五十四ノ舞「また一緒にどこか」
「アリス!!!」
シャルロットの大声で我に返る。
頭を抱えている場合じゃない。
なぜアリスが、こんなことになっている。
「イオを呼んでくるわ!!」
シャルロットが冷静な判断をしているのに、俺という奴は。
力なく歩み寄り、アリスの手を握る。
「処置の邪魔です!離れてください!」
そんなことは言われなくても分かってる。
それでも、この手は離しちゃいけない。
何でかは分からないけど、そんな気がした。
遅れてトニーが到着し、酷い自己嫌悪に苛まれている。
「なぜオラはアリスを1人に・・・!」
「すいません、通ります!!」
後ろからイオの声が聞こえた。
どうやら近くに居たようだ。
「処置代わります!聖なる祝福。」
すぐさま最上級回復魔法をかけるイオ。
傷が一瞬で塞がり、完全に血は止まった。
しかしあまりにも血を流しすぎている。
新人戦初戦のアカネの比ではない。
「後は急いで輸血を!このままでは命が危険です!」
イオの的確な指示により、処置は速やかに行われた。
担架で運ばれて行く際に手を離され、俺は呆然と立ち尽くしていた。
今まで触れていたアリスの手の微かな温もりが、風で一気に冷やされていった。
シャルロットとイオに連れられ、アリスが搬入された病院へと到着。
当然面会禁止で、集中治療が行われている。
トニーは一度ブライデンに戻り、家族を呼びに行くとのことだ。
院内の椅子に腰掛け、考える。
一体何が起きている。
なぜアリスがこんな目に合った。
その犯人は誰だ。
アリスにもしものことがあれば、その犯人は必ず─
「ユウ、怖すぎるわ。」
どんどん思考が酷い方向へと向かっていたが、シャルロットの声で我に返った。
「・・・すまん。」
「きっと大丈夫よ。アリスを信じなさい。」
その言葉に、今までのアリスの表情を思い出してしまった。
来たのはアピールするためと言われた時の笑顔。
惚れ直したと言われた時の少し照れた笑顔。
魔力の吸収と放出について教えてくれた時の真面目な顔。
デートしている時の心から楽しそうな顔。
自分で言った言葉に照れる恥ずかしそうな顔。
なんで今こんなに思い出すんだ。
まるで走馬灯のようで、良くないな。
「大丈夫。大丈夫だ。」
祈るように呟くと、見兼ねたイオが魔法をかけてくれた。
「鎮静」
途端にドン底にいた気分が少し楽になった気がする。
気がするだけで、全く晴れはしなかったが。
どれくらいの時間が経っただろうか。
いつからか無意識に、祈るように手を組んでいた。
イオはシャルロットにもたれかかって眠り、シャルロットもカクンカクンと船を漕いでいる。
外の様子は分からないが、体感的には深夜だな。
その時、マリーナがローブを纏った立派な杖を持つ中年の男女を連れて息を切らしながら到着。
顔面蒼白になっている3人と目が合った。
「ユウリさん、アリスは?!」
「すまん、俺もよく分からない。
集中治療に入ったのが16時頃だったと思うが、そこからは音沙汰無しだ。」
マリーナの後ろの女性が泣き崩れ、男がそれを支えながら俺の隣に座らせた。
立ち上がり、長い距離をかなりの速度で飛ばしてきたであろう3人を座らせる。
アリスの両親だろうな。
女性を座らせて落ち着いたのを確認した後、男が声をかけてきた。
「初めまして。
ブライデン王国筆頭王宮魔術師のプラグニス・ポーランです。
君のことはアリスからよく聞いているよ。
まさか、こんな形で初めて対面することになるとは思わなかったけど。
こちらは家内のミクスだ。」
「初めまして、ユウリ・アマハラです。
アリスにはいつもお世話になっております。
自分やトニーが居ながら、守ってやれなくて・・・」
実際闘技場で闘っていたのだから、守れたかどうかは分からない。
しかしその言葉を出した瞬間、今まで抑えていた感情が一気に溢れ出した。
下唇を噛み耐えようとしたが、全く意味がなかった。
拳を握り身体を震わせて涙を流す俺を、プラグニスはそっと抱きしめてくれた。
「君のせいじゃない。
アリスは弱い部分もあるが、正義感は人一倍強い娘だ。
