四ノ舞「牢屋にぶち込むね」
「中堅戦を開始する。選手は前へ!」
次鋒戦を終え、こちらに戻ってくるアカネとグータッチを交わし、前に出る。
俺もアカネの心配をしていなかったけど、アカネも俺のこと一切心配してないって顔だな。
「ユーリさん、ファイトです!」
笑顔で応援と共に頑張れのポーズをしてくれる王女様。
牛若丸が見えると言ってから心を開いてくれたのか、最初のイメージと違って俺の中の評価はうなぎのぼりだ。
「ユウリ・アマハラだ。」
「サクラ・イガよ。よろしくね、弟くん。」
「ん?先輩の出身って東洋か?」
「だいぶ前のご先祖様がそうみたいね。最近ではもっぱら護衛として国王に使える家系だよ。もっとも、私の居場所はないけどね。」
へぇ、シノビか。思わず口の端が吊り上がる。
色んな人が居て、この学園は本当に退屈しないな。
「試合、開始!」
「速度強化!」
唱えるとユウリの身体の周りを、目に見えるレベルの電気が纏った。
「『神威』」
姉さんの合図と共に、雷魔法で身体強化からの『神威』。
ジジイとの試合でも使用したこの技は、常人ではまず見切れない。
神速の横薙ぎがサクラ先輩の脇を捉えた。
その瞬間、ボンッと音と共にサクラ先輩の姿が木の丸太へと変化した。
「あいたたた、ギリギリ間に合ったー・・・」
破れた脇腹の制服を抑えつつ、サクラ先輩は俺の背後に現れた。
横薙ぎを受けた丸太はカランカランと音を立てて、隅で腕を組んで仁王立ちしているシャルロットの前に転がっていった。
「シノビの術は初めて見たけど、すっげぇな!完全に捉えたと思ったのに。」
やべぇ、ワクワクしてきた。
「いやいや、なんてスピードしてるの君。こんなの続けてたら身体もたないって。」
「でも諦めるつもりもないんでしょう?」
「そりゃそうでしょ。先輩には先輩の意地ってのがあるんだよ、後輩くん!」
言うなり地面から大量の木の葉が舞い、サクラ先輩の姿が消えた。
「葉っぱを使った視線誘導、ッスね!」
「消えるのは君の専売特許じゃないのよ!」
ガキンッ
シノビの剣だろうか、投げナイフとも取れるそれを手に俺が先ほど攻撃した同じ場所を狙ってきたが・・・それを木刀の柄でガードした。
「変則ガードとはやるね。」
「身内にやたら速い人が居てね。こうでもしないと防げないんスよ。」
「なるほどね。」
『神威』を使い、後ろに1歩分下がる。
1歩といっても10メートルは距離があるが。
にしても危なかった。速度強化をしていなかったら間に合わないスピードだ。
「シノビがスピードを失ったらダメだもの。」
「そりゃそうだ。有事の際に主を守れないしな。」
「そういうこと。あーでも今の攻防で実力差分かっちゃったなぁ。」
こりゃ参ったと言わんばかり頭をかくサクラ先輩。
それでもなお両手に投げナイフを持ち、ファイティングポーズを取る。
「敵わぬと悟ってなおその姿勢、勉強になります。
俺も全力で行かせていただきます。」
「当然!手加減なんかしたら怒るからね!」
すぅーと息を吸い、左足を体の前に、頭の横の上段に木刀を構え準備完了。
「行きます。剣の舞 参式 雷斬─桜吹雪!!」
同時に3つのかまいたちがサクラ先輩を襲う。
1つ目を変わり身の術で躱し、2つ目を右脇腹をかすめながら受け流す。
しかし3つ目がクリーンヒット─と思いきやこれも変わり身の術。
「よし、これで!」
相手の大技を切り抜け、敵の前に出た。
もらった!という気持ちが、投げナイフを持った右手を大振りにさせた。
目の前の後輩は、その一瞬を見逃さなかった。
「剣の舞 壱式 居合─柳閃!!」
抜刀から納刀まで、わずか0.3秒。
その間に2人の位置は前後入れ替わっていた。
少しの静寂の後、サクラがその場に倒れ込み、続いてユウリも大の字に倒れた。
ユウリは倒れたまま、木刀を天井に向かって突き上げた。
「勝者、ユウリ・アマハラ!」
一瞬の攻防に、静まり返っていた場内が一斉に大歓声に沸いた。
「相変わらず『桜吹雪』は体力の消耗が激しいね。」
駆け寄って肩を貸しに来てくれたアカネが言う。
空気を斬るほどのスピードで剣を一瞬で3回振ってるのだから、仕方ないと言えば仕方ない。
だが間違いなくこの技の欠点だ。なんとかしないとだな。
ユウリがタンカで運ばれていくサクラの方を見る。
「それを使わなくちゃ・・・いや、使いたいと思える強者だったんだよ。」
またいつか闘いましょう、サクラ先輩。
陣営に戻ると、ショーヤとイオが迎えてくれた。
