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剣の舞~サムライと呼ばれた祖父に鍛えられ、いざ騎士育成学校に入学したら剣術一位だったのでこのまま世界最強剣士を目指すけど、ラスボスはたぶん実の姉~  作者: あっきー
第5章 個人戦前編

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四十七ノ舞「静かな決意と賑やかな声」


速度強化(ヘイスト)

()()()、ジーニー。」


ナナシーが高く手をかざすと、何も無いところからボンッと白い煙をあげて、二足歩行の大きな青い猫のぬいぐるみが現れた。

トニーを一回りか二回り大きくしたくらいのジーニーは、出てくるなり物凄いスピードでこちらに接近し、パンチを繰り出した。

それを右に飛んで躱したものの、躱した先に()()()()氷の矢(アイスアロー)』が飛んできた。

空中で一回転してなんとか回避し、膝をつけて着地。

普段の体幹トレーニングと、昨日のアリス達との無茶な試合のおかげでなんとかなったな。


召喚術士といったところだろうか。

さらにイオ並とまではいかないが、中級魔法を無詠唱で飛ばしてくるあたりかなり魔法のレベルも高い。

そして何より闘い慣れている。

あの猫、思っているより厄介だな。

猫に気を取られれば魔法攻撃の餌食となり、魔法に気を取られれば猫パンチを食らう、と。

その猫パンチが軽々とリングの縁を破壊している威力なのが困りものだ。

だが、この状況は予選のイオ戦で既にやっている。

たかがこれだけで終わるのであれば、昨日のトニーとアリスペアの方がよっぽど強かった。


続けてジーニーが左から、右からナナシーが魔法を展開。

ジーニーを限界まで引き付け、『加速(ブースト)』。

魔法の標的を見失ったナナシーに対し、さらに加速して突撃した。

剣の舞(ブレイドダンス) 陸式 雷光─千鳥!!」

メリメリ音を立てナナシーの鳩尾に完璧に剣が入り、大闘技場を囲う壁まで吹き飛ばした。

ドゴォンと大きな音を立てて壁に打ち付けられたナナシーは、苦しそうにガハッと息を吐いていた。


「雷光一閃ー!!

前年度準優勝のナナシー選手に対し、先制攻撃を決めたのは『雷光』ユウリ・アマハラ選手ー!!

ナナシー選手1ダウンかつ、10カウントが始まっております!!」

正直ガッカリしたよ、ナナシー・ヘンドリクス。

イオの方が10倍は手強かったぞ。



ダンッと地面を蹴り、口から流れる血を拭いながら壇上に戻るナナシー。

その表情は今までの油断していた表情ではなくなっていた。

「ちょっと調子に乗りすぎだよ、君。

ボクを本気で怒らせた罪、ぺちゃんこになって償いな!!」

今度は左手を高く翳し、ボンッと音と共にジーニーと同じ大きさの黒い熊のぬいぐるみが現れた。

ジーニーの次はア〇ジンか?それとも〇ジャーあたりか?

「行け、タマ!」

「名前適当かよ!!」

ちょっと期待して損したぞ、この野郎。

タマの左からのパンチをバックステップで避け、ナナシー本体の魔法を撃ち落とす。

同時にジーニーのフックを『加速』で避けた。


そこまでは良かった。

『加速』で避けた先にタマの全力パンチが襲いかかり、剣でのガードが間に合わずモロに左腕に直撃した。

きりもみしながら壁に打ち付けられ、1ダウンが宣告された。

ああクソ、左腕が動かねぇ。

リングを破壊するほどの威力のパンチが直撃しただけに、流石に折れたかもしれない。

利き手と足は無事なのが不幸中の幸いだが、片手であの3体同時攻撃を捌くには限界がある。

そして何より印を結べない。

捌式以降が封じられたも同然だ。


悲鳴にも似た声が観客席から上がった。

アカネの声に聞こえなくもなかったが、今は気にしている場合じゃない。

壇上へと戻り、試合が再開された。

この3対1の状況は想定外。

そして左腕が完全に機能していない。

熱を帯びて、力を入れようにも入らない。

参ったな、『高天原』も切れて雑念だらけだ。

ひとまず落ち着かせる時間が欲しいな。

この2体の攻撃をくらうくらいなら・・・


ジーニーとタマの攻撃を避け、合間に飛んできた『氷の矢』を()()()受けた。

「ぐあああっ!!」

激痛が左腕を襲った。

リングの外へと落ち2ダウン目が宣告され、10カウントが始まった。

「いい気味だね!!