こんなことで負けたりはしないよ。」
その言葉に俺はただ、ごめんなさい、すいません、と謝り続けた。
-----シャルロット視点
ユウは泣き疲れたのか、寝てしまった。
イオも一瞬起きたけどユウが隣に座って寝ているのを見て、そちらに頭を預けてまた寝ちゃった。
なんというか、素直な子だなあ。
一先ずアリスのご両親に挨拶を済ませ、ユウの代わりに考えることにした。
こういう時は、状況の整理から始めよう。
プレオの様子はどこからどう見ても異常だった。
何かに取り憑かれているような感じ。
その何かまでは分からないけど。
それにタイミングも急だった。
2ダウンする瞬間までは普通に見えたような気がする。
ということは異変が起きたのは、2ダウンした直後から。
ユウが玖式を使った直後だ。
とりあえず闘技場はこれくらいかな。
次はアリス。
アリスのことだから、間違いなくユウの試合を観ていただろうな。
でも闘技場の外で発見された。
それもユウの試合の後すぐに。
あんなことがあったわけだし、性格上すぐにユウのところに駆けつけるはずだ。
それでも選手出入り口とは、かなり離れたところで見つかった。
周りに争った後がなかったから不意打ちをくらったのか、吹き飛ばされたのか。
でもあの尋常じゃない出血量だ。
吹き飛ばされたのなら、飛ばされた方から血の跡が残っているはず。
だけどそれはなかった。
ということは不意打ちか、手も足も出ずにやられたか、だ。
どちらにしても、あのアリスを圧倒できるだけの犯人ということだ。
アリスは何かに気付いて、誰かを追って返り討ちにあった。
そう考えると、その何かってのがプレオの身に起きたことに関係しているなら、アリスの行動にも納得できるわね。
まだ仮説の段階だけど、悪くない推理ではないだろうか。
まあそれも、狙われたのがユウならという前提条件が合っていれば、だけど。
実は狙いはアリスで、おびき寄せるためにユウを利用したという可能性もゼロではない。
宮廷筆頭魔法使いの娘だけに、誰に狙われてるか分からない。
1人で考えても埒が明かないわね。
ひとまずはこんなところで、あとはサクラ先輩の情報収集力を頼るとしよう。
-----通常視点
「ユウリさん、治療が終わったみたいです。」
イオの言葉に飛び起きた。
シャルロットの姿がないが、どこに行ったのだろうか。
いやそれよりも今はアリスの方が心配だ。
プラグニスを先頭に、1人ずつ病室へ入る。
未だにアリスは意識がなく、点滴が繋がれていた。
医者から「もう命に危険な状態はなく数日もすれば目を覚ますだろう」と説明を受けると、ミクスは安堵の涙を流し、プラグニスがそれを支えていた。
マリーナも気が抜けたのか、壁にもたれ掛かりズルズルとしゃがむ様に滑り落ちた。
誰がなんのためにこんなことを、とおそらく全員が思っているだろう。
それでも今はアリスの無事を喜ぼう。
寝起きだからなのか、安心しすぎたからかは分からないが。
眠り続けているアリスの手をそっと握り「復調したらまた一緒にどこかに行こうな」と呟いてしまった。
「ユウリくんは、アリスとお付き合いしているのかい?」
ニヤニヤ笑いで聞いてくるプラグニスに、「まあ!」と言いながら口を両手で抑えるミクス。
しまった、ご両親の前で完全な失言だ。
それでも昨日の自分の取り乱し方は、今思えば相当なものだった。
そんな気はないと言えば、たぶん嘘になるのかもしれない。
「今は互いに認め合うライバルってとこです。
確かにかなり仲は良い方ですけど。
・・・将来的には、そうなる可能性はあると思います。」
「その言葉、アリスが聞いたら泣いて喜ぶわよ。」
マリーナが最初に反応した。
プラグニスもミクスも「おぉぉ」といった反応だ。
流石に恥ずかしくなり「まだ先のことなので分からないですけど」とお茶を濁すと、ニヤニヤ笑うプラグニスに肩をぽんぽん叩かれた。
ちょっと拗ねて口を尖らせているイオが怖可愛かった。
拙い作品ですが、最後までお付き合い頂けたら嬉しいです。
今後ともよろしくお願い致します。




