五十五ノ舞「だからできる」
-----アカネ視点
昨日、唯一宿に戻ってきたサクラ先輩に事情を聞いた。
本当はユウくんの応援に行きたかったけど、負けるとは微塵も思っていないので自分の調整を優先してしまった。
そうしたらアリスが、ユウくんが、事件に巻き込まれたみたい。
わたしが居たところで、事前に対処できたとは思えないけど。
それでも2人の近くに居ればよかったと、後悔はある。
そんなことがあっても、大会は続く。
今日はDブロック2回戦。
わたしにとっては因縁があり、負けたくない相手だ。
「いよいよ本日の最終試合!
なんと、今年の新人戦1回戦の先鋒戦と同じ組み合わせとなりました!!
アビスリンド学園1年、アカネ・オオヒラ選手。
ノースリンドブルム学園1年、ザッケンロー・フィンクス選手。
どちらも無傷で初戦を勝ち抜き、今後が楽しみな2人の対決!!
まもなく試合開始です!」
ザッケンロー・フィンクス。
相手の剣を自らの剣で受けた後、斬られた傷をそのまま相手に返すという写鏡のユニークスキルを持つ。
発動条件はおそらく、自らの剣で相手の剣を受けること。
そして傷を受けた後に「開」と唱えること。
この2つだろう、とユウくんから聞いている。
つまりは打ち合わなければ良いってことだよね。
もし剣で受けられたら斬撃はせずに、体術に持ち込もう。
もしくは喉を潰す・・・のは最終手段で。
対策は万全だ。
同じ相手に2度も負けるなんて、サムライの弟子として恥ずかしい。
師匠の名前に傷を付けるような真似をしないためにも、この試合は必ず勝たないと。
わたしが勝つことで、少しでもユウくんを元気付けられたら良いな。
「3ダウン、または10カウントダウンで敗北とする。
顔や首など狙う斬撃は禁止。
それでは、試合開始!!」
「装備強化─世界随一の銘刀。
全身付与─速度強化。」
首への攻撃禁止・・・いきなり最終手段失ったんだけど。
ユウくんが顔に攻撃を受けたって言ってたし、仕方ないか。
これ以上何かあったら、審判の人達も大変だもんね。
それにしても新人戦の時みたいに攻めて来ないな。
剣を当てずに、カウンターで決めようと思ってたのに。
じっとされるのは慣れてるとはいえ、こっちも決め手にかけるんだよなあ。
『心魂灯剣』も1回戦で見せちゃったし、最後の技はいざという時にとっておきたいし。
てことで、剣同士で触れなくても『写鏡』は発動するのかなっと。
「我は汝。
悠久の時を経て、我、汝と共に歩み進む者也。
目指すは高み、天より高く。
立ち塞がりし美しき魂、貰い受けよう。
初の剣─月花葬斬」
動かずに攻撃を待っているのなら、こちらから行こう。
大上段から振り下ろし、飛ぶ斬撃に隠れるように走り出す。
サク先輩とシャルルの真似だけどね。
ザッケンローは剣で斬撃を受け流した。
流石はノースリンドブルムの選抜メンバーだね。
でもその剣の黒いモヤだけは見逃せない。
どうやら剣同士で触れなくても発動するみたい。
なんてめんどくさいユニークスキル。
強力な攻撃を受け流して防御体勢不十分な相手に対し、剣の柄を鳩尾に叩き込んだ。
斬撃のような傷は返されても、たぶん物理攻撃は効くでしょ。
予想通りザッケンローは苦しそうな息を吐きながら場外に飛んで行き、ダウンが宣告された。
よし、体術と物理攻撃メインで行こう。
「試合再開!」
「強化付与─防御力上昇。」
「おっと、アカネ選手どういうことだー?!
剣を鞘にしまい、まるで格闘家のような構えをとっています!
