四十四ノ舞「全て斬るまでだ」
組み合わせ抽選を終え、仲間たちと共に大闘技場を出た。
初戦の相手は前回準優勝選手、そして優勝選手と準々決勝で当たる。
皆は気を使っているのか話しかけて来ないで居るが、正直どのみち倒さなければならない相手だ。
早いか遅いかの差でしかない。
むしろ、そんな強者達と闘えるのだから喜ぶべきポジションだ。
後ろ向きになっても、何も始まらないしな。
この後はアリスと街に出かけるつもりだ。
せっかくなので楽しむとしよう。
そう思っていると、後ろからアリスが呼び止められた。
「アーリスちゃーん!今日はこれから出かけるんだっけ?」
振り返ると、イオと大差ないくらいのこじんまりとした褐色肌の女の子が居た。
マジックギルドの制服でなければ、子どもが紛れ込んだと勘違いしそうな風貌だ。
イオもだけど。
「ええ、旦那様とデートに。
ナナシー先輩は王宮に寄るんでしたっけ?」
アリスが言葉を返したのでそちらを向いたのだが、名前を呼んだ瞬間先程の子どもに向き直った。
こんなイオみたいなちんちくりんが3年生・・・しかも初戦の相手だ。
「良いなー!ボクも素敵な旦那様が欲しいよ。」
「ふふ、あげませんよ?」
と笑いながら腕を組んでくるアリス。
その姿を見てナナシーは「あれ?」と首を傾げた。
「君ってアビスリンドのユウリ・アマハラくんだよね。
ボクの初戦の相手の。
ふーん、アリスちゃんの旦那様なんだ。」
最後は断じて違うが、初戦の相手ではある。
とりあえず挨拶をすると、ニヤニヤと笑いながら腹をバシバシと叩かれた。
「にゃはは、アリスちゃん!トニーくんの方が強いし、良い男だぞ?」
「オラ、ユウリに負けたでよ。」
「にゃんですと?!」
なんだろう、この猫と犬のやり取り見てるような感じは。
何にしても俺の事はどう言われても良いが、アリスの見る目がないような言い方には思うところはある。
思い切り息を吸い込み、叫ぶように。
「アビスリンド学園1年、ユウリ・アマハラ!
『神速の剣姫』こと、ミドリ・アマハラの弟ッス!
ここに居るヤツら皆倒して優勝するんで、よろしくお願いします!」
その宣言に周りに居た観客、出場選手からめちゃくちゃ視線を感じた。
笑ったり応援してくれたりと様々な反応だが、目の前の幼女だけは違った。
「ボクに勝てる気でいるのかな?
アリスちゃんが認める程のことはあるね。
いい度胸してるだけあって、試合が楽しみだ。
君のその自信も剣も、ズタズタにしてやるよ。」
そう言い残し、去っていった。
最後の言葉の時は、姉さんの怒った時のオーラにそっくりだった。
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「旦那様ってあんなこと言う人だとは思ってなかったわ。」
皆と別れ、アリスと街に繰り出そうとした時の言葉だ。
「幻滅したか?」
「まさか。ナナシー先輩相手にあんな啖呵を切れる人、少なくともマジックギルドには居ないわ。」
学生議会長相手にあんなこと言うような奴は居ないだろう。
俺だって1人で居たら何も言わなかったしな。
「それにわたしのために言ってくれたのが分かったから、嬉しかったのよ。
優しくて素敵な旦那様だなって改めて思ったわ。」
決して旦那様ではない。
が、それ以外の部分は今回に関しては何も言い返せない。
恥ずかしさをごまかすように、先に歩みを進めた。
先に軽くお昼ご飯でも、ということで以前シャルロットと共に来たサンドイッチ屋に入った。
なんとなくだが、アリスは喫茶店やこういった落ち着いた店が似合う気がする。
コーヒーか紅茶を飲みながら読書でもしていれば、絵になりそうだしな。
口を開けば変態なのが玉に瑕だが。
前回はホットサンドを頼んだので今回は違うのにしようとメニューを反対側から見ているのだが、やはりどれも安い。
ハムチーズたまごサンドという美味しそうな文字列にやられ、コーヒーと共に注文した。
アリスはツナたまごサンドに紅茶だ。
「アビステインの時も紅茶を頼んでたけど、紅茶好きなのか?」
「特に好きというわけではないけど、コーヒーは苦くて飲めないから消去法よ。」
なるほど。
この苦味と香りが美味しいのだが、苦手な人も多いから仕方ないな。
あと店によって当たり外れが多いのも、美味しくないと思われてしまう点の理由の一つだろう。
アカネの剣についてと、俺がコーヒーについてを語り出すと長くなるのはアマハラ一刀流道場では有名だ。
だから基本的に、その話しに触れないようにしているのだ。
まあアリスに対してそんなに語るつもりはないので、このくらいにしておこう。
「そういえば、お父様に話しを通しておいたわよ。」
手紙に書いてあったな。
確か夏休みには時間をとってもらえそうだと言っていた。
礼儀正しくできるか不安だが、せっかく忙しい中で時間をとってもらえるのだ。
必ず足を運ばなくてはなるまい。
「本当にありがとうな。
まさかこんな形で繋がりが出来るとは思ってなかったよ。」
「お父様もそれはもう喜んでたわよ。
