三十六ノ舞「最初からやりやがれ」
第5戦も終わり、全勝で折り返せた。
相手はクラスメイトだったのだが、名前も覚えていない程度の奴だ。
・・・こんな感じだから俺はクラスで浮くのではないだろうか。
そんなことを考えながら部屋に戻ると、イオが何やら封筒を手にソワソワしていた。
どうやら俺宛に手紙が届いたらしい。
しかもハートマークの封で。
読んだのち捨てるかどうか迷っている所に俺が戻ってきたと、死んだ魚のような目で言われた。
この子の思考回路が、たまに分からない。
なんとか受け取り封を開けると、綺麗な文字が並んでいた。
差出人はどうやらアリスのようだ。
内容が気になるのか、イオが横から覗いてきた。
「それで、何が書いてあるのでしょうか?」
「ちょっと待ってくれ。今のところ長々と愛を綴った無駄な文章だから。」
5枚にも及ぶ恋文を読み終え、最後の1枚。
ようやくそこで本題と思しき内容に至った。
「例の件だけど、お父様が夏頃なら時間を取れそうだと言ってくれたから、その頃に宮殿に招待するわね。
それと、今年の個人戦の代表として私とトニーも選ばれました。
本戦で会えることを心から楽しみにしています。
次回はクノッサスでと約束したのだから、必ず来てくれると信じているわ。
貴方のアリスより。」
別に俺のではないとツッコミを入れそうになったが、ツッコンだら負けな気がしたのでスルーだ。
伝統校の1年にして2人とも代表入りか。
さすがとしか言いようがない。
ライバル達が待っているのだから、負けていられない。
そしてコネの件も話をしてくれたみたいだ。
夏にはブライデンに一度行かなくては。
何にしても、代表入りが決まったら返事を返すことにしよう。
そういえば夏には学園交流に行きたいと思っていた。
ブライデン王国に行くのなら、隣国のウエストブルムに交流に行くのも悪くないかもしれない。
ウッディは元気にしているだろうか。
また手合わせをしたいものだ。
「そういえば、全勝している人数が今日の試合で12人になったみたいですよ。」
イオと一緒に夕飯を食べていると、急にそんなことを言われた。
12人もいるのか。
あれ、でもそうすると最後に6人が残って勝った方が選抜メンバーというのは分かる。
となると、残りの1枠は1敗のメンバーから選ばれるというわけだ。
もちろん最後の6人から選抜メンバーに選ばれなかった3人も含めての勝負になるわけだから、かなりの試合数が行われることになる。
そこで勝ち上がるのは骨が折れるが、間違いなく他のメンバーよりも実戦経験を積める。
体力的に不安は残るが、本戦に1番いい状態で挑めそうだ。
もちろん、負けるつもりは毛頭ないが。
「私も皆さんに着いていくためにも、負けられません!」
ふんすと言わんばかりに気合いを入れるイオだが、食事中なのを忘れているのだろう。
右手にはフォークが握られたままだ。
仮にもアビステインの王女様なのに良いのだろうか。
まあ、国が平和な証拠か。
俺に負けたせいでイオとの関係が気まずくなったりしないか少し心配していたのだが、どうやら杞憂で終わりそうだ。
-----シャルロット視点
深夜の修練場。
いつも通り師匠にボコボコのボコにされ、大の字で倒れていた。
「師匠、アタシ前に進めてるのかな。」
思わず弱音が漏れてしまった。
ユウやアカネも全勝で勝ち上がり、残りは12人。
次の第6戦で、どちらかと当たっても何らおかしくないのだ。
不安な気持ちを一蹴してほしかったのか、毎度ボコボコにされすぎて強くなれている実感がないのか、はたまた両方かは自分でも分からない。
そんなアタシに師匠は期待通りの言葉を投げかけてくれた。
「微塵も成長しない奴のために、アタシがわざわざ睡眠時間削るわけねーだろ。
アタシの剣に慣れれば、アカネですら遅く感じるはずだ。」
その言葉に上体を起こし、正座する。
何日も稽古をつけてもらっているだけあり、こういう時の師匠は必ずタメになる言葉をくれるのが分かっているからだ。
「お前の防御は間違いなくレベルアップしているさ。
だが、アカネにはまだ遠く及ばない。
なんでか分かるか?」
その問いに対し真剣に考える。
アカネの守備力は確かにめちゃくちゃ高い。
恐らく対魔法使いのショウヤを除けば、学年トップだ。
その守備力を支えるもの・・・
「動体視力・・・ですか?」
自信なさげに答えると、師匠は大袈裟に溜息をついた。
どうやら不正解みたいだ。
「んな産まれ持ったもので左右されてたまるか。
まあそれも必要ではあるが、答えは経験の差だ。
アイツはユウと3年間毎日何度も真剣勝負をしてきたんだ。
手合わせも数百回やっている。
その実戦経験から相手の次の手の動きを予測して、その上で持ち前の動体視力によって最短で剣を動かしてるんだ。
故に守備に無駄がなく見えるし、カウンターも上手い。
そしてお前には圧倒的に実戦経験が足りない。
だから予測ができねぇんだよ。」
なるほど、確かにそうかもしれない。
これまで我流で剣術を覚えてきて、仲の良かった友達は剣士ではない。
誰かと闘うというのは、ここに入学する前はほとんどなかったのだ。
「だからまあ、一先ずは付け焼き刃でもいい。
アタシの速さに目を慣らしておけ。
経験をずっと積んでいけば、アタシの剣も止められるようになるだろうよ。」
馬鹿言え。
初めて『神速の剣姫』を相手にした時、最初の一振りを防御できたのは完全にたまたまだ。
あの日から毎日ソレの相手をしているが、一太刀も見えていないのだ。
そんなものを止めるなんて不可能だ。
「お前本当に顔に出るよな。
不可能と思ってそこで足を止める程度の奴なら、アタシの弟子も、アイツの隣も務まらねぇよ。」
ああ、本当にこの人はアタシをやる気にさせるのが上手い。
性格をよく分かっている。
そして、何を1番欲しているかも。
ゆっくりと立ち上がり、剣を構えた。
目を瞑り、ふうと息を吐き、気持ちを切り替える。
目を開くと師匠がニヤリと笑っていた。
「やれば出来るんだから、最初からやりやがれ。」
「もう一本、お願いします!」
その日、たまたまではなく自分の意思で、初めて師匠の剣を防いだ。
どうやらアタシも、知らないうちに成長できているみたいだ。
拙い作品ですが、最後まで見て頂けると嬉しいです!
今後ともよろしくお願い致します。




