三十二ノ舞「風に寂しく流されて」
マジックギルドの面々を見送ったあと全校朝礼が行われ、今日から始まる個人戦代表選抜戦についての説明があった。
参加人数の総数から考えて、1人あたり約10試合は試合があること。
その試合数が約2週間の期間で行われること。
対戦時間と重なる授業は欠席扱いにならないこと。
敗戦数が同じメンバーの中からランダムで対戦相手が決定され、最後に残った上位4名が代表となること。
要約するとこんな感じだ。
最初の対戦相手は完全ランダムなので、選抜メンバーと当たらないことだけを祈ろう。
その後対戦日時と対戦相手が送られてくるという特別な端末が配られ、解散となった。
マジックアイテムだろうに、金かけてるなあ。
教室に戻ると、早速アカネの端末がピロリンと音をたてた。
どうやら対戦相手が決まったらしい。
他にも教室内で次々とピロピロ音をたてて、対戦日時と相手が送られてきていた。
未だに送られてこない自分の端末は大丈夫なのだろうか。
電波が入っていないとかそんなオチが不安になり、思わず振っていた。
まあそんなことはなく、しばらくするとピロリンと音をたてた。
対戦相手は名前も知らない人だった。
おそらく先輩か誰かだろう。
どんな相手と当たるか直前まで分からないというのも、楽しみの一つかもしれない。
最初の授業が始まる直前に、アカネが教室の外へと出ていった。
どうやら試合の時間らしい。
その後も何人か出ていき、授業が始まったと思えばアカネが戻ってきた。
笑顔でピースをされたので、勝ったのだろう。
それも瞬殺で。
すると入れ替わりでイオが立ち上がり、教室を出ていった。
そんな感じで授業中に何人も出たり入ったりするもので、全く授業が入ってこない。
いや元々入れられる頭の容量はないのだけども。
入らないのであれば別のことを考えよう。
2週間で10試合もの戦闘を行わなくてはならないということは、速度最大強化は最終戦でしか使わない方がいいだろう。
もし途中で使わざるを得ない程の相手は、思いつく限りではイオだけだ。
距離を詰める前に凍らされる可能性がある以上、できる限りイオとは当たらずに終えたいものだ。
あと当たりたくないで言えばシャルロットだな。
最近のシャルロットの努力には頭があがらない。
身体が本調子でなければ、集中して研ぎ澄まされたシャルロットを相手にするのは骨が折れる。
俺の見立てでは、イオ、アカネ、シャルロット、俺の4人が本命で、序盤と最終戦近くの直接対決の組み合わせ次第で誰かが脱落の可能性がある。
続いてそこに割って入りそうなのが、サクとショウヤ、アスカ先輩だな。
イオはショウヤと相性最悪だろうし、俺はイオと相性が悪い。
サクのスピードと錯乱はアカネにかなり有効だが、シャルロットの炎はサクでは突破できない。
こんな感じでそれぞれに相性があるので、本当に組み合わせ次第で誰にでもチャンスはあるのだ。
俺も早いうちにイオと当たってしまえばそこで敗けて脱落ということも大いに有り得るが、唯一の取り柄である剣で、代表の座を掴み取るしかない。
もう二度と涙を流してほしくない人が居る。
互いに本気で闘えるライバルが居る。
剣以外に取り柄のない俺と共に歩んで行きたいと言ってくれた人が居る。
いつまでも隣で闘うと言ってくれた大切な仲間が居る。
こんなにも大事な人たちに、顔向けできなくなるような試合だけはできない。
とにかく、油断はせずに行こう。
結局、授業にならないと各教員からの猛反発があり、次の授業から全ての授業が取り止めとなった。
そりゃそうだ。
初戦の相手は、やはり2年生の先輩だった。
開始早々離れた距離から一瞬で目の前に行き、顔の前に木刀を突きつけると「俺の負けだ」と潔く降参してくれた。
今ので実力差が分かってしまったのだろう。
こちらとしても助かる。
魔力を使わずに勝てるのであれば、それに越したことはないからな。
時間も空いたことだし、新技のイメージでも考えるとしよう。
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昼休み。
新技をああでもない、こうでもないと考えながら学食の列に並ぶと、たまたま目の前にシャルロットがいた。
互いに互いを初戦で敗けたとは思っておらず「相手は?」とだけ聞かれた。
「名前も知らない先輩だったよ。そっちは?」
「ダグラス先輩。」
バカでかい斧を振り回す、2年生選抜メンバーじゃねぇか。
新人戦前の模擬戦の再戦となったらしい。
顔を見るに勝ったのだろうが、どんな試合展開だったのかは気になるな。
そんな気持ちに気付いたのか「開始7秒で終わったわ」とクールに言われた。
本当にコイツはどこまで強くなるのだろうか。
しかしあの討伐依頼以降、シャルロットの態度がどこかよそよそしく感じる。