初孫が拝める日も近いなって涙を流していたわ。」
ふむ、行かなくてもいいか。
俺の呼び方は家でも旦那様だろうし、間違いなく勘違いされている。
家族ぐるみでそんな対応をされたら流石に俺も耐えられん。
まさかアリスの奴、そこまで計算して・・・はいないだろうな。
頬を赤らめ手を当ててクネクネしているから不安だけど。
「せっかくの機会だから行くけど、縁談とか持ちかけられたら流石に困るからな。」
「大丈夫だと思うわ。
涙も魔法で流していたし、わたしの調子に合わせてくれただけだと思うから。」
なるほど、娘の扱いが上手い人なのね。
確かに塞ぎ込んでいたアリスを連れ出したりしたみたいだし、大切にされているんだな。
うちの両親にも見習って欲しいところだ。
「お待たせいたしましたー!」
看板娘らしい子が料理を運んできてくれた。
このお店の良さは、安くて美味くてボリュームがあることだ。
アリスは「こんなに食べられるかしら」と不安そうにしていたので、残ったら食べるから食べられるだけでいいと伝えると笑顔で食べ始めた。
前回も思ったが、俺と居る時のアリスは1つ1つの行動全てを楽しんでいるように見える。
たぶん本当に楽しんでもらえてるのだとは思うが、こちらとしてもやはり嬉しいものだ。
食後はいつもの雑貨屋へと向かった。
店に入り、おやっさんに挨拶をするとアリスを見て「兄ちゃんも隅に置けないねぇ」と肘でつつかれた。
そういうのではないのだが、せっかくだし何かプレゼントするのも良いかもな。
アリスは魔法使いだから、杖に付けれる飾りでもあればいいのだが。
もしくはサクにあげた小物入れみたいなものでもいいかもしれない。
アリスはこういったなんでも売っているようなお店に入るのは初めてのようで、色々な物に興味を示していた。
ことある事に「これは何に使うものなの?」と質問されたが、アリスに物を教えるというのは新鮮だった。
「分身の術を手伝ってくれたお礼で、何かプレゼントするよ。」
と言うと、いつも以上にクネクネしていた。
アリスと言えば、綺麗な長い銀髪が一番印象的だ。
なので髪関連でいい物がないか探してみよう。
アリスが後ろから着いてきているので、反応をみてみることにした。
髪飾りなどいくつか手に取ってみたのだが、常に嬉しそうな満面の笑みなので全く参考にならない。
いや、うん、嫌そうな顔されるよりはマシだけど。
櫛やブラシといった手入れ用品のコーナーに行くと、少しだけ表情が変わった。
なんというか更に嬉しそうになった気がする。
これだけサラサラで長いのだから、それを保つための手入れも相当大変そうだ。
銀色で綺麗な櫛と、黒くて使いやすそうなブラシの反応が一番良さそうだったので、どちらかにしよう。
櫛は色的にもアリスに合っていて良いだろう。
ブラシはその櫛よりも、アリスが実際に使ってみて「これは良いわね」と言葉にしてくれたことが大きい。
悩んだ末、ブラシを買うことにした。
「旦那様、なんでブラシにしてくれたの?」
帰り道、ご機嫌なアリスが繋いだ手を前後にぶんぶん振りながら聞いてきた。
「使った時に良いと言っていたからな。」
まあ実際は、こっちの方が俺のプレゼントっぽいかなと思って選んだ。
恥ずかしいから言わないけど。
「旦那様の髪の色と同じ黒だから、使う度に思い出しちゃうわね。」
自分で言っておきながら恥ずかしくなったのか、俺とは逆を向くアリス。
アリスのこういうところは可愛いんだけどな。
明日から試合ということもあり、遅くならないうちに宿まで送った。
トニーが窓から顔を出して手を振ってきたので、振り返すと飛び降りてきた。
「ホント見てるのが恥ずかしくなるくらい仲良しだべ。さっさとくっつけ。」
手を繋いでいるのを見て、笑顔でそんなことを言われた。
トニーは本当にアリスに幸せになってほしいんだな。
まあそんな未来も嫌な訳では無い。
ただ一緒に歩き回るだけであんなにも楽しそうな顔をしてくれるのだから、こちらとしても気分がいいからな。
「一先ずは友達で、仲間で、ライバルだな。」
「卒業するまでは今の関係が理想的よね。」
「ライバルは手を繋いで楽しそうにデートなんてしないべ。」
こまけぇこたぁいいんだよ。
まあその言い方だとトニーもライバルなわけだから、アカネの好きそうな展開になってしまいそうな感じか。
男同士の何がいいんだか・・・
「んじゃまあ遅くなる前に戻ることにするよ。
アリス、今日は楽しかったぞ。また闘技場でな!」
顔を真っ赤にしてクネクネするアリスを見て、トニーとも挨拶をして宿に戻る。
彼らと闘うには、互いに決勝まで上がらないとだ。
どちらも長い道のりだし、こちらには初戦から大きな壁が立ちはだかっている。
ナナシー・ヘンドリクス。
前年度個人戦準優勝選手、相手にとって不足はない。
俺の前に立ちはだかるのなら、全て斬るまでだ。
そんな決意を胸に、いよいよ個人戦が開幕する──
拙い作品ですが、最後までお付き合い頂けたら嬉しいです。
今後ともよろしくお願い致します!




