四十六ノ舞「足元を掬え」
寮へと戻り、明日はアリスたちと合同で稽古をしようと伝えると、アカネとイオがやる気満々だった。
どちらもアビスリンドには居ないタイプなだけに、実戦の経験を積むには良い相手だからな。
イオには試合の次の日だから程々にと伝えたものの、恐らく回復魔法をかなりの数をお願いすることになるかもしれない。
試そうとしていることは、そんな考えが出る程には無謀だ。
サクは勝ち上がればアリスと闘う可能性があるだけに、遠慮しておくとのことだ。
確かにシノビの技は見慣れたら対応されやすいし、仕方ないか。
ちょっと申し訳ないな。
翌日、朝早くにアリス達が呼びに来た。
サクがまだ寝ていた俺たちを起こしてくれたのだが、珍しくイオが一番最後まで起きなかった。
圧勝だったとはいえ、やはり初戦で緊張して相応に疲労がでたのだろう。
結局着替えだけ済ませて、俺がおぶって行くことにした。
アカネもまだ眠そうにしていたのだが、アリスが持っていたお昼用の大きなお弁当の匂いにお腹を慣らして飛び起きた。
崩すといけないので、後でサクに持ってきてもらうことにしよう。
イオたちが着替えている間に食事処に降り、おにぎりを貰うことに。
アカネの朝ごはんとして、巨大なおむすびボールも無理言って作ってもらった。
バスケットボール程の大きさの米の塊にところどころに海苔が貼られている。
アリスは「お昼足りるかしら」と心配そうにしていた。
サクに追加で何かアカネ用に買ってきてもらうように伝えると、「おまかせあれ!」とこちらもご機嫌だった。
何だかんだで姉御肌というか、頼られるのが好きみたいだ。
そんなサクに見送られつつ、クノッサスの外へと出発した。
-----
あまり街から離れすぎたり森の中などに入ると魔物が出てくるため、離れすぎず近すぎずといったところでやることにしよう。
振り返ると、クノッサスの街並みが見える程度の高い位置に来ていた。
あまり離れすぎても帰るのが大変だし、この程度離れれば魔法をぶっぱなしても問題はないだろう。
アビステインの浜風とは違って、緑を感じられる風が気持ちいい。
ピクニックでもしたくなるような陽気だが、今日は我慢しなくては。
木陰にイオを座らせ、軽めの筋トレを済ませるとすぐに実戦形式を始めた。
最初はアリスと俺、トニーとアカネの組み合わせだ。
俺は速度強化と分身の術を禁止、アリスは白夜結界禁止で闘ったのだが、結論から言うと手も足も出なかった。
短縮詠唱で次々と飛んでくる魔法を反射神経だけで避け続けるのは流石に無理があり、近づくことすら出来なかった。
アリスに回復魔法を受けているのだが、「旦那様がわたしを追いかけてくれているのに拒まなければならないなんて・・・」とションボリしている。
アリスの脳内では今の一方的な魔法攻撃が、追いかけっこにでもなっているのだろうか。
続けてアカネ対トニー。
アカネは木刀を使った上で付与術禁止、トニーは擬獣化禁止だ。
案外この2人の実力は拮抗しており、普段相手することのないパワータイプにアカネも苦戦していた。
トニーはトニーで拳を上手く捌かれて体勢を崩されたり、カウンターを貰ったりとキツそうだ。
ある程度で中断し、引き分けということにした。
やりすぎて怪我や疲労の蓄積をしては元も子もないからな。
だんだん日が登り始めた頃、イオがようやく動き出した。
「ユウリさーんおはようございますぅ」と俺の肩に頭を乗せて眠そうに甘えた声で言うイオが、アリスを視界に捉えた瞬間にフリーズした。
「なんでアリスが居るのでしょう」とイオに至近距離で顔を覗き込まれてドキッとしていると、アリスの「そのまま寝てていいのよ」という言葉で目が覚めたらしく、場外での試合が急に始まった。
だが互いに攻撃魔法を使うわけでもなく、口喧嘩のようになっている。
なんだかんだ仲良いよな。
しばらくしてサクがお弁当を届けてくれた。
お昼にしようと手を止めさせ、木陰に集まりお弁当を広げた。
大量のサンドイッチに、お弁当定番の唐揚げや玉子焼きなどが沢山入っていた。
「すげぇな、準備大変じゃなかったか?」
「昨日めちゃくちゃ張り切ってたでよ。」
「トニー、そういうのは言わなくていいのよ。」
笑顔なままでトニーの首に杖を突きつけるアリス。
トニーは凄い勢いでうんうんと首を振っていた。
どこも女性の方が強いんだな。
皆でアリスにお礼を言い食べ始めると、イオが小さい声で「悔しいけど美味しいですね」と言っていた。
確かにめちゃくちゃ美味しい。
サンドイッチも具材に色んなものを使っているし、唐揚げも玉子焼きも作るのは大変だ。
手間暇かけて作ってくれたのが容易に想像できる。
あまりの美味しさに思わず食べすぎてしまいそうだが、軽めにしておいた。
