四十一ノ舞「凡人は天才には勝てないと誰が決めた」
-----シャルロット視点
これはアタシの持論。
世の中には天才と、凡人の二種類存在すると思う。
その二種類は紙一重で、如何に才能を持っていても使い方を知らなければ凡人だし、才能がなくても何か1つの目標に努力できるのであれば天才だ。
なぜこんな急にこんなことを考えているかというと、目の前で仁王立ちしている師匠は紛うことなき天才で。
その天才にボコボコのボコにされて大の字に倒れているアタシは凡人なのだ。
小さい頃は周りと比べて何でもできたから、自分は天から愛されているのかもしれないと思ったことはある。
それでもやっぱり現実は非情だった。
本当の天才は自分のことを天才なのだと驕らず、地道な努力を積み重ね、確かな自信と実力を持っているのだ。
師匠やユウリがまさにそれだ。
アタシはちっぽけな猿山の大将なのに驕っていた。
ただそんな凡人と気づいてしまっても、努力はできる。
今の自分は決して天才などではないけれど、1つの目標に向けて全力で進んでいる。
そんな自分に酔っていると言われると何も言い返せないけど。
凡人が努力してはいけないなんてことは、絶対にない。
アカネに負けた夜、師匠の和服が濡れてしまうほど泣いた。
その間、ずっと優しく抱きしめ頭を撫で続けてくれた師匠には感謝しかない。
そんなにも優しく、カッコイイ師匠へ恩返しをしたい。
恩返しの方法は考えるまでもなく、強くなることだ。
凡人であるアタシが、この世の誰よりも強く。
この闘いの最後には、努力する天才がおそらく立ちはだかるだろう。
正直に言えば、勝てる気がしない。
それでも1%の可能性がある限り、諦めてなんかいられない。
そしてその1%を2%、3%にするために、今もこうして努力をするのだ。
待ってなさいよ天才達。
凡人は努力で、必ず隣に立ってやるんだから。
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「さあ、いよいよ代表選抜戦もこれが最終戦!!
シャルロット・マリア・ヴァルローレン選手対、イオン・フォン・アビステイン選手!
共に1年選抜メンバーとして新人戦を制し、ここまでの選抜戦でも激闘を繰り広げる両者の激突です!
喫した1敗は共に代表に選ばれているメンバーに付けられたものですが、昨日行われた各試合では先輩選抜メンバー相手に圧倒の一言でした。
勝った方が代表最終枠の闘い、まもなく試合開始です!」
修練場は全校生徒が集まっているのではないかと思える熱気だ。
新人戦の決勝と比べても遜色ない。
授業にならないと判断してから観戦可に切り替えたのは、本戦の闘いに近い状況を考えてそうしたのかもしれない。
アカネとサク、ショウヤと共に最前列に陣取ったのだが、後ろからの声と熱気が凄い。
隣に座るアカネは今日も元気がない。
そろそろ本気で言ってやらないとダメかもしれないな。
イオが姿を現した瞬間、修練場に大歓声があがった。
応援したくなるのは分かる、非常に分かる。
その声に驚きつつも周りにペコペコと頭を下げる姿は、この世の唯一の正義だ。
次に審判である姉さんが現れた。
目の下にクマができていて、一睡もしてなさそうな顔だ。
まさかとは思うが、この闘いの前に徹夜で稽古なんて付けてないだろうな。
流石にそんな状態のシャルロットじゃ、イオに勝つのは相当無理がある。
ただでさえイオの実力は、本来であれば今俺と共に観戦していなければおかしいくらいなのだ。
そんな相手に徹夜で頭も働かず、体力も落ちている状況で勝てるわけがない。
そう思っていたのだが、シャルロットが現れた瞬間にそんな考えは霧散した。
前言撤回。
目の下にクマができているのは間違いないのだが、その集中力とオーラの凄みは今まで俯いていたアカネが顔を上げて目を見開き、鳥肌をたてている程だ。
まるで既に『高天原』に入っているかのようなオーラに、いつもよりも鋭さを増した目、そしてボロボロの制服。
まさかが的中したようだ。
そんなシャルロットは顔はイオに向きながら、右腕を上げてこちらを指さした。
正確にはアカネを、だ。
アカネがそれを確認すると、グータッチをするように腕を真っ直ぐと突き出した。
今そこに行くから待ってなさい、だからアンタは気にしなくていいのよ。
そう言わんばかりの仕草に、アカネは右腕を伸ばし返しながら。
今までせき止めていたものが崩れたかのように、声をあげて泣き始めた。
ありがとうとごめんねをどちらも繰り返しながら泣くアカネを、サクがよしよしと子どもをあやす様に頭を撫で続けていた。
「試合時間無制限、3ダウンで敗北。
これが最終戦だ。互いに悔いのないように闘え。」
普段よりも疲れた声に聞こえる姉さんの合図を待つ。
イオは見た目からして普段と違うシャルロットに、恐怖すら覚えていた。
唯一敗北を喫した相手と同じレベルの集中力を目の当たりにし、思わず生唾を飲み込む。
しかし同時にその相手に勝つことができれば自信になり、そして間違いなく自分の成長になると理解していた。
「それでは、試合開始!!」
「燃え盛れ、咲き誇る狐百合!」
「大地の盾」
互いに得意とする魔法で開幕した。
イオ相手に遠距離で居る気はないと言わんばかりに、一気に距離を詰めるシャルロット。
俺ですらこんなに速かったかと思ってしまうほどの速度に、イオも魔法を使う間もなく接近を許していた。
しかし大地の盾がある。
3度の攻撃を無効化する盾があるからこそ、落ち着いて魔法を返せる。
「電撃」
これまでの試合で幾人もの相手を倒してきた、イオの新たな必殺技。
その電撃は、一直線にシャルロットの身体を突き抜けた。
しかしシャルロットはその足を止めることなくイオに到達し、大地の盾を2つ壊した。
驚きつつもバックステップで距離をとるイオ。
目の前で起きた不思議な現象に戸惑いを隠せずにいた。
「電撃が効かないなんて、どこぞの海賊ですか・・・?」
「海・・・?
