五十六ノ舞「視界を拓きますからね」
-----サクラ視点
今日は2回戦終了後の中日。
シャルロットさんと共に街に出ています。
アリスさんの件の目撃情報などを探すためだ。
もっとも、そういった情報があるのなら王国騎士団に情報がいくはず。
そう考えた私たちは王国騎士団の中でもコンタクトを取りやすく、地位も高いルーナ隊長を頼ることにしました。
約束の店に入ると学園長と共にテーブルを囲むルーナ隊長をすぐに見つけ、近づくと学園長が声をかけてきた。
「よぉ、主の危機に駆けつけなかったシノビ。」
あの日、自分で呼び出しましたよね・・・?
確かに分身を置いておかなかった自分にも落ち度はあるかもしれませんが、呼び出した張本人に言われるのは釈然としない。
そんな気持ちを知ってか知らぬか、ルーナ隊長が剣で学園長の頭を小突いた。
「お前がこの前の詫びに去年の事件について調べると言い始めたんだろ。
そのために大会参加者なのにも関わらずに彼女を呼び出して去年の事件を説明していたのに、どうやって駆け付けろと言うんだ。」
「分かってるよ。だから怒ったりはしてねぇじゃねぇか。」
怒ってなくても、こちらとしては心に刺さるものがあるんですよ学園長。
どれだけ見えないところで自己嫌悪したとお思いですか。
そんなことは思っても言えず、ひとまず着席。
事件の概要から、情報収集の結果報告といこう。
「昨年優勝候補と言われたノースポート学園3年、チャンドラ・シルバー・サージさんについて。
Bブロック2回戦終了後に急遽行方不明となり、3回戦は不戦敗。
3回戦の翌日に遺体となって発見された事件です。」
概要を説明すると、ルーナ隊長と学園長は真剣な表情で頷いた。
「死因は大量出血による失血死。
複数の剣による切り傷が複数見られたこともあり、複数犯による犯行ではないかと推測されていますが、未だに謎のまま犯人は捕まっていません。」
隣に座るシャルロットさんがゴクリと飲み込んだ。
正直着いて来るとは思っていなかった。
それでも彼女なりに今回の事件に思うところがあるのか、その熱意に負けて同行してもらったというわけだ。
「今回のアリスさんに応急処置を行っていた医師に話しを聞いたところ、複数の切り傷が見られたとのことです。
あのまま発見されなければ、間違いなく失血死していただろう、と。
今回のアリスさんに関しては即座に発見できたので大事に至らなかったですが、昨年は発見までに5日程の時間がかかってしまったことが要因ですね。
昨年の事件とかなり似ている部分もあり、同一犯の可能性も大いに有り得ます。」
私が説明を一旦切ると、シャルロットさんが続けて説明を始めた。
「昨年の出場選手の中で、今年も出場しているのは8名ね。
そのうちベスト4以上に入ったのが3名。
昨年のCブロック、ノースリンドブルム3年、ルカリ・ネス・チップ。
Dブロック、マジックギルド3年、ナナシー・ヘンドリクス。
そしてAブロック、ウエストテイン3年、リー・セイ。
Bブロックは本命不在のまま決着がつき、準決勝ではリー・セイが圧倒。
もう片方の準決勝では長時間の死闘によりナナシーが辛勝。
全てを出し切った翌日に決勝があり、結果リー・セイが優勝。
その事件で1番得をしたのは結果的に、リー・セイね。」
シャルロットさんの報告を聞いてルーナ隊長が頷く。
「損得で言えばそうだな。
そして今年はナナシーを初戦で破ったユウリくんが狙われた。
ナナシーを破った時点で、ユウリくんは優勝候補の一角と言っていいだろう。
そのユウリくんが倒れれば、勝ち上がることも容易だ。
前回と今回、どちらもリーは得をしていることになる。」
その言葉にバンとテーブルを叩き立ち上がるシャルロットさん。
「やっぱり犯人はアイツよ!」
その気持ちは分かる。
私も、学園長も、ルーナ隊長もおそらく同じ見解。
しかし証拠がないのだ。
何より昨年の出場選手には持っている剣の検査が行われている。
チャンドラさんに残されていた傷跡と一致する剣は見つからなかったのだ。
「それにユウリくんを襲ったプレオは何も覚えていないとのことだ。
