三十四ノ舞「人間なんてそんなもんだ」
目を覚ますと、見知らぬ天井が目に入った。
あんな無茶をしたおかげか、全身が痛む。
新人戦初戦が終わった時よりも酷い。
両手足と腹、おでこには包帯をぐるぐるに巻かれ、両頬に大きな絆創膏だ。
どう見ても重症患者じゃねぇか、と心の中でツッコミを入れていると部屋のドアがノックされた。
どうぞと声をかけると、シャルロットとアカネが入ってきた。
「良かった、目を覚ましたのね。」
そう言うシャルロットは目を腫らし、鼻を赤くしていた。
「イオちゃんはまだ起きれないだろうけどね。」
アカネは苦笑いをしつつ俺の向かいのベッドに顔を向けた。
どうやら2人同時に保健室に運び込まれたようだ。
ふと時計を見ると5時をさしていた。
8時間も気を失ってたのか・・・
「そういえば、2人の試合はどうだったんだ?」
「ショウヤ相手になんとか勝ったわよ。」
「わたしは・・・ってシャルル、ショウヤと闘ったの?!」
いや俺も驚いた。
まさか新人戦選抜メンバーが第2戦にして2組潰し合うとは思わなかった。
ランダムと言ってたはずだが、仕組まれてないかこれ。
ひとまずアカネも勝ったようだし、これで俺とシャルロットとアカネが全勝、ショウヤとイオが1敗ということだ。
サクや他のメンバーはどうなのだろうか。
今度会ったら聞いてみるとしよう。
他愛ない話を交わした後、部屋に戻ろうとしたのだが身体が全く動かず、仕方ないのでそのままで居ることにした。
夜になり姉さんが様子を見に来て回復魔法をかけてくれたこともあり、歩き回れる程度にはなった。
今回も1番酷くダメージを受けているのは腕だ。
漆式といい、最終奥義といい、腕に負荷がかかる技が多いな。
今後はその辺も考えて技を作るとしよう。
しばらくベッドでじっとしていると、イオが目を覚ました。
声をかけると、俺に巻かれた大量の包帯を見て物凄い勢いで謝られ、回復魔法をかけてくれた。
「もしかしたら避けられるかも、とは思っていたのですけど、まさか正面から突破されるとは・・・
危険な魔法なのは理解しているつもりですけど、なんでしょう。
皆さんが物凄いスピードで成長されているので、焦りは感じていましたね。
それでも、私も頑張ってるんですよっていうのを誰かに知って欲しかったのかもしれません。
そんな私の都合で、こんな大怪我をさせてしまって本当にごめんなさい。」
申し訳なさそうにしながら回復魔法をかけ続けてくれているのだが、人間はそんなもんじゃないだろうか。
もちろん人によるだろうけど。
誰かに褒められたくて、認められたくて努力をする。
自分の中で納得がいかないから、納得のいくところまで頑張ったりする。
そうやって頑張った結果というのは誰かに見てもらいたいものだ。
たとえ見てもらえなくても、その結果として幸福感や満足感、充実感などを得たい。
だから頑張る。
少なくとも俺はそうだ。
ジジイや姉さんに認められたくて努力を続けているのだから。
そうやって努力をして過ごしている日々を充実していると思うし、認められたら満足するだろう。
だからイオも気にする必要はないのだ。
そう説明してある程度は納得させた後、夜遅くまで今朝の試合で考えていたこと等を互いに話して過ごした。
あのままゴーレムを囮に土属性魔法で攻められていたらしんどかったと伝えた時、「その考えもあったのにー!!」と頬を膨らませて悔しがるイオはやっぱり大正義だ。
-----
翌朝保健室で目が覚め、イオと共に寮に戻ってきた。
入口でちょうどアカネとすれ違った。
これから試合があるようで、挨拶だけ交わすと小走りで行ってしまった。
そういえば端末を見ていなかった。