こんな熱気溢れる密室なんて、アタシの得意なフィールドに決まってるじゃない。」
そう言いながら姿を消した。
今まで立っていた場所とは2メートル程左に姿を現した。
「名付けるなら、陽炎の分身ってところかしらね。」
風のない暑い場所に起こる光の屈折、陽炎。
温度の低い、冷たい炎を身に纏うことで屈折を起こさせたのだ。
シャルロットが普段よりも速いと感じたのは、2メートルほどずれた位置の姿を追っていたからか。
忍術としての分身とは違うものの、光の屈折によってあたかもそこに居るように見せていたということだろう。
広範囲の攻撃にはあまり意味をなさないが、直線的な攻撃にはめっぽう強い。
そこに実体はないのだから。
「風があれば陽炎はできないですよね。」
ニッコリと笑って杖を構えるイオに、表情を全く変えないシャルロット。
陽炎ができない程度の風を起こすことなど、確かにイオなら造作もないだろう。
「風の障壁」
魔法を唱えると、修練場内をぐるぐると回る風が吹き始めた。
巨大な扇風機が風を送っているかのようだ。
確かにこれでは、陽炎はできそうにない。
しかしシャルロットは姉さんのようにニヤリと笑った。
「空気を送り続けてくれてありがとう。
炎舞─不死鳥爆弾!!」
いつもの不死鳥よりも小さめだが、数は10と『不死鳥連弾』よりも多い。
そして火が燃えるには酸素が必要だ。
イオが発動した『風の障壁』は陽炎こそ発生させないものの、シャルロットの炎を更に燃え上がらせる結果となってしまった。
イオに対してそこまでの駆け引きを仕掛けたシャルロットが優勢だ。
普段の話し方を見ているともう少し直情的な印象があるが、そもそもこの2人は筆記試験満点で頭が良いのだ。
俺やアカネとの決定的な違いはそこだろう。
話を戻して、不死鳥は周りから送られてくる空気で少しずつ大きくなりながらイオに次々向かっていった。
水では消える火力ではなく、氷は溶かし、風では燃えて、雷では爆発する。
イオの得意とする属性をことごとく潰し、残る選択肢は地属性と聖属性しかないのだ。
思っているよりもシャルロットは、イオと相性が良いのかもしれない。
バックステップを駆使しながら地属性魔法で次々と不死鳥を撃ち落とすものの、そんな隙をシャルロットが逃すはずもない。
「炎舞─不死鳥連弾!」
さらに不死鳥を追加し、爆弾の群れの中に混ぜた。
それだけでも相当厄介なのだが、イオの後方から距離を縮めて自身も攻撃を仕掛ける。
「炎舞─飛翔竜剣!!」
前からは爆発する不死鳥の群れ、後ろからは最大火力の炎竜。
これには流石のイオもお手上げだろう。
「大寒波」
完全に使わされた必殺技。
対象が1人なら絶大な威力を誇るが、広範囲に対象があるとなれば分散せざるを得ない。
「それを待ってたわよ」
全身に炎を纏い周囲の氷を溶かしながら翔ける。
不死鳥も竜も凍らされたことにも怯まず、一直線に。
「炎舞─焔虎の牙!!」
いかに無詠唱といえど最上級魔法。
使用後には次の魔法を使えるまでのタイムラグがあり、その瞬間を狙った左右同時攻撃。
1つは最後の『大地の盾』を破壊し、残る1つの牙。
その牙は今までユウリを含め、数多の相手が届くことはなかった箇所に到達した。
遂にイオに直接攻撃が通ったのだ。
イオは壁まで吹き飛ばされたものの、自身の作り出した『風の障壁』で威力が抑えられたのか、軽く打ち付けられた程度で済んでいた。
しかし左足に受けたその傷口は大きく、火傷も同時に負っていた。
「ハイ・ヒール」
ダウンカウントの最中に回復を施したものの、これにも魔力を使う。
ここまで大技を連発しているだけに、イオの顔に疲労の色が伺えた。
対するシャルロットも大技を連発している。
互いに魔力が尽きれば、シャルロットがかなり有利だ。
イオに残された可能性は、魔力切れの前に勝つことだけ。
それを本人も深く理解しているだろう。
壇上に戻った瞬間に深くため息をついた。
「本当はユウリさんだけに使うつもりだったんですけどね・・・」
その言葉には色々な意味が含まれているのかもしれない。
危険な技だと自身でも理解している。
だからこそユウリ程の実力がないと危ない、とも聞こえる。
シャルロットはその言葉だけで、イオが何をやろうとしているのか察していた。
「アンタ、それ打ったら魔力切れるじゃない。」
「ええ、だからこれで決めます!」
そう言いながら、イオは杖を身体の前に構える。
それを見たシャルロットは目を瞑り深呼吸をしていた。
-----シャルロット視点
ユウをも苦しめた神話級魔法が、遂に凡人に向かおうとしている。
イオは魔力切れをするのを分かった上で、最後の勝負を仕掛けてきたのだ。
アタシの魔力の残りも多い訳では無い。
でも、これさえ防げば間違いなく勝ちなのだ。
全てを賭けて、それを防いでみせる。
今残っている、ありったけの魔力で─
「咲き誇れ!!大輪の狐百合!!」
特大のグロリオサの形をした、魔法の盾だ。
発動まで少し時間がかかるけど、発動してしまえば『神速の剣姫』の連撃すら通さない。
今のアタシの最強の盾だ。
これで止められないなら、今のアタシではイオには勝てない。
「イオ、勝負よ!!」
イオは頷き、詠唱を開始した。
「天界に昇りし、神聖なる光の加護よ!
