三ノ舞「最強最速の居合斬り」
翌日、学園内の修練場には全校生徒が集まっていた。
新人戦選抜メンバーと、2学年選抜メンバーの模擬戦が行われようとしていた。
「対戦形式は1vs1、時間制限は1試合5分。
殺傷能力の高い魔法、及び剣技は使用禁止。
審判は私が務め、続行は危険と判断した時はきっちり止めてやる。
開始時間は今より30分後。
それぞれでオーダーを決めたり集中するなりしてうまく時間を使ってくれ。」
修練場中央に立ち響き渡る声で喋る姉さんの説明を聞き、一年選抜メンバーが一か所に集まった。
「さて、出る順番はどうしようか。」
ショーヤが切り出した。
さすが王子様、民をまとめあげるカリスマを持ち合わせている。
あ、褒めてますよ?
「アタシが先鋒で出るわ!」
シャルロットが腕を組み、自信満々に言い放った。
構わんがあっさり負けてくれるなよ。
お前みたいに強気なキャラは負け運を持ってることの方が多いから。
「わたしは後ろの方は緊張しちゃうから、早めに出ておきたいな。」
アカネが続く。腕は確かなのに昔から緊張しいだもんな。次鋒はアカネか。
「私はどこでも大丈夫です。むしろあまり期待しないでいただけると・・・」
イオはシャルロットと違って消極的だな。
なんというか、守ってあげたくなるオーラがあるんだよな。
「ユーリはどこがいい?やっぱり大将かい?」
やっぱりとは失礼な。
俺は別に目立ちたがりでも、戦闘狂でもないのだ。
「中堅でいいぞ。」
「それじゃあイオが副将、僕が殿を務めよう。」
あっさりオーダーが決まった。あと27分あるけど、どうすんべ。
「お前ら決めるの早いな。」
いきなり幼女が背中に飛び乗ってきた。
身長差を考えるに、結構頑張ってジャンプしたな。
可哀想だからおぶってやろう。
「あいつらも結構強いけど、お前らの方が数段上だろうな。」
先輩たちの方を見ると、不安そうな面持ちで話し合っていた。
ただ1人、明らかにオーラが違う人物を除いて。
「姉さん、あの黒髪の男の人は?」
思わず聞くと、おんぶされたまま頭を撫でられた。
「お前本当に成長したなぁ!姉さん嬉しいぞ。」
それは良いから、あの強そうな人は誰なんだ。
「彼は王族近衛騎士団団長リチャード・ルギウス様のご子息、アスカ・ルギウス様です。」
イオが気まずそうな雰囲気で答えた。
え、なに、こちらも婚約者的な話があるのか。
「お父様が昔お酒の席でリチャード様に、アスカ様になら私を嫁がせても、と・・・」
なるほど、親同士の口約束か。
「王族って大変だな。その点ユウは私が居るから安心だな!」
え、何言ってんのこの幼女。
実の姉弟がそんな関係になるとかねぇよ薄い本かよ。
そんな顔を見た姉さんは、過去の話を掘り返した。
「いやいや、実際私は今までユウ以上に惚れた男は居ないんだぞ?
姉さんが剣をふるえなくなったなら俺がその分」
「その話はやめろー!!!」
思わず叫んでしまった。
「あはは・・・」
またかと言いたそうな笑顔で頬をかくアカネ。
アカネはその話を知ってるからいいとして、ほかの奴らには絶対に知られたくないのだ。
「私は自分の目で確かめ、自分の意思で、お相手を決めたいんです。
アスカ様は剣の腕は確かですし、とても礼儀正しく、まるでお姫様のように扱ってくれます。」
まあ実際一国の姫なわけだし、王の部下の息子なんだからそりゃ当然だけど。
「私はまるで友達のように気さくに接していただける方が嬉しいんですよ。」
この兄妹は揃って王族らしくない考え方だ。
その方がこっちも変にかしこまらなくていいから助かるんだけどさ。
「ショーヤ、アスカ先輩は大将で出てくる可能性が高そうだけど、勝てるの?」
シャルロットにしてはまともな発言だ。
ショーヤが口を開いたが、イオが遮った。
「大丈夫ですよ。兄さんは強いですから。」
満面の笑みで、心からの信頼の証だ。
ショーヤは驚いた顔をした後、嬉しそうな恥ずかしそうな顔をしながら頬をかいた。
「まいったな・・・」
良い兄妹だ。互いに言葉にしなくても分かる、絶対の信頼。
まるでアカネと俺だな。
やっぱり家族ってのは良いもんだ。
「それじゃあ、皆右腕を出してくれ。」
ショーヤが言うと5人が右腕を突き出し、円陣を組んだ。
3人がなんだろうという顔をしていると、イオが笑顔で補足してくれた。
「これはアビステイン家に伝わる闘い前の伝統ですよ。最後はみんなで、おー!です。」
「我ら出生、身分は違えども、この場この時をもって志は一つ!
