五十三ノ舞「悲鳴」
「大変長らくお待たせ致しました。
本日は大会7日目、Cブロック2回戦の模様をお送りします。
第1試合開始前から多くの御来場、誠にありがとうございます。
さて、本日第1試合は前年度個人戦優勝者!
ウエストテイン学園3年、リー・セイ選手が満を持して登場です!
対するは絶対王者ノースリンドブルムの期待の1年生、ルクス・アーク・フェギナ選手!
大注目の一戦、まもなく試合開始です!!」
早めに来て正解だったな。
超満員となった大闘技場は、既に立ち見客の姿も沢山いる。
2人並んで座るのもキツイくらいだ。
さっきからシャルロットの肩がちょいちょいぶつかる。
ぶつかるたびに顔を真っ赤にして謝ってくるのだが、あまりにも回数が多いのでどうしたものか。
そんなことを考えていると、出場選手と審判が一斉に壇上へと姿を現した。
ルクスは新人戦の時のような人を見下したような笑みはなく、緊張した面持ちだ。
対するリーは、なんというか普通だ。
そんなに大きくはなく、特別筋肉質というでもない。
髪は黒く目を細めてニコニコしているくらいで、剣や体格は俺くらいだろうか。
さて、前年度優勝者のお手並み拝見といこう。
「それでは、試合開始!」
開始早々、リーは剣を鞘に収めた。
幻術は効いていないようだが、戦意がまるでない。
まるで試合は終わったと言いたげな態度でニコニコとしていた。
「舐めてるのか貴様・・・!」
その態度にルクスが一歩目を踏み出そうとした瞬間。
胴を大きく斬られ壇上に崩れ落ち、勝利者宣言が行われた。
「これ以上の続行は危険と判断させてもらう!
ルクス・アーク・フェギナ試合続行不可能!
勝者リー・セイ!」
「ちょっと強すぎたか、すまんね。」
リーは一言だけルクスに言い残し、その場を後にした。
ふとシャルロットを見ると、目を見開き固まっている。
「ユウ、今の剣どう思う?」
確かにとんでもない速さだが、原理は俺の参式と『天地初発乃時』を合わせたような感じだろうか。
神速で剣を振り、かまいたちもしくは魔法を飛ばして斬ったとか。
ただ気になるのは、納刀から斬撃までの時間のラグだ。
そこに何かカラクリがあるとは思うのだが、今の1回だけじゃ分からないな。
考えを巡らせているとシャルロットが言葉を続けた。
「アイツ今、一度も剣を振っていないわ。」
「俺にもそう見えた。
だから最終奥義クラスの速さで斬ったのかと思ったんだが、そうするとタイムラグに説明がつかなくてな。」
「アンタの最終奥義1回と、『神速の剣姫』の連撃を毎日見ているアタシが断言するわ。
アイツはただ、剣を鞘にしまっただけよ。」
確かに説得力はあるが、それだと斬撃に説明がつかない。
既に担架で運ばれて姿がないものの、あの傷は間違いなく剣で斬られた傷だ。
俺がそれを見間違えるはずはない。
となると目に見えない霊が斬ったとでも言うのだろうか。
いやいやいや、そんなオカルトはありえませんよね。
しかし俺たちは、そのオカルトの力を知っている。
次の観戦は必ずイオも連れてくることにしよう。
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昼過ぎ。
再度ウォーミングアップのため、シャルロットと共に闘技場の外に出る。
チョコがかかったドーナツを食べ、朝よりも軽めの運動で済ました。
準備万端で控え室に向かおうとする俺の背中を、シャルロットはバシンと叩いた。
「ちゃんと観てるから、負けるんじゃないわよ。」
「誰に言ってんだ。」
いつも通りニヒヒと笑うシャルロットと拳を合わせ、今度こそ行くとしよう。
「これより本日の最終戦!