新人戦初戦で『写鏡』に敗北しているのですが、その対策でしょうか?」
「新人戦決勝の時もそうだったけど、あの子の突飛な発想は面白いね。
次は何をしてくれるのだろう、とワクワクします。」
ザッケンローは怒ったように歯軋りをし、こちらに向かい突進してきた。
最初からそうしてくれたら、もう少し楽だったんだけどな。
師匠やミドリさんのような美しさは欠片もない、野蛮な斬撃。
ユニークスキルに頼って、まともに剣の腕を磨いてこなかったのだろう。
今の貴方と比べたら、ショウヤの方が千倍厄介だよ。
「アマハラ流体術改─白羽堕とし」
本来であればただの手刀。
腕に纏った付与術の魔力と、ユウリから教わった『星屑し』。
これらを合わせることによりアカネが生み出したものだ。
相手の振り下ろす剣の軌道を逸らしつつ地面に叩きつけると、黒いモヤが発生した。
アカネの目はそれを見逃さない。
考えるより先に剣を掴み、居合斬りを放っていた。
「我は汝。
悠久の時を経て、我、汝と共に歩み進む者也。
目指すは高み、天より高く。
蝶となりて彷徨う魂、進むべき道を授けよう。
魄の剣─心魂灯剣」
前後が入れ替わるほどの踏み込みと共に放たれる、居合斬りの一閃。
今まで幾度も阻まれていたザッケンローへの斬撃。
その居合斬りは、ザッケンローを初めて地に堕とすことに成功した。
血は一滴足りとも流していない。
その威力を叩きつけたのだ。
全てを斬り、何も斬らない。
変幻自在の剣、それが『世界随一の銘刀』。
「ザッケンロー・フィンクス試合続行不可能!
勝者、アカネ・オオヒラ!」
剣は収めていても、『世界随一の銘刀』の魔力は全く消えていない。
それに気付かないくらいユニークスキルに頼る闘い方をしていたのが、貴方の敗因よ。
「アビスリンド学園アカネ選手、前回のリベンジと言わんばかりの勝利です!
剣士でありながら、体術も見事でしたね!」
それこそ当たり前だ。
同じ師を持ち、共に生活してきた剣士が居る。
その毎日の積み重ねの中には当然、剣を失った際の闘い方もある。
ユウくんとの12年の研鑽が、今のわたしを作っているのだ。
できないなんて言葉は、あの道場では言ってはいけない。
できなければ道場に入れないだけでなく、ユウくんにも置いていかれてしまうのだから。
そこに至るまで何百、何千もやった。
そこまでやらなければ、今度は1人で裏山の生活に戻される。
だからできるまでやる。
だからできるのだ。
わたしやユウくんの居た環境は、そんな過酷な場所なのだ。
それでもリベンジを達成した嬉しさはあり、小さく拳を握りしめながら会場を後にした。
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宿の部屋に戻ると、シャルルとサク先輩が難しい顔をしながら話していた。
ユウくんとイオちゃんの姿はない。
ちょっと寂しいけど、アリスのことも心配だもんね。
落ち着くまでは、こんな感じなのだろう。
わたしが部屋に入るとシャルルがこちらを振り向き、わたしの顔を見てニヒヒと笑った。
「勝ったのね!おめでとう、アカネ。」
そんなに顔に出てるのだろうか。
自分ではアリスよりもクールな顔だと「おめでとうございます!」
サク先輩の声に思考がかき消された。
2人にお礼を言い水浴びをする準備をしていると、会話から「アリス」という単語が聞こえてきた。
わたしに何かできることはないかと聞いてみるか迷うところだ。
それでも今まで何も言われなかったのだから、たぶんないのだろう。
頭を使うことに関しては、わたしは居ない方が良いのは自分でも理解している。
頭を使うだけのターンは、シャルルやイオちゃん、サク先輩に任せよう。
皆に危険が迫ったその時に、全力で助けられるように準備をすればいいんだ。
みんなの事はわたしが絶対守るから。
アマハラの剣は、大切な人を守る剣。
その出番がないことが、一番の理想だけど。
それでもその場面が来たら、全力でみんなを守るんだ。
それがたぶん、今回のわたしに与えられた役割なのだ。
ユウくんが何も伝言をしてこないのは、シャルルやわたしを信じているからだと思う。
だからユウくんは気にせず、アリスの傍に居てあげてね。
拙い作品ですが、最後までお付き合い頂けたら嬉しいです。
今後ともよろしくお願い致します!