「良いものを見せてもらったよ。」
「お疲れ様です、ユーリさん!」
2人と笑顔でグータッチをすると、ツンツン赤ポニーが近づいてきた。
「まぐれとはいえアタシの背後をとったんだから、これくらいは当然やってもらわないと困るわ!」
顔を赤くし横を向きながらそう言うと、右腕をこちらに伸ばしてきた。
驚きつつもグータッチを返すと、ニヒヒと少女のように笑うのだった。
前言撤回、次からはツンデレ赤ポニーと呼ぼう。
アカネとは昔からよくグータッチをしていたから違和感がないのだが、知り合って3日目の仲間たちとも普通にするようになるとは・・・全世界共通なんだな。
グータッチの偉大さにしみじみしていると、姉さんからアナウンスが入った。
「それでは副将戦のメンバーは前へ!」
イオが眼鏡を外し、杖を持ち顔をあげた。
眼鏡がなくても見えるのか。
「乱視がひどいだけで、視力が悪いわけじゃないんですよ。」
戦闘に支障がない程度なら問題ないか。
「あ、それとユーリさん、木刀お借りしてもよろしいでしょうか?」
え、うん、いいけど。王女様が持つと違和感しかないな。
「それじゃあ、行ってきます。あ、私のことはちゃんと見ててくださいよ?」
そりゃイオはアカネとは違うからな、ちゃんと見届けるよ。
「それでショーヤ、イオの視力はどうなんだ?」
「初めて手合わせをした時、僕が3人居て腕6本で同時に攻撃されていると言っていたぞ。」
「ショーヤって分身の術でも使えるのか?」
「使えないよ。僕は魔術は全然使えないんだ。それだけ乱視がひどいってことさ。」
「それって大丈夫なの?」
アカネも心配そうに入ってきた。
「その手合わせをしたのは8年前だ。そこから8年間、その状態で毎日手合わせをしているからね。
むしろちゃんと見える方が違和感あるんじゃないかな。」
なるほどね、動きの無駄がないと感じたのはそのせいか。
お、始まるな。ちゃんと見届けよう。
「試合、開始!」
「聖女様だか王女様だか知らねぇが、悪く思うなよ!」
なんだあのチンピラは。俺が王なら牢にぶちこむね。
容赦なく斬りかかる連続剣を、イオはその全てを華麗なステップで躱す。
上段からの大振りもバックステップで難なく避けた。
その瞬間、イオがビクッと身体を震わせた。
直後、イオから異様なオーラが出始めた。
「そんな生ぬるい剣で我を傷つけられると思うなよ。」
あ、これ牛若丸入ってないか。目つきもなんか釣り目になってるし。
「先ほどのガキと同じことをしてやろう。」
左手に杖、右手に木刀を持ち、その場でジャンプし始めた。
「『飛八艘』」
着地と同時に『神威』と同等の速さで敵に向かい、否、跳躍して木刀と杖を横薙ぎ一閃。
それは正しく、中堅戦の初手でユウリがやった動きそのものだ。
違いがあるとしたら、腕2本で斬ったこと。
加えて派手にチンピラを吹き飛ばしたそのパワーだ。
『神威』は縮地法なので、どうしても踏み込んでから斬るという段階をふむ。
踏み込むと肩の位置が違うため両手では扱いづらく、どうしても片腕になる。
しかし今の技は片足ずつで着地すれば己の体重を乗せて斬れる。
身体を捻る必要はあるが、その分両腕でぶつけられるのだ。
ダッシュして最後の大きめの一歩でなんとか手が届いたテニスのスイングと
片足で着地して軸足とし、もう片方の足を着地すると同時にひねった身体を使った野球のスイング。
どちらの力が強いかは言うまでもないだろう。
「この十握剣はなかなか悪くない・・・」
再びイオの身体がビクッと震えた。
「あれ?また・・・」
「勝者、イオン・フォン・アビステイン!」
事情を知らない観衆は、小さい王女の力技にざわめいた。
聖女と呼ばれる少女が、木刀と杖で規格外の力で殴ったのだ。
驚かれるのも無理はない。
「イオ、お疲れ様。」
「お見苦しいところをお見せしました・・・」
そんなことないぞ。牛若丸も見れたし。
「あはは・・・」
そんな励ましにも、イオはうつむき力なく笑うのだった。
思ってたよりも根が深そうだな。
今はそっとしておこう。
「それでは大将戦を始める!選手は前へ!」
さて、ショーヤのお手並み拝見だな。
「こんな所でショウヤ様と闘うことになるとは。」
アスカ先輩が無表情のまま呟いた。
「今の僕は王子としてではなく、一学年選抜チームの1人に過ぎませんよ、アスカ先輩。」
「それは助かる。遠慮なく行かせてもらうぞ。」
「それでは、試合開始!」
アスカ先輩の武器はレイピアか。
手数の多い双剣の連撃を防げるのか?