せっかく個人的に大金星をあげたというのに、不戦敗で敗数が並んでしまうとかシャレにならん。
そう思い急いで端末を見るも、通知は来ていなかった。
どうやら今日は試合がないらしい。
いやこんな満身創痍な状態で試合があっても困るのだけども。
なんにしても身体を休められるのはありがたい。
イオも慌てて端末を確認すると、午後から試合があるとのことだった。
体力的に心配なのだが、大丈夫だろうか。
ひとまず回復魔法はこれ以上かけなくていいと伝えると、しぶしぶという表情をされた。
言うと怒るが、さすが聖女様。面倒見が良い。
ゆっくりと部屋に戻り、濡れたタオルで身体を拭いてベッドにつっ伏した。
もう動きたくねぇ。
なんで疲れた時の布団ってこんなに気持ちいいのだろうか。
開発した人は天才だ。
そんなくだらないことを考えている間に、意識をもっていかれていた。
目を覚ますと夕方だった。
我ながら寝すぎ、怠惰ですね。
まだ腕の筋肉は悲鳴をあげているが、他は姉さんやイオのおかげでだいぶマシになっている。
これなら明日は試合があっても大丈夫そうだ。
・・・アカネとかが相手じゃなければ、だが。
そんな不安になることを考えてしまった直後、端末がピロリンと音をたてて心臓が跳ねた。
「第3戦の対戦が決定しました。
日時:5月17日午前9時30分
場所:学園修練場
対戦相手:シャルロット・シンシア」
名前を読み始めた瞬間「あ、死んだ」と思ってしまった。
いや結構ある名前だけども。
めちゃくちゃ心臓に悪いな、この機械。
ギリギリまで分からないから楽しみとか言ってたアホはどこのどいつだ。
俺か。
帰ってきたイオの顔には疲労困憊と書いてあった。
可哀想だし、今日の晩御飯は俺が作ることにしよう。
冷蔵庫にある材料で簡単な炒め物を作ると、イオが匂いに釣られてのそのそとリビングに現れた。
男の料理って感じではあるが、実家の道場に居た時は料理当番を交代で回していたこともあり、アカネやイオには及ばないにしても腕には多少の自信はある。
フライパンを振ったことで腕に激痛が走り涙目になっているのは触れない方向で。
イオは眠そうな顔でモソモソと食べていた。
最初の一口目を食べた時に小さい声で「美味しい」と呟いてくれたので、テーブルの下で見えないようにガッツポーズをしてしまった。
結局なんとか寝ずに食べ終えたものの、すぐに部屋へと戻ってしまった。
元々体力のある方ではないイオには、この短い期間での連戦は堪えるのかもしれない。
なるべく回復魔法をお願いしないようにしないとだな。
-----
変な時間に寝てしまったので明け方まで寝れなかった。
寝不足で修練場に到着すると、前の試合がまだ続いていた。
新人戦などでレベルの高い攻防を見ていたからか、別に下に見ているつもりはないが物足りなく見える。
魔法の使い方もアリスやイオならこうしてるだろうとか、アカネならもう一歩踏み込んで仕掛けているだろうとか、色々考えてしまった。
対戦相手はどうやら先輩のようだ。
「それじゃあ試合開始ー。」
イオと闘う時よりも明らかにテンションの低い姉さんの合図で始まった。
あからさますぎるだろう。
先輩シャルロットさんの連撃を捌き、壱式によるカウンターで一撃で沈めた。
寝不足だろうと満身創痍だろうと、それを理由にみっともない試合は出来ないからな。
「勝者、ユウリ・アマハラ!」
代表まで、あと7つ。
本戦で頂きを取るつもりなんだ。
イオを破った後の予選なんかで躓いていられるか。
普段よりも剣の鋭さはないが、心の中にある一本の気持ちは日に日に鋭くなっていった。
拙い作品ですが、最後まで見て頂けると嬉しいです。
今後ともよろしくお願い致します。