この腕に誓い、仲間を守り敵を討つ!征くぞ、我らの勝利へ!」
「「「「おおー!!」」」」
「お、おー・・・」
なんだノリが悪いぞシャルロット。
「アンタら、よくこんな恥ずかしいことできるわね・・・」
恥ずかしいとは失礼な。
こういうノリが好きなアカネと、伝統を重んじているイオはともかく・・・
男の子はこういうの好きなんだよ。
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「それではこれより、模擬戦を開始する!先鋒の選手は前へ!」
姉さんの合図とともに、円形の闘技場ステージに2人の剣士が登った。
「シャルロット・マリア・ヴァルローレンよ。」
「ダグラス・ジャンだ。よろしく。」
ダグラス先輩は斧使いか。
自分の背丈と同じ大きさの斧を片手で持っているあたり、そのパワーは常人のそれではないな。
開始の合図を待つシャルロットが剣を構えた。
それを見て驚きのあまり、思わずアカネの方を見る。
「師匠の構えだ・・・」
そう、剣の高さ・重心の位置、そっくりそのままジジイと同じなのだ。
男女で骨格が違うから、その構えはシャルロットには合わないと今度教えてやるか。
「先鋒戦、開始!」
「火属性魔法 包み込む炎」
開幕早々、シャルロットが左手にもった剣を開いた右手の前を滑らせ、魔法をかけた。
途端にシャルロットが持つロングソードの回りを炎が包み込んだ。
「それがサラマンドラの異名を持つヴァルローレンの剣か!
相手にとって不足なし!行くぞ!!」
あのツンツン赤ポニーってそんな異名もってたんだ。
ダグラス先輩は大きく踏み込み、一気に間合いを詰めてきた。
しかしシャルロットは怯むことなく、サラマンドラを両手で高く掲げ
「飛翔剣─不死鳥!!」
そのまま大振りに振り下ろした。
すると剣先から炎の鳥型の斬撃が、ダグラス先輩に向かって飛んだ。
原理は俺の『桜吹雪』と同じようだが、魔法で炎の鳥の形を作り出して飛ばしている。
こんな技使えたら確かに魔法で負けたら悔しくもなるか。
「むう?!」
すんでのところで躱すダグラス先輩。
あの巨体であれを避けるとは、選抜メンバーに選ばれただけのことはある。
だが、シャルロットはその上をゆく。
シャルロットが左に剣をふるうと不死鳥も左に曲がり、ダグラス先輩を追撃した。
キンッ
これにはたまらずダグラス先輩もバックステップで対応。
その後右へステップし躱すが、シャルロットが右に剣をふるい軌道修正。
キンッ
さっきからシャルロットが剣をふるうたびに自分の50センチほど前の地面を斬っている。
ハの字になってるように見えるが・・・ここからじゃよく見えないな。
そして今度は上から下に剣をふるった。
不死鳥は地面すれすれの超低空飛行で、ダグラス先輩の足元を狙った。
キンッ
今度はハの字の上に縦の線。
時計の針で言うと8時0分20秒ってところか。
「見切った!地属性魔法 そびえ立つ地!」
闘技場の地面が2メートルほどせりあがり、先輩はその場からシャルロットめがけて跳躍した。
不死鳥はせりあがった壁にぶつかり、壁もろとも消滅した。
「覚悟!!」
大きく振りかぶった巨大な斧が上空からシャルロットめがけて振り下ろされようかというタイミングで、シャルロットは不敵に笑った。
「覚悟するのは先輩の方よ!」
そう言い、先ほどからつけていた印をサラマンドラで叩いた。
「設置剣─舞い上がる不死鳥!!」
「なにぃ!?」
叩かれた印から再度不死鳥が現れ、上空にいるダグラス先輩めがけて舞い上がった。
巨大な斧を振り下ろそうとしていた先輩に、もはや避ける手段はなかった。
「舞え─」
その声にユウリは思わず目を見開いた。
その一瞬だけその人の周囲の時が止まったかのように、ゆっくりとした動き。
姉さんは事故のせい右腕を失い、二度と剣をふるえないと思っていた。