ボクを怒らせた君が悪いんだよ?」

ナナシーの煽り文句にも耳を貸さず、深呼吸をする。


意識を集中させろ。

トニーやアリスの連携の方がよっぽど手強かっただろ。

予選でイオと闘った時の攻略法は有効なはずだ。


思い出せ。

勝ちに拘ったアカネとサクの覚悟を。

最後まで諦めなかった、隣で共に闘いたい剣士の闘いを。


目を瞑ったまま立ち上がり、壇上へと戻る。

『氷の矢』が刺さったままの左腕からは血が流れているものの、元々熱を帯びて激痛が走っていたのだ。

こんなものは些細な差でしかない。



「試合再開!!」

速度超最大強化ヘイスト・オーバーヒート!」

その言葉と同時にようやく目を開け、ナナシーを目で捉える。

普段よりも大きく、目に見える雷がユウリを覆い尽くした。

「やっちゃえ、ジーニー、タマ!」

左右同時に殴りかかってくるぬいぐるみたち。

居合抜きの構えで微動だにしない相手に対し、ぬいぐるみの拳が襲いかかる刹那。

『天地開闢─天地初発乃時(あめつちはじめのとき)

神速の一閃が、2体のぬいぐるみを真っ二つに切り裂いた。

切り裂かれたぬいぐるみたちは、白い光の粒を空に向かわせながら徐々に消滅していった。


その光景にナナシーは目を疑った。

それぞれの耐久力は自身の3倍以上はあろう召喚獣。

たったの一太刀で消滅させられた事などない。

驚きの言葉を発しようとした瞬間、後ろからの雷撃に意識をもっていかれた。

『剣の舞 漆式 紫電─星界の魔鎚(ミョルニル)

黒い煙をあげながら、ドサリと倒れるナナシー。

それを見下ろす剣士が小さく言葉を零した。

「氷の矢であんなに吹き飛ぶ訳ないだろ。

それに気付けない程油断しているから、足元掬われるんだよ。

隠れて魔法を打ってるだけの奴には、()()()の剣は重いだろ?」


「マジックギルド学院、ナナシー・ヘンドリクス試合続行不可能!

勝者、アビスリンド学園、ユウリ・アマハラ!!」


大闘技場が大歓声に揺れた。

左腕の激痛と、酷使した右腕と両脚が悲鳴を上げ始めた。

立っていられなくなりその場に大の字に倒れると、解説のルーナ隊長が大声で「救護班急げ!!」と叫んでいた。

倒れ方がおかしかったのだろうか。

心無しか、右腕と両脚も熱くなって来た気がする。


救護班より先にイオが視界に入った。

「ウソ・・・イヤ・・・ユウリさん!!!」

イオの回復魔法で身体が軽くなっていくのを感じながら、意識が薄れていった。



-----



ガチャリと、扉の開くような音がした。

「───」

誰かの話し声が聞こえる。

「────」

何を話しているのだろう。

優しくも凛々しく、温かく心に広がるような声だ。

「────」

こっちは泣いてるような震えた声。

それでも俺はこの声を知っている。

共に歩んで行きたいと思った剣士の声だ。


「シャル・・・ル・・・?」

「ユウ!?聞こえる?アタシよ、シャルロットよ!」

そんなに耳元で叫ばなくても聞こえるぞ。

あとなんでお前泣いてるの。

そんな柄じゃないだろうに。

「ユウ、お前何やらかしたんだ・・・」

この声は姉さんか。

あれ、確か2人とも学園に残ってたはずじゃ。

徐々に意識が覚醒し、見知らぬ白い天井が目に入った。

続けてシャルロット、姉さん、イオ、サク、アカネ、アリス、トニーと勢揃いの面々が視界に入った。


「あれ、ここは?」

「病院だ。身体動かすなよ?