何かに操られていたのかは分からないが、プレオの単独行動とは思えない。
そちらの証拠もあがっていない以上、犯人を特定するのは難しいだろう。」
そして今年もどれだけ隠密に行動しても、どれだけ情報を集めても証拠は出てこなかった。
さらに単独犯にしては複数の切り傷に説明がつかない。
やはり鍵を握っているのは、直接対峙したであろうアリスさんだ。
彼女が目を覚まさないことには、進展はしなそうだ。
それまでに調べられることは全て調べるつもりでいこう。
こうなってしまっては残念で仕方ないけど、明後日の3回戦までにアリスさんが回復するとは思えない。
闘いたかったというのが本音なだけに、必ず犯人は見つけ出す。
報告を終え、再び分身で聞き込み開始だ。
シャルロットさんは病院へ様子を見に行くとのこと。
ユウリ様は間違いなく何も食べていないので、何か食べ物の差し入れをお願いしておこう。
個人戦で顔が売れた分、だいぶ聞き込みをしやすくなった。
わりとなんでも教えてくれるようになった、という感じだ。
シノビとして顔が売れてしまうのはあまり良くないことではあるのだけど。
4人目の聞き込みの際に、こんなことを聞いた。
「アンタもかい?
さっきマジックギルドの・・・トニートニー?
って大きな男の子も聞きに来たんだよ。」
繰り返してしまったら、それは喋るトナカイだ。
確かに7つの変型くらいはトニーさんも持っていそうだけど。
トニーさんも聞き込みをしているらしい。
明日、昨年ベスト4のルカリとの試合を控えているというのに。
見つけたら得た情報は引き継いで、休むように伝えなくては。
「立ち上がれ、私の分身!」
なんちゃって。
ふざけてる場合じゃなかったですね。
分身の数を増やし、聞き込みとトニーさんを探す目を増やす。
正直なところ真相は闇に、そして霧に包まれている。
足場も見えないところで前身するしかないのだ。
ぶっちゃけふざけたくもなるくらいの辛さだけど。
アリスさんや、ユウリ様はもっと辛いだろう。
必ず、私が視界を拓きますからね。
-----シャルロット視点
さっきの話し、リー・セイがやはり1番怪しい。
しかしルーナ隊長が言うように証拠がないのだ。
複数の剣による傷ってことは、少なからず2本以上の剣を持っていることになる。
もしくは複数犯によるもの。
1度しか見ていないものの、リーの帯剣は1本。
あの時のように見えない剣を使ったのか。
もしくはアタシたちが何かを見落としているのか。
間違いなく真相へと向かっているはずなのに、この不安感はなんだろう。
ともあれ病院に到着だ。
ユウはあれからずっとアリスに付きっきりだ。
飲まず食わずだと、今度はユウが倒れかねない。
だからちゃんと食べさせないと。
2人で行ったサンドイッチ屋で食料調達はしたし、大丈夫だろう。
もう少し食べやすいものの方が良かったかな。
ユウの姿を見つけて近寄る。
目の周りにクマができ、少しやつれたような顔をしていた。
「アンタまさか、あれから寝てないの?」
まるでそんな表情だ。
ユウの肯定する言葉に思わず溜息が出た。
「心配なのは分かるけど、アンタまで倒れたら元も子もないわよ。
アタシが代わりに見ておくから、これ食べたら少し休みなさい。」
そう言ってサンドイッチの入った袋を渡す。
ユウはその袋をゆっくりと受け取り、一口、また一口と時間をかけながら食べ進めていった。
水の入ったボトルをユウの横に置き、ユウに背を向けた。
食べながら涙を溜めていたのが見えてしまったから。
アタシだったら、泣き顔を見られたくないから。
そうしてもらえたら助かるなと思って、背を向けてしまったけど。
ユウにここまで心配してもらえるなんて。
ちょっとだけ、アリスが羨ましいな。
涙を流し鼻をすすりながら、「美味しい」と食べ続けるユウを背中で感じながら。
アタシが必ずこの事件を解決してやると改めて決意し、拳を握りしめるシャルロットだった。
拙い作品ですが、最後までお付き合い頂けたら嬉しいです。
今後ともよろしくお願い致します!




