三十三ノ舞「今の悔しさに泣いておけ」
通知を確認してからは、それまでの談笑が嘘のように互いに黙ってしまった。
気まずい空気が流れつつ、食べ終えた食器をいつも通り2人で洗いそれぞれ布団に入った。
まさか、第2戦にして1番対戦したくない相手と当たることになるとは。
くじ運が良いやら悪いやら。
まあ、決まってしまったものは仕方ない。
明日の朝一番で始まることだし、作戦を考えながら早く休もう。
翌朝、今こそアリスに居てほしいのだけどなと思いつつ起き上がった。
リビングに行くと「先に行くので温めて食べてくださいね」と書き置きが置いてあった。
さすがにイオも気まずさを感じているようだ。
久しぶりに1人で食べる朝食に寂しさを感じながら、作戦をいくつか考えた。
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午前9時。
学園修練場でイオと向かい合っていた。
ずっと闘いたいとは思ってはいたが、今回に関しては別だ。
敗けたらそこで道が閉ざされる可能性が高いこの現状では、闘いたくなかった相手ナンバーワンだ。
だが、この世界の誰よりも強くなると決意したばかりだ。
唯一の取り柄であるこの剣で、必ずそこに至ってやる──
目を瞑り、息を整える。
ユウリには見えていないが、イオはその姿を見た瞬間に鳥肌がたっていた。
散々トニーという強者を苦しめてきた奥義が、自分に向けて使われようとしているのだ。
無意識に生唾を飲み込んでいた。
「アマハラ流究極奥義 残影領域─高天原」
大層な名前がついているが、これは魔法でも何でもない極限の集中状態だ。
故に試合開始前からこの状態に入っていても問題はない。
「試合時間は15分。3ダウンで敗北とする。
試合続行不可能と判断した場合は試合を止めるから、そのつもりでいろよ。
それでは、試合開始!!」
「速度強化」
「大地の盾」
姉さんの合図と共に試合が始まり、早速強化魔法を施した。
てっきり初っ端から最上級魔法で来ると思ってたんだけどな。
おかげでプランBまでは崩れ去った。
「大地の巨兵」
ゴゴゴと音を立て、地面から石で作られたゴーレムが精製された。
今回は地属性魔法メインで来るのだろうか。
正直、1番やりづらい。
氷属性魔法の対策ばかりを考えてきたから、行き当たりばったりになりそうだな。
ゴーレムは動きは遅いが、3メートルはある石の塊だ。
パンチなんてくらったら痛いじゃ済まないだろうな。
ひとまずはオートで攻撃を3回ガードする、『大地の盾』を引き剥がさないことには始まらない。
ゴーレムをギリギリまで引き付け、『加速』。
一気にイオの背後まで駆け抜け、まずは1つ。
「剣の舞 壱式 居合─柳閃」
ボゴッと音を立てて1つ目の盾を壊すと同時に、先程まで俺が居たところにゴーレムの拳が振り下ろされていた。
たったの一撃で壇上として作られているリングの4分の1が破壊された。
その威力に驚きつつも、イオが振り向く前に移動。
思った通り、イオの目には俺の『加速』は追えていないようだ。
先程から『神威』ではなく『加速』と呼んでいるのは、姉の使用するソレとは別物という点。
加えて『高天原』の状況下においては、言葉通り加速と停止を繰り返しているからである。
今後、俺の神威は『加速』と呼ぶことにしよう。
「大寒波」
距離を取り停止した瞬間、イオが得意とする氷属性最上級魔法が修練場を襲った。
-----シャルロット視点
緊張して全然眠れなかった。
ここ最近師匠との稽古で寝なかったことが多かったから、眠れなかったことは特に問題ではないのだけど、緊張は正直どうしようもない。
思わず時間よりもかなり早く修練場に来てしまった。
ってなにこれ寒っ!!