しかしその口上は紛れもなく姉さんのもので、敵の飛び道具・魔法を剣をふるう風で一掃する最強最速の居合斬り。
「「疾風一閃」」
思わず合わせて言ってしまった。
無意識に涙が頬をつたった。
もう二度と見れないと思っていた、この世で一番美しい剣。
『神速の剣姫』と呼ばれた当時よりも速く、鋭く、それでいてまるで舞を舞うような動き。
ユウリが心から尊敬し今も追い求める、剣の強さ、美しさがそこにはあった。
入学式の時に姉さんに向けた『柳閃』は、この技を見て真似をしているうちに出来た技だ。
もっとも、俺は魔法を剣にのせるという芸当はできないので、劣化版でしかないのだが。
風の風圧は不死鳥を消し去り、空中で体勢を崩したダグラス先輩を押し上げ、体勢を整える時間を与えた。
「なっ!?」
シャルロットが驚きの声をあげるのも無理はない。
一番自信のある設置型トラップによる必殺の空中カウンターが、ただの剣の風圧で消し飛んだのだ。
「勝者、シャルロット・マリア・ヴァルローレン。」
ざわつく場内の空気の中、勝利者宣言をする姉さん。
俺が涙をこぼしているのに気づくやいなや、一歩で目の前に現れ、その小さい体に俺の頭を抱き寄せた。
「あれはお前のせいじゃない。今ではこうしてまた剣をふれるようになったぞ。
だからお前は過去にとらわれず、私のためじゃなく、自分のやりたいようにやっていいんだ。」
その言葉は当時からの俺を知っている姉さんとアカネにしか分からないだろう。
俺にとってはとても温かく、そして救われる言葉だった。
当時の話は、また今度にでも。
「学園長、なんで止めたのよ!」
「お前の空気の読めなさは凄いな、ヴァルローレン。」
姉さんは俺を離し、シャルロットに向き合った。
「生徒を守るのも私の役目だ。威力から察するに、アレを受けたらダグラスは間違いなく病院送りだ。
危なくなったら止めると言っておいたはずだが?」
「ぐ・・・」
返せる言葉もなく、不機嫌そうにそっぽを向いて戻ってしまった。
「しょうがないじゃない・・・!3段階目を使わないと勝てるか分からなかったんだから・・・!」
去り際に小声で泣き言をもらすシャルロット。
あれだけの魔法がレベル3?まだ上があるってのか。
たった一度背後をとっただけで油断していたのは俺の方だ。
認識を改める必要があるな。
認めよう、炎の剣士。君の努力は心から賞賛に値する。
「続いて次鋒戦を開始する。両者前へ!」
バシッ─
アカネに、後ろから背中をたたかれた。
「次はわたしの番ね。ちゃんと応援してよね?」
笑顔でウィンクをしてきたアカネとグータッチを交わし、こちらも笑顔で見送る。
「イオ、準備運動しておこうか。」
「アカネさんの試合、見なくてよろしいのですか?」
イオが立ち上がりながら問いかけてきた。
見なくても分かるさ。
アカネに関しては本当に何も心配していない。
1分もしないうちに相手がギブアップするだろうよ。
その予感は的中した。
アカネは普段は明るい性格でにこやかにしているが、剣を抜くとまるで別人だ。
俺に言わせればアカネこそが多重人格。
その真剣な表情、放つオーラ、そして姉さんに超名刀と言わせるだけの剣。
そしてアマハラ流の隙の無い構え。
どこに打ち込んでも捌かれるのではないかというプレッシャーが、対戦相手を押しつぶすのだ。
「俺の負けだ・・・どう攻撃を仕掛けても勝てない・・・!」
先輩は悪くないさ。
相手のなんでも一生懸命にやる性格と、これまでの環境が常人のそれではなかっただけだ。
まあ俺の実験台になってそれを捌いていたのだから、プレッシャーがあろうがなかろうが、どう打ち込んでも並大抵の速度じゃ捌かれるんだけどな。
「勝者、アカネ・オオヒラ!」
場内はますますざわつきを増していった。
拙い作品ですが、よろしければ最後まで見てやってください。
よろしくお願い致します。