アリスが口に合わなかったかしらとしょんぼりしていたので、頭を撫でつつ。
「いや、めちゃくちゃ美味かったよ、ありがとうな。
本当はもっと食べたいけど、この後アリスとトニー同時に相手してもらうつもりだから、食べ過ぎて動けないと申し訳ないからな。
その・・・なんだ。次出かける時にはまた頼むよ。」
次という言葉にパアッと明るくなるアリス。
夏のブライデン王国あたりだろうか。
その時にはアリスのお弁当を楽しみにしておこう。
むっとしながらサンドイッチを両手で食べるイオと、美味しそうに食べまくるアカネを見守りながら、軽く身体を動かしておいた。
終わったあとにもう少し食べたいから残しておいてくれよ、アカネ。
皆食べ終えたところで、先程言ったアリスとトニーを同時に相手するという無茶な闘いが始まった。
流石に速度強化は解禁、擬獣化と白夜結界は禁止のままだ。
普段からコンビネーションの練習でもしているのではないかと思えるくらい、2人の息はピッタリだった。
トニーの大きな身体に隠れたところから、アリスの短縮詠唱による氷の矢が飛んできたり。
トニーの拳をバックステップで避けた先に風の刃が飛んできたりと、かなり苦戦を強いられた。
勝手な推測なのだが、ナナシーはこれを1人でやれるのではないか。
そう思ったからこその今回の無茶な申し出だ。
体格からしてトニーとは違ってスピードに特化したタイプだろうし、アリスとは使う属性が同じとも限らないから、意味があるかは分からないが。
それでも多方向に注意を払えるという意味では、スピードの高い相手へ対策となるだろう。
1度トニーをダウンさせたものの、アリスには1度も届くことはなく、俺が3ダウンしたところで終了した。
イオ対アカネを見ながら、アリスに回復魔法をかけてもらっていた。
「ナナシー先輩の弱点があるとしたら、負けるとは微塵も思っていないところかしらね。」
なるほどね、足元を掬ってやればいいと。
「仮にも先輩だろうに、そんなこと教えていいのか?」
「旦那様のカッコイイところが見たいだけよ。」
「アリスはナナシー先輩苦手だべな。」
またも笑顔で杖を突きつけるアリス。
トニーはオブラートに包んで言えないものなのだろうか。
まあこれがこの2人の距離感なのかもしれない。
凍り付いたアカネを見ながら残った唐揚げを食べつつ、明日の試合のことを考える。
正直に言うと今日の鍛錬がどこまで意味があったかは分からない。
もしかしたら、時間を浪費しただけかもしれない。
それでも、この仲間たちとの研鑽は必ず自分の力になっているはずだ。
どれだけ強者だろうと、勝負に絶対は有り得ない。
待っていろ、ナナシー・ヘンドリクス。
油断をしてくれているのなら、それで結構。
俺たちの研鑽で、必ず足元掬ってやる。
そう決意し、寒さで凍えるアカネに上着を貸すユウリだった。
-----
「さあ、いよいよ個人戦3日目も最終戦!
皆さん大注目の、本日の大一番です!!
前回個人戦準優勝のマジックギルド学院3年、ナナシー・ヘンドリクス選手。
今年の新人戦優勝の立役者、アビスリンド学園1年、ユウリ・アマハラ選手。
この両者の激突を前に、大闘技場は揺れるほどの歓声に包まれています!!
解説のルーナさん、この1戦はどのような闘いになるでしょうか。」
「常識で考えれば8対2くらいでナナシー選手かしら。
でもその常識をことごとく覆してきたのが、今年のアビスリンド学園。
普通に考えたら勝てない試合も勝ってきているし、その中で最も実力を測れないのがユウリ選手。
間違いなく常識通りには事は運ばれないでしょうね。」
ルールは守るけど、常識なんてものは破るためにあるからな。
1度きりの人生だ。
何をするにしても、楽しまなきゃ損だろう。
決められたレールの上を行くくらいなら、自分のやりたいことを自由に謳歌する断崖絶壁の道を進む方が自分が納得できるからな。
壇上へと上がり、対戦相手と向かい合う。
「そんなニヤついた顔でボクの前に現れるとは本当にいい度胸だね。」
真剣なつもりだったのだけどな。
大きな楽しみを前に、思わずニヤついていたらしい。
「君のそういうところが、本当に不愉快だよ。」
「何に囚われてるのか知らないッスけど、先輩それで楽しいですか?」
「・・・生意気な後輩をぺちゃんこにするのは楽しいかもね!!」
その言葉に目を瞑り、息を整える。
かつて実力があるというだけで驕ってしまった自分と重なる部分がある。
大切なものを失って、初めて気づいた自分が言うのもなんだけど。
残影領域─高天原に入り、相手を見据えた。
「貴女に本当の強さを感じない。
俺の最強を以て、叩き斬る!!」
「それでは、試合開始!!」
拙い作品ですが、最後までお付き合い頂けたら嬉しいです。
今後ともよろしくお願い致します!