『大寒波』・・・ってことはイオが闘ってるのね。
やたらでかいゴーレムも出てるし、それを同時に使うほどの相手と闘ってるということだ。
イオにそれほどの魔法を使わせるのは誰かしら。
その姿を見たアタシは、心臓が跳ねるほどの驚きを隠せなかった。
目の前で、知っている同い年の中で最も強い、アタシの大好きな人が氷漬けにされていた。
-----通常視点
『大寒波』で、ユウリは氷漬けにされていた。
イオはそれを見て、安堵の息をついた。
これまで氷漬けにされて突破できたものは居ない。
あのアリスや、アカネですら囚われてそのまま敗北したのだ。
新人戦決勝では反魔結界によって不発に終わったものの、発動した試合では全て勝ってきている、正真正銘イオの必殺技だ。
しかし、一呼吸待っても10カウントが始まらない。
不思議に思い、つい「学園長?」と声を出してしまった。
その瞬間にハッと何かに気付いた顔になり、今まで聞いた事のない大きな声で「大地の盾!!」と叫んでいた。
その叫びと重なるように、死角からの連撃が始まった。
「剣の舞 伍式 破剣─星屑し!
壱式 居合─柳閃!
陸式 雷光─千鳥!!」
氷漬けにされていた分身がボンッと消えた。
同時に先に発動していた『大地の盾』が全て消滅し、ユウリの陸式が盾を失ったイオを目掛け放たれ、あと数センチというところまで迫っていた。
その刹那、2度目に発動された『大地の盾』が出現し、再び1つが大きな音を立てて破壊された。
「ちぇっ、間に合わなかったか。よく気付いたな。」
目を見開き額に物凄い量の冷や汗をかいたイオは、自身の油断を後悔していた。
トニーとの再戦を見ていなかったら、そしてあと一瞬でも気付くのが遅かったら、今の攻防で敗けていた。
ユウリは完全に『大寒波』と『大地の盾』への対策を考えてきている。
イオ自身が最も得意とする2つの魔法の弱点を的確についてきた。
しかも堂々と真正面からだ。
『高天原』を見た瞬間に恐怖を覚えず、初手で『大地の盾』ではなく『大寒波』を使っていたら、同じ攻防で一瞬で敗北していただろう。
元々は初手で『大寒波』を使うつもりであったが、直感で変更したことに安堵していた。
イオは汗を拭い、何かを決意した表情で杖を両手で構えた。
「やっぱり、ユウリさんは本当に強いですね・・・
こちらも玉砕覚悟で行きます!!
くれぐれも・・・他言無用でお願い致しますね。」
その意味深な言葉と共に大きく息を吸い、詠唱を始めた。
「天界に昇りし、神聖なる光の加護よ!
その力は闇を照らし、魔を祓い、恵みを齎す!
我が祈り届くことが叶うのならば、その神聖なる輝きを賜らむことを願おう!
光よ!輝きよ!この地全ての闇を祓いたまえ!!」
思わず見入ってしまった。
魔法のことは詳しくはないのだが、分身の術を習得した経験でなんとなく理解した。
一節一節ごとに修練場内の空気が、そして光が、イオに向けて集まっている。
室内のはずなのに、台風にも似た突風がイオの長いローツインテールを大きく揺らしていた。
イオは今、輝きを放つほどの物凄い量の魔力を吸収して溜めている。
この後にその魔力が、俺に向けて放たれるのだ。
そんな危険があると分かっているのにも関わらず、動けない。
唯一実行できたのは『速度最大強化』を発動したことだけだった。
ここで魔法名を唱えれば完成だと思っていた。
しかしイオは、さらに詠唱を続けた。
「天空を支配する神々の王、唯一神よ!
我が双蛇双翼の杖にて甦らん!
世界を破壊する力、矮小な寄り手に見せつけたまえ!
