す。

再装填の隙を狙ったトニーさんが距離をつめた瞬間、ルカリが剣を抜き放ち居合斬りを放った。


「ちゃんちゃら遅いべ。」

トニーさんは指先だけでその剣を抑えていた。

左腕を振りぬき、ボゴと嫌な音を立てて吹き飛んだルクスは場外に沈んだ。


試合終了(そこまで)

ルカリ・ネス・チップ試合続行不可能!

勝者、トニー・フレデリック!」


「前回準優勝者に続き、ベスト4の一角も破れるー!!

どうなっているんだ今年の1年生はー!!

前評判をあざ笑うかのような圧勝、勝者はマジックギルド学院1年、トニー・フレデリック選手ー!!」


私たちから言わせれば、前評判こそがおかしいのですけどね。

幼いころから彼と共に過ごして、共に研鑽してきたのは誰だと思っているのでしょうか。

どれだけ遠距離(アウトレンジ)に自信があるとしても、本職の魔法使いの中でも天賦の才を持つアリスと闘いなれているトニーさんですよ。

そして中距離(ミドルレンジ)に関してはユウリさんとの戦闘経験が豊富にあり、近距離戦闘は一番トニーさんの得意とするところだろう。

遠距離ではアリスに、中距離でもユウリさんに劣る彼が、そのどちらとも闘いなれているトニーさんに勝てるわけがない。


これでトニーさんがベスト8一番乗りだ。

次の試合、私も勝てばトニーさんと闘うことになる。

負けていられません。



-----


「さあ本日のもう1つの試合は、皆さんお待ちかねのアビスリンド学園!

イオン・フォン・アビステイン選手が登場です!!

対するはイーストテイン学園3年、デイビット・クランプ選手!

今日はどんな闘いを見せてくれるのか、今から楽しみですね!」


歓声には慣れましたが、対戦相手に申し訳ないですね。

完全アウェー状態ですし。

まあそれも学園長からのアドバイスなのですけどね。

観客は味方につけたもの勝ちと最初は意味が分からなかったですけど、今となってはその通りだと思います。

対戦相手は普通の剣士といったところでしょうか。

油断はせず、ユウリさんと闘うくらいの気持ちで行きましょう。


「それでは試合開始!」

大地の盾(アース・シールド)


そういえばユウリさんに放出した魔力を吸収するにはどうしたら良いかと、この前聞かれたっけ。

結局説明しなかったのだけど。

これ以上ユウリさんに差をつけられたくなかったのかもしれない。

説明してしまえば、あの人はすぐに自分のものにしてしまう気がするから。

そして私を置いてどこまでも進んでしまう。


()()()は今まで、私のことを突き放したり置いていったりしたことは1度もない。

兄のように、そして弟のように思っているユウリさん。

そんな彼に置いていかれるのは嫌なのだ。


家族のように思っていても、異性として気になっていないと言えば嘘になる。

アリスのように素直に自分の気持ちを言える性格じゃないけど、自分の隣にはいて欲しい。

この生活がいつまでも続いて欲しいと思ってしまう。


「はぁ・・・」

・・・私、本当にわがままで嫌な女だな。

そう思うと、自然とため息が出てしまった。


「試合の最中だと言うのに、ため息とは随分余裕だな?」

そう言われて我に返った。

全く試合に集中できていなかった。

気付けば『大地の盾』は1枚まで減り、目の前には剣を今にも振ろうとしている対戦相手の姿があった。


咄嗟にバックステップを試みる。

しかし既に完全に相手の間合いに侵入を許しているだけでなく、攻撃は放たれていた。

最後の『大地の盾』が音を立てて崩れ去ると同時に右脇に鋭い一閃をもらい、堪らず場外まで転がり落ちた。


「イオン・フォン・アビステイン、1ダウン!

ダウンカウント10!」


ユウリさんと闘うつもりで行こうと思ったはずなのに、全く集中していなかった。

しかも傷はかなり深く、血がとめどなく流れている。

なんと愚か。

相手は3年生、しかもベスト16まで勝ち上がるような強者なのだ。

どれだけ実力差があろうと、油断なんてしていたら簡単に負けてしまう。

ここはそんな場所だというのに。


ゴツッ─

よろよろと立ち上がり、思い切り自分の左頬を殴った。

会場はその行為にザワついている。

名ばかりとはいえ、仮にも王女がそんなことをすればそうなるか。


壇上へと戻ると、試合が再開された。

「試合再開!」

聖なる祝福(オメガ・ヒール)


傷は塞がったものの、血の量が戻る訳では無い。

輸血をした直後のような、貧血の感覚に襲われながらも闘わなくてはならない。

もう二度と、油断なんてするものか。

深深と頭を下げ、非礼を詫びよう。

「試合の最中にも関わらず、申し訳ありませんでした。

アビステイン王国第一王女、アビスリンド学園1年イオン・フォン・アビステイン。

全力で参ります。」


今までは顔見知りと闘うことが多かったこともあり、名乗りをあげたことなど1度もない。

酷く不恰好だったであろう名乗りに、対戦相手のデイビッドはフッと笑いながら応えてくれた。

「良い顔になったな。

イーストテイン学園3年、デイビッド・クランプだ。

戦闘では教えられることはないと思っていたが、最後の最後に良い土産話ができたよ。」


そう、3年生にとってこの個人戦は最後の個人戦なのだ。

アビスリンドは最上級生が2年生ということもあり、心のどこかでまた来年もあると思っていた。

今後の人生を左右しかねない大会だというのに。

それこそ進路の決まっていない3年生にとっては、死にものぐるいで勝ち上がり、より良い進路に進みたいところだろう。

そんな中に居させてもらえるのに、何が「また来年もある」だ。

失礼極まりない。


もう一度頭を下げ敬意を表し、杖を構えた。

「行きます!」

デイビッドが頷き、剣を構えて距離を詰めてくる。

それに対して私は仲間たちと共に闘い、時には仲間に向けて放った、最も自信がある技で迎え撃つ。

大寒波(ディープ・フリーズ)


入学時よりも明らかに発動スピード・威力共にあがっているその魔法は、デイビッドを一瞬で氷漬けにした。

10カウントが始まるも、一瞬足りとも気は抜かない。

今抜いてしまったら、デイビッドさんに顔を向けられなくなる気がするから。


「0!

デイビッド・クランプ10カウントダウン!

勝者、イオン・フォン・アビステイン!」


魔法を解除すると同時に、デイビッドさんに歩み寄って手を伸ばした。

「完敗だ。」

と言いながら私の手を取り、握手を交わす。


「本当にありがとうございました。

試合での姿勢、勉強させて頂きました。」


「アビステインの王女様には、俺が心構えを教えたんだ。

って末代まで自慢するからな。頑張れよ。」


笑いながら言うその言葉に、改めてその重さを実感した。

笑顔で後ろ手を振りながら去っていく敗者の、けれどもとても大きな背中に今一度大きく頭を下げ、最後まで見送った。


今まで破ってきた人の中には、とても悔しい思いで何も言わずに去っていった人もいるかもしれない。

これからはどんな相手でも油断せず、一戦一戦全力で向かいあおう。

そう心に決めました。


何せ次の相手は、冗談抜きで本当に油断なんてできませんから。



さあ、トニーさん。

存分に、互いに全力で闘いましょう。



拙い作品ですが、最後までお付き合い頂けたら嬉しいです。

今後ともよろしくお願い致します!

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