注目のアビスリンド学園1年、ユウリ・アマハラ選手。
対するはウエストブルム騎士育成校2年、プレオ・ジノマ選手。
3回戦に進むのはどちらの選手でしょうか!」
昨日のサクの件もあるので、普通に出よう。
壇上へと上がると観客から「何もしないのか」オーラが出ている気がしたが、そんなことはどうでもいい。
見世物になるつもりはないからな。
それに相手は名門校の2年生だ。
油断などしていたら、負けるのはこちらだ。
「プレオ・ジノマ。
相手にとって不足はない。正々堂々闘おう。」
「ユウリ・アマハラ。
こちらこそ。ウッディは元気にやってますかね。」
対戦相手の騎士は俺の言葉に頷きだけ返すと、剣を立てて右上段に構えた。
剣を立てているか寝かせているかの差はあるが、俺の1番得意な位置に構えたことに親近感が湧いた。
せっかくなのでこちらもそこから始めよう。
こちらは地面と平行に、剣を寝かせて構える。
「3ダウンまたは10カウントダウンで敗北とする。
それでは、試合開始!」
「速度強化!」
「音速歩調」
一歩目を踏み出そうとした瞬間、ダダンッと走り寄ってくるプレオ。
速度強化した俺とほぼ変わらない程度の足の動きだ。
しかし剣の速度は変わらず、なんというか普通にガードできた。
それだけなら俺の速度強化の方が使い勝手がいい。
お返しとばかりに切り返す。
『アマハラ流─七星宝刀』
ガキンッ─
神速の7連撃の初撃。
柄の真上を剣先で正確に抑えられた。
剣捌きだけならアカネ並だな。
さすが名門校の2年で出てくるだけのことはある。
後方に『加速』で距離を取ろうとするも、『音速歩調』でピタリと着いてくる。
なるほど、かなり厄介だ。
速度は同じレベル、守備力はアカネ並、唯一隙があるとすれば攻撃の遅さのみ。
その手の相手はカウンターで沈めるのが最善手だ。
あいにくアマハラ流は大切な人を守る剣。
守備力には絶対の自信がある。
左腕側からの相手の横なぎに剣を合わせ、自身の右に滑らせて受け流す。
受け流した力を利用して時計回りに反転、前かがみ気味になる相手に対して後ろからの斬撃。
『アマハラ流─燈籠』
完璧に捉えたカウンターの回転斬りは、プレオの体勢を崩すのには充分だった。
その右足が完全に沈んだ体勢からは、俺でも加速できねぇ。
完全に背後を取る形となった。
『アマハラ流─夜叉車』
下からX字を書くように振り上げ、相手を大きく打ち上げる技。
しかしその技を受け、プレオは大きく前に吹き飛んだ。
くそっ、『空中大車輪』まで行きたかったのに。
空中で危険な状態になるくらいなら、1ダウンくれてやるってか。
このルールを最大限活かした闘い方をしやがる。
「プレオ・ジノマ、1ダウン。試合再開!」
再開後、こちらの出方を見るように一歩も動かないプレオ。
先程の攻防でカウンターが得意なのは見られたから、今回は守備からのカウンターに徹するといった具合だ。
残念だが、剣の舞はそういう敵に滅法強い。
「分身の術!」
俺の魔力制御では1度に4人の分身を作るのが限界だ。
しかしそれでも充分。
「玖式 夢幻─千本桜!」
多方向からの壱式の連打。
一撃ですら止めることが難しい技を間髪入れずに5人で打ち込む。
正面からの突撃は分身を攻撃され失敗に終わったものの、背後からのオリジナルの一撃がクリーンヒット。
場外まで吹き飛ばすことに成功した。
「なんと、今のは忍術の分身の術でしょうか?
アビスリンド学園ユウリ選手、強さの底が見えません!」
いやいや、これでもあまり技を見せたくないのだ。
今のは見えたところで対応が難しい技だから出しただけで、他の『剣の舞』は使う気はない。
あとはアマハラ流だけで乗り切りたいところだ。
「試合再開!」
「うおっ!」
再開直後、一瞬で目の前に現れたプレオ。
今までよりも速い横薙ぎで、剣先が顔の数センチ前を通過した。
俺の反射速度じゃなかったら危なかったぞ今の。
さっきまでのが最速じゃないのかよ。
「試合終了!!
プレオ・ジノマ、危険攻撃により失格!!
勝者、ユウリ・アマハラ!」
あらま。
審判の判断なら従うけど、不完全燃焼だ。
木刀を腰に納め、一息ついた。
「顔の前ギリギリを通過しましたね。
これは危険と判断させるのも無理はないでしょう。
一歩間違えたら大事故です。」
そんな実況が流れ、観客からは大ブーイングが起こっていた。
しかしそこで信じられない事象が起こる。
試合終了が宣告されたにも関わらず、プレオがまたも斬りかかってきたのだ。
完全に気を抜いていた俺は反応が遅れ、すんでのところで回避したものの、左頬を大きく斬られた。
審判が取り押さえるも、プレオは人とは思えない声を上げて暴れている。
「ユウ!!」
シャルロットが壇上へと飛び降り駆け寄ってきて、俺とプレオの間に剣を構えて立った。
マジで危うく死にかけた。
心臓のバクバクという音が耳元で聞こえると錯覚するくらい響いている。
プレオの目は赤く光り、完全に正気の沙汰ではない。
一体何が起きているんだ。
-----アリス視点
完全に出遅れた。
助けに行かなくちゃと思い立ち上がったものの、足が竦んで動けなかった。
トニーはすぐに走って壇上へと続く通路へ走っていったのに。
あの強い旦那様が不意をつかれたとはいえ顔にダメージを追ったのだ。
相手の形相も目に入ってしまって、驚きと恐怖を感じてしまった。
自分が情けない。
何が『全能』、どこが天才だ。
思わず歯ぎしりをしてしまう。
驚きと恐怖に染まる大闘技場。
しかし視界の端に笑みを浮かべる人物を捉えた。
この状況で?
外に向かうその人影を、私は無意識で追いかけていた。
-----通常視点
プレオは副隊長3人掛りで取り押さえられその場で拘束、連行されて行った。
俺も回復魔法で処置を受けシャルロットと共に外に出ると、人だかりが出来ていた。
今度は何事だよ。
もう俺の心臓は悲鳴をあげすぎて疲れきってるというのに。
人だかりの中に割って入ると、心臓が、そして脳が悲鳴をあげた。
視界が霞む程。
目の前の光景を事実と受け入れられない脳の悲鳴。
そこには全身血まみれで倒れ、応急処置を受けるアリスの姿があった。
第5章 個人戦前編~完~
拙い作品ですが、最後までお付き合い頂けたら嬉しいです。
今後ともよろしくお願い致します!