アリスがべったりすぎたというのもあるかもしれないが、以前はもう少し仲良くしてた気がするのだが。
討伐依頼の際に迷惑をかけたし、急に泣き出したりだったので、ヘタレ野郎と思われていないか心配だ。
一先ず探りを入れるために一緒に食べないかと誘うと「えっ、うん」と、まさか一緒に食べないつもりだったの?みたいな反応をされた。
アカネ並にまったく考えが読めないな。
シャルロットはカレーを、俺はチャーハンを注文して向かいあわせの席に座った。
カレーを淡々と食べるシャルロットを観察し、入学時よりも髪が少し伸びたなと思っていると、シャルロットが食べる手を止め「食べる?」とスプーンにカレーをよそい俺に向けてきた。
他に何が変わったのだろうかと考えながら何気なくそれを食べると、シャルロットが驚きに目を見開き、顔を真っ赤にして固まった。
飲み込んでから気付く。
ここは食堂のど真ん中。
シャルロットが使っていたスプーン。
あーん。
3アウト、トリプルプレーである。
周りが「やっぱり付き合ってるのかな?」
「シャルロットさんのこと実は狙ってたのに」とザワつき始めた。
まあその手の噂は言わせておけばそのうち収まるだろう。
ただまあシャルロットが嫌な気持ちになるかもしれないってのが心配だったのだが、顔を真っ赤にして俯きながら「バカ。」と小さく零してカレーを再び食べ始めた。
完全に関節キスなのだが、気にしないのだろうか。
思いっきり顔が赤くなっているのが自分でもわかる。
その後のチャーハンの味は、まったく覚えていない。
-----シャルロット視点
師匠に弟子入りした日、息を切らして修練場に大の字で倒れていた。
分かってはいたことだけど、師匠は圧倒的なまでに強い。
全ての攻撃を1歩も動かずに捌かれ、最大火力の『飛翔竜剣』も一振りでかき消された。
もう魔力も体力も限界だ。
「お前は、表情が豊かすぎる。
狙っている箇所や、考えていることが顔に出てるんだよ。」
師匠は回復魔法をかけながら、アタシの悪い部分を指摘した。
真面目に闘っている時のアカネやユウの姿を思い返すと、顔は真剣そのものだ。
アタシが真剣じゃないってわけではないのだけど、2人と比べると確かに雑念が多い気がする。
新人戦決勝で『陽炎の鎧』を使った時も、ユウのことを考えていた。
というか、ここ最近はユウの隣に立ちたいという一心で剣を振っていた。
自ずとユウのことを考えてしまっていたのだ。
おそらく、そういった面のことも含めて言われているのだろう。
「強くなる以前に、考えを相手に気取らせるな。
もっと剣に向き合えるように、普段から表情を表に出さないようにしておけ。」
「はい!!もう一本お願いします!!」
「・・・そういう部分だぞ。」
そんなやり取りがあり、最近は普段もあまり表情が表に出ないようになってきた。
ユウと一緒にランチなんて、以前のアタシなら満面の笑みが出ていただろう。
なんせ内心は、ルンルン気分と言ってもおかしくないほど嬉しいのだから。
さっきからユウがじっとこちらを見ている。
相変わらず眠そうな目だけど、アタシの大好きな目だ。
カレーにすれば良かったとか思っているのかな。
食べてるところをあんまり見られると恥ずかしいから、ちょっと冗談でも言ってはぐらかそう。
「食べる?」
そう言ってカレーをすくい、ユウの前に出した。
ユウは絶対食べないキャラだし、これで少しは空気が和むかな。
ってあれ、何も言ってくれない。
これはまさか滑ったのでは・・・って、食べたー?!
えっ、ちょっ、えっ。
これってあれよね、関節キスってやつよね。
嬉しいのだけど恥ずかしすぎる!
何言ってるか全然分からないけど周りもザワついて、ユウもこっちを見た。
何か言わなくちゃ・・・えーと、えーと、うーん・・・
「バカ。」
ダメだアタシ、何も成長できてない・・・。
-----通常視点
その場から逃げるように食堂から中庭に出たところで、シャルロットが振り向いた。
「それで、なんであんなにアタシのことジロジロ見てたのよ?」
未だに顔を赤くしているが、以前のような明るいシャルロットだ。
なんというか、こっちの方が安心する。
「最近よそよそしく感じるから、何かあったのかと思って。」
言うなりガーンと効果音が出そうな勢いで衝撃を受けた顔をしていた。
その時、シャルロットに電流走る。とナレーションが聞こえてきそうだ。
やっぱり何かあるのだろうか。
「あー・・・いずれバレるだろうし、隠すつもりもないから白状するわ。」
そう切り出したシャルロットは、姉さんに弟子入りして表情が豊かすぎると言われたので、表情を表に出さないように普段から訓練していると教えてくれた。
あの姉さんが弟子をもったことに驚きを隠せない。
だが、理由を知れてまずは一安心だ。
「良かった。シャルルに嫌われたのかと思ってたよ。」
「そんなワケないじゃない!
