四十五ノ舞「足元を掬われないように」
「聞こえますでしょうか、この大歓声!
多くの観客の皆さんが、例年のような熱戦を今か今かと待ちわびています!
始まるまでに、今年の試合の流れをおさらいをしておきましょう。
今年の新人戦の1回戦は1日4試合ずつ行われます。
各ブロックの番号が若い4名はシードなので、本日試合はございません。
本日から4日間かけて行われる1回戦、まずはAブロックからです!
番号にして5番から12番の選手の闘いですね。
さあ、まもなく試合開始です!」
番号順に試合をしていくのかと思っていたが、確かにいきなり3回戦進出決定の選手が出るよりはこちらの方がいいか。
イオの試合のついでにトニーの試合を観れたらと思ったのだが、試合がないのなら仕方ない。
第3試合のイオの出番まで大人しくしてるとしよう。
アビスリンドで言うと、サクがシードに入ってるのか。
ついでに言うとトニーとアリスもだ。
そしてアカネは1回戦のトリと言うことになる。
今は隣で笑顔で呑気に3つ目のホッドドックを食べているが、3日後には青ざめて吐きそうな顔をしているだろうな。
というかコイツの食費は一体どこから出ているのだろうか。
俺の知らない間に姉さんからクエストを回してもらっているとかかな。
「やあ、久しぶりだね。」
不意の後ろからの綺麗な声に振り返ると、ルーナ隊長が居た。
やっぱりこの人は意外と暇なんじゃなかろうか。
なんというか、どこにでも居る。
「先日は姉さんがご迷惑をおかけしたようで、申し訳ありません。」
深々と謝罪すると、思い出したかのように深いため息をつかれた。
「まったくだ!
防刃の特別な素材で作られていたはずの冒険者ギルドの扉をぶった斬るし、この街にいる間の食事代と宿代が全部私の名前で徴収書が送られてくるしで、大変だったぞ。
教育者になっても相変わらず破天荒なやつだ。」
土下座した方が良いだろうかと思っていたのだが、意外と怒ってる感じではなかった。
懐かしさを感じているような表情に安堵しながらお礼を伝えておいた。
しかし野蛮で迷惑な輩と思っていた犯人が、まさかの身内だとは。
「ところでアカネちゃん、うちの隊に来る気になった?」
「前回から1ヶ月ちょっとしか経ってないから、特に気持ちの変化はないです。
でも、将来的には行ってもいいかなーとは思ってます。」
やっぱりそうか。
皆の卒業後のことを考えた時に、アカネはそうするのではないかと勘で思っていたのだが、意外と前向きに検討していたらしい。
「そうかそうか!
これは良い返事が聞けるのも、そう遠くなさそうだね。
これだけでも任務中に声をかけた甲斐があったよ。
それじゃあそろそろ戻らないとだから、また。
みんな、新人戦頑張ってね。」
満足したような笑顔で手を振るルーナ隊長にお辞儀をして見送る。
周りの観客から「ルーナさんの笑顔をこんな間近で見られるとは・・・」と声があがった。
アカネの誕生日のルーナコールもだが、この街ではかなり人気のある人の1人みたいだ。
そんな人に目をかけて貰えてるのはありがたいことだな。
今後もクノッサスには何度も来るつもりだし、是非仲良くさせてもらうとしよう。
-----
「決まったー!
イーストテインのデイビッド選手、2回戦進出です!」
イオの前の試合が終わった。
15分の休憩の後次の試合が始まるとアナウンスが入り、観客はトイレや飲み物の買い足しなどでほとんどが立ち上がっていた。
俺達もイオの応援のために行こうとしたのだが、個人戦ということもあり試合のある選手以外は入れないそうだ。
仕方ないので飲み物を買い足して戻ってくると、実況解説が挨拶をしていた。
「続いて本日の第3試合!
アビスリンド学園1年、イオン・フォン・アビステイン選手。
ノースポート学園2年、ドルシエ・ガンマ選手。
この2名による闘いです!
審判はこの試合よりクノッサス大聖堂王都第一守護部隊、副隊長ニック・ロドリゲス。
実況は私、クノッサス大聖堂王都第二守護部隊、副隊長エリーナ・A・ルックボーンです。
アビスリンドのイオン選手と言えば、4月に行われた新人戦を制したメンバーのうちの1人です!
準決勝での『全能』のアリスとの魔法戦、見事でした!
解説はクノッサス王国騎士団三番隊隊長、アンドレ・サベージロードさんでお送りします!」
「よろしく頼むのである。」
新人戦初戦の実況解説と審判か。
3人セットで動いているのだろうか。
何にしても副隊長クラスだと、こういう仕事も多そうで大変だな。
その分隊長クラスは警備の統率、末席も警備にとそれぞれ大変だが。
こういう人達のおかげで俺たちは試合を出来るという環境をありがたく思わないとだな。
試合開始時間になり、両者が壇上へ姿を現した。
イオの姿が見えた瞬間に、大きな歓声があがった。
準決勝でのアリスとの魔法戦と決勝での覚悟の言葉で、観客の心に響くものがあったのかもしれない。
頑張れよなどの応援の声が沢山聞こえるのだ。
仲間が応援されているというのは、嬉しいものだ。
きっとイオにも届いているだろうが、集中した表情で相手を見据えていた。
バスタードソードとでも呼ぶべきだろうか。
イオより大きいのではないかと思える巨大な両手剣を持っており、それを振れるだけの筋力、そして体格はトニーにも負けず劣らない。
あんな剣をまともにくらったら、イオでは間違いなく吹き飛ばされるだろう。
まあ、距離を縮めることができれば、だがな。
「時間無制限、3ダウンまたは10カウントダウンで敗北とする。
それでは、試合開始!!」
「電撃」
開幕速攻の電撃は、イオに向けて走り始めたドルシエを貫通した。
身体を痺れさせる程の電撃に大剣を支えにしてなんとか踏ん張るドルシエに対し、更なる攻撃が襲った。
「大寒波」
一瞬にして壇上を凍りつかせる、最上級魔法。
何度も使用しているからか、以前よりも発動までが早くなった気がする。
傍目から見ているからそう感じるのかもしれないけど。
身体を痺れさせて身動きが取れないドルシエは、完全に凍らされていた。
電撃で身体が痺れて動けないところに大寒波を打たれたらたまったもんじゃない。
俺やシャルロットには破られたとはいえ、超強力な広範囲魔法には変わりはないしな。
イオに初見で勝つのは、無詠唱魔法のスピードもありなかなかに難しいだろう。
俺も何度もシュミレーションをして、ようやく活路を見つけたしな。
それでもぶっつけ本番だった場面もあったくらいだ。
新人戦決勝の時のような相手でない限り苦戦は必至だな。
「0!ドルシエ・ガンマ、10カウントダウン!