その力は闇を照らし、魔を祓い、恵みを齎す!
我が祈り届くことが叶うのならば、その神聖なる輝きを賜らむことを願おう!
光よ!輝きよ!この地全ての闇を祓いたまえ!!」
相変わらず馬鹿げた魔力量だ。
この量の魔力を完全に制御し、更に同じ魔力量の魔法を合わせ、それを更に制御するなんて芸当、アタシには絶対に無理だ。
「天空を支配する神々の王、唯一神よ!
我が双蛇双翼の杖にて甦らん!
世界を破壊する力、矮小な寄り手に見せつけたまえ!
雷霆の輝きを以て、全知全能の威を見せよ!!」
イオが杖を掲げた瞬間、光の塊に雷が纏われて光り輝く矢が完成した。
それと同時に、『大輪の狐百合』も完成した。
と言っても、必要とあらば魔力を追加して強度をあげることもできるけど。
イオは本当に魔法の天才だ。
それでも、それでもだ。
凡人は天才には勝てないと、誰が決めた─!!
「神話級─光雷混成魔法 雷霆を纏いし光の槍!!」
ガキィィィィィン──
イオが杖を振り下ろすと同時に盾に着弾し、物凄い音を立てた。
火花のような黄色い光を撒き散らし、ギリギリと音を鳴らして両者譲らない。
魔法を放出し終えて魔力切れを起こしたイオが、先にペタリと座り込んだ。
ユウですら血まみれになるほどの威力を持った神速の槍。
その最大火力の前に『大輪の狐百合』は徐々にミシミシと悲鳴をあげ、亀裂が入り始めた。
両手を翳し魔力を追加をするが、それでもまだ足りない。
ピシィと完全にひびが入った。
頑張って耐えて。
これを防げば勝てるんだから。
「はああぁぁぁっ!!!」
気付けばなりふり構わずに叫んでいた。
それだけ、残った魔力を全力で注いでいた。
その必死さに応えるように、狐百合がさらに赤く、紅く燃え上がった。
バァァァァァン──
狐百合の炎が槍の雷とぶつかり、爆発した。
-----通常視点
イオの放った槍は消え去り、シャルロットの盾が完全に割れて欠片が次々と落下している。
続けざまにガシャンと音を立てて崩れる盾は、その主を無傷で守りきっていた。
シャルロットは両腕をぶらんと下げて、その場に立ったままだ。
対するイオは魔力を使い果たしてその場に座り込んでいたが、シャルロットが立っているのを確認すると、杖を支えにしてなんとか立ち上がった。
「イオン・フォン・アビステイン、2ダウン!
・・・・・・っ?!」
姉さんがシャルロットを確認して、宣言を止めた。
そして小さく呟いた。
「シャルロットお前・・・意識を失ってもなお、強さを求めて立つか・・・」
シャルロットはピクリとも動かず、顔を俯かせている。
それでも、己の剣だけは離さなかった。
まるで、まだ闘う意思があるかのように。
姉さんは一瞬悔しそうな顔をした後、審判としての務めを果たした。
「・・・シャルロット・マリア・ヴァルローレン、試合続行不可能!!
勝者、イオン・フォン・アビステイン!!」
神話級魔法の発動から言葉を失っていた観客席からまばらに拍手が始まり、最後には盛大な拍手が両者に送られた。
聞こえているか、シャルル。
負けはしたけど、この拍手のほとんどはお前に向けられてるものだぞ。
そんなユウリも、神話級魔法を無傷で消し去った騎士に向けて盛大な拍手を送っていた。
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拙い作品ですが、最後までお付き合い頂けたら嬉しいです。
今後ともよろしくお願い致します!