雷霆の輝きを以て、全知全能の威を見せよ!!」
イオが高々と杖を先の詠唱で集まった光に向けて掲げると、先程までの大きな光の輝きが目に見える青い無数の雷を纏った。
その雷の大きさは、俺の速度最大強化をも軽く上回る。
そしてその輝く塊は徐々に細くなり、巨大な槍の形に変化していった。
突風に煽られているイオが目を見開き、魔法名の詠唱と共に杖を俺に向けて振り下ろした。
「神話級─光雷混成魔法 雷霆を纏いし光の槍!!」
目にも止まらぬ速さで飛翔するソレはまさに雷光。
イオが杖を振り下ろした瞬間に着弾、そして対象の真後ろの壁にあっさりとふたつ大きな穴をあけていた。
その間に折れた木刀を支えにしながらも立つ少年の制服はところどころ焼け焦げ、顔や脚、胴、そして最もひどい両腕と、全身から血を大量に流していた。
-----シャルロット視点
イオはこの修練場を壊すつもりなのだろうか。
はたまた、ユウを殺すつもりなのだろうか。
この馬鹿げた量の魔力は、味方に向けていいレベルじゃない。
そう感じて声を上げようとした瞬間、アイツはニヤリと笑った。
さすが姉弟と言うべき、師匠そっくりな顔で。
思わず師匠の顔を見ると、目が合った気がした。
その眼差しは「黙ってよく見ておけ」と言わんばかりに鋭かった。
そしてイオが杖を高く掲げた瞬間、ユウも剣を高く掲げ小さく言葉を発した。
『アマハラ流最終奥義 天地開闢─天地初発乃時』
イオの馬鹿げた魔法が放たれたと同時に、その剣は振り下ろされた。
剣と槍がぶつかりユウの方が多少押され気味で、雷に当てられた箇所から次々と血を流す。
しかし徐々にユウの剣が前に進み、神話級魔法を一刀両断したのだ。
アタシも師匠のおかげで目を鍛えられてはいるものの、見えて理解できたのはこれくらいだ。
アカネが居たらもう少し詳しく見えたかもしれない。
しかし何にしても肩で息をしてボロボロになりながらも、ユウはその場に立っているのだ。
無事で良かった・・・
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イオはその場にペタリと座り込み、未だに立つユウリを見上げていた。
皆が学園交流をしている間、修行に修行を重ねて雷属性魔法を最上級まで使えるようになり、そして聖属性と雷属性の最上級魔法をそれぞれ組み合わせることで実現した神話級魔法。
この世界における、最強ランクに位置する威力のものだ。
使い手に関してもこの世界で両手で足りる程しか居ない。
それを学生のうちに完成させたイオの魔法の才能は、間違いなく世界で3本指に入るだろう。
そんなイオを以てしても1日1発打つのが限度な魔力を消費するソレは、正真正銘の最後の切り札だ。
如何にユウリが強いと言っても、膨大な魔力の塊を一刀両断するなど誰が思いつくだろうか。
足を引き摺り血の跡を残しながらこちらにゆっくりと進んでくるユウリを、イオはただただ座って見ていた。
驚きのあまり心が、魔力切れで身体が完全にやられていた。
ついに目の前に到着し、イオに向けて折れた木刀を3度振った。
2回で残りの『大地の盾』を剥がし、最後の1回でイオのおでこにトンと、まるでグータッチをするかのように。
拳を軽く触れさせる程度の強さで。
「そこまで!
イオン・フォン・アビステイン試合続行不可能!
勝者、ユウリ・アマハラ!」
宣言と共に弟に駆け寄り即座に回復魔法をかけるミドリの顔は、驚愕、安堵、心配、歓喜、全てが入り交じったような複雑でぐちゃぐちゃな表情をしていた。
座り込んで立てないでいるイオにシャルロットが肩を貸し、修練場の脇へと運んだ。
放心するイオだったが、左手で杖を操ってゴーレムを分解し、壊れた壇上を元の形に戻した。
魔力が完全になくなり、その作業を終えた瞬間にパタリと横になり気を失った。
その両者の姿を目の当たりにしたシャルロットは、次元の違う闘いに恐怖を抱いていた。
最強とは何か。
言葉にするのは簡単だが、そこに至るにはあと何十年必要なのだろうか。
まるで自分のしてきた努力が、子どものままごとのように感じる。
あまりにも悔しくて、拳を握りしめて身体を震わせることしか出来なかった。
弟への治療を終え、その顔を見た『神速の剣姫』は弟子の頭の上に手を乗せて撫でた。
「お前もあそこに立つんだろ。
アタシができる限りのことは、全部教えてやるから。
お前のその悔しいって気持ちがある限り、必ず並べるさ。
惨めでもいい。人の目を気にしなくてもいい。
未来が怖くて震えるくらいなら、今の悔しさに泣いておけ。
その涙が必ず、お前の力になるから。」
「はい・・・!!」
俯き下唇を噛みながら流した涙は、試合開始直前まで止まらなかった。
5月9日、累計5000PV突破しました。
有名な作品と比べると全然ダメダメのしょぼしょぼな数字ではありますが、読者の皆様に心から感謝申し上げます。
拙い作品ですが、これからも応援してくださるととても嬉しいです。
今後ともよろしくお願い致します!