勝者イオン・フォン・アビステイン!」
イオはふうと一息つくと、大歓声に驚いた表情をしてぺこぺことお辞儀をした。
「無詠唱最上級魔法炸裂ー!!
アビスリンド学園イオン選手、危なげなく2回戦進出です!」
「何度見ても見事な魔法操作である。」
次の試合はイオの次の対戦相手が決まる闘いだ。
イオは一度出場選手の控え室の方へ入って行ったが、朝のうちに観戦すると言っていたのでこちらへ来るだろう。
どうせなら飲み物と軽い食べ物を用意しようとのことで、サクに場所のキープを任せてアカネと共に購買コーナーへと足を運んだ。
アカネはイオより自分用の買い足しだろうが、こんなに食べるのに何故そのスタイルを維持できるのだろうか。
アカネ七不思議の1つだ。
大会の時に限り、商店街の色んなお店が出店をやっているだけあり、割となんでもある。
まるで夏祭りの縁日のような一角になっており、通路は観客で溢れかえっていた。
イオは甘いものが好きなのでチョコのかかったドーナツを人数分と、飲み物は紅茶を購入。
買い終えて席に戻ると、イオがサクと笑顔で話していた。
おめでとうと声をかけてドーナツを渡すと、お礼と共に嬉しそうに足をプラプラ振りながら両手で食べ始めた。
ちくしょう、大正義。
片手で大口を開けてチョコを口の周りにつけながら食べている、どこぞの幼なじみにも見習わせたいね。
サクがアカネの口周りを拭いてやっていると、次の試合の選手が入場した。
実況の反応と観客の盛り上がりからして、そこまで有名な人でもなさそうだ。
見た感じイオなら問題なく勝てるな。
先の2試合も大したことなかったし、Aブロックはトニー含めてシードに強者が揃っていそうだ。
ノースリンドブルムの選手も1番だったしな。
ベスト8までは行けそうだが、最大の関門は準々決勝だ。
イオも同じ感想のようで「足元を掬われないようにしないと」と気合いを入れ直していた。
実はめちゃくちゃ強い人でした、などの展開はなく大した試合ではないまま終了したので、そのまま宿に戻ってきた。
Bブロックのサクはシードなので、明日は試合がない。
明後日の1回戦最終戦で出番となるだけに、無理はできないが身体は動かしておきたい。
イオは試合の次の日だから無理させたくないが、魔法使い相手を慣らしておきたいのは事実。
Bブロックとはいえサクと同じくシードで試合のないアリスしか居ないか。
思いついたら即行動だ。
マジックギルドのメンバーが泊まる宿へと向かった。
やはり鼻が利くのか、宿の近くに行くとトニーが窓から顔を出した。
横からアリスも顔を出し、俺を見つけると嬉しそうな顔をして引っ込んだ。
恐らく走ってこっちに向かっているのだろうが、トニーは飛び降りてきたので既に目の前だ。
息を切らし気味にトニーに蹴りを入れ「飛び降りるなら私を抱えて降りなさいよ」とご乱心のアリス。
見ているだけでも面白いのだが、本題を切り出すことにしよう。
「アリス、明日は暇か?」
「旦那様からのデートのお誘いなら、他のどんな用事も全て暇に該当するわ!」
「ユウリ脳だべ。」
お前もな。
まあそれに甘えているのは事実なのだが。
それに残念ながらデートの誘いではない。
魔法使い相手を慣らしておきたいと素直に伝えると、少し考えた表情の後答えが返ってきた。
「わたしで良ければ全然手伝うのだけど、ナナシー先輩を意識しているならトニーの方が近いわよ?」
詳しくは言えないけど、と言葉を足すアリス。
トニーもうんうんと頷いている。
「それなら対策はいいか。合同で軽めに稽古でもどうだ?」
「そういうことなら喜んでご一緒するわ。」
「身体動かさないと鈍るでな。」
ということで明日はトニーとアリスと合同稽古となった。
明後日のナナシー・ヘンドリクスとの試合。
あの小さな身体でトニーのような闘い方をするのだろうか。
しかし宮廷魔法使いに決まるくらいなのだから、間違いなく魔法は超一流だろう。
アリスとトニーを同時に相手するようなことにならなければいいが。
そんなことを考えながら、寮へと戻った。
拙い作品ですが、最後までお付き合い頂けたら嬉しいです。
今後ともよろしくお願い致します!