アタシはアンタのこと、だ・・・っ~!!」
「だ?」
「だだだ、誰よりもアンタの隣で一緒に闘いたいと思ってるわよ!」
言うなり顔を更に赤くして走り去ってしまった。
めちゃくちゃ表情豊かだったけど、アレは大丈夫なのだろうか。
隣で一緒に闘いたい、か。
「俺もだよ」
走り去る背中に向けて小さく呟いた声は、広い中庭に吹いた風に寂しく流されて消えていった。
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午後はずっと、中庭にある芝生で寝転がっていた。
拾式のイメージを考えているのだが、玖式の完成度が高すぎてそれ以上の発想が出てこない。
壱式の居合斬りに始まり、連続攻撃のトリガー、遠距離攻撃、連携技、防御崩し、刺突、雷撃、多方向同時攻撃、多数同時攻撃。
これ以上、何ができるのだろうか。
アマハラ流の技の数は10や20ではきかない。
それこそジジイが長い年月をかけ、無数の闘いの中で次々と完成させていったのだろう。
サムライの偉大さが今になって、ようやく分かってきた。
今度会った時は、もう少し敬意を表すとしよう。
しかし、アマハラ流か。
カウンター技がかなり多い、どちらかと言えば守備型の剣だ。
一応最終奥義を含めて全ての技を使用できるものの、俺には守備型があまり合わなかったから攻撃型の剣の舞を作った。
それは間違いではなかったはずだ。
なのに今はこうして悩んでしまっている。
俺が現在使える魔法では、攻撃手段は限られる。
分身の術のように新しく魔法を覚えるのもアリではあるのだが、トニーとの再戦をした時に分身の術を8回使ったら魔力が切れたのだ。
実際にはパッシブの武器強化と、速度強化、速度最大強化も使用しているのだが、それを含めても魔力総量はそんなに多くないと思う。
魔法力はイオの10分の1にすら満たないわけだしな。
なので、これ以上魔法を覚えても技の選択肢を狭めてしまいそうではある。
だからこそ、迷っているのだが。
姉さんかアカネに付与術を教わるとかはどうか。
いや、あれはかなり高度な魔力制御が必要なはずだ。
俺には不向きにも程がある。
歴代最強と言われた姉さんは、実は使える技はそんなに多くない。
ただ使用する技の一つ一つが最終奥義レベルの威力を誇るだけなのだ。
『神威』で移動や回避をし、『疾風一閃』で守り、『神速の剣姫』で攻める。
これだけで三冠を達成しているのだから、底が知れない。
ダメだ、余計なことを考えすぎて考えがまとまらない。
今日はこれくらいにして、寮に戻ろう。
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408号室。
アカネが晩御飯を作っている間、シャルロットは布団に顔を埋めてうつ伏せになっていた。
咄嗟に止めることは出来たが、危うく自分の気持ちを言ってしまうところだった。
自分では少しは成長しているかと思っていたのだが、全然そんなことはなかったと気付いてしまい、落ち込んでいるのだ。
その時、端末がピロリンと音をたてた。
溜息混じりに端末を見て、思わず目を見開いた。
「第2戦の対戦が決定しました。
日時:5月15日朝9時15分より
場所:学園修練場
対戦相手:ショウヤ・フォン・アビステイン」
選抜メンバーと2連戦。
そして何より、新人戦を共に闘った仲間との対戦だ。
しかも新人戦の前にショウヤには一度敗けている。
落ち込んでいる場合ではなくなった。
深呼吸をして飛び起き、アカネが作ってくれた晩御飯をいつもの倍は食べたのだった。
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寮に戻り水を浴び、いつものようにイオと談笑しながら晩御飯を食べていた。
その時、唐突にピロリンと音が鳴った。
対戦相手の通知が来たようだが、俺とイオのどちらの端末が鳴ったのだろうか。
「どっちだろうな」
「どちらでしょうね」
と笑い合いながら2人とも端末を確認して、同時に言葉を失くした。
端末を見て、目が合い、また端末を見る。
「第2戦の対戦が決定しました。
日時:5月15日朝9時より
場所:学園修練場
対戦相手:イオン・フォン・アビステイン」
第2戦目にして、早くも最大のピンチを迎えることになってしまった。
拙い作品ですが、よろしければ最後まで見てやってください。
よろしくお願い致します。