あと今は深夜だから、大きな声も出すなよ。」

姉さんの言葉に、実感が湧いてきた。

「試合は?」

「試合はユウリさんが勝ちました。

でも勝った瞬間、全身から血を吹き出して倒れたんですよ・・・

死んじゃうんじゃないかってくらい・・・」

イオが涙を流しながら答えてくれた。

なるほど、この包帯まみれはそういうことか。

左腕は・・・動きはするな、痛いけど。

骨折はイオが治してくれたのだろう。


そこからはサクが、姉さん達や俺に説明するように話してくれた。

イオがすぐさま応急処置で傷を塞ぎ、救護班に迅速に指示を出していたこと。

駆け付けたルーナ隊長が、姉さん達を呼びにアビスリンドまで行ってくれたこと。

そして今到着したばかりだということ。

こうなった原因は、恐らく『速度超最大強化ヘイスト・オーバーヒート』にありそうだということ。


サクからの一通りの説明が終わり、姉さんが口を開いた。

「その技、身体が負荷に耐えられていないってことだな。

ユウ、頼むから二度と使うなよ。」

目に涙を浮かべ、震える声で禁止された。

二度と涙を流してほしくないと思っていたのだけどな。


「身体の傷は塞ぎましたけど、血を流しすぎです。

少なくとも3日は絶対安静、剣を持つのも禁止です。」

イオが涙目で釘を刺してきた。

流石にここまで皆に心配をかけて、それ以上のことはしたくない。

大人しく言うことを聞いておこう。

次の試合は1回戦消化後に1日休みがあるはずなので、4日後ということになる。

それまでに復調すれば問題ないな。


「本当ならここで棄権させたい気持ちはあるんだがな。」

俺の心を読んだのか、姉さんが再び話し始めた。

「お前の気持ちも分かるから、そのまま試合に出ろ。

ただし、危険だと判断した時にはすぐに降りてもらう。

そのつもりでいろ。」

無言で頷くと、周りの面々が心配そうな顔をしていた。

おそらく目が覚める前に、棄権させるべきかどうかを話していたのだろう。

そしてほとんどは棄権させる派って感じかな。

まあ俺でもそう思うし、分からんでもない。

「どにがぐ、無事でよがっだ・・・」

泣きじゃくりながら言うシャルロットの頭を姉さんが撫でながら部屋から出ていった。

それに続き1人、また1人と俺に声をかけながら病室から出ていった。

最後にトニーとアリスが残った。


「旦那様・・・あんな無茶な闘い方は、もうやめて。

いくら時間が欲しかったからって、氷の矢(アイスアロー)をわざと左腕に受けて吹き飛んだフリをするなんて・・・」

そう言って目に涙を浮かべるアリス。

あ、そっちですか。

というかバレてたのね。

「流石に咄嗟の思いつきだったとはいえ、あれは二度としないよ。

この格好じゃ、説得力ないかもしれないけど。」

「本当よ!どれだけ心配したと思ってるの・・・」

そう言ってベッドに突っ伏し泣き始めてしまった。


本当に俺は周りの人を泣かせてばっかりだ。

笑顔でいて欲しいのだけどな。


「アリス・・・俺、強くなるから。

周りの皆が泣かずに笑顔で居られるくらい、強くなるから。」


「それが叶った時には、わたしをお嫁さんにしてくれる?」


「・・・検討しておくよ。」


涙を流しながらも、「えへへ」と笑うアリスにドキッとしながら。

ただ強くなるだけではダメなのだと、思い知らされた。

皆の涙をもう流させないためにと、改めて決意するユウリだった。



「オラ、居ること忘れられてねぇべか?」

「あら、トニーまだ居たの?」

「ジーニーかと思ったぞ。」


「2人とも、流石にひどいべ?!」



深夜の病室に静かな決意と、賑やかな声が響くのだった。



拙い作品ですが、最後までお付き合い頂けたら嬉しいです。

今後ともよろしくお願い致します!

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