「風魔法・・・ちっ!」
キキンッ
アスカ先輩が魔法を発動させる前にショーヤの双剣が相手の動きを止めた。
「あれ?」
どうしたアカネ。
「今の魔法、ちょっと不自然な止まり方をした気がする。」
そりゃ魔法詠唱中に斬りつけられたら詠唱止めざるをえないだろう。
クルクルと身体を回転させながら双剣での連続攻撃。
かと思いきや右手の剣で敵の防御を誘い、左手の剣で攻撃する。
変幻自在の剣戟なのだが、動きに違和感がある気がする。
「兄さんは、ダンスのステップを剣技に応用しているんですよ。」
ショーヤの動きをじっと見ていると、イオがその答えを教えてくれた。
なるほど、だからこまめに動く時や大きく回転する時があるのか。
「わたしじゃ目が回って無理ね・・・」
気にするなアカネ、強いんだから変なことしようとしないほうがいいぞ。
「もう良いだろう。貴方の剣は見切った。」
ショウヤの振り下ろした剣を体を右に捻り寸前のところで回避したアスカ先輩。
直後、レイピアの突きがショウヤの左肩を襲った。
「刺突 四肢封印」
左肩に突きが直撃し、思いっきり吹き飛ばされるショウヤ。
めちゃくちゃ痛そうだけど大丈夫か?
心配そうに見守るイオに、左手で大丈夫だと言わんばかりに手のひらを向けた。
「強がりはやめたほうがいい。今ので左腕では剣をふるえまい。」
「驚きました。護身用の防弾チョッキを着てなければ肩に直撃でしたね。痣にはなってるでしょうけど。」
もうなんでも王子だから仕方ないで済みそうな奴だな、お前。
「それでは反撃と行きましょうか。」
ショウヤは大きく踏み込み、左手の剣で振り上げ、右手の剣を左から右に横薙ぎに払った。
「見切ったと言ったはずだ。」
アスカ先輩は身体を捻り、回避した。
「見切ったと言う割には、制服が切れてますよ、アスカ先輩。」
「なに・・・?!」
ショウヤの言う通り、アスカ先輩の左脇の制服が大きく切れている。
ん?さっきショーヤは左から右に向けて剣を払ったはずだ。
アスカ先輩から見たら右から左になるわけで、最後の振り終わる頃に当たったにしては制服の破れ方がおかしい。大きすぎる。
使えないとか言っていたが、実は魔法を使ったのか?
ショウヤは続けて右腕で振り上げ、左腕で振り下ろした。
「見えたっ!」
いの一番にアカネがからくりに気づいたのか、声をあげた。
さすがの動体視力だな。
左腕の剣はレイピアで防がれる軌道のはずだった。
レイピアを素通りし、右ふともものあたりの制服を破った。
ここで俺も気づいた。
剣を上下逆に持ち替えてるんだ。
片手で扱える双剣ならではの技だ。
「あれは幻影剣。兄さんの剣に慣れれば慣れるほど、相手は幻影を追ってしまう。
身体に隠れたタイミングで相手に気取られず逆手に持ち替えることにより、まるで違う角度からの斬撃が可能になるんです。」
イオが誇らしげに解説してくれた。
そして幻影と気づき、逆手に気を取られると通常の剣が襲い掛かる、ってオマケつきだな。
「はい!ユーリさん、満点です!」
満面の笑みで言われるとドキッとする。本当にショーヤのことが大事なんだな。
「そこまで!決着つかず、両者引き分けとする!」
「くそっ・・・勝つつもりだったのに。」
「決着は次回までお預けですね。」
互角の闘いを終えた2人が握手を交わすと、場内は大歓声に包まれた。
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「氷魔法 氷の矢」
ショーヤが戻ってくるなり、アカネがショーヤに向けて魔法を詠唱した。
え、なにやってんのコイツバカなの?
「ッ!」
ショーヤがその魔法を視ると、魔法の発動が止まった。
「やっぱり!」
何がやっぱりだ。俺が王なら牢屋にぶちこむね。(本日2回目)
「ショーヤ、貴方ユニーク属性の魔法を持ってるから他の魔法が使えないのよ。」
アカネ以外の全員の頭の上に「?」マークが浮かんだのだった。
拙い作品ですが、よろしければ最後まで見てやってください。
よろしくお願い致します!